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落ち目領地とハーフな双子  作者: 鈴神楽
一年目 異世界生活に慣れよう!
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081 きな粉で食べる餅と学院の雰囲気

新年と学院準備回です

「カーレー、磯辺焼きは、無理。海苔が無いからね」

 サーレーの応えにあちきは、実家が米問屋のコショカに調べさせて手に入れたもち米で作ったお餅を焼きながら唸る。

「醤油も残り少ないよね」

 あちきは、持ってきた調味料の残りを確認して、溜息を吐く。

「こっちで再現できるのは、どんどん再現してるんだけど、やっぱり発酵系は、元の菌が無いと難しい」

 サーレーも残念そうに言う。

「仕方ないからきな粉で我慢しますか」

 そう言いながらきな粉を準備しているとターレーお姉ちゃんがやってくる。

「二人とも何をやってるのかしら?」

「えーと新年の祝いも終わって学院まで暇だったのでお餅を焼いて食べようとしてました」

 あちきの答えにターレーお姉ちゃんが視線を向けるとまだ焼かれていないお餅が回収されていく。

「あー、折角作ったのに!」

「保存色として検討中なのでこちらで管理させてもらいます」

 ターレーお姉ちゃんの言葉にあちきが反論する。

「だったらまた作りますから、それは、取らないで!」

 ターレーお姉ちゃんが怒る。

「この国に無い物を断りも無く、自分達で作ったらいけません!」

「……食べたかったんです」

 拗ねるあちきにターレーお姉ちゃんが言い含めるように言います。

「作る事自体は、禁止しません。ただ、事前に言ってからにしなさい。それと自分達でやろうとするのも駄目です」

 事前報告は、ともかく、自分達で作るのが禁止されているのが結構辛い。

「自分達の事だから自分でやりたいんですが?」

 あちきの要求にターレーお姉ちゃんは、首を横に振る。

「カーレー、貴女がやっている事は、下の者達の仕事を奪う事なのです。そうでなくても、同じ仕事をしている者と違ったら謂れのない中傷をうけます。自覚しなさい」

 何か何時に無く厳しい気がする。

 小さく溜息を吐いてからターレーお姉ちゃんが言う。

「まだソーバトに居るから隠せますが、これが学院だったら、もっと大変な事に成っていました。もしもそうなったらどうするつもりですか?」

 そうか、学院での事を気にしているんだ。

「それは、大丈夫。ちゃんとサーレーが気をつけるから」

 あちきが全面的にサーレーに振った。

「何ですかそれ?」

 ターレーお姉ちゃんが怪訝そうな顔をするのであちきは、説明する。

「昔っからそう決めて居るの。あちきは、取敢えず行動して、サーレーが周りの反応を見て止めたり隠蔽するかを判断するって」

 ターレーお姉ちゃんが顔を向けるとサーレーが焼きあがったお餅を残り少ない醤油で食べながら答える。

「城の中なら多少の事は、大丈夫って判断です」

「城内でも敵は、居るのですから油断しすぎないで下さい」

 ターレーお姉ちゃんの忠告にサーレーが頷く。

「解っています。特殊な知識でない食べ物だったら異国の物で誤魔化せるでしょ?」

「限度があります。そーだもかなりインパクトが有ったのですよ」

 ターレーお姉ちゃんの説明にあちきが首を傾げる。

「塩等の必須の物や米麦みたいな主食ならともかく、嗜好品だったら、影響は、小さいと思うけど?」

 ターレーお姉ちゃんは、少し思案した後に答える。

「なるほど、そこが大きな認識のずれだったのかもしれませんね」

 サーレーのお餅を食べる手が止まる。

「認識のずれ?」

 ターレーお姉ちゃんが頷いた。

「そう、嗜好品に対する認識ですが、貴女達の中では、こちらで考えている以上に低いです。お米の時の認識に大きなずれが無い事から生活的な物なのでしょう」

 その一言にサーレーが納得した様子になる。

「なるほど、僕達は、あくまで小庶民だったから生活必需品に関しては、重要度が高く、それは、貴族でも変わらない。でも嗜好品は、庶民と貴族では、大きく隔たりだあるって事ですね」

 ターレーお姉ちゃんが複雑そうな表情を浮かべる。

「そう、貴族にとって嗜好品も大切な物なのです。お母様を考えてみてください」

 あちきは、シャンプーを作る為に侍女達を実験台にしたりしていたマーネーお母さんを思い出す。

「幾らなんでもあれが標準と言いませんよね?」

「流石に標準と言いませんが、嗜好品を手に入れる為に、湯水の様にお金を使う貴族なら幾らでも居ます。中には、仕事や家族を犠牲にする貴族も」

 ターレーお姉ちゃんの言葉にサーレーが眉を顰める。

「それが貴族の標準なのですか?」

「そう、それが貴族の標準よ」

 ターレーお姉ちゃんが即答するとサーレーが頷く。

「それでしたら、確かに認識がずれています。とてもじゃないですが、嗜好品の為に仕事を犠牲にする様な考え方が標準とは、想定していませんから」

「ですから、食べ物だからといって安易に考えない様にしなさい」

 ターレーお姉ちゃんの言葉にあちき達が頷く。

「それは、おいておいて、お餅は、少し残して行って欲しいな?」

 あちきがねだるとターレーお姉ちゃんがこっちを見る。

「今度から気をつけますか?」

「気をつけます!」

 即答したあちきを見て後、サーレーが頷くのを確認してからターレーお姉ちゃんが許可してくれる。

「今食べる分だけです。それと、作るのは、侍女にやらせなさい」

「「はーい」」

 あちき達がそう返事して、侍女にきな粉餅の調理の仕方を教える。

「折角だからターレーお姉様も食べて行きませんか?」

 あちきの言葉にターレーお姉ちゃんが珍しく受けてくれた。

「そうね、今くらいは、良いかしら。実際にどんな味か興味があったから」

 そして焼きあがったお餅を食べて驚いた顔をする。

「不思議な食感ですね」

「蒸した所を念入りに潰す事で粘りを出していますから独特の食感になります。僕達の国だと神事とかにも用いられてます」

 サーレーの解説にターレーお姉ちゃんが言う。

「そうですか。美味しいものですね」

 こうして姉妹でお餅を堪能し、雑談が始まる。

「そういえば、学院ってどんな感じなんですか?」

 あちきの質問にターレーお姉ちゃんが答えてくれる。

「学院は、中央が国内の貴族の力を高める事を目的に作った施設。実は、その成立には、ソーバトも無縁じゃないらしいのよ」

「あんまり武力重視で魔法が低すぎるって事ですか?」

 サーレーの指摘に苦笑しながら頷くターレーお姉ちゃん。

「そんな所ね。逆に魔法重視し過ぎて武器による戦闘能力が低すぎる騎士も問題だった事もあって、学院では、基礎知識と魔法学の他に騎士や側近達志望の為のコースもあるわ」

 そこ等辺は、学習会の為に事前に調べてあり、本当の知りたいのは、その先である。

「カーレーが知りたいのは、そういう事じゃなくて、雰囲気って事でしょうね」

 確認してくるターレーお姉ちゃんにあちきが頷くと続けてくれる。

「表向きは、穏やかよ。王国中央にある学院施設での事だから基本、揉め事は、起こせないから」

「表向きって事は、裏があるって事ですよね?」

 サーレーの言葉にターレーお姉ちゃんの顔の真剣度が増す。

「そう、少しでも自領に有利になる為に、学院での成績競争から始まり、まだまだ甘い生徒から情報を引き出したりと色々とあるわ。その上、意地の張り合いもあるからかなり精神的にも大変な場所よ」

 想像をしていたが確かに面倒そうな場所だ。

「それで僕達の目標は、何になるんですか?」

 サーレーの質問にターレーお姉ちゃんが即答する。

「目立つたない事と言いたいんだけど、それも難しいのよ。成績は、良い方が間違いなく領地としては、助かる。はっきり言ってしまえば講義以外では、目立つ事をしないのがベストね」

「いい成績をとって尚且つ目立たないか、面倒」

 あちきが本音を口にするとサーレーが言う。

「シーワーみたいな悪目立ちするなという事ですよね?」

 ターレーお姉ちゃんが頷く。

「そうね、シーワーは、成績は、優秀でしたけど、あまり褒められた態度でありませんでした。ですから、貴女達は、控え目な態度でお願いね」

「了解しました」

 あちきが答え、サーレーも頷く、姉妹での雑談が終わりました。

 その日の夕食で没収されたお餅が出されたのには、お腹的に困ってしまった。

前回の最後にしてたのは、今回食べた餅つきです。

カーレー達とターレー達の認識の違いをはっきりさせました。

安売り廻りしていたカーレー達に嗜好品重視の貴族の考えは、あまりしっくりこないみたいです。

次回は、サーレー視点で学院のはじまりです

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