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廓雲と扇の剣士  作者: 実茂 譲
第七話 荒野の扇とネイヴィ・コルト
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七の十二

 トロッコを失ってから、徒歩で移動した扇たちは親衛隊に出くわすのを覚悟で何度か町や村落に足を運ばなければいけなかった。水筒を水で満たす必要があったし、夜に野営する際に食べる缶詰も買わなければいけなかった。

 そして、途中で立ち寄った町で扇は生まれて初めて『ガンファイト』なるものを経験した。冬の太陽が心地良く照る空。その町は中心に噴水のある小さな広場があり、家畜や水汲み女、洗濯女たちが集まっている。広場に面して行政官の屋敷、搾油作業場や機械修理工の家、蕎麦屋があり、坂を登ったところに雑貨屋があった。鯨の大和煮の缶詰とレンズ豆の缶詰、それに杏のシロップ漬けの缶詰を買った。扇が落ちていた縄で袋を編んで缶詰を入れた。そのまま左手に缶詰の袋をぶら下げて、広場へ降りていった。

 するとさっきまでいなかった親衛隊の一団が行政官の屋敷前にたむろしているのを見つけた。全部で五人。赤の肋骨服に白ズボン。むさくるしい鬚、士官が一人に兵が四人。全員が四五口径のコルトをベルトに差していたが、その差し方は銃床を前へ向けて、真ん中から少し外した位置に差していたり、あるいは右手で素早く抜けるように右の脇腹に差しているものもいた。腿に縛りつけた革製の銃嚢にきちんと納めているものもいた。どういうわけだか、扇はこの五人の親衛隊員を見かけたときから時間がゆっくりと流れていた。そのせいか必要のない細々としたものが目に焼きついた。士官がかぶっている髑髏の刺繍をした房付きトルコ帽、門柱に立てかけられた十番径の二連式散弾銃、焼酎の入っているらしい貧乏徳利、貝杓子が突っ込まれた弦鍋、崩れた築地塀の向こうは厨で屋敷の下男が手焙烙で豆を入れたどろっとした汁を炒めていた。

 この五人が扇たちを殺る気でいるのは間違いなかった。特に右目を眼帯で隠した頬に傷のある隊員はその手を散弾銃に伸ばし、銃身をつかんでいる。士官は小柄な男だったが、俊敏そうな目つきをしていて、肋骨服の前を開けて体の前に斜めにささった自分の銃へゆっくりと手を伸ばしていた。残り三人は扇たちに視線を合わせたまま、ゆっくりと手を銃のほうへ近づけている。煙管をくわえた隊員とコルク製の赤い探検帽の隊員、最後の隊員はまだ少年兵で明らかにこれから起こるであろう撃ち合いへの心の準備ができていないようだった。五人で唯一の赤シャツで肋骨服は着ていなかった。

 町の唯一の出口につながった道へ行くには行政官の屋敷の前を横切らなければいけなかった。築地塀の半分以上が崩れて道と敷地の区別もつかない一角に五人の親衛隊員がいて、ゆっくり左右に展開を始めた。

 扇の左に泰宗が、右に時乃が歩き、これもまたゆっくり左右に広がっている。時乃の手はもう銃の握りに置かれていて、泰宗は外套を後ろへ下げて、脇に吊るした銃をむき出しにしていた。

 噴水の洗濯女たちが息を飲む音や流れ弾の当たらない場所へ逃げていく足音が聞こえてきた。

 扇はゆっくり親衛隊員たちの前を横切ろうとした。そのとき眼帯の男と目が合った。

「おい、てめえ」

 眼帯の男が低く凄んだ。それを合図に一斉に全員が銃を抜いた。扇は袋から手を離し、担い革を引っぱって背中の散弾銃をぐるっと巡らせた。銃と手と目が互いに連絡して、眼帯の男を捉えた。扇の撃った鉄線弾が命中したその瞬間、眼帯男の体が縮んで見えた。士官が抜き様に撃ったが、見当違いの方向に弾は飛び、泰宗が士官を撃った。肩に命中した。士官は銃を取り落とし、慌てて予備の銃を抜こうと身をよじった。その背中に二発命中し、士官の体が半回転して倒れた。その後、黒色火薬の濃密な白煙と発砲音、弾丸が飛び交い、どさっと人が倒れる音がした。全てが終わった。立ち込めた硝煙が晴れる。引っくり返った鍋と二つに折れた煙管、四人の親衛隊員が手足をだらしなく伸ばしたり、逆に腹を抱えこむようにして斃れていた。探検帽の隊員が腹を抑えながら、噴水のほうへよろよろと歩いているのが見えた。

 時乃がそのこめかみを狙って撃つと、男は爪先立ちになって、頭から突っ込むようにうつ伏せに倒れた。

「缶詰は?」

 時乃がたずね、扇は袋を拾って覗いた。

「無事だ」

「それが一番大切」

 時乃は薬室を開けて、空薬莢を弾き出した。

 扇は眼帯男の骸を検めた。左肩から右脇腹にかけて大薙刀で切り割られたような傷が口を開けていて、ノコギリ状に加工した鉄線が胸に深々と食い込んでいた。

「急いで退散するとしましょう」二丁の銃を銃嚢にしまいながら、泰宗が二人に声をかけた。

 そのまま、道を下ると、町の出口の門を出て、西へ歩いた。

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