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こんな僕に護られるセカイ

作者: 四方 宗則

 暗く、広く、ただただ冷たい。


 昔、子供の頃に思っていた宇宙についてのイメージはこんなものだった。

 人々が宇宙を我が物顔で往来する時代だとはいえ、幼少期の僕がその宇宙へ出ることはなく、ただただ毎日を送っていた。

 夜に空を見上げれば、光る星と星の間を動く光があった。この星から飛び立つ船だ。それを見ては常々自分の置かれた状況から逃げ出したくなる衝動にかられていた。

 そんな僕は今宇宙に立っている。正確に言えば人工衛星の中が今の僕の住処というわけだ。


『緊急連絡。敵性物体接近中。至急対処されたし』

 赤いランプの点滅と同時に無機質な通信が届く。仕事の時間を告げる合図だ。

 僕はゆっくりと目を開けて、コントロールルームへと向かう。とはいえ、この人工衛星「C-3857」の内部の広さなどたかが知れているわけで、扉と廊下のその先は僕が「コントロールルーム」と名付けたモニターが3つ並んだだけの部屋だ。

 赤いランプは相変わらず非常事態を告げる点滅を続けていて、それに急かされるように僕はモニター前の椅子に座った。

 中央のモニターには惑星へと向かう赤い点が描写されている。

 今日は28個か、少なめだな・・・。

 いつもであれば50個や60個くらい当たり前だが、今日は控えめだなと思った。


 飛んできているのは簡単にいえば爆弾だ。ただ、その中身が核なのか、細菌兵器なのか、遺伝子レベルから組み替えてしまうような代物なのかは誰も知らない。

 理由は簡単だ。それが惑星まで到達したことがないからだ。

 10年前に始まった惑星間の戦いは、双方に被害はあるもののお互いに本土への攻撃は出来ないままでいた。

 それは双方の惑星の周りに浮かぶ防衛衛星によるところが大きく、僕の住む星もPPBN(惑星防護障壁ネットワーク)が浮かぶ限り惑星本土への攻撃は皆無だった。


 ただ、PPBNには致命的ともいえる問題があるわけだ。

 第一にそれを起動する際に必要なエネルギーの問題。

 惑星を爆弾から守ることの出来るような防衛装備があるならばそれで常時惑星を包み込むように守っていればいいと思うだろうが、実際のところPPBNを常時維持するだけのエネルギーを調達することは出来ないのだ。

 エネルギーは常時惑星本土から宇宙へ向かって飛び続けている。だがそれはそれぞれのハブ衛星を通じてPPBNの起動のために使われる為のもので、常時維持するためのエネルギーまではまかない切ることは出来ないのだ。

 僕が聞いた話だと、バリアを起動する際に連動させて爆弾消滅までエネルギーを維持し続けられる人工衛星は、同時に展開するとすれば最大でも30個だという。

 つまりそれ以上を同時接続したり、ましてや常時惑星を守るような使い方をすると本土の発電所のほうがオーバーヒートしてPPBNが破られてしまうということらしい。


 第二に爆弾が近づくことはレーダーなりで察知が出来ても、PPBNを起動、展開させるコマンドを送り出して調整をする時に発生するラグが本土からの送信では大きすぎるという問題だ。

 レーダーが感知した爆弾がPPBN防衛線を突破するまでは3分と言われている。その間にどの衛星を起動させてどの方向へバリアを展開させるかのコマンドを送信することは困難だという。

 それでも数十、数百もの爆弾が飛んできたものの、エネルギーの問題で使用出来る衛星を瞬時に切り替えることが出来、防衛コマンドが送信され準備が出来たとしよう。しかし敵も馬鹿ではないのでそれに対応して進路を変更し、その修正は最後の最後には追いつかなくなるのは目に見えている。

 つまり、惑星本土からの通信ではとても追いつかないという話だ。


 そういう訳でPPBNの最終管理は宇宙へ滞在させた人間の役目というわけなのだ。

 瞬時の切り替えと最終的な進路の計算。それに基づいた正確な指示の入力。

 それを行うには中央防護指令衛星「C-3857」への人間の送り込みは絶対条件だったというわけだ。


 とはいえ、なぜ僕がここに送り込まれたのかについては正直理由は分かっていない。

 もうここに暮らして7年になるが、僕のスキルなんてたかだかゲームが好きというくらいしか無い。

 学校では当然のようにいじめられていたし、社会に出た所で偉くなれるような人間でもなかった。

 なのに今ではどうだ。僕はこの惑星を護る為にここにいるのだ。自分の身を投げ出してみんなのためにここにいるのだ。

 そんな役目に就けたことを今では誇りに思っている。


『初弾、防衛線まであと90秒』

 無機質な通信が気持ちを高ぶらせる。さぁ来い。全て防いでみせるぞ。

 中央のモニターに映る28個の爆弾の軌道はそれぞれが違う経路を示している。しかし、全てお見通しだ。

 7年もここでこうやっていれば、正直敵の手の内も分かるものだ。どのタイミングで障壁を出せば軌道修正が効かないかも理解しているし、万が一の場合のフォローが出来るパターンも頭のなかにはある。

 すると左のモニターのスイッチがONになる。いつもの様にそこには惑星本土の何処かの町並みが映しだされている。

 そもそも「C-3857」は通信ハブ衛星だったものが改造されたものだ。その役目自体はそのままに、衛星のコントロールも担う防衛衛星としての役目も持つと言うことだ。

 つまり、その通信衛星の持つ回線の一つ、どこかの街の監視カメラの映像回線もこの衛星でモニタリングされており、こうして左のモニターに映し出されているわけだ。

 本部が適当に選択した街の様子が映しだされ、守るべき人間がそこに居ることを見せる。

 わかりやすく言えばそれは僕に対する戦意高揚だとかやる気を起こさせるとかそういう類の演出の一つであった。


『初弾、防衛線まであと60秒』

 しかし今日はどうやら様子が違う。

 いつものように見知らぬ街の見知らぬ人の顔が見えるものだと思っていたそのモニターの映像だが、少し目線をそちらに向けると見入ってしまうのだ。

 僕は交差点の角にあるあのコーヒーショップを知っている。たしかあそこのダブルエスプレッソを中身も知らずに頼み、ただただ苦い顔をした記憶がある。


『初弾、防衛線まであと50秒』

 僕はあの交差点の名前を知っている。アルナディール交差点。街の中央部にあって、そこから北へ迎えば中央宇宙港があり、西へ迎えば首都へと通じる大動脈の交わる交差点だ。


『初弾、防衛線まであと40秒』

 僕はあの街に立つ女性を知っている。学生時代に僕が密かに好意に思っていた女性だ。髪が長くおしとやかな女性だった。今は空を見上げて少し不安そうな顔をしている。


『初弾、防衛線まであと30秒』

 僕はあの女性の隣に立つ男を知っている。学生時代に僕がほぼ毎日殴られた男だ。ただただいい加減な男のくせに、僕のやることなすことにケチを付け、何かにつけて僕を殴る男だった。

 そして、その男はあの女性の隣に立ち、腕組みをされ、怯える女性をなだめようとそっと腰元に手を回している。


 正直、意味がわからなかった。彼女があの男の隣りにいる意味がわからない。

 それでもなんとなく、二人が付き合っているのだと理解した。でもまだわからない。

 あの男を好きになる理由がわからなかったし、僕じゃなかったことがわからなかった。

 何故僕が付き合えない彼女の隣にあの男が立っているのか。そして何故僕がここにいるのか。

 僕は、たった今、ココで、この誰もいない宇宙で、お前たちの住むその街を、その交差点を、お前たち自身を護っているのだよ。

 それなのになぜこんな事になっているんだ?


 左のモニターは淡々とその様子を映し出している。

 怯える女性は空を見上げながら少し涙ぐんでいるように見えた。その隣で男は女性をそっと胸に抱き寄せ、何か言葉をかける。

 女性は小さめに頷いて空から目をそらし、あの男の胸に顔を埋めた。

 頭が真っ白になった。

 もはや何故という疑問すら出てこないほどに、僕は呆然としていた。


『初弾、防衛線まであと15秒』

 無機質な声にはっと我に返る。爆弾は惑星への投入コースを全力へ進んでいる。その軌道はは明らかにあの街だ。

 しかし、左のモニターは依然として悲劇の恋人たちを演出するかのようにその情景を映している。


 もしココで僕がPPBNを起動させなかったとしたら・・・。

 その時はここに映る二人は悲劇のヒロインとその恋人だ。翌日には全てのニュースに二人の映像が流れ、戦争はさらに激しさを増すのだろう。

 ここで僕がPPBNを起動させたとしたら・・・。

 二人は僕に命を助けられたと感謝するだろうか。そもそも僕がここにいると知っているのだろうか。そうであったとして、それが彼女、そしてあの男の関係にどういう意味があるというのだろうか。

 たった5秒考えていただけなのに、それは数分にも数時間にも感じた。


「C-1863からC-1872を接続、角度78、61、-14、PPBN展開」

 気が付くと僕はPPBNの起動プロセスを行っていた。これが最後、28個目の爆弾の処理。

 惑星へ近づく爆弾を衛星から放たれたバリアが防ぎ、大気圏に入る間もなくその場で破裂した。

 その爆風が少しだけ僕の居る衛星を揺らす。

 中央のモニターの赤い点は全て消えてなくなり、さっきまで目障りなほどに点滅していた赤ランプは消えた。

 左のモニターは抱き合い生きていることを確かめ合うように口づけをする男女の姿が映し出されていた。

 モニターを消し、席を立ち、廊下を歩き、寝室へ戻る。真っ白になった気分だった。


 本当にこれで良かったのだろうか。率直にそう思った。

 惑星は今もそこにあり、沢山の人が守られた。それは違いない。

 でも、僕は幸せなのだろうか。

 いや、幸せだったことなんて無い。いじめられもしたし、悲しい思いだってしたし、今はこんな広い宇宙でひとりぼっちだ。

 それにこんな所で失恋、それも彼女の相手は僕の一番嫌いなあの男ときたもんだ。

 何故守ってしまったのだろうか。こんな世界、守る必要があったのだろうか。


 多分明日も明後日も来月も来年も敵の攻撃は続くんだろう。

 僕はもう真っ白だ。こんな世界なんてどうなっても構わない。

 誰にも分かってもらえないかもしれないけど、守ってる僕だって人間なんだ。

 もう無理かもしれない。明日はもう寝てしまって、何も知らない内に何処かの街に爆弾が落ち0110010010010001100100111......




「CV-3803-24、消去されました。実働期間は6ヶ月と28日。平均と比べて少し短い日数です」


「なるほど。イレギュラーを組み込んでみるのが多少早かったかな」


「次の検体の準備は出来てますが?」


「そうだな、引き続きCV-3803-25の投入を」


「了解、CV-3803-25をインストールします」




 暗く、広く、ただただ冷たい。


 昔、子供の頃に思っていた宇宙についてのイメージはこんなものだった。

 人々が宇宙を我が物顔で往来する時代だとはいえ、僕がその宇宙へ出ることはなく、ただただ毎日を送っていた。

 夜に空を見上げれば光る星と星の間を動く光がある。この星から飛び立つ船だ。それを見ては常々自分の置かれた状況から逃げ出したくなる衝動にかられていた。

 ココに来て6年半。僕は衛星の中にいる。

お読み頂きありがとうございました。乱筆乱文で申し訳ありません。

初めての執筆でしたが、数日考えた内容をとにかく文章にしたくとっさに書きなぐった内容です。

ご意見ご指摘等ございましたらよろしくお願い致します。

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