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落ち目領地とハーフな双子  作者: 鈴神楽
八年目 祟り目大陸のホープな双子編
552/553

552 千人抜きの極みと数という戦いの正義

今回は、魔極獣より千人抜きがメイン

1119/白桃光(11/24)

ミハーエ王国バーミン マーナー館

館主の娘 ゲーマー=バーミン


「このおーえすってかなり違う物ね」

 私の感想にサーレーが苦笑する。

「ラクトスさんが提供したのは、『窓』だからね」

「『窓』って何?」

 私が聞き返すとサーレーが説明を始める。

「おーえすって魔法で言えば基本呪文って所なんだよ。ミハーエと帝国とだとかなり違うでしょう?」

「そうね。ミハーエは、確か神の名から始まるけど、帝国は、逆に効果が先にくるんだったわよね?」

 未熟で覚える気も無かった帝国魔法知識を口にするとサーレーが肯定する。

「そう。ミハーエの人達は、絶対に認めないだろうけど、どっちが優れているって訳じゃなく、形式が違うだけなんだけどね」

「呪文の精度や長さが変わるわよ」

 一応の私の突っ込みにサーレーが即座に返して来る。

「どれも神の名から始まるから覚え間違いも多いって欠点があるよ」

「そんなのは、勉強不足なだけよ」

 私がそう反論するとサーレーが肩を竦める。

「帝国の研究者から、同じような呪文しか作れないのは、独創性がないからだって悪口を言われるけどね」

「ミハーエの真似しかできない奴等に独創性なんて言葉を使って欲しくないわ!」

 私の主張にサーレーが手をパタパタさせる。

「話を戻すけど、僕が元にしたのは、『林檎』の形式のおーえす。作った人達が違うんだよ」

「どうしてその『林檎』の方を使ったの? 聞いた話じゃ、この『窓』って方が一般的だって話じゃない?」

 私の疑問に対してサーレーが語る。

「それこそさっきの呪文の話と一緒なんだよ。ミハーエの魔法は、確りとした体系が作られていて、無駄が少ない。帝国の魔法は、必然性を前面にして、乱雑だから詠唱も長ければ余計な魔帯輝も必要する」

 私は、強く頷く。

「そう、だからミハーエの魔法の方が優れているのよ」

「その反面、さっきも言ったけど、呪文がどうしても酷似してしまう。その為に魔法発動に必要な思考により正確性が必要になる。実は、これがミハーエの平民の魔法使用率の低さに繋がって居る。正確な思考形成が行える貴族でなければ複数の魔法を使えないって状況になる」

 サーレーの言葉に私が指摘する。

「思考形成自体は、呪文と関係ないと思うけど」

 サーレーが肩を竦める。

「そう言えるのが反復学習をして常に正しい思考形成がされるミハーエ貴族なんだよ。通常は、正しい思考形成には、呼び水が必要であり、それが呪文詠唱になる。総じて言えばミハーエの魔法は、無駄のないが、それだけに使用者に高い学習が求められ、帝国のそれは、使い易いが無駄が多い。一般普及するのは、残念だけど後者になるんだよ。これが性能が高い『林檎』でなく『窓』が一般化した理由」

「高品質故に一般化されないなんてなんか納得いかないわね」

 私がそう不満を口にするとサーレーが遠い目をする。

「あっちの『林檎』信者も同じ事を言っているけど結局のところ成果が全て。どれだけ良い物であったとしてもそれを使える人間が少なければ成果が少なく、殆どの人が使える物の成果が勝ってしまう」

「世知辛い話ね」

 私が落胆のため息を吐くとサーレーが頷く。

「世知辛い世界だから、ミハーエ国内用の劣化版、マホコンを『窓』基本で作って、『林檎』基本で作ったミハーエのマホコンの技術を応用できなくさせる算段してるんじゃん」

 そう、今、私がやって居る作業は、国外向けのマホコンの改良。

 マホコンの存在をしっている帝国がこの大陸存亡にかかわる事態だからとマホコンを要求してきた。

 当然、こっちが渋ると帝国が『窓』型おーえすを提供して来た。

 それは、ソーバトが独占している起動式盤スタートディスクの技術の根幹であり、バーミンとしても喉から手が出る程に欲しかった物だ。

 それを受けてソーバトが起動式盤の技術をバーミンに開放して、他国向けのマホコンを『窓』基本の起動式盤で作る事を提案して来た。

 これには、複雑な思惑が絡んでくる。

 一つに、現状のマホコンをそのまま他国に出すことは、魔法技術その物を差し出すに等しい事になりかねない。

 その為、マホコンとしての機能があるがミハーエのマホコンと連動しない物にする必要があった。

 そうした上で同時に開発を始めた場合、優位になる『林檎』基本の起動式盤を使用したマホコンが勝てる状況を恒常化する予定。

 正に世知辛い話になる。

 しかしながら私としては、無駄が多く、各段性能が劣る『窓』基本のマホコンであっても他国にとっては、驚愕の新技術らしく、次々に提供を求める要請があり、とうていカージヤだけでは、対応できず、刻印柱(プリンター)と同様な根幹部品のみを提供して、他の部品は、独自に製造するながれにしてある。

 無論最重要な、起動式盤と演算箱ブレインボックスに関しては、バーミンが専属工房のみで作って居る。

 現状、その工房は、不眠不休で活動しているが、全然製造数が足りていないのが現状である。

「実際問題、マホコンでもなければ対魔極獣用の魔法の開発なんて間に合わないから仕方ないんだけどね」

 サーレーが渋々って顔を見せる。

「魔極獣か、魔帯輝無しの魔法の開発もしないと拙い物ものね」

 私は、極々簡単な魔法を魔帯輝無しで使って見せるとサーレーが疲れた表情を見せる。

「ミハーエでも魔帯輝ありの魔法を魔帯輝無しでそのまま使える人間は、数える程ですよ。後の人は、魔帯輝が無くても使える様に調整した魔法が必要になってるからな」

 魔帯輝無しの魔法。

 カーレーが持ち込んだこの魔法だが、実は、基本的には、魔帯輝ありの魔法と大差ない。

 問題になるのは、周囲にある魔力分布になる。

 それを視る魔法具の開発は、ある程度行われているが魔帯輝の代替えにするには、安定性が低い。

 その為、通常で発生し易い魔力分布に合わせた魔法の改造が行われる羽目になる。

「ゲーマー姉さんは、新大陸に行く?」

 いきなりの質問に私は、戸惑う。

「いきなり何?」

「いきなりって、魔極獣を全部倒したら新大陸が解放される。そして新大陸には、ディーラ大陸より莫大な魔力に満ちている。魔法研究者としては、気にならないことじゃないよね?」

 サーレーの指摘は、確かに正しい。

 実際にマーナーお父様は、新大陸解放後の研究施設の開設準備をすでに始めている。

「私には、マホコンがあるから、多分こっちに残ってここを新しい主人になると思う」

 私は、手元のマホコンを見ながら答えるとサーレーが語る。

「そう。マホコンならこっちでもあっちでも関係ないもんね。そんでマーナー伯父様は、新大陸で好き勝手な研究すると?」

 私が苦笑する。

「まあそうでしょうね。それで貴女達は、どうするの?」

 サーレーは、少しの躊躇もなく即答した。

「新大陸に行くと。正直、こっちだと制限も多過ぎるもん。束縛が少ないあっちなら自由にできるからね」

 サーレーとその姉、カーレー。

 神から劇薬とさえ言われるこの双子は、この大陸に影響を与え過ぎた。

 多分、魔極獣騒動が終われば、その力故に数年は、何もさせてもらえない。

「偶には、こっちにも顔を出しなさいよ」

 私の言葉に笑顔で頷くサーレーであった。



1119/白紅淡(11/25)

ミハーエ王国 王城、大陸国家連合会議室

ミハーエ王国第二王子 リースー=ミハーエ


「すいませんが言っている意味が理解できないのですが?」

 私は、思わずそう聞き返してしまった。

「何度でも言おう、チェーラは、決して他国兵の受け入れを行わない」

 そう宣言してきたのは、チェーラ部族の代表、全チェーラ部族の長、大族長チェーラであった。

 チェーラ部族の大族長は、血筋でなくその時代時代、最強の戦士が代々チェーラの名を継承してきた。

 その事からも解るようにチェーラ部族にとって武力とは、絶対の物である。

 だからこそ、この様な答えが来る可能性は、想定していた。

 想定していたが、実際に直面するとやはり難しい問題である。

 九体目の魔極獣、それがチェーラ部族の聖地、インデス平野に現れた。

 その報告を受けて各国の代表が集められて、対策を討議しようとした所でのこの宣言である。

「魔極獣を討伐しなければこの大陸が滅びるという事態を理解されておりますか?」

 カイキ連合の代表、ガーシソ=ノママの問い掛けにチェーラは、大きく頷く。

「無論。だからチェーラ部族の全力をもって神の試練である魔極獣を討つ!」

 大族長チェーラの言葉に室内がなんとも言えない空気に包まれる。

 この会議室にいる人間の大半がこの状況を想定していた。

 それだけにチェーラ部族の土地にだけには、魔極獣が現れない事を願っていた。

 これがヘレント王国の様に国の意地や利益の為の発言であれば妥協点が持てる。

 しかし、チェーラ部族は、違うのだ。

 部族の誇りとして部族外との共闘を拒絶している。

 例えそれが部族が滅びることになろうとも貫くだろうとチェーラ部族と対峙してきたリーモスの者達は、苦々しい顔で言っていた。

 この場に居る者の本音を言えばチェーラ部族が誇りを貫き全滅するというなら勝手だが、それで貴重な時間を浪費されるのだけは、避けたい。

「この大陸には、時間がないのです! 少しでも早い討伐の為に力を合わせましょう!」

 ヌノー帝国の代表、ガイアス殿下がそう求めるが大族長チェーラに妥協は、ない。

「不要だ。チェーラだけで滅びの前までに魔極獣を必ず討伐してみせる!」

 その後も妥協を求める説得が行われたがその意思が変わることは、なかった。



1119/白紅淡(11/25)

ミハーエ王国 王城、魔極獣対策室

ミハーエ王国第二王子守護騎士 ダースー=ダータス


「もう勝手に出兵しようぜ」

 俺の言葉に同じリースーに仕える文官、パーセー=バーフスが苦々しい顔で言う。

「そんな事をすれば、せっかくここまで築き上げた各国との信頼関係が無駄になる」

 言ってる本人すら、嫌であろう言葉に俺は、舌打ちする。

「チェーラの奴らを説得するいい方法は、無いのかよ」

 それに対してサーレーが言ってくる。

「説得って言葉が通じる相手じゃないと意味がないんだよ」

「チェーラの連中とは、会話出来てるとおもうが?」

 俺は、自分でも否定したい事実を口にするとサーレーが肩をすくめる。

「同じような言葉を使っていても通じてないんだよ。お互いにね」

「お互いにってどういう意味です! 少なくとも我々は、チェーラ部族の考えは、理解しています。納得していないだけです」

 そういったパーセーをカーレーが指さす。

「そこだよ。納得できないってことが言葉が通じていないって事」

「意味が解らん!」

 俺がそう主張するとカーレーが少し考えてから例をあげてくる。

「それじゃあさダースーさん達がリースー王子に誓う忠誠の言葉をあちき達が言って同じ意味になると思う?」

「それは……」

 パーセーは、言葉に詰まるが俺は、断言する。

「全然違う!」

 サーレーが苦笑する。

「そういう事。並べている単語は、一緒でもチェーラ部族の人達が言っている宣言を真に理解出来る人なんてチェーラ部族以外に居ないよ」

「だからといって、このままでいいわけでは、ない」

 今まで黙っていたリースーの言葉にカーレーが眉を寄せる。

「一つだけ解決策があるんだけど……」

「あるんだったらなんでも言うだけ言えよ」

 俺が促すとカーレーが拳を突き出して言う。

「結局のところ、チェーラ部族で重要視されるのは、武力。それを示す」

「武力侵攻は、出来ません」

 パーセーの言葉にサーレーが手を横に振る。

「そうじゃないよ。チェーラ部族に伝わる『千人抜き』って儀式を受けるんだよ」

「なんだその『千人抜き』って儀式は?」

 俺が首を傾げるがリースーは、眉を顰める。

「魔法無し、休憩なしでの千人のチェーラ部族の熟練戦士との連戦。確か初代大族長チェーラが今は、同じチェーラー部族になった者達を相手に殺さずに討ち勝ったとされてる事から続く儀式で、大族長継承の際に行われている儀式の筈だな」

「おいおい、雑魚兵でなく熟練の兵士相手に魔法無しで千人抜きなんて出来る訳ないだろう?」

 俺の疑問にカーレーが頷く。

「そう。だから今の大族長チェーラも儀式を行って二百人突破後に負けたはずだよ。まあ、それでも歴代で屈指の記録らしいね」

「当然だ。雑魚兵ならともかく熟練兵士を相手にするとなれば俺だって魔法無しじゃ百人が限界だ」

 俺がそう告げるとサーレーが言う。

「だからこそ、チェーラ部族にとってその儀式は、崇高な物。もしも本当に千人抜きすればチェーラ部族に言うことをきかせることが出来る筈だよ」

「出来たらでしょう。実際そんなことが可能な訳がない」

 パーセーの冷めた意見に対してカーレーが遠い目をしながら言う。

「一騎当千をさせろって何度も言ってきてる御方一人居ますけどね」

 その人物に思い至り俺が半眼になる。

「ナースーを使うっていうのか!」

「ダースー、言葉に気をつけろ」

 リースーの忠告に対して俺は、憤慨する。

「ナースーを呼び捨てしたところでダータスじゃ誰も文句は、言わない!」

「本気でダータスじゃ嫌われているよね」

 サーレーが呆れたって顔をしているが、俺の所属しているダータスにとっては、王族を蔑ろにするナースーの在り方だけは、認められないのだ。

 しかし、リースーが言う。

「ダータスの考えは、理解している。だが、今は、少しでも可能性があれば試さなければいけない時なのだ」

「……兄貴達と相談させてくれ」

 俺は、本来なら即答しなければいけない答えを濁らすのであった。



1119/白紅淡(11/25)

ミハーエ王国 ダータス領主の館

次期ダータス領主 ドースー=ダータス


『……とリースー王子から要請を受けている』

 王城でリースー王子の護衛をしている下の弟のダースーからの遠離会合鏡エンリカイゴウキョウを姿ありの報告にダータス領主である父上は、憮然とした顔つきになる。

「国の大事をナースーに任せるのは、容認できぬな」

 父上ならそう答えるだろう。

「しかし、リースー王子からの要請を断る訳には、行かないでしょう」

 そう私が指摘すると父上が立ち上がる。

「リースー王子の目的は、あくまでそのチェーラ部族の『千人抜き』を成功させる事だ。よしここは、私がその役目に赴こう!」

「何を馬鹿な事を言っているのですか?」

 微笑んでいるのに壮絶な殺気を感じさせる母上の言葉に父上の動きが止まる。

「しかし、リースー王子の要請を拒む事などダータスには、出来ぬぞ!」

 必死に説得しようとする父上に対し母上は、思い出したように口にする。

「ソーバト相手に連敗した時もレースー王子に絶対必要な事だと貴方が判断されて強硬されたのでしたよね?」

「あの時は……」

 言葉に詰まる父上を横目に私は、ダースーと一緒に報告してきたレースー王子の護衛騎士、上の弟、デースーに視線で促す。

『大陸の今後の事を考えても要請を受けないというのは、ありえません』

 父上が我が意を得たりと顔を綻ばすがデースーの言葉が続く。

『同時にダータス領主である父上を危険にさらすことは、王族も望んでおりません』

 母上がそれに頷く。

「この激動の状況でダータス領主が不用意に危険を冒すのがどれだけ愚かな事でしょう」

 一度言葉を切った母上が私達兄弟を見てから続ける。

「ナースー殿に大事を託すのは、確かにダータスの矜持に沿いません。しかし、ダータスが最も大切にしなければいけない王族。そして王族としてもダータスに大きな損害を望まぬ筈。貴方達のうちの一人がその任にあたり成功させられませんか?」

 母上の言葉にダースーがまず答えた。

『己の身の程くらいしっている。少なくともチェーラの奴らを納得させる結果を今すぐは、出せねえ』

 意外にも冷静な答えが返ってきた。

『残念ながら私も同様です』

 あのデースーまで同様な事を口にする。

 昔の二人ならば間違いなく不可能な事でもやってみせると意地を張っていた事だろう。

 そして私とてナースーに任せるくらいながら自分でと思う気持ちは、確かにあった。

 しかし、はっきりと母上に告げる。

「ソーバトの双子の判断を尊重すべきでしょう。ここは、死んでもかまわないナースー殿に任せるのが最善だと思われます」

 結局のところは、そこだ。

 長い帝国との戦争を終わらせミハーエ王国の国王集権政治を新たな形に変化させる切っ掛けをつくったソーバトの双子、その判断を認めるしかないのだ。

 母上は、沈痛な表情を浮かべ、父上は、あからさまな落胆とともに深いため息を共に告げる。

「ナースーの親族への通告は、しておく」

 こうしてダータスの領地としての決定がなされた。

 ダースー達とのつながりを終わらせ後、父上が呟くのであった。

「チェーラの連中は、さぞ悩んでいるんだろうな」

 己が矜持で大陸の存亡をかけた魔極獣討伐という無謀な行為に挑むチェーラとダータスの違い。

 それは、きっと己が矜持より大切にする者があるかどうかなのだろうと私は、考えるのであった。



1119/白紅深(11/29)

チェーラ部族の土地 インデス平野

チェーラ大族長 チェーラ


「まだ討てぬか?」

 我が言葉に族長の誰もが答えぬ。

 それが答えだ。

「やはり、我が挑む」

 我が宣言に回り者達全てが止めてくる。

「まだ大族長の番じゃない!」

「そうだ、まだまだ部族には、優れた戦士が居る!」

「若い者にも機会を与えるべきだろう!」

 そんな戯言を我は、否定する。

「通常の武器は、通じぬ。有効なのは、この牙のみ」

 そういって我は、大族長の証である牙を見せる。

 チェーラの牙と呼ばれる何代目かのチェーラが神獣の試練で得た槍を見せる。

 今まで多くの強敵を打ち破ってきたそれに族長たちも唾を飲み込む。

 だが、ミハーエ王国と隣接した部族の族長が言う。

「それ一つで勝てる程、激闘虎ゲキトウコを統べる虎は、容易くなかろう」

「大族長が敗れるというのか!」

 怒鳴る族長をその族長が睨む。

「かつて何人の大族長がミハーエに敗れた。そのミハーエが容易ならぬというあの虎だぞ!」

 その言葉に族長たちの顔が曇る。

 魔極獣、余所者たちがそう呼ぶ虎の魔獣は、チェーラ部族の一人前の戦士とて負けることがある激闘虎を数倍にした様な体を持ち、あらゆる武具や呪いを弾く。

 何度か遠目から確認したがあれは、命を懸ける相手だと理解している。

「大族長! ここは、ミハーエの助けを受けるべきだ」

 疑問をあげた族長の言葉に我は、首を横に振る。

「それだけは、できない。チェーラは、戦いの民。多くの強く敵を打ち破って土地を得た。どれだけ相手が強いとしても自らの手で討ち克てなければ意味がない!」

 我らが住む土地は、決して恵まれた土地では、ない。

 西の連中がしているような植物を育てるには、水が少ない。

 当然、部族の腹を満たす程の実りを育む森もない。

 野獣や魔獣を狩り、その血肉を食らって生き続けたのがチェーラなのだ。

 一方的な狩りばかりでは、ない。

 逆にこちらを狩る強大な者達も居た。

 それがどれほど強かろうとそれに自らの力で討ち克って来た。

 チェーラとは、そういう部族なのだ。

 今更、それを変える訳には、行かない。

「弱きものは、強き者に食べられる。それが定め。定めを捻じ曲げてまで生きる事に意味などない」

 我の言葉に族長の誰もが頷く。

「もしも、我が敗れた時、その時は、己が思った道を進むがよい」

 我が死闘に向かおうとテントを出た時、それは、居た。

 外見は、まだ成人していないだろう少女の二人。

 しかし、それが強者だと言うことは、魂が理解した。

「西の強者か?」

 我の問い掛けに少女の一人が手にした武器を地に置き座り込む。

「話をしに来ました」

「話す事など何もない」

 我がそう断ずるが少女は、つづけた。

「チェーラ部族の命運を決めるのは、大族長であるチェーラだけ。だけど貴方は、真のチェーラでは、ない」

 我は、チェーラの牙を突き付けて吠えた。

「チェーラへの侮辱は、許さんぞ!」

 我の一突きで絶命する事を理解し、緊張をしながらも少女は、問うてきた。

「真の大族長チェーラは、『千人抜き』を達成した者だけでは、ないのですか?」

 チェーラの牙を握る手に力が籠る。

「そうだ。しかし、仮初であろうと我がチェーラだ」

「一人の男に『千人抜き』を挑む機会を下さい」

 少女の言葉に我は、淡々と告げる。

「西でどういわれているかは、知らぬ。だが、『千人抜き』は、命を懸けた儀式。それをするに相応しくない男だった場合、チェーラは、二度と西の者を信じぬぞ」

「その時は、この提案をしたあちきの利き腕を贖いとしましょう」

 そういって見せた少女の腕には、目立たないが多くの傷があった。

 多くの戦いを生き抜いた証であろう。

「よかろう。戦い続けただろうその腕を認め、『千人抜き』を認めよう」

「大族長!」

 後ろにいた族長達が困惑しているが我は、この決断を変えることは、無いだろう。



1119/白紅光(11/30)

チェーラ部族の土地 インデス平野

ミハーエ王国ソーバト領兵士 アラン


「腕を懸けたんだってな」

 俺のその言葉にカーレーがほほをかく。

「まあね。チェーラの誇りがかかった事だからね。こちらもそれだけの覚悟をみせなければいけなかったよ」

「その割には、首じゃないんだな」

 俺の疑問にカーレーは、頷く。

「命は、懸けない。あちきは、死にたくないからね」

「つまり、チェーラの誇りは、お前の命より軽いって事か?」

 俺の意地悪な問い掛けにカーレーが笑う。

「まあ、あちきの居た所じゃ人の命は、何よりも重いっていうね」

「本気か?」

 俺が心底信じられないって顔で告げるとカーレーが肩をすくめる。

「言われていたのは、本当。でもね、命は、重いも軽いもないよ。誇りも一緒。大事なのは、それに代替えがあるかどうか。あちきの腕もチェーラの誇りも大事だろうけど、きっと代替えが利く。だけどあちきが死んだら誰も代われない。それは、誰でも、アランでも一緒。だからあちきは、命を大事にしたい」

 カーレーのこの考えは、貴族では、おかしい考えらしい。

 貴族連中にとっては、平民の命は、石ころと変らない。

「本当に貴族らしくないな」

 俺の呟きにヨッシオ先輩が言ってくる。

「そんなこいつだから俺達が命を懸けるだよ」

 ヨッシオ先輩やコシッロ先輩も頷いている。

 もしもチェーラの奴らがカーレーが懸けた右腕を奪おうとしたら自分たちの命を引き換えにしても止めるっていっていた。

 そうこうしている間に、ダースーって貴族が王族の代わりに見届け人としてチェーラとの約定を確認し終えた。

 そしてナー師範が立ち上がる。

「千人抜きか。私としては、千人同時に相手する方が良いのだがな」

「こんな状況でもブレないその考えだけは、すごいと思いますよ」

 カーレーが呆れたって表情で告げる中、ナー師範が前に出ると殺気に満ちたチェーラの戦士が出てくる。

「西の者がチェーラの戦士に魔法無しで挑む事の無謀さをその命でしれ!」

 開始の合図もなく始まった千人抜きが始まった。



1119/白紅光(11/30)

チェーラ部族の土地 インデス平野

ミハーエ王国ソーバト領兵士 ムサッシ


「これで十人目も終わりだな」

 ヨッシオがそういう中、チェーラの戦士の突きを最小限の動きでかわしたナー師範の棒が肩を打ち抜き、戦闘不能にした。

「予想は、していたけどチェーラの戦士の身体能力は、すごいね」

 カーレー様がそう感心するのも当然だ。

 今まで出てきた十人全てが並みのソーバトの兵士の数倍の速さ動きで攻めてきているのだから。

 戦いにおいて速さは、重要である。

 どんなに強い一撃も当たらなければ意味がない。

 そして速さとは、鍛え抜かれた肉体と磨き抜かれた技でしか生まれない。

 ここまでで、どれだけチェーラの戦士の肉体が鍛えられ、実戦を重ねていたのかが理解できる。

 以前に行った一騎当千よりも更なる厳しさが加わった事になる。

「そんでナーの野郎は、どんな感じなんだ?」

 ヨッシオの言葉にカーレー様は、眉を顰める。

「まだ十人。いくらチェーラの戦士が並みの兵より優れているといってもナースーさんは、規格外の強さをもってるから問題にない。問題は、百人過ぎた後くらいだよ」



 カーレー様が言った百人が過ぎた。

 しかし、ナー師範の動きは、変わらない。

 逆にチェーラの戦士の態度が変わった。

 それまでは、チェーラの誇りを傷つける余所者に天誅をという雰囲気だったのが、優れた戦士を相手にする物へと変った。

 望ましい状況では、あるが、それは、チェーラの戦士をより強くすることにも繋がる。

 勢いだけの攻撃が減り、確実に相手を追い詰める連撃が増えてくる。

 一人あたりにかかる時間も増えていった。



 二百人を超えた。

 ここに至るとナー師範にも疲れの色が見える。

 しかし、それでも戦い方には、変りは、無かった。

「戦いながら体を休ませる事も出来始めたって感じだけど、こっちの予想よりチェーラの戦士の動きがいいから十分に休めてないね」

 カーレー様の分析に拙者も頷く。

「拙者でも百人超すのは、難しいでしょうな」

「さすがにこん位の連中が後、八百人もいないだろうよ」

 ヨッシオがそう気楽に言うのであった。



 四百人を超えた時、チェーラの戦士の一撃がナー師範を掠った。

「うーん、相手の強さは、維持されてるね。さてはて何処まで持つかな」

 出来なければ腕を懸けるカーレー様が平然と言っているが、拙者たちは、緊張を増していた。



 六百人目を打倒したナー師範の息が荒い。

「休憩は、必要か?」

 チェーラの大族長の言葉にナー師範は、無言で首を横に振った。

 ここに至ってチェーラの戦士のナー師範を見る目には、一切の邪念は、無かった。

 一人の優れた戦士に対するそれとなっていた。

 それだけにそれまで以上に鋭くなるチェーラの戦士の攻撃がナー師範に当たり始めるのであった。



 八百人目の突きがナー師範の左肩を打ち抜いた。

 大きく崩れたナー師範をその戦士が追撃しようとした。

 しかし、ナー師範は、その勢いすら利用してその戦士を倒すと右腕一本で棒を持って立ち、戦いを続けた。



 九百九十九人目が倒れた時、ナー師範は、全身傷だらけで、棒を支えに立っているのがやっとという状況であった。

「次が最後の一人だ。いけるぞ」

 ヨッシオがどこか安堵の息を吐いた顔をする中、カーレー様は、逆に厳しい表情を浮かべる。

「これは、失敗したかも」

 サーレー様も頷きます。

「今後の交渉を考えればもっと早い段階で倒されていた方が良かったね」

「千人抜きさせるのが目的だったんじゃないのか」

 アランの疑問にカーレー様が眉を顰める。

「それが最善だったけど。予想以上にチェーラの戦士が強かったからある程度の所で負けると思ってた」

「それでもそれだけの実績があったら交渉がうまくいかせられた筈だったんだけど……」

 サーレー様が言葉を濁しながら見る先で千人目として現れたのは、チェーラの大族長であった。

「『千人抜き』の最後は、現役の大族長の役目」

「おいおい、嘘だろ!」

 顔を引きつらせるヨッシオにカーレー様が言う。

「代替わりの儀式なんだからある意味当然の決まりなんだけどさー」

 大きくため息をつきながらサーレー様が続ける。

「倒した人数で勝ってるから大族長チェーラもその言葉に応じるって形ができたかもしれなかったのが、その大族長に直に負けたらその建前が使えなくなるんだよな」

 牙の様な刃先を付けた木製の棒、チェーラ部族が持つ神器、チェーラの牙。

 サーレー様が調べた情報が正しければ、神器なのは、その先の牙の部分だけだが、その牙をもって討ち克った相手を従わせる力を持っている筈。

 このままナー師範が負ければサーレー様達が考えていた作戦が失敗する事になる。

 そうなればカーレー様の腕を代償にされるかもしれないと緊張する中、チェーラの大族長が語る。

「ここまでの戦い見事。だが、我にもチェーラの誇りがある。その誇りを示させて貰う」

一歩だった。

 それまでのチェーラの戦士達の踏み込みの数倍の速さと距離でナー師範との間合いが無くなった。

 チェーラの牙が右肩を捉えようとしたその時、ナー師範が後ろに倒れた。

「やっぱり限界だった……」

 コシッロがそう呟く様に自然の動きでナー師範が倒れていく。

 チェーラの大族長もそれを疑わなかっただろう。

 しかし、ナー師範の棒は、チェーラの牙の牙の部分を捉えていた。

 そして渾身の力を籠めていたチェーラの大族長は、ナー師範の倒れる勢いを加えられたチェーラの牙に引き寄せられる様に体勢を崩した。

 それでもすぐさまチェーラの大族長は、全身の筋肉を振り絞り体を支えた。

 その力は、当然のことながらチェーラの牙、そしてそれを加速させていたナー師範の棒にも掛かる。

 ナー師範の棒がチェーラの大族長の力を受けて反転する。

 反転した棒は、チェーラの牙の棒の部分を粉砕した。

 驚き動きを止めるチェーラの大族長にもたれかかるようにしていたナー師範がかすれた声で告げる。

「最後は、お互いの体だけで決める」

「望むところだ!」

 チェーラの大族長は、ナー師範の体を押し返し、間合いを空けると渾身の力を籠めた拳をナー師範の顔に向けて放った。

 ナー師範は、今度は、前方に倒れた。

 チェーラの大族長の拳は、ナー師範の額に直撃した。

 ナー師範の体は、大きくのけ反り、そのまま頭は、地面に向かっていった。

 しかし、その足は、チェーラの大族長の顎を掠った。

 ナー師範が地面に倒れた後、崩れる様にチェーラの大族長が倒れた。

「顎の先、そこだけを正確に撃ち抜くと人は、平衡感覚を失って立てなくなるんだよ」

 カーレー様がそう説明される中、周囲がざわめく。

 チェーラの大族長は、必死に立ち上がろうとするが思うようにいかない。

 その中、ナー師範は、ゆっくりとだがしっかりとした動きで立ち上がった。

「とどめは、必要か?」

 チェーラの大族長は、地面を一度強くたたくと観念した様子で告げる。

「お前こそ、真の強者だ。お前たちの言うことを従おう」

 こうしてナー師範は、千人抜きをやり遂げたのであった。



1119/白練淡(12/01)

ミハーエ王国 王城、魔極獣対策室

ミハーエ王国第一王子守護騎士 デースー=ダータス


「ナースーさんの千人抜き、直に見たかった!」

 マースーがそう不満を口にする。

「向うの機械使ってとった映像で我慢してください」

 サーレーがそう言いながら、魔極獣討伐出兵の最終確認資料のまとめている。

「何言っているの! あーゆーのは、直に見るから意味があるんじゃない!」

 マースーがそう主張する中、左手一本で作業をしているカーレーが言う。

「気持ちは、解るけど。立場的に無理でしょう」

 それに対してターレー様が資料の確認をしながら釘を刺される。

「立場の重要性を解っているのでしたら自分の右腕を懸けるなんて真似は、出来ません」

「反省してますからもう右手使っても……」

 カーレーの要求をターレー様が無視される。

 当然の事だ。

 カーレーは、色々と問題を起こすがミハーエ王国にとって必要な人間だ。

 その右腕の価値は、ナースーなんかよりも遥かに高いのだから。

 尚も不服そうな顔をしていたマースーが言う。

「結局最後のは、なんだったわけ? どうしてあんな真似をしなければいけなかったのかが解らないんだけど」

「あの時、ナースー様は、チェーラの大族長に通じるような攻撃を放てるだけの力は、残っていませんでした。だから相手の渾身の力を自分という媒体を使って相手に返すなんて事をしたんですよ」

 カーレーの説明にマースーが顔を引きつらせる。

「それって話だけは、聞いた事あるけど、アースー教師ですら実戦では、出来ないって言っていた神業よね?」

 カーレーが深く頷く。

「論理的には、不可能じゃないけど、人間の体には、意識していない力の流れがあって、それで上手くいかない。あの瞬間、ナースー様は、本当の意味で全身の力を完全に操って相手の力を自分の体内を通過させたんだよ」

「まさに化け物ね」

 しみじみというマースーを他所にレースー王子が告げる。

「ナースーの献身により、魔極獣を討つ機会が訪れた。それを有効に活用する為にも作業を急がねばいけな」

 そこでサーレーが手を上げた。

「それなんですけど、すごく嫌な情報がチェーラ部族から入って来たんですが」

 そういって回された資料を見て私は、思わず頭を抱えるのであった。



1119/白練平(12/03)

チェーラ部族の土地 インデス平野

ミハーエ王国ソーバト領兵士 アラン


「そんでどれが問題の魔極獣なんだ?」

 俺の質問にカーレーは、明後日の方向をみて言う。

「一番奥にいる奴だと予測している」

「そうか、それじゃあその前に大量に居る似たような魔獣は、なんなんだ?」

 俺が更に質問すると後ろを向いているサーレーが言う。

「チェーラ部族からの報告によると配下の様に従っていた激闘虎が魔極獣に触れると同じような姿に変化するそうだよ」

「つまり、本物以外は、全部激闘虎が変化した奴なのか?」

「多分ね」

 そう言うカーレーは、まだ正面をみない。

「問題は、変化した激闘虎も魔極獣とほぼ同等の性質、通常攻撃と魔帯輝を使用した魔法攻撃は、無効化されるって事なんだよね」

 サーレーがそういってから目をつぶりながら正面を見る。

「そろそろ見たらどうだ?」

 俺が促すとあきらめた様子でカーレーが正面を見て頭を抱え、目を開けたサーレーが叫ぶ。

「百以上もいる魔極獣モドキをどうしろっていうのよ!」

 俺たちの前には、視界を埋め尽くすように巨大な魔獣の大群がいるのであった。



1119/白練平(12/03)

チェーラ部族の土地 インデス平野の簡易砦

ヌノー帝国東部担当六将軍 ラクトス=ポンセット


「無限に仲間を呼ぶモンスターの相手をしてる気分になってきた」

 カーレーの言葉にサーレーが疲れた顔で言う。

「どちらかというと巨大ゴーレムを呼ぶ奴じゃない?」

 向うのゲームの例えを出す程に疲れているって事だろう。

「それでどんな状況なんだ?」

 今さっき到着したヌノー勢を代表してワシが話を聞く。

 カーレーは、疲れた様子を隠さずだれたまま答えてくる。

「事前に報告が行ってるけど、今回の魔極獣は、お供の魔獣を自分と同じ特性を持たせる力を持ってて、今朝の時点で百二十体の魔極獣モドキが居て、あちき達ミハーエ勢で必死の討伐で八十体倒したよ」

「残り四十体か、こちらの戦力も加われば明日中には、片付くな」

 ワシが軽い気持ちで告げるとサーレーが明後日の方向を向いて言う。

「新しく魔極獣モドキになった数が夜、撤退した時点で百体。明日の朝には、更に増えてて二百体になってるかも」

「その増殖数は、異常では?」

 北西部担当六将軍、チュメイ将軍の疑問に対してカーレーがため息混じりに答える。

「理由は、判明済み。戦力を集めたのが失敗した。大量に使われた魔法の残留魔力を流用された上、倒した魔極獣モドキの魔力も使われている節があるんだよ」

「詰り、いくら倒しても直ぐに復活する上、倒すのに使った魔力で更に増加するって事ですか?」

 副官をやっているアッテスの確認にサーレーが頷く。

「対処としては、アナッス将軍が戦った蜥蜴の魔極獣の様に魔極獣本体に魔獣を近づかせないようにし、増殖を抑制して、魔極獣モドキを出来るだけ無視して本体を倒すって形になる筈なんだけど……」

 言葉を濁す理由は、簡単だった。

「完璧に魔極獣へ魔獣を近づけさせないというのは、難しいな」

 西部担当のアナッス将軍の言葉にカーレーがうなだれる。

「その上、魔極獣モドキがかなり好戦的で、動ける限り戦闘を続行してくる。作戦通りに行くとは、おもえない」

 北東担当六将軍ギガンス=アーインが淡々と告げる。

「戦いにおいて数こそ一番の正義だ。その上で相手が通常攻撃が通じないのならこちらが用いることが可能な数は、大幅に制限される。かなりの難敵になるだろうな」

 その言葉を否定する意見は、あがって来なかった。

 暗くなりそうな空気の中、ワシが告げる。

「戦争において数が大事それは、確かだ。しかし一つ大きな勘違いしているな」

「勘違い? もしかして魔極獣モドキを相手にしているのが間違いだっていうの?」

 ジト目で見てくるカーレーにワシが告げる。

「戦争の数というのは、ただ兵士の数だけでは、ないという極々当然の事だ」

 そうして告げたワシの作戦にカーレー達すら目を丸くするのであった。



1119/白練深い(12/05)

チェーラ部族の土地 インデス平野

ミハーエ王国ソーバト領兵士 ヨッシオ


「それにしてもお前たちの居た世界の連中は、よくこんなとんでも無い事を考えられるんだ?」

 俺の疑問にカーレーが少し悩みながら答えてくる。

「情報量の違いだと思う。結局、どんな発想も元になる情報が必要になる。あっちの世界は、際限なく情報がまき散らされていたからね」

 そんな会話をしている間にも新たな魔極獣モドキが駆けてきた。

 それをカーレーは、大魔華双輪で両断する。

 両断された魔極獣モドキは、元の激闘虎の死体を残し大量の魔力をまき散らす。

 このままならこの魔力は、再び魔極獣モドキに使われることになるだろう。

 だが、そうならない。

 再利用型魔帯輝に魔力を籠める装置をもってまき散らされた魔力を吸収していくのだ。

「即席だから吸収率は、悪いけど、まさに戦いは、数だよね」

 カーレーが半ばあきれた様に言うのも解る。

 死を恐れない帝国の大量の兵士達がさっきまで魔極獣モドキが居た場所で装置を使い続けるのだ。

 こうしている瞬間だって次の魔極獣モドキがいつくるか解らないっていうのにいい度胸をしている。

「その上、変化前の激闘虎は、討伐に集中したチェーラ部族が近づけさせないようにしているからね。どんどん数は、減っているよ」

「あのー完璧に本物の魔極獣に魔獣を近づけさせるのは、難しいって話じゃなかったんですか?」

 コシッロの当然の疑問にサーレーが苦笑する。

「それこそ数の勝利だよ。死体の回収に足止め等などを帝国を中心にした他国の連中がして、激闘虎と戦うだけに集中すれば早く倒せてかなり数が制限される。それに蜥蜴の時と違って、接触されても魔極獣モドキが増えるだけで全回復されるわけじゃないしね」

 カーレーが眉を寄せて言う。

「魔極獣モドキを倒せる手段を数揃えられないって考えてたあちき達の見落としだね」

 そうしている間にも魔極獣モドキという壁を失った虎の魔極獣の前にチェーラの大族長が立っていた。

「多くの同胞を食らった貴様をこの手で討つ!」

 巨大な虎の魔極獣の前足がチェーラの大族長に向かって振り下ろされる。

 チェーラの大族長は、それを前に突進することでかわしそのまま、その胸にチェーラの牙を突き刺す、とどめを刺すのであった。

「これで残すは、一体。大陸は、救われたな」

 俺の言葉にサーレーがジト目で見てくる。

「そういう『フラグ』を立てる事を言わないでよ」

「なんか今頃、『らすぼす』がこれからが本当の勝負だっていってる気がしてきた」

 カーレーがそんな意味不明の事を口にするのであった。



1119/白練深い(12/05)

元ミイホ王国首都ミイホにほど近い深い森の中

桜の神に選ばれた少年 ミンホイ


「これに力を注げば良いんだよね」

 僕の言葉が肯定されたので、僕は、漂ってきた鳶色の塊に力を注ぎこむ。

 するとそれは、強い光を放ち始める。

 僕の周りには、今のをいれて九つの光が集まっていた。

「これで神の意志を達成できるんだよね?」

 僕の正しさを示すように九つの光は、強く輝くのであった。

窓は、ウインドウズでリンゴは、アップルを意味しています。

強すぎるぜナースー師範。

だけどもこのナースー師範でもアーラーには、まだまだ勝てません。

本気でアーラーって何者?

次回は、最終バトル。

ラスボスミンホイは、最後にしていた事の意味とは?

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― 新着の感想 ―
[一言] ダータス領主の家って、かかあ天下だったんですね?‼️
2020/03/26 07:22 ナマケモノ
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