表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廓雲と扇の剣士  作者: 実茂 譲
第七話 荒野の扇とネイヴィ・コルト
126/611

七の二十七

 装甲列車は機関車三両と装甲砲塔車二十両を引き、騎兵隊用の装甲貨車と白兵要員の装甲貨車、それに列車司令官の作戦室を曳いて、砂漠に敷かれた鋼の道を一直線に走っていった。

 先に進んでいた兵士たちは装甲列車が走ってくるのを見ると、歓声を上げ、鉄砲を空に向けて発射した。

 最前線を突破して、敵中に入ってから、装甲列車は敵を見つけると、ガトリング砲を浴びせた。一度、政府軍の占領下にある町を通るときなど、町じゅうの家の窓という窓から銃撃を受けたが、装甲列車はカツンカツンと音を鳴らすだけでいかなる損害も受けることはなかった。そして、銃撃のお返しに回転砲塔をまわして、目についた建物に榴弾を撃ち込んで、狙撃兵たちを家ごと吹き飛ばした。

扇と泰宗と時乃が乗っているのは前から八両目の装甲列車で七六粍砲の回転砲塔二つ、一ポンド速射砲四門、ガトリング砲二門の砲尾が車内に出っ張っていた。列車には窓がないため薄暗く、吊るされたカンテラがなければ闇夜に閉じ込められたも同然だった。あちこちの棚に七六粍砲弾や緑の鉄箱に入ったガトリング用の三十発入り挿弾子が並んでいた。応急処置用の薬カバンを持った衛生兵が一人いて、速射砲とガトリング砲には発射係と装填係がいた。列車指揮官は車輌中央の脚立の上に座って、上に伸びた装甲箱のなかに身を入れて、潜望鏡で周囲を確認し、砲塔長は四名の砲塔要員に指示を出し、砲の仰角調整用ハンドルに手をかけて、発射命令を待っていた。

 白兵要員の泰宗たちは特にすることもないまま、装甲列車の邪魔にならない位置に座っていた。

「窓がないので、外がどうなっているのか分かりませんね」

 列車の騒音に負けないくらいの声で泰宗が言った。

「扇どの、さっきから何をしているのです?」

「鉄板同士をつなげた鋲の数を数えていた」

「楽しいですか?」

「やってみると意外と面白い」

 突然、列車指揮官が叫んだ。

「第一戦闘準備!」

 砲塔が左を向いて、要員たちが配置につくと、すぐ砲弾が発射された。白い煙を噴く大きな空薬莢が開いた砲尾から飛び出して、次の砲弾が装填される。砲塔要員たちはなめらかで無駄のない動作で空薬莢を引き出しては新しい砲弾を装填した。

 ときどき、列車にガツンと大きな音がして、装甲板を連結している鋲が不気味な音を立てることがあったが、列車兵たちは気にもせず、丸い円盤と矢印の針をつけた令達器から司令官の命令を読み、砲の仰角を調整し、発射し、空薬莢を邪魔にならない場所――白兵要員の待機場所へと放り出した。すぐに待機場所は足の踏み場もない状態になってしまった。列車指揮官が扇を手招きして、いいものを見せてやるといい、脚立を登らせて、潜望鏡を眺めさせた。

「右側だ」

 言われたとおり、右側を見ると、八両編成の真っ赤に塗った装甲列車が火を噴きながら、扇たちの列車と平行に走っていた。装甲貨車から火だるまになった兵隊がこぼれ落ち、回転砲塔のあった場所からは火山口のように黒煙を噴き続けている。

「政府軍の装甲列車だ」

 指揮官が言った。

 確かによく見ると給炭車に大統領の肖像が描かれていた。

 列車指揮官はまた脚立に登り、

「今、機関士が吹き飛んだ」

「速度が落ちている」

「おお、ついに脱線したぞ! 谷に落ちていった」

 と、戦況を逐次報告した。

「これで後は鳥取市まで邪魔もなく行ける!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ