008 積み上げられた難題とチート魔力
カーレー達のチート発覚です
私の名前は、イーラー=ソーバト。
魔法王国ミハーエのソーバト領土の領主の弟になる。
領主である兄、ウーラー様をサポートして領地の繁栄の為に日夜戦っている。
その私の戦う相手、それは、目の前の書類の山と言っても良いだろう。
領地運営というのは、様々の要因が絡み合う。
領民からの税収、王国中央への献上、他領土との貿易等など数え上げたらきりが無い。
それも慣例に則って行うならまだ仕事の大半を文官に任せられのだが、現在のソーバトでは、それは、難しいのだ。
近年、ミハーエにとって危険な隣国、ヌノー帝国からの侵攻が行われていない。
それ自体は、悪い事では、ないと言えるのだが、問題は、ソーバトの王国に対する貢献度の大半がこのヌノー帝国の戦果なのだ。
侵攻がなければこちらから侵攻せねば戦果など出ない。
無論、一領土でしかないソーバトにそんな権限などある訳も無い。
当然、王国内でのソーバトの地位が落ちていく事になる。
それが意味するのは、重い。
王国内での地位が高ければ新しい魔法の提供も早く、王国中央への献上の猶予も可能になる。
それが落ちている今、献上が少しでも遅れれば即座にヤリ玉にあげられ問題視される。
下手をすれば領土を削られる事もある。
そんな状態を回避する為に親交のある領土への援軍の派遣などを行い、貢献度をあげる努力をしているが、とても十分とは、いえない。
この状態を改善するには、大掛かりな魔法の研究を行い、その成果をもって王国への貢献度とするしかないのだが、その為の予算が捻出出来ないのだ。
これでもソーバトは、ミハーエの中でも中位の領地であるから、全体的な予算は、それなりにある。
しかしながらその大半がヌノー帝国との戦いの為の軍事費に振り分けられている。
ヌノー帝国が侵攻してこないのだからその軍事費を減らせという馬鹿な貴族も居るが、いつ再度侵攻するかわからないヌノー帝国に対する備えを怠る訳には、いかない。
その為、こうして領地運営業務を一から見直し削減出来る物は、削減して予算の捻出に取り組んでいるのだが、既得権っていう奴は、この上なく厄介な物だ。
最近の例で言うなら武闘大会の回数がそれだ。
強い兵士を集める為に必要な催しとして必要性は、私も認めるが年に四回も必要なのかと言えば私は、違うと断言したい。
参加する人間の大本の人数が変わらないのだから年一回、譲歩して二回でも構わないでも筈だ。
しかし、そこに発生する既得権を持つ者が伝統をたてにウーラー兄上を動かし、妨害してきた。
忌々しい事だ。
「イーラー様、こちらの件ですが……」
そういって一部の業務の不合理点を上げた来たのは、今年十四になる姪のターレー=ソーバトだ。
王国貴族の基礎を学ぶ学院が行われていない今の時期は、こうして私の手伝いをしてくれている。
母親は、上位領地、バーミンの女性で、中央でも少ない、魔力の全属性持ちである。
学院でも優秀な成績をあげていて、中央や他所の領地からの引き抜き、婚約の話が後を絶たない。
そんな出世の道を捨ててこの領地に留まっているのには、訳がある。
ターレーの父親は、私の二人居た兄の一人、領主に成れなかった兄、アーラー=ソーバトだ。
アーラー兄上は、高い能力を持っていたのだが、魔力だけは、皆無だった。
その為にターレーが生まれる前に失踪した。
そんな父親の汚点を拭う為か、ターレーは、献身的な働きをしてくれている。
正直、我が兄の叱責を罪の無い姪に負わせている現状は、私も好ましく思っていない。
もしも本人が中央に行くことや上位の領地に嫁入りを望むのなら、全面的に協力するつもりだ。
そんな事を考えながらもターレーが見つけた不合理点の改善案を検討していると私の側近、キールー=ナーハトが執務室に入ってきた。
「イーラー様、マーネー様が緊急の面談を求めてきています」
「お母様が……」
ターレーの顔が申し訳なさそうな顔をこちらに向けてくる。
「また新しいアーラー兄上の子供が見つかったのか?」
私の問いかけにキールーが頷く。
「その様です。イーラー様には、一時も早い面談をと申されていました」
「すいません。お母様もイーラー叔父上が忙しいのは、知っている筈なのに」
辛そうな顔をするターレーに私が首を横に振る。
「気にすることは、ない。元々我が兄上の失踪が原因なのだ。それに最終的には、偽者と断定するのもマーネー様だ」
「だったら、最初から居ないことにすれば良いのです」
不満げな顔を見せるターレーを私が宥める。
「マーネー様は、少しでもアーラー兄上の情報が欲しいのだ。見守ろうでは、ないか」
「そうかもしれませんが、十年以上過ぎています。もう……」
ターレーが口にしなかった言葉は、私にも理解できた。
だが同時に不思議とアーラー兄上が死んだとは、思えてない自分が居る事に不思議な感覚を覚えた。
「今の仕事が終わったら向かう、場所を用意してくれ」
「解りました」
キールーがそういって退室し、私とターレーは、今の仕事を片付けて、キールーが設定した部屋に向かった。
「お待ちしておりました。カーレー、サーレー、叔父上にご挨拶を」
マーネー様に促されその隣に居た二人の不思議な服を着た少女が挨拶してくる。
「「新の神の御声が届いておりますでしょうか?」」
定例の挨拶にターレーがきつい目をして返す。
「新の神の御声が小さいようです」
断りの挨拶に私が視線を向けるがターレーが続ける。
「お母様、イーラー叔父上は、多忙なのです。素性のしれない者と関わりあっている暇は、ありません」
あまり聞くことのないターレーのきつい言葉。
母親にしか見せない顔なのだろう。
「ターレー、自分の妹をその様に言うものでは、ありません」
「妹など居る訳ございません。お父様は、私が生まれる前に居なくなったのですから」
声高に主張するターレー。
そんな中、断りの挨拶を受けた為、顔を上げられずに居た娘達の一人が口にする。
「マーネー様、ですからいきなり妹と言われても誰でも困惑しますから、ここは、一度戻って機会を経てから……」
マーネー様を説得しようとしたのだろうが、問題のマーネー様は、笑顔のまま告げる。
「お母様ですよ、カーレー。間違えては、いけません」
「ですからこの場でそういうのは、ターレー様の気分を害するだけだと思われるのです、マーネー……」
その少女が名前を呼び終わる前にマーネー様の声が遮る。
「お母様ですよね、カーレー?」
思わず沈黙する少女だったが、暫く後に口にする。
「お母様、ゆっくりと話し合った後の対面を行いませんでしょうか?」
完全に気迫負けしていたな。
「カーレー、貴女達の存在は、既に知られています。時間を置けばこちらの関係の隙に付け入ろうとする者達が現れます。早急な関係の構築が必要なのです」
そう諭すマーネー様の顔は、貴族社会を生き抜く女性のそれだった。
「お母様!」
感情的になっているターレーを制して私が声を掛ける。
「マーネー様、挨拶の前にすいませんが二人がアーラー兄上の娘という証拠を見せてもらいませんか?」
「サーレー、先ほどのメッセージを見せてあげられる?」
マーネー様に促されてもう一人の少女が何かをとりだす。
「イーラー様、これは、メッセージを送るための魔法具らしいですわ」
「その様な魔法具があるのですか?」
自分の知らない情報にマーネー様が苦笑する。
「私も知らない物ですが、ある意味仕方ない事です」
その苦笑の意味が理解できないまま、私は、メッセージを見せられた。
状況を理解するのに多少の時間が掛かった。
「まずは、神器を返して貰いたい」
私の言葉に少女の一人、カーレーが神器を差し出してくる。
それを受け取り確認する。
それは、確かにアーラー兄上が失踪後に紛失が発覚した神器、名百布だった。
「まさか、アーラー兄上が使用していたとは。異界に行っていたのだったら幾ら探索をしても発見出来る訳が無い」
我が兄ながら、なんと軽率な事をしてくれたのだ。
ある意味、失踪より厄介だ。
これでアーラー兄上が戻る可能性は、完全に失われた上、マーネー様の性格を考えて間違いなく追いかける。
ソーバトにとって貴重な魔力保有者を失うのは、痛いが、止められるとは、とても思えない。
「本気にこの言葉に従うのですか?」
信じられないって顔をするターレーに同感という顔をするカーレーとサーレー。
こうしてみるとなるほど、似た者姉妹だ。
「アーラー様に求められるのでしたら、例えそこが何処であろうとも向かう所存です」
二人の関係を知るものなら聞くまでもない答えだった。
「ですが、私も母親、アーラー様の娘、三人が一人前になる前に行くつもりは、ありません。ですからイーラー様には、ご協力をお願いします」
そこだ、マーネー様をソーバトの領地に押し留めておくことは、不可能な事が確定的ならば、アーラー兄上の娘、ターレー、カーレー、サーレーの三人をその代わりなるかが重要になる。
「まずは、魔力を調べさせて貰います。キールー、全属性の魔帯輝を用意しろ」
私の指示に応え、キールーが魔帯輝を揃えて来た。
「異界から来た我が姪達に断っておく。今、ソーバト領主家は、魔力が低いものを抱えるほどの余裕は、ない。魔力しだいでは、この城に置くわけには、行かなくなる」
私の言葉にマーネー様が睨んでくるが、ここは、引けない一線だ。
「解りました。それでこの十個に触って魔力を籠めれば良いんですね?」
サーレーの言葉を肯定すると二人は、魔力を籠めていった。
その作業が終わった後、私は、自分の目を疑った。
「すまないがもう一回して貰えるか?」
「別に構いませんよ」
カーレーがそう軽く返答するので私は、キールーにもう一度、魔帯輝を一セットずつ揃えさせた。
そして再び魔力が籠められていく。
それが終わった後、その様子を見ていたターレーが思わず口にする。
「全属性、光なんて王族でもそうそう現れないのに、二人同時になんて」
「私もターレーが全属性に魔力を籠められた時は、驚いたものだ」
私の言葉にマーネー様が笑顔で答える。
「アーラー様の血の力それだけ凄いという事ですわ」
否定できない。
自分自身が魔力なしになる代わりに娘に全属性持たせるなんてアーラー兄上は、尋常では、ない。
十種類発見されている魔帯輝は、その色で属性を判別され、属性毎に魔力を籠められるかどうかが変わる。
その上、魔力の籠める濃度によって輝きが異なり、何処まで籠められるからランクがある。
淡、薄、平、濃、深、光の六ランクがだが、平民なら一属性で淡が精々。
魔力が高い領主の家系である私でも七属性で深まで籠められるのは、三属性。
領主を務めるウーラー兄上は、六属性だが、光まで籠められる属性を一つ持っている。
中央から引抜が絶えないターレーは、全属性だが、深まで籠められるのは、一つだけだ。
大体、中央の王族ですら光まで籠められるのは、半分を超さないと聞く。
だというのにこの二人は、全属性を光まで籠められる。
それも連続して行ったというのに疲労も感じた様子も見えない。
規格外の魔力だ。
この時点で私は、この二人の姪を城から放置する気など全く無くなっていた。
止めても止まらないだろうマーネー様を引き止めもどうでも良くなった。
この二人をどうソーバトの領地に有益な存在に育てるかそれが一番の課題になった。
「キールー、緘口令をひけ、カーレーとサーレーの事は、領主の正式な発表があるまで城外に漏らす事を禁ずる」
キールーは、カーレー達の腕輪を指差す。
「下町での接触は、どういたしますか?」
「門での情報は、廃棄を徹底させろ。武闘大会の登録記録も暫く封鎖。接触を持った人間には、監視をつけるのだ」
私は、矢継ぎ早に指示を出し、宣言する。
「領主に事の次第を報告してまいります。ですので、行動指針が決まるまでは、勝手な動きは、控えてください」
マーネー様に釘を刺して私は、ウーラー兄上の元に向かうのであった。
どうして領地の状況がまずいのか、具体的な話と曖昧な説明をしていた、魔力強度についての説明でした。
カーレー達は、完全なチートキャラです。
父親の血もそうですが、母親が巫女の家系っていうのもかなり影響出ています。
次回は、ターレーがデレるまでの話にしようかと考えています




