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落ち目領地とハーフな双子  作者: 鈴神楽
一年目 異世界生活に慣れよう!
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074 火酒を呷る客と宿屋の続けた女将

城下町で前回の後始末と冬篭りの準備

「マリュサ、体が暖まる様な火酒を頼む」

 白の神の旬に入った日の昼、降った雪を払いながら穏やかそうな表情の男、ゲトックがあたしの宿屋に入ってきた。

「はいよ、その旅姿って事は、預かっていた子供達を親元に帰して来たって所かい?」

 差し出したかなり強い火酒を一気に呷ったゲトックが頷く。

「おう。親達も涙ながらに喜んでたよ」

「売っておきながら現金な話だね」

 あたしの言葉にゲトックが肩を竦める。

「今回は、上がそう仕向けたって事もあるんですからそこは、突っ込まない」

「仕向けなくても何れは、そうなっていた事だろうよ」

 あたしは、ターレー様から伝えられた仕事、グールー=モートンの支配する地域に向かうだろう人買いとの交渉の時の感触を思い出してそう口にしていた。

「多くの被害が出る前に防げたそれを良しとしよう」

 席に着いたゲトックにお代わりを差し出しながら尋ねる。

「それでそっちの弟子は、使えているのかい?」

 ゲトックが自信ありげに頷く。

「はい。コショカは、御二方の命をきっちりこなし、ウジュンは、人買いから買い戻した子供達に学問の学び方をちゃんと教えた筈」

 このゲトックという男も実は、アーラー様の配下の一人である。

 領民の中に埋もれた優秀な人材を発掘、育成する為に格安で学び舎を経営していた。

 アーラー様、失踪後もそれを続けていた。

 資金については、何度か援助して居たが、そういった結果が出たのだから無駄な援助で無かった。

「なんにしても御二方がこの国に来られて、本当に喜ばしい事だ。コショカは、優秀だったが、彼女を活かせる人間というのは、極々限られていたから」

 しみじみと語るゲトックをあたしが感心する。

「それにしてもあんたも奇特な人間よね、あの御方が失踪して十数年、私財を売り払ってまで続けていたのだから。あたしには、とても真似できないわ」

「人に何かを教えるというのは、きっと天職だったのだ。それよりも冬の家内作業準備金の件ですが、あまり上手く言っていないみたいだが?」

 ゲトックの返しにあたしは、小さく溜息を吐く。

「上からは、多少の損失は、無視して良いと言われているけど、やっぱり持ち逃げされるのは、あまり気持ちが良くなくってね。ちょっとそっちの人間を使っているだけさ」

 持ち逃げされた数は、ターレー様が提示された範囲内だったが、折角のご厚意をそんな事する奴をほっておくつもりは、無かったので早々に対処させてもらった。

「あまり派手にやらないでもらいたいものだ、下手に萎縮されたら折角の御厚意が無駄になりますからね」

 ゲトックの指摘にあたしは、適当に頷いておく。

「はいはい、解ってます。今回の準備金の支給は、金が無く単純な家内作業しかできないが技術がある者達により高度で金になる物をやって貰うものなのだから、金の云々より参加数を優先するのでしょ」

「そう、庶民の技術向上と安定した収入増加を担う大切なお役目なのだから」

 ゲトックの言葉にあたしは、小さく溜息を吐く。

「目の前の事だけじゃなく、来年やその先の事を視線に入れた計画。本当にソーバトは、変わって行っているわね」

 ゲトックが強く頷く。

「去年の同じ時期がどうだったか覚えているか?」

「よく覚えているわ。凶作があった訳でもなければ戦争があった訳も無かった。それなのにどこか淀んだ空気が流れていたわね」

 あたしの答えにゲトックが続ける。

「今年も戦争が無かったなというのが、商人達の口癖になっていた。ヌノー帝国との戦争が無く、特需が発生していない、それだけで商人やそれに連なる者達の帳簿に赤が並び、給金が減って冬を越せるか不安に怯える者達が町に大勢居た」

「本当に戦争に頼りきった領地だった訳ね」

 頭をかくあたしに対してゲトックが肯定する。

「そうだ、本来なら領地運営に悪影響を及ぼす戦争を待つおかしな状況だった。戦争の犠牲を一つの歯車とし、ソーバトは、回っていたと言っても過言では、無いだろう」

「そして歯車が抜けていたソーバトは、真綿に首を絞められる様に緩やかな弱体化を進んでいたわね。誰も表だって口にしなかったけど戦争が起これと思っていた事でしょうね」

 あたしの言葉にゲトックが苦虫を噛んだ顔をした。

「戦争さえ起これば、なんとかなる、そんな曖昧な物に自分達の未来を預けていたんだからな、とても正気では、無かった」

「それを他人事といえるのかしらね?」

 あたしの疑問にゲトックは、首を横に振った。

「何処かおかしいと思っていてもそれを解決術を見出せないで居た。今考えるのだったら、家内作業の向上などもっと早くに手をかけてしかるべき事だったのにだ。俺もまた戦争に頼りきっていた一人だった」

「ジュウソウにそーだー、おるごーる、いくつもの新しい物が生み出され、その為の製造作業員を作り、販売で商人の懐を肥やし、新しい物で人々の生活を変えた。戦争と言う歯車が動くのを待つでなく、全く新しい歯車でソーバトを動かし始めた」

 あたしが告げるとゲトックが続ける。

「そして、それが一時的な物にならない様に、庶民の技術の底上げを同時に行う。本当に未来に、明日に向かってソーバトが動き出している」

「本当に去年とは、全く違うわね」

 あたしは、微笑を浮かべるとゲトックが語る。

「きっと後の歴史学者は、米の凶作がソーバトの貴族達を動かしたとでも分析するのだろう。本当の切欠等、気付かずにな」

 ソーバトが変わる切欠、その双子と始めてあった頃の自分を思い出す。

 あの頃のあたしは、何処か惰性で生きていた。

 他の者達と違い、宿屋の女将でしかないあたしは、多少裏につながりがあろうとも、ソーバトを変える力などなく、変えようとも夢にも思わなかった。

 双子を見たその時、アーラー様を思い出して、久しぶりに色々と動いた。

 あんなに活発に動いたのは、久しぶりだった。

 今にしてみればリハビリの軽い仕事だったけど、自分を思い出すのには、丁度良い仕事だったのかもしれない。

「俺は、この流れを止めたくない。自分が育てた者達をこの流れに乗せ、明日のソーバトを動かす大きな力になって欲しいと思っている。だからこそ頼む」

 頭を下げてくるゲトックにあたしが頷く。

「解っているわ、多少の損失は、眼を瞑るわ」

 あたしは、裏の人間にだす命令を処罰から警告に変更する事にした。

 金の回収は、難しくなるが、本来の目的である技術向上には、繋がる筈だ。

「本当に何かを育てるのって難しいわね。ゲトック、あんたは、もしかしたら物凄いのかもしれないわね?」

 茶化すように言うとゲトックが笑う。

「違うな。凄いのは、俺じゃない、明日に向かって伸びようとする若者達だ。俺は、その手助けをしているだけだ」

 無欲、こんな会話の名誉すら受け取らないだから馬鹿正直にアーラー様から託された人材発掘と育成を続けられたのだろう。

「本当に馬鹿よね」

 あたしの言葉にゲトックが笑う。

「お前に人の事が言えるのか? 多くの者がそれなりの地位を得て居た中、こんな小さな宿屋の女将でしか無かったお前は、あのお方の失踪後、何の後ろ盾も無くなったと言うのにその場所に踏み留まった。それどころか、俺みたいに金にならない仕事をする者への援助までしていたそんなお前が馬鹿じゃないと?」

 あたしは、半眼になる。

「言ってくれるじゃない。あたしは、自分の腕だけでも渡っていけたのよ」

「そうかもしれない。だったらもっと効率の良い道があっただろう? 何故それを選ばなかった?」

 ゲトックの追求にあたしは、苦虫を噛んだ顔をする。

「言わないでよ」

 どんなに言葉を飾ろうともあたしは、色んな意味でアーラー様に惚れていた。

 だからアーラー様に頂いたこの場所を護りたかったのだ。

「昔からの仲間達は、お前が城との繋ぎを独占していると不平を漏らしているが、俺は、それは、当然だと思う。他の者達は、あの頃と違う生き方をしてきた、今更それを変えられない。あの時と同じ生き方を続けていたお前だからそこに居られるだからな」

 ゲトックの言葉にあたしは、苦笑する。

「そうね、でも新しい子が居るわ。貴方が育てたコショカちゃん、何れは、あたしの代わりになれる子よ」

「随分と買ってくれるのだな?」

 少し驚いた顔をするゲトックにあたしは、答える。

「まあね。頑張って欲しいわ。十分に成長した暁には、あたしの全てを譲るつもりよ」

 そして、あたしは、生き方を変える。

 きっと、アーラー様の元に行かれるマーネー様と一緒にアーラー様の元に行けたらそれが最も幸せなのだから。

「まだまだ、お前の代わりは、難しいさ。その成長の手助けくらいは、するさ」

 そういってゲトックは、店を出て行く。

 コショカが動いている件のサポートに動くのだろう。

「さて、あたしも先の事は、先の事。今の問題を先に片付けないとね」

 さっき決めた事を通達する為の作業に入るのであった。

コショカの先生、ゲトックは、アーラーの部下で、人材発掘育成を担当していました。

アーラー失踪後も続けていて、マリュサは、そんな人間達の資金援助もやっていました。

マリュサとしては、やはりアーラーの元に行くことを考えているみたいです。

次回は、本格的な冬の到来した城の様子です

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