007 待ち望んだ声と新しい娘達
遂に登場、ある意味最強キャラ
私の名前は、マーネー=ソーバト。
アーラー様の妻です。
周囲の者は、私の事を不幸な女性だと言われますが。
決してそんな事は、ありません。
何故ならばアーラー様と出会い、夫婦に成れたのですから。
確かに娘、ターレが生まれる前にアーラー様が失踪された事は、ショックでした。
しかし、馬鹿な貴族が言うような自殺など決してありえません。
例え、天地が避けようがアーラー様が死ぬことなどありえないのです。
必ずこの世界の何処かに居るはずです。
その為、私は、あらゆる手段を使ってアーラー様を探索を続けています。
残念な事に手掛かりは、皆無ですが、それでもアーラー様が生きている。
その確信が揺らいだ事は、一度としてありません。
そんな私の元に、騎士団長、カーロー様が会いに来られました。
カーロー様は、数少ない私と同じ考えを持つ御方。
立場上、協力が出来ないというのに、私に対する周囲の文句を抑制してくださってくれています。
「包の神の御加護への感謝を」
「包の神の御加護への感謝を」
挨拶を終えて、私が問いかけます。
「本日は、どの様のご用件ですか?」
カーロー様は、多忙で直接私に会いに来ることは、本当に珍しい事でした。
そんなカーロー様の表情は、普段とかなり違っていました。
悩んでいるという風にもとれますが、それが苦しんでいる類のものでは、ないのです。
「本日は、お願いがあり、この場に参りました」
お願い、これが他の人なら、アーラー様の探索の中止、もしくは、その為に使っている金銭の融資などですが、カーロー様に限ってそれは、ありえい筈なので私が問い返します。
「どの様なものですか?」
「武闘大会の優勝者がマーネー様への仕官の為に対面を求めております」
カーロー様の答えには、私は、疑問を覚えました。
「領主様の一族や私の娘、ターレーでなく、私自身への仕官なのですか?」
カーローが頷きます。
「はい。その者は、アーラー様に憧れ修行をした故にマーネー様に仕官したいと申しておりました」
アーラー様に憧れる、その気持ちは、十分い理解できました。
そして、アーラー様が居ない今、私に仕官しようとするその考えは、有り得る話だと思えました。
「そうですか、しかし、私は、無骨な武官を必要としておりません」
気持ちは、理解できてもその様な者に支払うお金があるのならアーラー様の探索に使います。
「その者は、洗礼前の少女です。何よりアーラー様を思わせる剣技を見せました」
カーロー様の言葉を私は、信じられませんでした。
「本当なのですか、そんな少女がアーラー様を思わせる剣技を使ったのですか?」
私の確認に、カーロー様が強く頷きます。
「はい。まだ若く未成熟ながら、あの技は、アーラー様に通じる物がありました」
アーラー様に通じる技、興味が湧いた私は、この対面を受けることにしました。
対面の了承から数日後、城の一室で私は、問題の少女を待っていました。
「マーネー様、どうなされるおつもりですか?」
私が実家、バーミンの実家よりつれてきた女官、ミーニー=チールナが小さな声で尋ねてきました。
「会ってから決めます」
正直、武官を雇うつもりは、今でもありませんが、アーラー様を思わせる剣技には、興味がありました。
予定通りの時間に二人の少女が入ってきました。
「新の神の御声が届いておりますでしょうか?」
初対面の人間に対する定型の挨拶。
「新の神の御声にマーネー=ソーバトがありました」
私が対面を許す意味の返答をすると少女達が頭をあげました。
「カレもある幸運を神に感謝致します」
「サレもある幸運を神に感謝致します」
その姿を見た時、私の琴線が激しくかき鳴らされました。
カーロー様がアーラー様を感じさせると言ったのを実感したのです。
ただ相対してるだけで、アーラー様を思わせる何かを感じさせるのです。
そして少女、カレは、会頭一番に言うのです。
「仕官の話は、全部嘘です。本当の目的は、ある人物から持ってきたメッセージを渡す事です」
室内が一気にざわめき、ミーニーが私の前に立ち、周囲の騎士が武器を構えます。
「構いません。そのメッセージを伝えなさい」
私の一言にミーニーが制止の言葉を口にしようとしましたが、私は、視線で黙らせます。
するとサレと名乗った少女は、厚みがある不思議な板を広げます。
その広げた面には、絵の様な物が広がっていました。
「これは、メッセージを送った人間の姿と声を記録した物を再生する物で、実際にここに居る訳じゃない事を理解して下さい」
聞いた事の無い魔法具だけど今は、そんな事は、いい。
少女達が持ってきたメッセージは、もしかしたらアーラー様に繋がるヒントがあるかもしれない。
そう考えながらそれを視る。
そして絵の中央が変化した、そこに映し出された姿を見た時、私の瞳から涙が零れ落ちるのを止める事は、出来なかった。
「……アーラー様」
ミーニーも愕然とした表情でそれを視ていた。
『随分と音沙汰なしにしてしまったな。単刀直入に言うと、俺は、うちに伝わる神器、名百布で異世界に来てしまったんだ。誤解するなよ、お前を置いていくつもりは、無かったんだ。まーなんだ、成功するとは、思わなかったんだ』
そう話すアーラー様は、異界での生活そして、このメッセージを持ってきた二人の少女が現地の人間との間の娘である事を伝え、最後にこういった。
『もう俺は、そっちの世界に戻れない。だから名百布の力が溜まったらお前がこっちに来てくれ。こっちに来た後の連絡方法は、カーレーとサーレーに言ってある。待ってるぞ』
止め処なく流れる涙にアーラー様の娘、カーレーが困った顔をしていって来る。
「えーとうちの駄目親父が本気で馬鹿な事を言ってすいません。普通に考えれば十年以上ほっておいた旦那に別の女の子供が居るといわれた挙句に戻れないからそっちから二度と帰れない場所に来いって言われても怒りしかありませんよね?」
私は、首を横に振る。
「いいえ、私は、嬉しいのです。十年以上経っても私がアーラー様に必要とされている事が。必ずや、アーラー様の傍に向かいます」
何故か二人の娘は、信じられないって顔をする。
「えーとミーニーさんですよね、良いんですか?」
サーレーが問いかけるとミーニーが絶望した表情を見せた。
「今更です。嫁入りの際も、アーラー様が失踪された時も周囲から全力で反対されるなか、マーネー様は、絶対に意思を曲げませんでした。今回も無理でしょう」
釈然としていないという顔のままカーレーがバックから何かを探し始めます。
「えーと、まあ、とにかく駄目親父から預かっている物があってそれを使えば……」
きっとアーラー様との連絡方法を伝えようとしているのだろうが、今優先する事は、別にあります。
「神器が力が溜まるまで数年掛かるそうですからそれは、後で良いのです」
「そうだとしても僕達がずっとここに居る訳じゃないので、先に伝えておいた方が……」
サーレーの言葉に私が微笑する。
「面白いことを言いますわね。アーラー様の娘である貴女達がどうして、母親である私の傍に居ないと言うのですか?」
「母親ってどういう意味?」
カーレーが疑問に私が即答します。
「アーラー様の娘は、私の娘。それは、当然の事です」
長い沈黙の後、サーレーが口にする。
「貴族的な考えてそういうのがあるのは、知っていますが。無理に僕達を引き取らなくても良いと思いますが?」
私は、視線で騎士達に出口を封鎖させます。
「アーラー様も領主家の男性、浮気も甲斐性の一つです。しかしながら、相手がどんな女であっても、アーラー様の血を引く者は、全て私の子供。例え、領主様が認めなくても私が認めさせてみせます」
カーレーが涙目になってミーニーの方を向く。
「マーネー様のアーラー様に対する独占欲には、前領主様も譲る程です。諦めて下さいませ、カーレー様、サーレー様」
「さて忙しくなりそうです。アーラー様が居る世界に行く前までにターレーを含めて三人共、一人前の領主家の貴族令嬢に育てあげなければいけないのですから。そうでなければアーラー様に会った時に申し訳が立ちませんからね」
私の言葉にサーレーが首を横に振る。
「お父さんは、別にそんな事は、望んでないと思います。だってさっきのメッセージにも何も言ってなかったじゃないです!」
私は、小さくため息を吐く。
「口にしなくても私には、解ります。それが夫婦というものですから。まずは、イーラー様に話をするのが良いですわね。領主様には、その後、正式に面会して……」
私は、この後の予定を急ぎ考えるのであった。
完全ヤンデレ、マーネー様の登場です。
カーレー達は、愛人の子供を拒絶するだろうと予測していました。
結果は、完全にそのその斜め上を行く展開。
因みにメッセージ再生に使ったのは、ノートパソコンで、ソーラーバッテリー等を持ち込んでいます。
次回も名前だけは、既に出ているイーラーの叔父さんの語り、ターレーも登場です




