061 貯まるお金と試作品のおるごーる
ムサッシは、色々お使いやらされてます
「ムサッシ、今回の分よ」
そうマリュサが差し出した皮袋の重さに拙者は、重い溜息を吐く。
「またこんなに増えるのか?」
そんな拙者の反応をマリュサが愉快そうに見てる。
「これが増えるのをそんなに嫌そうな顔をするのは、珍しいわよ」
「拙者は、預かっているだけだ」
拙者の反論にマリュサが耳元で囁く。
「あたしもそうだけど運用して、有効に活用しているわ」
有効に活用している内容は、本人からでなく、サーレー様から聞いている。
預かっているお金を使って町の組織に貸しを作っているらしい。
本来の持ち主に無断でやっているのだから背信行為と言っても良い筈なのだが、マリュサは、一切悪びれた様子は、見せない。
そしてそれを本来の持ち主達も、それを了承している。
不思議な関係である。
「だから貴方が多少、勝手に使っても手数料だって事で見逃してくれる筈よ」
「拙者には、無理な事だ」
正直、預かっているが、その殆どが町に買った家に隠してある状況だ。
保管場所に困ると口にした時、提案されその費用も提供されての処置である。
「それに近々大量に使用する可能性があるらしい」
それを聞いてマリュサが頷く。
「まあ、あの御方の娘ですから、何かしらの裏で動くつもりなのでしょうね」
マリュサもある程度は、承知しているようだ。
話の大本がマリュサなのだから当然かもしれない。
「直ぐに戻るの?」
マリュサの質問に拙者が頷く。
「まだまだ新人で下っ端なのだ、そうそう自由時間は、無い」
「下っ端ね。聞いているわ、リーモス防衛戦では、活躍したそうじゃない。上手く行けば一気に昇進も可能かもよ?」
マリュサの言葉に拙者は、肩を竦める。
「そんな物は、興味が無い。しかし、あの戦いは、有意義であった。あの様な戦いが出来れば更なる高みへ到達出来るかもしれない」
苦笑するマリュサ。
「武術馬鹿って所ね。まあ、だからお嬢様方は、信用して居るんでしょうけどね。ところで話は、変わるけど彼女とは、何処まで行ったの?」
突然の話題に拙者は、眉を顰める。
「彼女、拙者は、付き合っている女性は、居ないが」
これでも成人している、女性経験の一つや二つは、あるが、色恋沙汰よりも武術の修行を優先する拙者と長々と付き合う女性など居ない。
「もしかして、気付いてないの?」
怪訝そうな表情を浮かべるマリュサ。
「気付いていないとは、何をだ?」
大きな溜息を吐くマリュサ。
「コシッロちゃんは、どうしているの?」
いきなり話が変わったな。
「双剣を習得するのだと仕事の合間をみては、模擬戦を挑まれている。まだまだ十分では、ないが、何れは、物に出来ることだろう」
拙者の答えに眉を顰めながらマリュサが続ける。
「ところでそのコシッロちゃんは、どうしてソーバトに来たんだっけ?」
「兄弟子から拙者が負けたと聞いて、それを確認に来たみたいだな。その確認をし、双剣に出会ってそれを究める選択をしてソーバトに留まっているのだ」
頭を押さえるマリュサ。
「ここまで朴念仁だとは、思わなかったわ。そうね、これでもプレゼントしたらどうかしら?」
そういって差し出されたのは、おるごーるだった。
「誰にだ?」
頭をかきながらマリュサがおるごーるを押し付けてくる。
「もう、今の話の流れから察しなさい! コシッロちゃんによ。後輩なんでしょ、頑張ってるご褒美にそれをプレゼントしたら喜ぶわよ」
「ふむ、そうだな、確かに拙者の所為で色々と大変な事に巻き込んでいるのだ、プレゼントの一つは、した方が良いな。幾らだ?」
拙者の言葉にマリュサが投げやりの感じで告げる。
「新曲の試作品だからタダで良いわ。それよりちゃんとプレゼントするのよ」
「そうか、ありがたく貰っておこう」
拙者は、そのオルゴールを受け取ってマリュサの宿屋を出て、何時もの様に無人の家に行ってお金を隠くす為に歩いていると尾行をしてくる者達がいる事に気付いた。
偶然を装っているが、拙者を尾行しているのには、間違いない。
それも一人や二人じゃない。
十を越す人間が拙者を尾行していた。
個人的な心辺りは、あまりない。
しかし、襲われる当ては、あった。
拙者は、暫く歩いた所で人気の無い脇道に入った。
すると尾行者達は、脇道の入り口を塞ぐようにする。
暫くすると反対側にも人が立ち塞がる。
「兵隊さんよ、随分と重たいものを持ってるようじゃないか、大変そうだからもってやるよ」
卑しい顔つきでその者達の一人が声を掛けて来る。
その手には、手入れもろくにされていない剣が握られていた。
「ゴロツキは、何処にでも居るようだな」
拙者が吐き捨てるように言うとゴロツキは、眼を吊り上げて怒鳴る。
「うるせい! 貴族の犬が大口叩いてるんじゃねえよ! 平民から搾り取った金で贅沢している奴等に尻尾振ってお零れに預かってるお前等には、俺達の苦労は、解らないだろうぜ!」
一気に殺気が膨れ上がるが、正直、どうでも良かった。
それでも訂正は、しておくべきであろう。
「この金は、真っ当に商売した正当な対価だ。お前達が考えている様な腐った金では、ない」
カーレー様とサーレー様への侮辱は、見逃す気には、成れなかった。
「そんな戯言が信じられっかよ!」
一気に襲ってくる。
多勢に無勢と思っているのだろう。
だが、この脇道に誘い込まれた時点でゴロツキ達に勝機等無い。
拙者は、先等の男の鈍い剣が振り下ろされる前にその腕を切り落とし、振り向きざまに後方から迫ってきた男の喉を突き刺す。
これで二人が死んだ。
同時に狭い脇道で倒れないようにやった事で後ろに居る者達の攻撃が困難になっている。
どかして前に出た者達を一人ずつ始末する。
一通り、やると、実力の差をようやく理解したのか、逃げ出そうとする者が居た。
しかしのその者も直ぐに命を落とすことになった。
「こんな屑を逃がしてやる必要は、無いわね」
「来ていたのか?」
拙者の問い掛けにコシッロが何かを誤魔化すように視線をそらしながら応えてくる。
「別に暇だったから町に来ていただけよ」
「そうか。逃がしたくないのだ、手を貸してくれ」
拙者は、コシッロの居ない方に駆け出す。
「言われるまでも無いわ」
こうして拙者とコシッロの手で町のゴミが少し減った。
騒ぎを聞きつけて来た兵士には、事情を説明し、手間賃として小金貨を一枚渡して、後始末を頼んだ。
コシッロと合流してしまった以上、このまま城に戻るしかなくなった。
その帰り道、拙者は、あのおるごーるを思い出してコシッロに差し出す。
「さっきは、助かった。そのお礼だ」
「お礼など別にいいわよ」
そう言いながらおるごーるを受け取り、首を傾げる。
「これは、何?」
「おるごーるという音が出る道具だ。横の棒を回して使う」
拙者の説明通りに回し、流れてくる音を聞いてコシッロが驚く。
「この曲って……」
「知っているのか? 貰い物だから初めて聞くが良い曲の様だな」
拙者の言葉に急に不機嫌そうな顔をするコシッロ。
「そーでしょうね、ムサッシがこんな気が利いたプレゼントが出来る人間じゃないって事くらいしっていましたよ」
「どうしたのだ? 嫌な曲だったら別の物に変えて貰うが?」
拙者が尋ねるとコシッロは、苦笑しながらそのおるごーるをしまう。
「良いわ。これを貰っておくわ」
良く解らぬまま拙者は、コシッロと共に城に戻るのであった。
恋愛の秋も追加してみました。
オルゴールの曲は、町で流行のラブソングだったりしますが当然ムサッシは、知りません。
コシッロの恋心に気付くのは、何時になることやら。
次回は、今回少しあった裏金を使うお話です




