094 王子との再戦と明かされるチート
サーレーとリースーの再戦
「パーセー、準備が良いな?」
リースー王子の言葉に私が即答する。
「はい、このマジックライト競技室の内外に探査系の魔法及び魔法具がない事を確認しております」
「これで良いのだな?」
リースー王子の問い掛けにターレー殿は、頭を下げる。
「ありがとうございます。サーレー、準備は、いいわね」
「はい!」
そう答え、サーレー殿がリースー王子の反対側に立った。
「条件を最終確認だ。この試合が終わり次第、そちらの秘密を開示する。それに間違いは、ないな?」
リースー王子の言葉に誓約書を私に渡しながらターレー殿が答える。
「はい。間違いございません。そしてリースー王子方は、負けた場合、その秘密を公開せず、隠蔽への補助を行う。そちらでも確認してくださいませ」
私は、誓約書に書かれた文面に間違いが無く、サインも事前に確認したソーバト領主の物、同時にこの誓約書が王族によって作られた物であり、発行番号も問題ない事を確認した。
この魔法の誓約書と言うのは、王国内で使われる物で、特に領地間での重要な取り決めの時に使用される。
この誓約書を反故する事は、魔法王国ミハーエの取り決めを破る事になり、例え王族とて誓約の魔法で処罰される。
これだけの物を用意した以上、相手の秘密の大きさが伺え知れる。
そしてリースー王子が誓約書にサインを書き込み事でこの誓約書が成立した。
「それでは、勝負を始めよう」
マジックライト台を挟み対峙するリースー王子とサーレー殿。
「「刃の神に恥じぬ戦いを」」
その宣言と同時にマジックライト台に内蔵された時読みが動き出す。
時読みが終わると同時に、魔力供給が強制停止される仕組みになっていて結果が確定される。
リースー王子は、素早く端の属性を染め上げる。
前回の作戦に対する対応だ。
分散するよりも相手が左右に振ってくるのを抑制する作戦でした。
しかし、サーレー殿は、中央の二つに魔力を籠め始めた。
怪訝に思いながらもリースー様は、魔力を籠め、ある程度籠めた所で逆の端に移動した。
それも終わってもサーレー殿は、動かない。
逆の端も染め上げたあと、リースー王子は、他の四本にも順次魔力を籠めていく。
それでも動かないサーレー殿。
「時間切れ間近に一気に動くつもりだろうが、間に合うつもりなのか?」
ダースーの疑問に私が即答する。
「絶対に間に合わない。リースー王子を甘く見ているのだ」
それでもリースー王子は、油断無く、染め直されないように魔力を籠めて回る。
そして時間も差し迫り、リースー王子が玄と銀に続き、鳶と紺を染めて反対側の属性に動いた時、サーレー殿が動いた。
サーレー殿は、紺と玄の属性を急速に魔力を籠め始めたのだ。
「おい、気付いたか?」
ダースーの言葉に私が頷く。
「リースー王子の数少ない光属性でない属性の二つを染めに入った。もしかしたら、あの娘は、その属性が光なのかもしれない」
その私の想像が正しい事を示すように圧倒的な魔力量でリースー王子の魔力を染め直した。
「領主候補以外が二属性光もちだとしたらそれは、隠すな」
ダースーが言うのも当然。
一つでも光があれば領主の条件を見たすというのに、それが二つもある。
もう一人の双子も同等ならば、現在ソーバトは、魔帯輝に計六つの光を籠められる事になる。
過剰とも思える魔帯輝供給は、間違いなくこの二人という事になる。
今まで溜め込んで居たかのだろう急速な魔力投入、ランク負けしているリースー王子では、この二つを染め返すだけの時間は、無い。
「最初から魔力を籠めた中央の二つをリースー王子が染め返す時間も無い。勝負は、残り六つを死守出来るかどうかだ」
ダースーの言うとおりだろう。
そしてサーレー殿が鳶と銀の属性を染めようとする。
そこにリースー王子が割り込んだ。
その瞬間、サーレー殿は、リースー王子が先程まで魔力を籠めていない端の属性、黄と蒼を染めに動く。
直ぐにリースー王子もそこに動く。
リースー王子も魔力を籠めているが、サーレー殿の籠めていく魔力の量が凄まじい。
「おいおい、まさか黄と蒼まで光って言わないよな?」
ダースーの言葉を否定したいが、その属性が光のリースー王子と互角以上の魔力を籠められるという事は、その可能性すらある。
そして決着の時が来た。
勝負は、46でリースー王子の負けだ。
最後の最後で染め返されてしまったのだ。
「サーレーの勝ちで問題ありませんね?」
ターレー殿の言葉にリースー王子が頷く。
「完全に負けだ。なるほど、勝負の後に秘密を開示するという条件が勝敗に関係なかったのは、勝負をすれば必然的に秘密が解るからだったのだな?」
勝負に勝つ方法を勝負の条件に組み込むとは、狡猾な戦法だ。
「それで結局、いくつの属性で光をもっているんだ? 誓約にあるのだから教え貰っても構わないだろう?」
ダースーの言葉にカーレー殿があっさりと応えた。
「全部だけど」
場の空気が固まった。
「カーレー!」
ターレー殿がカーレー殿を睨んでいるという事は、冗談では、ない様だが信じられない。
「空の魔帯輝を持ってきたから。見せてあげるよ」
そういってカーレー殿は、勝負を終わったばかりのサーレー殿にも空の魔帯輝を渡して、次々と魔力を籠めていく。
十属性全ての魔帯輝が光まで魔力が籠め上げられていた。
「信じられないのでしたら、そっちでも空の魔帯輝をもって来ているでしょうから籠めましょうか?」
サーレー殿が言う様に魔力を測るのに使う為にもって来ていたので渡すと、それもあっさりと籠めてしまった。
魔力を籠められた魔帯輝を確認してからダースーが言う。
「お前等、連続して二十個も光まで魔力籠めで平気なのか?」
「全然」
とカーレー殿。
「試合後なので多少は、疲れました」
とサーレー殿。
それで済まされるレベルでは、無いはずなのだが。
諦めきった表情を浮かべていたターレー殿が告げた。
「カーレーとサーレーの魔力量は、尋常じゃないので、この倍は、軽く出来ます」
リースー王子が笑い始めた。
「これは、良い。王族にも滅多に現れない全属性光の魔力持ちが二人も同時に生まれていたとは、愉快では、ないか」
「笑い事では、ありません! 王国内のパワーバランスが崩れる程の事です!」
私の言葉にリースー王子が言う。
「発覚すればだ。ソーバトも発覚しないように密かに運用している内は、問題ないだろう。騒乱は、好まない故に公開もせず、隠蔽にも協力しよう」
「ありがとうございます」
ターレー殿が頭を下げ、カーレーとサーレーの襟首を掴み言う。
「少々口が軽いこの二人を躾をしますのでこれで失礼します」
「秘密って約束してるんだから別に良いじゃん」
カーレー殿が色々言う中、ターレー殿に連れられて問題の双子は、去っていく。
そしてリースー王子が口にする。
「自分を犠牲にして公開しようとは、考えなくても良い。あの双子の魔力は、私が国王になるまでは、このまま隠蔽しておく事にする。私が国王になれば、今の誓約書を破棄する方法もあるからな」
なるほど、誓約書は、現国王の魔力を基礎に作られている。
国王が変わればその力は、弱まるのは、間違いない。
なによりリースー王子以外の勢力にあの強大な魔力を使われる可能性が減る事を意味する。
「さっきも言ったが、隠蔽には、力を貸す。それと領主一族の婚姻なら王族の許可が必要になる筈だ。あの二人のそれは、直ぐに私に届くようにしてくれ」
「了解致しました。あの双子の魔力の情報が拡散しないよう、確りと監視しておきます」
私は、こう返事をするなか、ダースーが気楽に言う。
「いっその事、両方ともお前が嫁にしちまえばどうだ?」
「考えておく」
リースー王子がそう軽く言われたが、正直、無い話では、無い。
魔力は、遺伝する可能性が高い。
あの魔力は、王族にこそ相応しい。
リースー王子が国王になった後に臣下となる王族に嫁がせる事も含めて検討しておこう。
「しかし、こうなると火消しが大変だぞ?」
ダースーの言うとおりである、学院指導部の方でもあの双子の力は、問題になっている。
下手に他の王子に情報が流れる前に止めておかなければいけない。
「リースー王子、すいませんが、これから色々と動かなくては、ならなくなりました」
「解っている。頑張ってくれ」
リースー王子に労いの言葉を受け私は、隠蔽工作を開始するのであった。
マジックライトの戦略と魔力の勝負でした。
リースー王子は、意外と策略家で、次期国王に成る為、そこそこ動いています。
次回は、学院の終わり、優秀賞の発表




