006 仕官のお願いとこの後の予定
双子の行動予定についての話です
僕の名前は、サレ。
そういう事にしてある。
双子の姉、カレが武闘大会で優勝した為、幸運にも大金が手に入った。
掛け金の換金の際に、明らかに狙っている視線があった。
「そのお金、預かりましょうか?」
マリュサさんの言葉に素直に従う。
「よろしくお願いします」
マリュサさんが意味ありげの視線を向けると、向けられた視線の中でも危ない部類のそれが消えていきます。
「しかし、優勝しちゃったわね。どうするの?」
マリュサさんの言葉に僕が即答します。
「この場合の対応も考え、カレには、伝えてありますから大丈夫です」
そう言いながら、始まるだろう優勝商品の授与式を見に向かう。
会場には、高そうな鎧を着た騎士に護られた二十歳くらいの男性が居ました。
何処と無くお父さんに似ているから領主の一族の人間なんでしょう。
「次期領主のオーラー様が直々に授与してくださるみたいね」
マリュサさんが愉しげに口にする。
なるほど、従兄妹って事ですか。
まあ、このままあちらがこちらを知らないまま一生を終えるのが僕達にとっては、ベストなのだと思います。
「見事な戦いぶりであった。刃の神もお前の戦いには、お認めに成される事であろう」
そういって差し出されたのは、よくある意味不明なオブジェ。
珍しいつくり笑顔でそれを受け取るカレ。
受け取ったカレが口を開く。
「お願いがございます」
突然に展開に驚きもあがるが、落ち着いている人間も多い。
「あちきは、アーラー様に憧れて剣の腕を磨きました。ですので、マーネー様への仕官の為に、どうか直接の対面の機会を頂きたく存じ上げます」
仕官の要望、マリュサさんにも確認したが、過去の優勝者の中にも同じように仕官を願い出た者が居る。
今回もその一例と思われる事だろう。
因みにここで大切なのは、アーラー様の名前を出すこと。
実は、アーラー様、お父さんの名前は、あまり好まれない。
カレの決勝の相手であるムサッシさんが口にした時もその場に居た関係者が顔を顰めていた。
まあ、魔力なしの烙印を押され失踪した領主の弟の名前は、公の場には、相応しくない。
こうする事で、他のスカウトを躊躇させる意味がある。
本気で仕官をする訳じゃないので、どんだけ印象を悪くしても特に問題は、ない。
今は、マーネー様に直接会う事だけを優先したい。
そしてこっちの思惑通り、複雑な顔をするオーラー様。
「お主の願いは、解った。しかし、即答は、出来ぬ。追って沙汰をだす。待つが良い」
「ありがとうございます」
カレも深く突っ込まずお礼を述べて授与式を終えた。
授与式終了後、関係者に連絡先としてマリュサさんの宿をして、その場を離れる。
「上手く、対面できるかな?」
カレの言葉に僕は、淡々と答える。
「駄目な可能性も高いでしょう。そうしたらまた別の方法を考えます。因みに先ほど預けたお金でどうにかなりますか?」
マリュサさんが少し考えてから答えてくる。
「出来ない事は、無いと思うわ。対面が駄目だったらこっちで動くけど、全額使っても良いの?」
一応にカレを見ますが、カレは、全部僕に任せるって感じだったので直ぐに頷きます。
「はい。当座の生活費は、ありますから。対面が駄目だったらまた別のお金稼ぎをします」
「了解。そうだ、対面が決まるまでの間、給仕を続けてくれたら、宿代は、サービスするわよ」
マリュサさんの言葉にカレが喜ぶ。
「それって楽で良いね」
「お言葉に甘えさせて貰います」
僕の同意して、僕達は、マリュサさんの宿屋で暫く働くことになった。
ある程度、余裕が出来たのでこの世界、この国、この領土、この町の事を少しずつ調べた。
一応にお父さんから聞いていたが、貴族のそれと、庶民のそれとは、やはり大幅に違うのだった。
「魔帯輝って高いんだね」
取り敢えず買った質の悪い魔帯輝に魔力を籠めながらカレが言った。
「魔帯輝は、自然の中で発生するらしいですが、その発生地域、輝集地は、機密ですし、魔法といった明確な使用目的があり、うちらの世界の宝石と違って消耗品ですから、そうそう安値になりませんね」
僕も魔帯輝に魔力を籠めるが、直ぐに輝き変わらなくなる。
「駄目親父がもっていたのと比べると全然だね」
カレが不満そうに言うが当然です。
「お父さんは、魔力なしっていっても領主の息子でしたからね、そこは、最上級の魔帯輝を持たされていた筈です」
「しかし、これで大銀貨一つ、およそ一万だなんて暴利。とても庶民が使えるもんじゃないね」
呆れるカレに僕が説明します。
「元々庶民は、特定の行事や大きな仕事の時にしか魔法を使いませんからそれで十分」
「それにさ、駄目親父の実家ってかなりヤバイみたいだよね」
カレの指摘に僕は、悩みます。
「ええ、典型的な駄目な武闘派貴族って奴です。戦国時代の領主とかと一緒で、戦争があればなんとかなるって考えが間違いなのです」
カレが首を傾げる。
「でもさ、実際、戦争は、起こるから準備は、しないと駄目だよね」
「当然です。このソーバトに隣接したヌノー帝国は、領地こそ広いものの魔法の要である魔帯輝の輝集地が領地の広さに比べて不足していますから、間違いなく戦力を温存してそう遠くないうちにまた侵攻してきます」
僕の言葉にカレが唸る様に言う。
「だったら仕方なくない?」
「僕達の世界の歴史で、仕方ないって言って借金を雪達磨式に増やしたり、領民の不満を高め続け、滅びた領主が数え切れないほどいます。本気でどうにかしたいのなら大胆な無駄の削減を行って、その余力を収入増加に向けるべきなんです」
僕の意見にカレが困った顔をする。
「それって駄目親父の親族に出来るのかな?」
「イーラー様って叔父さんは、この間の武闘大会に参加費を採用したりしていると聞いてますから、何もしていない訳じゃないと思います」
他にも色々動いているけど正直、全然足りていない。
「もしもさー、すんなり対面出来て、目的を果たしたら、あちき達は、適当な領地に移って地道に暮らそうって決めてたけど、それで良いのかな?」
カレが何が言いたいのかも解ります。
「僕達は、魔力なしで家出した人間が他所で作った子供です。まともに意見も聞いてもらえないどころか、長居をすれば権力争いに巻き込まれて命が危ないです」
肉親の情とかは、大きな権力や利益の前では、儚いものなのです。
「そうだよね。ここは、すぱっと諦めるしかないか。まあ、上手くいく可能性もあるしね」
カレもそう踏ん切りをつけたみたいでした。
そんな情報収集を続け、こっちの暦の一週間が過ぎた頃、城の方から連絡があり、対面の許可が下りた。
マリュサさんの助言の下、最低限の身嗜みを調えて城に向かう僕達であった。
短めな双子の行動指針の話でした。
双子としては、関係が無かった身内を信用する気は、せず。
離れて安定した生活を送ろうと思案していました。
それでも接触をするのは、父親の最後の願いゆえですかね。
次回は、何度も名前が挙がったマーネー様の語りです




