079 アーラーの紐な一日とチートな男
カーレー達の居た世界、アーラーの出番です
宝野アーラーの朝は、意外と早い。
染み付いた習慣って奴で、朝の鍛錬をしないとどうも一日違和感があるのだ。
朝の鍛錬を終えて、部屋に戻ると最近泊めて貰っている幸恵が朝食を作っていた。
「お帰り、毎朝ご苦労様」
「癖みたいなもんだ。会社に行くまでまだ時間があるんじゃないか?」
俺が尋ねると幸恵は、苦笑する。
「昨日は、ハッスルしたから、まだ気分が高揚してるのよ」
そういって、朝から肉を焼いていた。
出された肉を俺は、遠慮の欠片も見せずに食べながら一つの請求書を見せる。
「すまないが携帯電話代をくれ」
その請求書を見て幸恵は、眉を顰める。
「アーラー、あんたなんで四台も携帯をもってるの?」
「前に話したろ、病気で治療に俺の国に帰した娘達とその国に残した正妻に渡せと持たした分とでだ」
俺が正直に話すと幸恵が呆れた顔をしてくる。
「あんたねー、正妻に渡した携帯の代金まで女に集る?」
「俺は、嘘は、吐かない主義なんだよ」
俺の大して気にした様子もなく答えると幸恵は、財布から金を出す。
「はいはい、これで良いんでしょ?」
「ついでに俺の遊び代にもう一枚くれ」
俺の言葉に溜息を吐きつつ、万札を追加してくれる幸恵だった。
そして、俺は、コンビニで携帯代金を払ってから、近くのパチンコ屋に向かった。
一時間も経たずに俺は、パチンコ屋を後にしていた。
「今日は、駄目だったな」
俺は、財布に残っていた携帯代金のお釣りを見る。
「これで夜までは、つまらないな」
俺は、歩いて次の目的地に向かった。
日暮れ時の立ち飲み屋。
「アーラー、お前は、どうしたら競馬であんなに勝てるんだ?」
競馬場でよく会うおっさんの言葉に俺は、肩を竦める。
「俺にしてみればパドックを直に見て外す方が信じられないんだがな」
「言ってくれるぜ!」
笑いながら俺が奢ってやったカップ酒を煽るおっさん。
おっさんにも言ったが、競馬にしろ、競輪、競艇、オートレース、所謂公式ギャンブルって奴は、運の要素なんて殆ど無い。
馬と乗り手の実力と調子、その日の精神状態、そんな物から順位を予測できる。
ハプニングが起きない限り外す方が難しい。
だから俺は、多少の釘を見るが運の要素だけのパチンコで楽しんでいる。
因みにスロットの方は、簡単に勝て過ぎて面白くも無いので直ぐに飽きた。
競馬で勝った金で買ったケーキを持って幸恵の家に向かうと玄関前で幸恵と男が言い争いをしていた。
「離して! 貴方とは、もう終わったのよ!」
「解ってる。でも少しで良いんだお金を貸してくれ!」
拝み倒す男に俺は、苦笑した。
「幸恵もとことん男運が無いな」
近づいて男を足払いで転がして、踏んづけてドスを効かせて脅す。
「おい、俺の女に何の用だ!」
幸恵が眉を寄せる。
「アーラー、何の真似?」
俺は、飄々と答える。
「いや、紐らしく、ヤクザっぽくしてみたのだが?」
「そういうの止めてよ。とにかく、今は、この人と付き合っているのだから帰って!」
幸恵の最終通告に男が捨てられた犬の様な顔をする。
「解ったよ。幸せになってくれ」
意外と諦めが良い男だな。
そんな事を考えているといかにもって黒いベンツが止まり本物のヤクザが降りてきた。
「探させやがって!」
ドスの聞いた声を出して踏まれている男に近づくヤクザ。
こっちに来ると俺と幸恵を見てヤクザがニヤリと笑った。
「お前達、こいつの知り合いだな?」
「違います!」
幸恵が強く否定するが、この手の奴等にそれは、逆効果だ。
「隠したって無駄だ。俺達は、こいつに大金を貸しているんだ、この男が内臓で返済するはめになる前に代わりに払ってくれても良いんだぜ」
俺は、踏みつけていた男を半眼で見る。
「なるほどね、ギャンブルで負けて頼る所が無くなって昔の女のところに来たって所か」
「ち、違うんだ! そいつ等は、きっとイカサマをしているんだ!」
男は、弁解をするが、俺に言わせればイカサマされていないと考えていた時点でアウトだ。
「そこのヤの字よ、こっちは、無関係だ。だからこの男の内臓を好きなだけうっぱらってくれ」
俺の言葉にもヤクザの笑みは、消えない。
「そっちの女は、そう思ってないみたいだぜ」
振り返ると幸恵は、本当に馬鹿な事にこの男に同情し、心配していた。
俺は、このままこの男を差し出すのを諦めた。
「はいはい、それじゃあギャンブルで出来た借金は、ギャンブルで返させてもらおうか」
「大口吐いて、お前さんにそれだけの金があるのか!」
脅し半分で口にするヤクザを鼻で笑う。
「売る内臓は、多い方が良いだろ」
「良い根性してやがるな。案内するぜ」
ヤクザがそういってベンツに戻る後を付いて行くと幸恵が声を掛けて来た。
「アーラー、どうして!」
俺は、振り返らずに答える。
「なーに、幸恵が辛気臭い顔をしていたら夜も楽しめないと思ってな」
そう言い残し俺は、ベンツに乗り込んだ。
連れて行かれたのは、人気が無い倉庫街、その一つが隠しカジノだった。
「さあ、なんで勝負をする?」
「ブラックジャックで良いぜ」
俺は、カードギャンブル、ブラックジャックを選んだ。
まあ、予想通り、ディーラーは、素知らぬ顔でカードをすり替えてくるから勝てない。
負け額が二百万に近づくと、俺と一緒に連れて来られていた例の男が顔を青褪めさせていた。
「もう駄目だ! 私は、死ぬんだ!」
肝が小さい男だ。
俺は、俺達を連れてきたヤクザに注文する。
「このままでじゃ、返せそうも無いからレートを上げてくれ」
「良いぜ。十倍にしてやるぜ」
鴨が掛かったって顔をしてやがるが、罠にかかったのは、相手の方だ。
配られたカードを見て俺は、口元に手を当てて苦笑してしまう。
20で、コレに勝つには、21、ブラックジャックしかないのだから。
俺は、自信たっぷりと掛け金を乗せる。
「レイズだ」
「本当に良いのですか?」
ディーラーの言葉に俺は、残念そうな顔をする。
「折角、勝てそうなのにこれ以上掛け金が無くてな」
「だったら、これも使えよ」
そう親切そうにヤクザが渡してきたチップも俺は、あっさりと受け取る。
「ありがとうよ。全部だ」
俺は、そのまま掛け金を上乗せする。
ヤクザや常連客達は、笑いを堪えていた。
「もし負けたら一億以上の負けですが良いのですか?」
ディーラーの確認に俺が威嚇する。
「そっちこそ、良いのか? 降りるんだったら今しか無いぜ? まあ、降りてもルール通り、半額は、貰うがな」
余裕たっぷりな俺の態度にヤクザの中には、笑いを堪えきれずその場を離れる者まで居る。
「勝負だ、俺は、20だ!」
広げたカードに借金男が眼を輝かせるが他の人間は、これから俺に降りかかるだろう不幸を期待した顔をしている。
ディーラーが一枚目のカードを捲り、エースがでて借金男の顔が強張る。
「ま、まさか……」
顔から血の気が引いていっている。
「残念でしたね」
そういってディーラーがカードをもう一枚のカードを捲った。
「お前達がな」
俺の言葉と同時に空気が凍りついた。
「やった勝ちですよ!」
屑カードを見て借金男が歓喜の声をあげる中、ヤクザがディーラーを睨む。
「イカサマするならもっと上手くやれよ。カードの裏に自然に出来た傷を装ったマークをつけた判断できるようにした上、ディーラーにカード操作させるなんて何時のイカサマだ?」
だから相手のカードに俺が途中でジャックと間違えさせる為につけたマークが付いてるのを見て勝ちを確信した。
「イカサマって?」
独り状況が理解できていない借金男を他所に俺は、ヤクザに告げる。
「さてと勝った分を換金してくれよ」
「ふざけやがって、死に腐れ!」
ここに連れてきたヤクザが懐からドスを抜き出し、俺の手を置くテーブルに突き刺す。
「おら、どうした!」
こけおどし、俺をびびらせてこの賭けを無かった事にしたいんだろう。
「おいおい、まさかと思うが支払いを拒否するなんて馬鹿な事を言わんだろうな? そんな事が噂に成れば賭場を開けなくなるぞ?」
俺の言葉にヤクザが睨んでくる。
「お前がここで死ねば噂に成らないぜ!」
「俺を殺せればな?」
俺がニヤリと笑い返す。
短い沈黙の後、ヤクザが視線で若いチンピラに殴りかからせてくる。
このやりとり実は、まだギリギリセーフなのだ。
ここでこのヤクザが手を出したら完全にアウト、この話が流れれば裏社会での信用が無くなり本気で賭場を開けなくなる。
このヤクザの中では、チンピラにボコボコにされた俺に無理やり負けを認めさせて借金を背負わせて終わりって筋書きが立っている事だろう。
残念だが、こんなチンピラに負ける程、衰えていない。
向かってくるチンピラの手首を捻り上げて別のチンピラの拳への盾にしながら立ち上がり、後から来る奴の腹に肘を入れる。
そのチンピラが蹲るのを見てヤクザが怒鳴る。
「一発で寝てるんじゃねえ!」
そのチンピラは、ヤクザの言葉に応えるどころかそのまま倒れ口から血を吐き続ける。
ヤクザの目が見開かれる。
「内臓が二、三個破裂してるんだ、無理だろうぜ」
俺の言葉にチンピラ達が完全に怯む。
「ビビるな!」
ドスを手に焦った顔をするヤクザの背に独りの黒服が現れた。
その手には、木造の鞘に入った刀があった。
「あの男、人をやった事がある。お前等では、無理だ」
そういって黒服がやってくる。
「そういうあんたも一人や二人できかないくらい殺してるな」
俺の言葉に黒服が鞘から抜き、刀を構える。
「剣術を究める為だ」
こっちの世界じゃめっきりマイナーな殺人剣の使い手だ。
久しく浴びていないモノホンの殺気が噴出されている。
強烈な踏み込みと共に振り下ろされた刀。
俺は、それを紙一重、前髪が切れる距離で避け、抜き手で喉を突き刺す。
指を引き抜くと黒服が倒れていく。
俺は、その手から刀を奪った。
「お、お前、殺したのか?」
散々殺すなんて言っていた癖にビビってやがった。
「本気の殺気を籠めて斬りかかられたんだから当然だろう?」
極々当然の事を俺が口にするが、周囲が引く。
久方振りに感じる異世界との常識の壁だな。
「さてと、まだやるか?」
俺が刀を向けるとヤクザが後退る中、奥から高そうな服を着た男が出てくる。
「これ以上、騒がれると困るんでな」
そういって懐から拳銃を取り出す。
「命乞いしな、命だけは、助けてやるぞ!」
それは、絶対有利を信じた傲慢な言葉。
俺は、この手の言葉をどれだけ聞いた事か。
そう、魔力が無く、魔帯輝を反応させられず、魔法を使えない俺に騎士達が向けてきた言葉だ。
「お前が責任者か、今支払いをすれば賭場としての評判は、守れるぞ」
「今の状況が解ってないのか? まさかと思うが撃たないと思ってるんだったら、とんだ甘ちゃんだな。代わりにムショにいく下っ端なら幾らでも居るんだぞ」
まだ想定内なのだろう、強気を維持する高級服の男に俺は、殺気を放った。
「おいおい、まさか俺が拳銃なんかにビビと思ったのか? その引き金をひいたらその指は、諦めろよ」
「馬鹿な男だ」
高級服の男が引き金をひいた。
本来ならば人間の反射能力で拳銃の弾丸を避ける事は、出来ない。
だが、俺にとっては、放たれる瞬間も弾道も読める極々簡単に避けられる攻撃でしかない。
発動するタイミング、方向、範囲が不定の魔法を避けるのに比べれば容易のレベルなのだ。
引き金をひいた指が床に落ちた高級服の男を見下ろして俺が言う。
「いい加減に諦めてとっとと払うもん払えよ」
「こんな事をしてタダで済むと思っているのか?」
怨嗟の視線を向けてくるそいつの言葉に俺の顔から表情が抜けていく。
「詰まり、本格的な殺し合いをしたいのか? 金田組の様によ?」
金田組の名前に高級服の男の顔が一変する。
「お前、まさかアーラーか?」
「そういえば名乗って無かったな。俺が宝野アーラーだ」
俺が名乗るとヤクザ達が一気にひいた。
「ま、待て、今回の事は、全面的に俺達が悪かった。イカサマも認めて詫び料も払うからそれで許してくれ!」
土下座してくるそいつの情けなさに俺は、すっかりやる気を無くした。
幸恵の家に戻ると幸恵が顔をクシャクシャにして抱きついてくる。
「心配したんだから!」
「大丈夫だよ。それより腹が減った飯にしてくれ」
そういって俺が部屋に入ろうとした時、一緒に帰ってきていた借金男が怒鳴った。
「幸恵から離れろ!」
俺が振り返ると借金男は、膝を震わせながらコンビニで買っただろうカッターを突き出していた。
「何のつもりだ?」
流石の俺にもこいつの考えが読めなかった。
「幸恵には、散々世話になったんだ、お前みたいな危ない男に側においておけるか。命に代えても救ってみせる」
どう考えてもお前の方が不幸にしそうだが、俺が幸せに出来ないって事を否定できなかった。
「お前なら幸せに出来るのか?」
「してみせる、きっと幸せにしてみせるんだ!」
そう叫ぶ借金男を見る幸恵に出会った頃の事を思い出す。
あの時は、こいつと別れて自暴自棄になっていたんだったな。
俺は、幸恵に背を向ける。
「俺の力を知ってまだ向かってくる度胸があるんだ、見込みは、ある。お前が側に居て確りフォローしてやれよ」
俺は、そういって幸恵の家から離れていく。
「さてと今夜の宿だがどうするか?」
そういって歩いていると目の前から酔っ払ったいかにもキャリアウーマンって美女がやってくる。
「結婚してるのがそんなに偉いのか!」
俺は、手頃なターゲットを見つけた。
「取敢えず、今夜は、ラブホテルでも構わないか」
そう決めて俺は、その美女に声を掛けるのであった。
THEHIMOって生活を送るアーラーお父さんでした。
この人は、その気になれば競馬で家を建てられます。
本人が面白くないってやらないだけで、カーレーとサーレーの苦労の半分以上は、この人のこの趣向の所為です。
金田組って言うのは、カーレーの回想にあった潰された組の事です。
次回は、ターレー視線で一年を振り返ります




