098 自業自得な為政者と鋭くなる勘
鋭くなるターレーの勘
「サーレー様、以上が城下町の状況です」
コショカさんの報告に僕は、ターレーお姉ちゃんの方を向く。
「ターレーお姉様、これは、早急に対処全てき事だと思います」
「具体的な案は、ありますか?」
ターレーお姉ちゃんの質問に僕は、頷く。
「簡易宿泊施設と食料の提供。それだけでは、働く気が無い浮浪者まで引き寄せる可能性が高いので、城主導している事業施設に関わる雪かき作業を行う者とその家族に限り、成果に合わせて少量でも給金を支払う様にします」
「単なる災害福祉でなく、新たな雇用としての展開ですね。真っ当な判断です。早急にイーラー様に提案して参ります」
そういってターレーお姉ちゃんが移動したのを確認してから僕は、コショカさんに指示を出す。
「決定までに時間が掛かるから、こっちの裏金を使って、施設を押さえ、炊き出しを開始して」
「雪かきですか? もう直ぐ冬が終わりますよ?」
コショカさんの指摘に僕が微笑む。
「解っているよね? この成果の大小をもって、焼け跡への再建事業への組み込み作業員への転用。再建後は、そこに建てた製造施設への雇用。そーだー等の施設の増設は、もう直ぐ行われる王国会議で増産を要求される物を中心に行う必要があるからね。何なら、他のスラムに付け火しても良いよ」
「過激な発言は、止めた方が宜しいのでは?」
コショカさんの作り笑顔に僕が突っ込む。
「言い方が悪いけど、丁度良かった。城下町への農業等を断念した難民、貴族、領主に対して絶望して働くことを辞めた人間を領地の納税者に変える、そのチャンスになったんだよ」
「よくスラムの人種をお知りで?」
コショカさんが感心した様子で尋ねてくるので僕は、苦笑する。
「こんな生きるのに大変な世界で、働かないって更に生きるのに困る状態にいる理由なんて、特別な物が無ければ、理不尽な為政者が原因なんだよ」
僕の言葉にコショカさんが何か言う前にカーレーが釘を刺す。
「解ってると思うけど、上手く元居た領地の貴族や役人を悪役に仕立てて、ソーバト領主一族が慈悲深い人達かって幻想を植え込んでおくんだよ」
「そこを幻想って言います?」
今度は、コショカさんに苦笑するとカーレーがあっさり頷く。
「当然、だってどんなにその貴族や役人が悪党だとしてもそれを容認して来たのは、領主の政治なんだから、その責任は、常に領主が背負う物なんだよ」
「そうなのですか?」
疑問符を浮かべるコショカさん、多分、貴族にとって領民は、あくまで服従するのが当然ってこの世界の階級制度の考え方が定着している所為だろう。
「僕達が居た国の古き王族が次の様な言葉を口にしてたと言われているよ。『パンが無ければお菓子を食べればいいじゃないか?』その言葉を放った王妃は、領民によって処刑台に上げられた。これが何を意味するか解る?」
コショカさんが淡々と答える。
「領民の生活を理解しない為政者は、死ぬのが当然って事だね」
僕は、首を横に振る。
「為政者の言動は、常に配下の貴族や領民を含めてその動きを良くも悪くもコントロールする。現状、スラムを容認して、虐げられている人が居るとしたら、その責任は、間違いなく為政者にあるって事」
短い沈黙の後、頭をかきながらコショカさんが口にする。
「上に立つって大変なんだ?」
「人事じゃないと思う」
カーレーの突っ込みにコショカさんが手をふりながら答える。
「解ってる。ウチも商店だといっても上に立つ親を見て育ったんだ、責任の意味くらい知ってる」
そのまま準備の為に動き出そうとする。
「外に行くんだったら序でにシーワーさんを呼ぶように伝言をお願い」
「はいはい、側近の人達に伝言しておくよ」
コショカさんがそういって部屋を出て行く。
そう時間が経たずにシーワーさんがやって来た。
「何をすれば宜しいのでしょうか?」
無駄な挨拶等は、抜きでそういってくるところがシーワーさんらしい。
「スラムの火災の情報が上がって来なかった。それを止めた貴族、もしくは、役人の証拠を揃えてから軽い警告、改善が無ければ領民の鬱憤晴らしに使って。最悪死んでも僕が責任取るから情報は、上げなさい」
最後の責任のところで若干不満そうな顔をしたが頭を下げる。
「早々に結果をご報告します」
退室しようとするシーワーさんに僕は、釘を刺す。
「僕を舐めないでね」
笑顔の僕にシーワーさんは、一瞬ギクって顔をするが次の瞬間には、笑顔になる。
「了解しております。サーレー様に情報を隠蔽するような馬鹿な真似は、致しません」
そうして今度こそ退室するシーワーさん。
そして部屋に人が居なくなった所でカーレーが眉を寄せる。
「スラムか、路上生活をやってた時を思い出すね」
「そうだね。お父さんがよくいってたっけ、あそこに居る人の多くは、ドロップアウトした人達だって。でも同時にそこで生まれ、それが当然だと思っている人達を放置すれば常識が悪い風に変化するって」
僕の言葉に対してカーレーが苦笑する。
「偉そうな顔をしておいて、その後も紐全開の生活をしていた駄目親父が言っても説得力の欠片も無かったけどね」
僕は、激しく頷いているとターレーお姉ちゃんが戻ってきた。
「イーラー叔父様が早急に予算をつけて人を動かしてくれるそうです」
「でもイーラー叔父様って、王国会議に同行するって聞いてましたけど?」
カーレーの疑問にターレーお姉ちゃんが頷く。
「そう。だから基本、この件は、不在に間にシールーが動くことになっているわ」
そうなると、手順が増えて、余計に時間がかかる、コショカさんを使って動かしておいて正解だった。
ターレーお姉ちゃんは、部屋を軽く見てから微笑みながら確認してくる。
「それで何を指示したの?」
コショカさんの不在から僕が何か指示した事を悟られた。
「コショカに呼ばせたシーワーにスラム火災の情報を止めていた者の特定をお願いしました」
「シーワーには、イーラー叔父様に情報をあげる様に言い含めておきなさいよ」
ターレーお姉ちゃんの言葉に頷く。
「はい。ちゃんと言っておきます」
僕は、これで誤魔化せたと思った時、ターレーお姉ちゃんが口にする。
「それとコショカを別件で動かしているでしょうけど、大事になる前にこちらに報告をいれるのですよ」
そういってターレーお姉ちゃんが王国会議の準備があるので部屋を後にした。
「どんどんこっちの動きを読んで来るね。流石は、あちき達のお姉ちゃんって所だね」
カーレーの言葉に僕が文句を言う。
「色々と誤魔化す僕の苦労も考えようよ」
カーレーは、笑顔で答えてくる。
「そういうのは、サーレーの仕事でしょ」
「そうだけど……」
前々から決めて居て、カーレーには、一番危険な事や負け役等、泥を被る事をお願いしているからお互い様なのに、不公平に思えた今日この頃でした。
サーレーは、相変わらず暗躍しています。
そんな双子を相手にしてるターレーの勘がどんどん鋭くなっていきます。
次回は、王国会議の最中のイーラーです




