009 ケイタイの使い方と姉妹の絆
お姉様がデレるまでのお話
私の名前は、ターレー=ソーバトと申します。
領主の一族の血を引いておりますが、お父様の顔を絵でしかしりませんでした。
それがいきなり現れた異母姉妹達が持ってきたメッセージで初めてその顔を見る事になりました。
お母様や叔父上様等親族、関係があった者達から聞いていたのと大きくかけ離れていたその態度に失望を覚えた物です。
そして何より衝撃的だったのは、そんなお父様の下にお母様は、向かうと宣言しているのです。
それも異世界、一度行ったら、戻って来れない場所に。
産まれた時からお父様が不在で唯一の直接血を引いた存在、お母様が居なくなる。
考えただけでも恐ろしく、辛い事です。
そんなメッセージを持ってきた異母姉妹を私は、見ます。
イーラー叔父上が異母姉妹達の事を領主であるウーラー伯父上に相談されている間、この一室に隔離され、お母様とその側近から礼節の指導を受けている異母姉妹。
まだ洗礼前のその異母姉妹は、今まで何度か現れた偽者とまるで違いました。
お母様を騙し、どうにか利用しようとしてきたその者達の顔には、欺瞞の笑顔が浮かび、嫌悪感しか覚えなかったものですが、こうして視る異母姉妹達からは、愛おしさしか感じられません。
偽者と決め付け、挨拶を拒んだ事すら今は、後悔しています。
「カーレー様!」
お母様の側近の一人が異母姉妹の一人を叱責します。
慣れない礼儀に悪戦苦闘する異母姉妹の様子に私は、思わず声を掛けてしまいます。
「そう直ぐに慣れる物では、ありません。もっと大らかな気持ちで指導しなさい」
私の言葉にその側近は、慌てて謝罪します。
それに合わせる様にカーレーが声をあげます。
「お母様、時間も出来ましたから、お父様との連絡方法を説明します」
そういって小箱のような物を取り出します。
それには、小さな絵のような物があり、その下には、幾つかの凹凸がありました。
「これは、ケイタイデンワって申します。同じ道具をもった相手と話をする為の道具です」
「これでアーラー様と話せるのですか!」
目を輝かせるお母様に対してカーレーは、申し訳なさそうな顔をします。
「こっち、ディーラの世界では、通じません。向うの世界に着いてからここを押した時にお父様が話せる状態なら話が出来ます。これは、お父様から、お母様へ渡すように言われています」
それを宝物のように受け取りお母様は、幸せそうな顔をします。
「アーラー様からの贈り物大切に致します」
「それは、普通にしているだけでもデンキ、えーと力を使っていますので、定期的に力を補充する必要があります。その為にこれが必要です」
カーレーが黒い板を取り出し、それから伸びる管の先端をケイタイのそこに合わせる。
「これをケイタイにとりつけ、この黒い部分を太陽に向けておくと力が溜まります」
「どの様な理屈で力が溜まるのでしょうか?」
お母様の問いかけにカーレーが悩みながらも説明を続ける。
「えーと、農作物は、太陽の光を糧に成長します。それと同じ原理で、この黒い板が太陽の光を力に変えるのです」
「興味深い装置です。詳しい話は、ゆっくりと聞かせてもらいますからね」
微笑むお母様に顔を引きつらせるカーレーを見て、どうしてこんな話をし始めたのかその理由に気付きました。
カーレーは、何時でもお城を抜け出せるようにしたかったのでしょう。
しかし、お母様が思惑に気付いていると牽制されて戸惑っているのでしょう。
その後、詳しい説明を求めるお母様にもう一人の異母姉妹、サーレーが答え始めるとカーレーが少し離れました。
そんなカーレーに私は、近づきます。
「あのターレー様と呼んだ方が宜しいですよね?」
こちらの表情を窺うようにそう尋ねてくるカーレーの顔に私は、悲しくなりました。
「お姉様と呼んで貰って構いません。どんなに離れていて、母親が違えど、同じ父親を持つ姉妹なのですから」
「本当に良いのですか? 貴女様は、だ、お父様に好印象を持っているように思えませんが」
カーレーの言うとおりなのかもしれない。
「それでも血を分けた妹を妹と認められないほど、意固地では、ありません。それよりも初めて会った時の失礼な対応を謝罪させて下さい」
私の言葉にカーレーが首を横に振る。
「あれが普通の対応だと思います。あちき達は、元々、歓迎されるなんて思っていません。逆に蔑まれると思い、メッセージを渡したら直ぐにこの町を、領地からでて、二人で暮らして行こうと考えていましたから。それが本当にどうしてこうなったのでしょうか?」
困惑した様子のカーレーに私も同感でした。
「本当です、お母様のお父様絶対主義には、本当に困ります」
なんとなく見詰め合い、気持ちが通じ合う、それが不快でない。
これが血のつながりってものなのでしょう。
そしてカーレーは、真剣な顔をして尋ねてくる。
「町で多少成りに噂も調べましたが、今は、この領地は、好ましくない状態になっているのですよね?」
私は、小さく頷きます。
「イーラー叔父様も仰ったとおり、余力があまり無い状態です。それ故にお母様が異界に行かれると宣言は、衝撃的でした」
「お姉様も母親と離れるのは、嫌ですよね。あちきは、嫌でした。色々と駄目な父親でしたけど、それでもサーレーを除けば唯一の肉親でしたから」
そうでした、カーレー達は、異世界で唯一の肉親だった父親と別れて、ディーラにやって来たのでした。
「帰りたいのですね?」
私の問い掛けにカーレーは、素直に頷きました。
「でも、それが出来ないのは、知っています。だってそれが可能だったら駄目親父があちき達を手放すとは、思えませんでしたから」
多少言葉は、下品でしたがその言葉には、確かな親愛を感じられました。
「カーレー、お父様をそんな風に呼んでは、いけません。例え、私達の事などほって勝手に異世界に行った挙句、この領地の状況でお母様を呼び出す無責任な父親でもです」
丁寧だが棘がある私の言葉に苦笑するカーレー。
「それでも、お姉様は、お父様に会ってみたいですか? お姉様でしたら、お母様と一緒にお父様の下にいけると思いますが?」
言われて初めて気付きました。
私がお母様と一緒に異世界に行くという選択肢もあったのでした。
しかし、それが思いつかなかったのは、当然な事だと思います。
「それは、出来ません。私には、ソーバトの領主の一族の責任があります」
「ソーバトの領主の一族の責任ですか。あちき達にもそれは、あるのですよね?」
複雑そうな顔をするカーレーに私は、頷きます。
「そうです。特に私達は、それを放棄したお父様の分も背負う義務があると考えています」
多少きつい言葉かもしれないがそれが私の本当の気持ちです。
「お姉様、あちきは、サーレーの事が一番大切です。二人で生きる為にディーラに来る事も厭いませんでした。でも、お姉様をはじめとする肉親が居るこのソーバトが困っていて、それに対して何か出来るのでしたら何かしたいと思います」
その顔は、ソーバトの領主の一族の顔でした。
「その気持ち嬉しく思います」
私が微笑んでいるとお母様が歓声を上げていました。
「アーラー様のお姿が!」
お母様達の方を向くとサーレーが近寄ってくる。
「何をしたの?」
カーレーが尋ねるとサーレーがメッセージを流した機械を指差します。
「こっちからお父さんのガゾウを幾つかケイタイに移した」
それを聞いてカーレーが驚いた顔をした。
「それってケイタイの操作方法をある程度理解したって事?」
サーレーが頷きます。
「お母様、凄いスピードでケイタイの機能を習得したし、原理の方も少しずつだけど理解しているよ」
「お母様は、学院でも座学では、お父様を越す成績を残す程、聡明なお方で、今も独自にいくつ物、新しい魔法や魔法具を作り出しています」
私の説明にカーレーが釈然としない顔をする。
「それなのにお父様を追いかけて異世界に行くつもりなんですよね?」
私も大きなため息を吐く。
「お母様のお父様絶対主義は、誰にも止められないのです」
問題が多い両親をもった私達は、力を合わせて生きていくしか無く。
この妹達を護るのが姉としての私の役目だと決心するのでした。
ターレーのお姉様キャラを確定させる為の話でした。
マーネー様は、変に能力が高いから誰も止められません。
次回は、カーレーがお城の中を色んな意味で暴れます




