十一の四
障子の丸窓越しに差し込んだ朝日が扇を夢から覚ました。
目を覚ますと、そこは用心番部屋で、扇は柱に背を預けて、足を伸ばしていた。自分がどうやって神社から――逆原からここに戻ってきたのか、思い出せなかった。だが、あの出来事が夢ではないと腰に差した鮫鞘の脇差型酒筒が声高に唱えている。酒筒を抜いて、振ってみると、たっぷり入った御神酒がたぷんたぷんと鳴る音がした。
朝の湯浴み、朝餉を終えると、扇と大夜、半次郎は旅支度をして、遊廓の惣門を艫のほうへ出た。
屋台堤の先の飛行船発着場へ向かう途中、厳選したカラクリを詰め込んだカラクリ外套姿の久助とありったけの火薬を背嚢とマントに詰め込んだ火薬中毒者、時乃と舞が黒の上着と細身のズボンを穿き、それぞれ弾薬ベルトとウィンチェスター・ライフルを手にやってきた。天原白神神社の鳥居に白い袴の寿がいた。顔色が悪く、時おり目を長くつむっていたが、一行のほうへ降りてきた。
「武運長久を祈ってるよ。それと彼女たちもついていくってさ」
鳥居の陰からりんとすずが現われた。
「何だか嫌な〈流れ〉を感じるんです」りんが言った。「ご迷惑でなければ、同道させてください」
「迷惑なわけがない」扇が言った。「ありがとう、師匠」
「師匠って呼び方はどうも慣れませんね」
りんが、ふふ、と笑う。扇も釣られて微笑んだ。その後、扇はすずに話しかけたものかどうか悩んだ。いかにも話しかけてもらいたさそうな顔をしていた。
「一応、きくが、あんたは何でついてくるんだ?」
すずは胸を張った。「不肖な弟子を助けるのは師範代の務めです」
「本音は?」
「白寿楼の小田巻蒸し。まだ一度も食べたことがないんですよ。特別なときにしか出さないらしいですけど、見事、虎兵衛さんを救い出したら、それって特別なときですよねえ」
「……あんたは動じないな」
寿が石灯籠に寄りかかりながら、京へ向かう九人を見守っていた。扇の視線に気づくと、人差指で頬を掻いた。
「ついていきたいけど、ふらふらしてる。今のおれじゃ足手まといになるだけ。ごめんね」
扇は寿の手を握り、体を引き寄せてしっかり抱きしめた。
「謝ったりするな、馬鹿」
「えへへ。そう言ってもらえると――うん、頑張った甲斐があったよ」