541 カーカナの収益と貴族を名乗る代償
カーカナで謹慎中の双子です
『
1119/包練光(04/06)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴ
ソーバト領主一族 カーレー=ソーバト
』
あちきが肘を乗せる窓から見える先の教会には、休日って事もあり多くの信者が向かって居る。
「流石にカーカナだと熱心な信者が多いね」
ヨッシオさんが肩を竦める。
「本当だよ。何が楽しくて休みの朝から教会なんかに行くんだろうな」
真面目なコシッロさんがため息混じりに言う。
「ウチも、警護の仕事がなければ礼拝くらいしに行くわ」
顔を向けるとムサッシさんも察したのか言ってくる。
「刃の神を主とする教会には、出来るだけ足を運ぶようにしている」
「ご苦労な事で」
ヨッシオさんが半ば呆れたって顔をしているが実は、これは、珍しい反応でもない。
「ミハーエ王国だと、基本的に教会は、蔑ろこそされないけどそこまで貴く扱われないね。強い魔力をもつ貴族の権威が高い所為もあるからヨッシオさんみたいな人も少なくないんだよね」
あちきの言葉に対してコシッロさんが尋ねて来る。
「所で疑問に思って居るのですが、どうしてカーカナなのでしょうか?」
根本的な疑問が来たのであちきが答える。
「簡単に言えば政治色が薄く、あちき達の伝手が無さそうな所って事で選ばれたんだよ。元々ターレーお姉ちゃんは、王都の自分の監視下で謹慎させるつもりだったみたいだけど、それだとターレーお姉ちゃんの負担が重すぎると周囲が反対した。でもターレーお姉ちゃんの監視下で無いと王都では、あちき達が暗躍すると思われての移送だよ」
沈痛そうな表情を浮かべる面々を他所にあちきは、説明を続ける。
「因みにこのドルゴを治める貴族は、中々優秀らしく、この周囲に貴族や他領の怪しい人間は、完全に立ち入れなくなってるね。そんなもんだからサーレーが必死に出し抜こうと頑張ってる」
「出し抜いてどうするんだよ」
ヨッシオさんの突っ込みにあちきが普通に答える。
「何かしらの仕事をぶんどる。そうすれば謹慎が解かれる筈だからね。サーレーも色々な伝手をやりくりしてその準備をしてるんだよ」
「接触を禁止されてますよね?」
コシッロさんの疑問にあちきが笑顔で応える。
「それをどうにかするのがサーレーなんじゃない」
大きなため息を吐くムサッシさん。
「本当にターレー様のご苦労が偲ばれる」
「そんでお前は、何を書いているんだ?」
あちきは、書き途中だったそれを鉛筆で突く。
「ソーバト領主のウーラー伯父さんへの懇願書だよ。長々と書いているけど簡単に言えばムサッシさん達を王族の一存で処刑するのは、ソーバトの為に成らないから処刑の前にソーバト領主への確認を貰える様する様にってね。そうやって、即時処刑状態を解除しないと何も出来ないからね」
「そんな事が可能なのですか?」
ムサッシさんが驚いた顔をするのであちきが頷く。
「可能って言うか、いくら元ソーバトの人間だっていってもターレーお姉ちゃんが、ソーバトの所属のムサッシさん達を即時処刑する権限を持って居る方がおかしいんだよ」
「処刑出来ないって訳じゃないだろう?」
ヨッシオさんが確認してくるので肯定する。
「そう。この場合だったらソーバト領主に一言あればなんの問題もないくらいにね。でも今は、その一声すらなく処刑出来る。通常だったら王族だってこんな真似は、しないよ」
「それだけお前達の首輪を確保しておきたいって王族の思惑だろな」
ヨッシオさんが少し不機嫌そうに言う。
「そうだね。ソーバトも王族の意向に逆らわなかった。だけどそれをなんとかしようとこの書状をターレーお姉ちゃん経由で提出するの」
「何とかなるものなのでしょうか?」
ムサッシさんが難しそうに眉を顰める。
「ウーラー伯父さん自体は、何度か模擬戦をやったムサッシさんの実力を認めているから了承してくれそうなんだけど……」
あちきが言葉を濁すとコシッロさんが怪訝そうな顔を浮かべる。
「領主の了承を得られれば宜しいのでは?」
ムサッシさんが呆れたって顔をして言う。
「お前な、ソーバトを実際に動かしているのは、誰だか理解していないのか?」
その態度にコシッロさんが不愉快そうなに告げる。
「色々と動いて居る人が居ると思われます。ですが、領主の意向に逆らえる人が居る訳がありません」
あちきが苦笑する。
「まあ正論を言えばそうなんだけど。実際問題、領内を取り仕切って居るのは、イーラー叔父さんな訳で、ウーラー伯父さんもその了承も無しに中央への返答なんて出来ないんだよ」
「そうなのですか?」
本当に意外そうな顔をするコシッロさんにあちきは、補足する。
「そうなの。でも勘違いしないでねウーラー伯父さんが無能って訳じゃない。逆にソーバトの象徴として、高い武力と魔力を持ち、公の場では、ソーバトの顔として立派に立ち回って居るよ。だけど、こと政治に関しては、イーラー叔父さんがずば抜けているの。駄目親父曰く、足りない武力と魔力を補おうと小さい頃から政治を学んだ結果だってさ」
「やはりイーラー様には、納得頂けないと言う事でしょうか?」
ムサッシさんが諦めに近い表情を浮かべる。
「中央、王族からの強い要請だからね。そうそういい返事は、貰えないのは、仕方ないよ。だからこっちも手札を一枚切るんだけどね」
あちきの説明に嫌そうな顔をするヨッシオさん。
「おいおいヤバイ手札じゃないだろうな?」
あちきが頬を膨らませながら答える。
「失礼! あちきだってソーバトの人間だから身内相手に恐喝染みた事は、しませんよ。あちきが用意したのは、帝国の大商会『ルス』相手の紙幣取引の提案だよ」
「あのー紙幣は、あまり帝国に流すのは、拙いと言って居られたと思われますが?」
コシッロさんが不安そうに聞いてくるのであちきが詳細を口にする。
「今まで見たいに提供してたらね。だけど、相手に提供するのは、先に硬貨を受け取って、使われた紙幣は、廃棄する仕組みなんだよ」
「おいおい、普通に考えてあっちにしてみれば損な話しじゃないのか?」
ヨッシオさんの突っ込みにあちきが笑みを浮かべる。
「そう思うのが素人の浅はかさだね」
「ドヤ顔してないでさっさと説明してくれ」
せっつくヨッシオさんの要望にあちきが応える。
「現状ソーバト紙幣は、額面以上の価値があるのだよ。理由は、簡単で高級寝具店『白の神の工房』では、ソーバト紙幣での割引を行っているからなの。そんであちきが一度供給した紙幣は、銀貨絡みで鉄として回収した。今回は、最初から硬貨と交換するって事になるね」
ここまで来ると紙幣というより回数券とか商品券みたいな扱いだ。
元の世界と違ってお金を数値として扱い、それをやり取りする訳にいかない上に発生する経費削減作業である。
「なんとなく理解出来ますがそれだけでイーラー様が納得されるのでしょうか?」
実感が湧かないだろうムサッシさんにあちきが大金貨(一枚百万円)を見せる。
「帝国南西部にある『白の神の工房』からソーバトまでこれを輸送する費用ってどれだけかかると思う?」
「安くないと思うが実際どんくらいかかるんだ?」
あっさり諦めたヨッシオさんからの問い返しにあちきが即答する。
「小金貨(一枚十万)は、掛ると思って良いよ」
「どうしてそんなにかかるんですか!」
驚いた顔をするコシッロさんに対してあちきは、苦笑する。
「それも結構まとめて輸送してって話。その間の鉄道走行車の運賃だけでもとんでもない上、物が高額硬貨だからね、護衛もつけなくては、行けない。何より、硬貨を国境を越えさせるのは、基本的に駄目だから、国境でミハーエ王国硬貨と交換するんだけどその手数料もある。まあイーラー叔父さんは、そこは、帝国内での物品購入に充てる事で軽減してるけど、そうやって交換した物品にも関税がかかる。『白の神の工房』からの利益が上がり続ける中、はっきりいって無視できない出費で解決策を模索中だったって訳」
「ソーバトとして利益が出る話なのは、理解出来ました。しかし、それと拙者達とは、直接関係がないのでは?」
ムサッシさんの正論に対してあちきは、詭弁を口にする。
「そういうコネを作れたのは、三腕が確りと帝国で仕事をしていたからで、処刑したら今後、そういう貢献が難しくなるって建前で、利益出すんだからこっちの要望を聞いてって話だよ」
「建前で終わらせておけよ」
ヨッシオさんが半眼で言ってくる。
「でもそれをターレー様経由でおくって宜しいのでしょうか?」
コシッロさんが珍しく窺った意見を口にした。
「本来なら拙いね。でも今回は、どっちにしてもターレーお姉ちゃん、ひいては、王族を納得させる必要があるから、あちき達が提示して来た条件も発覚する前提だよ」
あちきは、そう答えながら問題の書状を書き終え『名呼びの箱』に入れた。
「これで駄目だった場合は、次の手札も切ってでもなんとか許可とらないとね」
「がんばってくれ」
何故か他人事の様なヨッシオさんを睨みながらあちきは、絡め手の準備を進めるサーレーをみるのだった。
『
1119/包鳶淡(04/07)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴッスの館
カーカナ上位貴族、リーメー=ドルゴッス
』
「包の神の御心に沿った行いご苦労である」
カーカナ領主一族の御一人、トーミー様からのお言葉に私は、膝を着き頭を垂れる。
「全ては、金の神の恵みの為でございます」
「頭をあげよ」
トーミー様の許しに私が頭をあげる。
「双輪の桜の神の葉は、茂っているか?」
双輪は、ソーバト領主の姪、カーレー=ソーバト様とサーレー=ソーバト様を指す隠語。
御二方の隔離が上手く行っているのか確認に参られたのは、間違いない様だ。
「桜の神の木陰に漏れは、ございません」
問題無いという私の答えに小さく安堵の息を吐かれるトーミー様。
トーミー様ですらここまで緊張をする相手、それが問題の双子である。
公になっていない帝国での色々と活動を終え、王国に戻られた御二人だが、中央は、カーカナでの隔離を望まれた。
ある意味これは、仕方ない判断だろう。
王族の新体制への移行には、双子が大きく係って居た事は、暗黙の了解。
その行動次第で王族にすら影響を与える存在を中央が放置する訳には、いかないのだ。
どうして私が統治するドルゴに隔離となったかと言えば、御二方が自領のみならず、他領にも多くの協力者を潜ませている事からである。
比較的、それが少ないと想定されるカーカナ、それもウェーフ神国に隣接し、あまり他領との繋がりが大きくない場所が選ばれた。
「カーカナとて桜の神の根が完全に無いとは、言えぬがな」
双子の協力者が居ない事を否定しきれない状況にトーミー様が苦々しい表情を浮かべる。
「ドルゴへの貴族の侵入は、無条件で禁止。他領と関係が深い商人等に関しても監視を着けておりますから双輪が外部と連絡をとるのは、白の神より先に金の神に出会う様な事です」
私がそう断言するとトーミー様が頷かれる。
「頼んだぞ。これで何かあれば包の神の衣の重さは、計り知れぬ」
「包の神より金の神に至るまで弛まぬ働きを」
最大限の努力を私は、誓うのであった。
トーミー様がお帰りになられた
「父上! 私の魔法を見て下さい!」
そういって入ってくるのは、学院の二年目を終えた我が息子、ラーメーだった。
「今は、忙しい。後にするのだ」
「直ぐに終わります! ですから……」
聞き分けの無いラーメーを私は、叱る。
「ラーメーよ、我が後を継ぐ者なのだ、今がどの様な時なのか考え、行動しろ!」
「わ、解りました」
そういってラーメーは、私の前から去っていくのであった。
『
1119/包鳶淡(04/07)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴッスの館
カーカナ上位貴族の息子、ラーメー=ドルゴッス
』
「父上は、どうしてもっと私に構ってくれないのだ? 私は、こんなにも魔法が上手くなったというのに!」
私は、覚えたばかりの攻撃魔法を放った。
「キャ!」
そういって館で働く侍女の一人が倒れた。
「邪魔をするな!」
「も、申訳ございません!」
必死に頭を下げる侍女に苛立ち、魔法を放とうとした時、嫌な男がやって来た。
「ラーメー様、その様な行為は、包の神のお言葉に反し、金の神の道を失います」
「侍女への躾だ!」
私の主張に対してその男、父上の乳母兄弟でしかないリーモー=ドッスは、生意気にもいってくる。
「最初より見ておりました。館の中での攻撃魔法の使用は、包の神の言葉に反する行いです」
「黙れ! 私は、この館の主である父上の息子、ラーメーだぞ! その私がこの館で何をしようと勝手だろうが!」
私が怒鳴るとリーモーは、首を横に振る。
「その様な態度では、己が桜の神の満ち足りぬ事に後悔される事になります」
「私を未熟というか! 『刃の神の御力の矢を在れ。光矢』」
私は、怒声と共に攻撃魔法をリーモーに向かって放つ。
それに対してリーモーは、剣の鞘でそれを防いで大きくため息を吐く。
「この程度の威力とは……」
言葉にしないが私の事を馬鹿にしていた。
「馬鹿にしおって!」
憤慨し俺は、何度も魔法を撃つがどれもが魔法も無しに防がれてしまう。
「桜の神の満ち足りて居るとは、思えません」
リーモーの言葉に私は、怒鳴る。
「五月蠅い! 五月蠅い! 五月蠅い!」
私は、リーモーに背を向けて駆け出していた。
「話を……」
何か言ってくるリーモーを無視して私は、館を出て、近くに居た騎士に指示を出す。
「私をリーモーが追ってこない場所までつれていけ!」
「リーモー様が追ってこれない場所と言われましても……」
無能な騎士が行き先を決められないので私が決めてやる。
「ドルゴだ! あそこだったら父上の命で立ち入りを禁止されている。リーモーだって追ってこれまい!」
「しかしあそこには、誰も入れるなと……」
反論してくる騎士を私は、睨む。
「そう命じた父上の息子、ラーメーなのだ。何の問題もない! さっさと馬を走らせよ!」
私の命に騎士が大人しく従うのであった。
『
1119/包鳶淡(04/07)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴ
ソーバト兵士 コシッロ
』
「はー、ただの散歩の経路まで事前申請しないといけないのかな」
サーレー様のボヤキに対してウチは、はっきりという。
「外部の人間と接触して暗躍すると思われているからです」
サーレー様が舌打ちされる。
「ここを統治するリーメーさんは、有能過ぎる。連絡が取り辛くて困る!」
呆れる気持ちを抑えながらウチが問う。
「少しは、大人しくしてようと思いませんか?」
「だってこのままじゃ、半年以上は、ここで謹慎だよ! コシッロさんは、それでいいの?」
サーレー様の問い掛けにウチは、頷く。
「ウチは、構いません。お暇なのでしたらカレの様に鍛錬をされては、如何ですか?」
カーレー様は、帝国を旅している間に疎かになっていた所を鍛えるって鍛錬をされていた。
「そういうのは、僕らしくないから嫌」
そっぽを向かれるサーレー様は、周りから特に従兄妹に当たるコーラー様あたりからは、鍛錬も碌にしないと思われているが実は、そんな事は、ない。
帝国を旅している間も時間を作っては、基本的な卯技等の鍛錬を隠れて行われている。
基本、御二方共に常日頃からの鍛錬、準備を怠らない方だ。
それだけに行動を起こせない事に苛立っていらっしゃるのだろう。
それ故に散歩としてドルゴの町を歩かれている。
「少し意外ですが、この町は、多くの商店が在るのですね?」
ウチの疑問にサーレー様は、頷く。
「カーカナって宗教ばっかしてるって思われてるからね。実際は、違う。カーカナの主な収益は、ウェーフ神国から輸入品の国内販売だからね」
「ウェーフ神国からの輸入品ですか?」
宗教国家から何を輸入しているのかと疑問に思って居るのをサーレー様は、察して下さる。
「ウェーフ神国は、帝国との交易が無かった時、唯一の北側の商品の輸入先だよ。ところでウェーフ神国ってどんな国だか知ってる?」
「金の神を崇める事を第一とした国ですよね?」
ウチの答えにサーレー様が説明を始める。
「大元は、逃亡者の集まり。環境が劣悪な北部において弱者は、虐げられる存在だった。虐げられた弱者が強者から逃げ続けた時に現れたのが初代の金の神の神託を聞く聖女。聖女を中心に自分達の身を護った結果出来た国でね。色んな職種の人が集まって作った物の他に北部でしか手に入らない商品をミハーエ王国や帝国に輸出して、食料を輸入したり、武力を借りたりしてるの。神国って名前だけど意外と商売が活発な国なんだよ」
「意外です。もっと禁欲的な国かと思って居ました」
ウチの感想に対してサーレー様が肩を竦める。
「結構商売気も強いんだけど。普通の交易と違い、金の神の教えは、絶対でね。それに反したらどれだけ利益があろうと取引を行わない。そんな事もあり、交易を行うカーカナでは、金の神の教えを重んじる様になったって訳だね」
「詰り、商売の為に宗教を勉強したと言う事なのですか?」
ウチの確認にサーレー様は、少し首を傾げる。
「そうなんだけど、一部の貴族が目的と手段を取り違えてたりする。ただ、多くのカーカナ貴族は、北からの輸入品を独占できるからカーカナは、安泰だと思って居る節があるのが少し危ないね」
ウチが手を叩く。
「そうですね、帝国との交易が始まったのですから帝国経由で北の物が手に入るのですよね?」
サーレー様が頷かれる。
「そう。だから金の神の教えさえ確り抑えた取引すれば大丈夫だった以前までとは、違うって事を認識しないとカーカナの未来は、暗い」
ウチは、大きなため息を吐く。
「帝国との戦いが終って大変なのは、国境が接したソーバトやマーグナだけじゃないのですね?」
「何処の領地も他人事じゃないけど、それに気付けない貴族がどんどん衰退していくんだけど、ここのリーメーさんは、ちゃんと対処している優秀な人。それだけに色々と大変な中、僕達の隔離に仕事が倍増してる筈なのに監視は、確りとしてるんだよね」
サーレー様は、そういって視線を向けない様にして気配を探った先には、滞在用と指定された邸からずっとついてくる監視者が居る。
そんな中、一人の中年の女性が倒れる。
サーレー様は、慌てて駆け寄って助け起こす。
「気を付けて下さいね。はい、これで全部ですよね?」
倒れた時に散らばった荷物を拾い集めて返すサーレー様に女性が一つのお菓子を差し出す。
「ありがとうよ。これは、お礼だよ」
「美味しそう! 後で食べるね!」
それを受け取ってサーレー様が女性から離れる。
その一連の動作を見てウチが小声で尋ねる。
「何をされたのですか?」
サーレー様は、さっきのお菓子の包の内側を他から見えない様にしながら晒す。
「繋ぎの取り方なんて事前に百以上考えてあるからね」
びっしりと書かれた情報にウチは、頭が痛くなる。
「そういう事をするから監視の目が厳しくなるのでは?」
「因みにターレーお姉ちゃんが監視してると、ちょっとした会話からこっちの情報の差異に気付いて逆追跡されるんだよね」
サーレー様がしみじみと言われます。
本当にこの姉妹は、一般常識と隔離したやりとりをされます。
そんなやりとりをしながら進んでいると先の方が騒がしくなります。
「貴族様、どうか、どうか御見逃しを!」
必死に懇願する男性に対して如何にも貴族って感じの十四くらいの少年が吐き捨てる。
「見逃せるか! 統治者であるリーメー=ドルゴッスが長男、ラーメー=ドルゴッスを嘲笑った罪は、重いぞ!」
少年、ラーメーの睨む先には、男性に庇われたまだ幼い少年が居た。
「何があったの?」
サーレー様が尋ねると心配そうに見ていた周囲の人が語る。
「ちょっとした事なんだよ。あそこの貴族様が馬から降りようとした時に少し躓いた。それをあの子が見て、笑ってしまったんだよ」
「そんな事でですか?」
ウチは、思わず聞き返してしまう。
「そんな事でもだよ」
周囲にいた人々が諦めた様な顔をする中、サーレー様が頭を掻きながら近づかれる。
「何馬鹿な事をしてるの?」
「誰が馬鹿だと!」
怒鳴り返すラーメーをはっきりと指さしてサーレー様が宣言される。
「あんた。 馬からまともに降りる事も出来ないのに無理して失敗し、それを笑われて分不相応に怒ってる馬鹿なあんた」
「貴様、貴族である私にそんな事を言ってただで済むと思ってるのか!」
それを聞いてサーレー様が両手でバツを作る。
「はい、間違い。このミハーエ王国においては、王都の学院を卒業していない人間は、貴族として認められません。貴族で無いのに、貴族を名乗るのは、王位反逆罪。詰り、あんたは、いまこの瞬間から国王に逆らう反逆者って事だね」
「何を馬鹿な事を言ってるんだ! 貴族の父上を持つ私が貴族じゃないなんてふざけた事を言うな!」
苛立つラーメーの言葉を聞き流しながらサーレー様は、傍に居た騎士を見る。
「何やってるの? キースー国王に仕える騎士の貴方が何故この反逆者を捕まえないのかな?」
「ラーメー様は、カーカナの上位貴族、リーメー=ドルゴッス様の御子息で、とてもその様な真似は……」
騎士の答えにサーレー様は、笑顔で応える。
「貴方は、キースー国王よりそのリーメー様を尊重するって事なのかな?」
「そんな事は、ありません! 私は、あくまでキースー国王の騎士であります!」
騎士の即答にサーレー様が頷かれます。
「そうだよね。だったらする事は、決まってるよね?」
「何を下らない事を! 平民が細かい事を言いおって! この土地の統治者である父上を持つ私には、この場に居る者を好き勝手にしてよい資格があるのだ!」
ラーメーの傲慢な言葉にサーレー様は、馬鹿に仕切った表情を見せつけ言う。
「あんたさ、本気で王都の学院に行ってた? ミハーエ王国は、王政なんだよ。土地の統治を許されている貴族、例え、あんたの父親、リーメーって貴族だって、そんな資格は、ない。全ての土地と国民は、キースー国王の所有する存在であり、それをキースー国王の許しも得ずに害する事は、許されないんだよ」
「詰らん屁理屈を並べた所で実際にここで私が何を好き勝手にした所でそれを咎める者なの何処にも居ない!」
そうラーメーが宣言した時、一頭の馬が駆けて来た。
その背から一人の貴族が降りて来た。
「ラーメー様!」
顔を歪ませるラーメー。
「リーモー、ここは、父上の命で誰も入らせない事になってた筈だぞ!」
その貴族、リーモー様は、強く頷かれる。
「その通りです。リーメー様の命に背いた罰は、桜の神に至らん贖いとして受ける所存です」
罰せられる事を覚悟でここに居るって事にサーレー様の機嫌が少し良くなる。
「一刻も早くお戻りを!」
リーモー様の言葉にラーメーが反発する。
「嫌だ! お前独りで戻って罰を受けて、二度と顔を見せるな!」
「ラーメー様!」
色々な言葉を堪える様に名を呼ぶリーモー様に対してサーレー様が告げられる。
「色々あるとおもうけど、こっちの現状を簡単に伝えておくよ。この馬鹿が領民に八つ当たりをした挙句に貴族と自称して、そっちの騎士がそれを見逃そうとしている。その意味が解りますよね?」
リーモー様は、辛そうに領民達に向け頭を下げる。
「全ては、このリーモーの桜の神の満ち足り故の事、白の神の刻まれし我が行いを謝罪します」
「貴様! 貴族が平民に頭をさげるなんて許されると思ってるのか! 父上の顔に泥を塗るつもり……」
怒り狂うラーメーの側頭部にサーレー様の蹴りが決まった。
「貴様、ラーメー様に何を!」
剣を抜こうとした騎士をサーレー様が睨む。
「今、その剣を抜くなら覚悟しなよ。僕は、今やったのは、ミハーエ王国貴族の名誉、ひいては、キースー国王の名誉を守る為にやった事だよ。そのくらいは、解るよね!」
「何を……」
騎士は、理解もしようとせずに剣を抜こうとするが、リーモー様がそれを視線で牽制すると自らサーレー様の前に膝を着き、頭を垂れて告げる。
「今回の一件、この首を桜の神に捧げ、包の神の慈悲を頂きたくぞんじます」
サーレー様は、複雑な顔をして、深く息を吐いてから告げられる。
「今すぐにその馬鹿を連れて帰りな。僕は、サレ。そう言う事で話を終らせるから」
「包の神の采配に喜びを感じいります」
そういって頭を上げたリーモー様は、騎士に指示してラーメーを回収させ、先に行かせ、その後に続こうとした時、サーレー様が何かの走り書きを渡していた。
「助かった! 感謝してる! だけどよ、貴族様にあんな事をして大丈夫なのか?」
必死に謝って居た男性にサーレー様が笑顔で告げる。
「最初の馬鹿は、ともかく、後から来たリーモー様は、真っ当な貴族ですから大丈夫ですよ」
「本当の本当か?」
何度も確認してくる男性にサーレー様は、何度も肯定して安心させるのであった。
『
1119/包鳶淡(04/07)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴッスの館
カーカナ上位貴族の息子、ラーメー=ドルゴッス
』
「貴様! 父上の臣下の分際で私の命令に逆らってただで済むとは、思ってないだろうな!」
私の言葉にリーモーは、何故か何も口にしない。
私がそれをいぶしんでいると父上の臣下の一人がやってきて言ってくる。
「ラーメー様、リーメー様が御呼びです」
「父上がどうして? まさか……」
ドルゴに行った事を咎められる可能性に私は、気付く、言い訳を考えようとした時、さっきから無言を貫くリーモーに告げる。
「そうだ。お前が全て悪いのだ。父上には、そう報告する。父上だってお前より、息子である私の言う事を信じてくれるはずだ」
そう考えると一気に気が楽になった。
これで父上への言い訳も出来る上、前々から五月蠅かったリーモーを辞めさせられる。
報告の仕方しだいでは、リーモーの家を潰す事さえ可能だ。
そうした時のリーモーの絶望した表情が今から楽しみだ。
抑えきれない高揚する気持ちのまま父上の執務室に向かった。
私がすぐさま扉を開けて入る中、リーモーは、扉の前で止まる。
「桜の神の耳が開いておりますか?」
既に扉が開いていると言うのに入室の確認を最後の最後まで細かい事を気にする馬鹿な奴だ。
「桜の神の声は、既に届いて居ります」
父上のその返礼を聞いてからリーモーも入ってくるのを見ながら私は、熱弁を披露する。
「父上、聞いてください! リーモーは、父上に立ち入りを禁止されたドルゴに踏み入ったのです。私は、それを咎めに向かったのですが、そこでとんでも無い事をみてしまいました。リーモーが庶民に頭を下げていたのです! 同じ貴族として信じられません! 父上の顔に泥を塗る様な愚かなこの男にどうか罰をお与えください!」
そう言い切ってからどうせ通じぬ言い訳をするだろうとリーモーを見るが、リーモーは、無言のまま絶望の表情を浮かべていた。
無駄だと悟っていたと言う事だろう。
最後だけは、潔い事だ。
「刃の神に捧げられし言葉か?」
父上が確認してくるので私は、力強く頷く。
「はい。間違いなく真実です!」
父上は、沈痛な表情を浮かべていた。
こんな愚かな男でも父上にとっては、乳母兄弟だ、切るのを躊躇われる気持ちもあるのだろう。
本当に最後の最後まで迷惑な男だった。
そう私が思って居た時、その言葉が父上の口から放たれた。
「ラーメー、お前の居場所は、もうカーカナには、無いとしれ」
その言葉の意味が理解出来なかった。
「ど、どういう意味でしょうか?」
動揺しながらも私が聞き返すと父上は、俯き落胆の表情を浮かべていた。
「お前は、まだ学院も卒業していない未熟な者として最後の機会を与えられていた。虚言を吐かず、素直に報告していれば今後の教育次第で改善されるとな。そんな僅かな希望を自分の手で打ち砕いたのだ」
「な、何の事でしょうか?」
私の顔がひきつっているのが解る。
俯いていた父上は、本当に悔し気な顔で見上げて来る。
「お前は、私がお前の口先だけの嘘に惑わされる程、愚かな人間だと考えて居たのだな?」
「そ、そんな事は、ありません!」
否定する私に対して父上は、淡々と語る。
「お前が騎士に強制してドルゴに向かった事など直ぐに報告が上がって居る。ドルゴでの狼藉もだ。それでもお前が正直に謝罪を口にして居れば相手の譲歩に縋る事だ出来たのだ」
「白の神の刻まれし我が行いを謝罪します」
リーモーが深く頭を下げるが父上は、首を横に振る。
「白の神が刻みし行いに問題なし。桜の神の満ち足りに至らぬ己を恥じるだけだ」
「ち、父上、どうかお許しください! 父上を侮る様な事をした事は、心の底より反省しております。ですからお許しを」
頭をさげる私に対して父上は、冷めた口調で告げられた。
「既に事は、カーカナ領主まで届いて居る。私の力では、どうしようもない事なのだ」
「何故カーカナ領主にまで!」
大声をだしてしまう私に対して父上は、疲れた表情を見せる。
「ドルゴには、今、決して接触しては、いけない御方が居たのだ。それに接触した時点でお前は、罰せられる存在となっていた」
「ど、どうにかお許しいただく訳には?」
私の懇願にも父上の表情は、変わらない中、リーモーが決死の表情で告げる。
「私の首をもって金の神への贖いとする訳には、まいりませんか!」
「そうです。父上の後継者たる私を処罰するよりもリーモーを差し出して許しを……」
父上は、苦しそうに顔を押さえる。
「なんと愚かな息子だ。私は、何処で教育を間違えたのだろうか……」
天を仰ぐ父上に対して私は、言い募る。
「父上しかし、リーモーが自ら処罰を受けるというのです。でしたら……」
言い終る前に父上が声を荒げた。
「もうこれ以上口を開いて私を絶望させてくれるな!」
呆然とする私を他所に父上は、リーモーに顔を向けた。
「包の神の折りが正しき事に感謝をするが、もう手遅れなのだ。ラーメーは、双輪の敵として認識されてしまった。それがこのミハーエ王国の貴族にとってどういう意味を持つかは、言うまでもない」
「白の神より包の神を通り金の神に続く後悔を」
リーモーがそういって拳を握りしめて居た。
意味が全く分からなかった。
どうして父上の後継者である私が罰せられなければいけないのか。
何から何まで理解出来なかった。
「父親として、最大限の助けを行うつもりだ。沙汰があるまで自室で謹慎していろ」
父上の言葉に私は、追いすがる。
「父上!」
父上は、私を見ようともしなかった。
『
1119/包鳶淡(04/07)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴッスの館
カーカナ上位貴族、リーメー=ドルゴッス
』
ラーメーが呆然としたまま退室した後、リーモーが一枚の紙を渡して来た。
『馬鹿息子に最後の機会を与える。カーカナ領主の監視の目もあるから不要な指摘をされないように干渉しないで下さい』
サーレー=ソーバト様の走り書きだった。
正しい予測であった。
もしもリーモーが助言していればそれを不正の証として認められる事は、無かった筈。
いや、もっと正しく言えば私を煙たく思って居る者達がそれを利用して、私に非合法な取引を持ち掛けて来る可能性の方が高かっただろう。
そんな取引を行う訳には、行かなかった。
サーレー様を恨む気持ちは、起こらなかった。
サーレー様は、十二分に配慮されて居られた。
それこそまだ学院を卒業していない若輩として、最後の機会まで与えてくれた程に。
本来なら、ラーメーは、ドルゴに侵入した時点で処罰対象である。
その上、まだ学院を卒業していない身で貴族を名乗ったのだ擁護のしようがない。
貴族、少なくともミハーエ王国においては、学院を卒業した者にしかそう名乗る事は、許されない。
そこには、確かな意味がある。
貴族というのは、領民から税を徴収し、労働を強制する事もあり、時には、その命すら奪う事を許された存在である。
それ故に貴族には、それを行うに相応しいだけの知識と能力、なにより心構えを学院での習得が求められる。
学院の卒業をせずに貴族の権利を行使する事は、国民を不当な摂取を行い、ひいては、国を弱体化させる。
それ故に、この規則は、重視されている。
ラーメーは、それを理解せず、そして領民を不当に扱った。
言い訳のしようがない状況だった。
「私は、何を間違えたのだろうか?」
私の呟きをリーモーが否定する。
「全ては、私の指導が至らなかった故の事です」
リーモーの神の名を挟まない言葉を聞くのは、いつぶりであろうか。
「報告は、受けて居る。ラーメーは、お前に反抗し、まともな指導を受けようとしなかった。ラーメー自身の心構えが歪んでいたのだ」
私は、そう否定してその理由に思考を向ける。
「そんなつもりは、無かったのだが蔑ろにしていたのだろうな」
私は、そう呟き、統治を任された土地を巡り、より良い道を模索していた日々を思う。
カーカナという領地は、ある意味恵まれた領地であった。
ウェーフ神国との交易は、金の神の教えさえ間違えなければ確実な物である。
時には、武力援助なども求められたがソーバトやマーグナといったそれに特化しろ領地からの援助もあり、対応して来た。
そんな中起こった終戦魔法戦争による帝国への完全勝利。
ミハーエ王国全体が歓喜に沸き上がる中、私は、密かに不安を抱えて居た。
帝国という壁が無くなる事で独占された状況が失われる事に。
そうなった場合、今まで通りの交易を行って居ればカーカナの力が失われると考え、他領との争いにも負けない交易力を得る為に時には、自らウェーフ神国に赴き、交易に必要な街道や施設の増設など、やることは、山の様にあった。
その忙しさの中、私は、ラーメーと向き合う機会を失っていった。
ラーメーが学院での成績もリーモーからの報告だった気がする。
思えばラーメーの悪行もその頃から目立ち始めた。
ラーメーにとって不幸だったのは、私の息子だった事だ。
上位貴族である私の息子に意見出来る者は、少ない。
その少ない者の多くは、優秀さ故に私が多くの仕事を任せている。
実質的に咎められたのは、リーモー一人だったのかもしれない。
そうしてラーメーの歪みが大きくなっていったのだろう。
「私が父親として失格だった。それだけだ」
私は、そういってこの件を終わりにする。
少なくともリーモーには、これ以上負担させるつもりは、なかった。
『
1119/包鳶淡(04/07)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴッスの館のラーメーの自室
カーカナ上位貴族の息子、ラーメー=ドルゴッス
』
「何でだ! 何で私が! 父上の息子である私が謹慎させられなければいけないのだ!」
怒りの言葉が私の口からあふれ続ける。
怒りのままに剣を振るい、花瓶を割り、ベッドを切り裂き、扉を砕いた。
「どうしてなんだ!」
私は、そう天に怒鳴った。
そんな中、一人の貴族が砕けた扉から声を掛けて来る。
「それは、全てあのドルゴに居る小娘達が原因です。あの娘達が居る所為でリーメー様もしなくても良い仕事をさせられるはめになり、結果ラーメー様のお言葉が届かなくなっているのです」
「あの女が悪いというのか!」
聞き返す私の言葉をその男は、肯定した。
「その通りです。ですからラーメー様があの娘達を処分すればきっとリーメー様の事を御認め下さいます」
「そうか、父上に認められるか……」
その姿を想像する私に男が語る。
「その為にも私が集めたラーメー様の為に働く騎士達へ褒美の約束すのです」
私は、強く頷く。
「解って居る。その者達には、私が父上の地位を継いだあかつきには、それ相応の地位を約束しよう!」
「流石は、ラーメー様です。何とも頼もしいお言葉です。それでは、善は、急げと言います」
男に促されるままに部屋を後にするのであった。
『
1119/包鳶淡(04/07)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴ
ソーバト領主一族 サーレー=ソーバト
』
「馬鹿を相手にするのは、盲目の人間を相手にするのと同じだと思え」
僕の言葉にヨッシオさんが眉を顰める。
「何だそれ?」
僕は、苦笑混じりに説明する。
「お父さんに教わった事の一つ。計画って言うのは、相手の行動を読んで立てるんだけど、馬鹿を相手にする 時は、決して自分の物差しで予測せず、どんな低い可能性も無視せずに組み込めってね」
「それにも限度があると思いますが?」
ムサッシさんの当然の指摘に僕は、肩を竦める。
「そうなんだけどさ。例えるとこれから戦いが始まる中央に大穴があるとした場合、普通なら大穴を避けてどう攻撃してくるかを考えるでしょ?」
「そんな大穴があるんだったら当然です」
コシッロさんの常識的な答えに対してカーレーが突っ込む。
「それこそが落とし穴でね。最初に言った盲目の人間には、大穴が確認出来ないからこっちの気配に誘われ大穴に向かってくる可能性があるんだよ」
「はあ! なんだそれ! そんな事まで考えろっていうのかよ!」
思わず大声を出すヨッシオさんに僕がため息混じりに頷く。
「そう、そんな事まで考えなければいけないのが馬鹿を相手にする時なんだよ。それをしくじって元王子のルースーの時は、散々かき回された苦い経験があるけどね」
ルースーの名前にムサッシさん達も苦い顔をし、カーレーは、沈痛な表情で言う。
「あの状況で王宮に居る人間でマホコンを得体のしれない奴に渡すのがどれだけミハーエ王国にとって危険な事なのか解らない筈ないってあちき達も油断していたんだよ」
「それは、流石に御二方の責任じゃ……」
コシッロさんのフォローに対して僕が首を横に振る。
「あれが追い詰められているって気付いて居た。そうなればそれを利用しようとする奴が現れる事位想定して当然だった」
カーレーも苦虫を噛んだ顔をする。
「それなのに大した事が出来ないと警戒を緩めていたのは、失態。それは、ターレーお姉ちゃんを含めてあの時の関係者の総意って奴だよ」
複雑な表情を浮かべるムサッシさん達を他所に僕が告げる。
「だから、今回も予防は、しておいたんだけどさ……」
仕込んでおいた警報装置が動いたのを確認した。
カーレーもそれを確認して面倒そうに言う。
「問題が拡散しない様に内々で片付ける許可をターレーお姉ちゃんにとらないとね」
頷き、僕が予防と用意していた書状を『名呼びの箱』で送ると直ぐに返信が来た。
それを見て僕が眉を寄せる。
「これって……」
「うーん、再交渉かな?」
横から見ていたカーレーもそう言葉を濁す中、ヨッシオさんが盗み見て一言。
「これで問題ないだろう」
僕の手からその条件を書かれた紙を獲るとムサッシさんとコシッロさんに渡す。
「全く問題ありませんね」
ムサッシさんまでそう断言する。
「騎士を甘く見てない?」
僕の詰問にコシッロさんが応える。
「甘く見てません。ですが、これぐらい出来なければいけないのです」
「別に気負う必要ないよ。あっちとの交渉は、始まったばかりで手札もまだまだあるんだから」
カーレーがそう告げるがヨッシオさんが不敵な表情を浮かべる。
「お前等に任せっきりにするよりこういう方が俺達向きなんだよ。そういう事で任せておけ」
ムサッシさんとコシッロさんにも強く頷かれた僕達は、ターレーお姉ちゃんからの条件を飲むしか無かった。
『
1119/包鳶淡(04/07)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴ近くの森
カーカナ上位貴族の息子、ラーメー=ドルゴッス
』
「良いか、居る場所は、はっきりしている。中央から危険視され隔離された者らしいからそれを殺せばきっと中央の連中も喜ぶ。父上だって余計な苦労しなくても済む様になり御悦びになる。そうすればきっと……」
私は、父上から褒められる所を想像しながら続ける。
「それを成した汝等への褒美は、私、リーメー=ドルゴッスが長男、ラーメー=ドルゴッスが保証するぞ!」
私の言葉にその場に居た騎士達は、歓喜の声をあげる。
「威勢だけは、良いが。おめえ等、ウェーフ神国との交渉の場で失態をやらかして後がないだけだろうがよ」
そう言いながら現れた大男が巨大な剣を突き付けて来た。
「邪魔をするならお前も処分するぞ!」
私の宣言に大男が馬鹿笑いをする。
「おいおい、今更なにを言ってるんだ! 俺達は、お前が殺そうとしてる奴の護衛だ。元からだろうがよ!」
「お前もか! やってしまえ!」
私の言葉に騎士の一人が斬り込むがあっさり避けられた上、大男の剣を喰らって倒れる。
「こいつ、強いぞ」
騎士の一人の呟きに騎士達が後退る。
「おいおい、お偉い騎士さんがたかが一般兵にビクついてんじゃねえよ」
大男のその言葉に騎士が魔帯輝を取り出す。
「言わせておけば! 『刃の神の許しもて、氷よ槍と化せ、氷槍』」
氷の槍を放たれた大男は、それをその大剣で斬り砕いた。
騎士達が驚く中、大男の顔が歪む。
「防御魔法無しで魔法を斬るっていうのは、ここまで辛いのかよ」
「と、当然だ! 我等は、魔法王国の騎士! その攻撃魔法が兵士如きにどうにかし続けられる訳がない!」
その騎士の言葉と共に次々と攻撃魔法が放たれると大男は、一気に逃げに入る。
「ハハハ、所詮は、魔法も碌に使えぬ兵士! 俺達を馬鹿にした事を後悔してしね!」
一気に攻撃的になった騎士達が追撃に出た時、その女が現れる。
「防ぐのが難しいんだったら撃たせる前に斬れば良いだけでしょ?」
その両手の剣が追撃に動いていた騎士達を斬り倒していく。
「あの時、一緒にいた女……」
私がそう呟く中、後方に居た騎士がその女に向かって魔法を放とうとした時、逆の方向から声がする。
「お前達の相手は、拙者がする」
見慣れる剣を持った男が駆けて来る。
「私自慢の雷の魔法だ。 『刃の神の許しもて、雷よ槍と化せ、雷槍』」
騎士の魔法の雷槍が迫ったと思った瞬間、その男の姿が消えた。
「そんな正面からの魔法を喰らう馬鹿がいると思ったのか?」
その男は、地を這う様な体勢で騎士の前に在った。
振り上げられた刃は、騎士の鎧すら断ち斬った。
こちらの苦戦に気付き、大男を追っていた騎士達が戻ろうとすると、背後から大男が攻撃する。
慌てて再びそちに振り返る頃には、双剣の女が背後に迫る。
こちらの残って居た騎士は、最後に現れた男に次々と魔法を放つがそのどれもが躱され、切り倒されていく。
「ど、どうなってるんだよ? 誇り高き騎士達がたかが兵士なんかに……」
私がそう呟くとすぐ後ろから声がしてきた。
「実戦経験の差だよ。どれだけミハーエ王国の騎士の攻撃魔法が優れていても、それを使う騎士が未熟ならそれまでだよ」
振り返ると私を馬鹿にした女が居た。
「何でお前がここにいる!」
私の詰問に女は、私達が居た辺りを指さした。
「ドルゴを襲撃しようとした場合、身を隠せる場所って多くないの。その少ない場所には、木霊筒を応用した魔法具で監視してた。まあ、念の為の用心だったんだけどね」
そう口にする女の口調に覇気が無かった。
「あんたさ、自分が何をしているか理解している?」
女の問い掛けに私が即答する。
「当たり前だ! 私は、父上に邪魔するお前達を排除するんだ!」
「バーカ! 少しは、考えなさい! あんたの父親は、子供がこんな事をして解決できる事を問題にするような無能な訳!」
女が不機嫌そうにいってくるので私は、怒鳴り返してやる。
「父上は、凄いんだ! だからいつも忙しくって、私と話す時間すらない……」
頭をガリガリと掻いて女は、私の頬を叩いた。
「何を……」
私は、言葉に詰まった。
女が今まで見た事が無いような怒りの表情を浮かべていたからだ。
「あんたは、父親が恋しいって気持ちを誤魔化すからこんな馬鹿をした! それが大切な父親の立場をどれだけ悪くするかも知らずにね! あーもーこんな馬鹿なだけのガキを……」
女は、何かを堪える様な表情をしていると騎士達と相対していた大男がやって来た。
「そんな馬鹿なだけなガキだって俺達が殺すから先に戻って居てくれ」
「こ、殺す?」
大男が言っている意味が理解出来なかった。
大き過ぎるため息を吐いて女が言う。
「罪を犯し過ぎたんだよ。これを放免する訳には、いかない。全ての罪を背負って死んでもらう事になる」
「ふ、ふざけるな何で私が、上位貴族の父上の息子の私が死ななければいけないんだ!」
私の主張に後から現れた男がその刃を向けながら近づいて言う。
「貴族、それも上位貴族の息子だからこそ殺さなければいけないだ。何故ならばそうしなければお前の罪が父親であるリーメー様まで及ぶからな」
「何故、父上が出て来るんだ!」
意味が解らない話に私が大声を上げると女が怒鳴る。
「それがあんたが散々自慢している貴族って奴だからだよ! 貴族って言うのは、家名を背負って生きてるの! だから一人でも罪を犯した人間が居れば、同じ家名を持つ全ての貴族が罪を犯したと同じなの! ここであんたを殺して誤魔化さなければ、ドルゴッスって家全てにその罪が降りかかるんだよ!」
「な、何でだよ! わ、私は、何も悪い事をしてないぞ!」
私は、泣き叫んでいた。
そんな私を見て女は、歯ぎしりをしながら言ってくる。
「あんたがただの馬鹿なだけなガキだからって見逃されない。知らなかろうが、悪い事したつもりが無かろうが罪は、罪。それを贖わないといけないの。そう言う物を背負うのがあんたが散々威張り散らかして来た貴族の力の代償なんだよ」
「死にたくない! 私は、まだ死にたくない!」
私は、感情のままにそう口にするが大男も後から来た男も刃を向けて来る。
「止めろ! 止めてくれ!」
私は、目を瞑ってその刃が振り下ろされるのを待つしか無かった。
「貴方が庇うのは、間違った事だと理解していますよね?」
女の声に目を開けると私の前にリーモーが居た。
「はい。ですからこの命を引き換えにどうか桜の神の慈悲を」
「無理だね」
女は、そういって首を横に振る。
「ならば刃の神に導かれる死の道を進むまでです」
リーモーがそういって剣を抜いた。
「本気で言っているの? それをする事でカーカナに不利益が掛かるか解らない訳じゃないでしょ?」
女がそう確認するとリーモーが強く頷く。
「白の神の道は、金の神に通じる話でしょう。それでもです」
男達が視線を向けると女が小さく頷こうとした。
「そこまで覚悟が決まってるんだったら。全ての罪を背負ってもらえば良いよ」
女と同じ顔をしたもう一人の女が現れてそう言って来た。
「僕達は、何も関係ないって、そう言う事?」
元から居た女の言葉にもう一人の女が頷く。
「そういう事。こっちも表立つ必要が無くなるから上に話を通せると思うよ」
「お前達は、何をいってるのだ?」
まるで状況が解らない私に女達が言う。
「簡単だよ。とにかくあんたが死ぬのは、変わらない」
「ただ、あんたを殺すのがそこのリーモーさんになるだけ」
困惑する私とリーモーを他所にどんどん話が進んでいく事になるのであった。
『
1119/包鳶薄(04/08)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴッスの館
カーカナ上位貴族、リーメー=ドルゴッス
』
「そういう事であんたの馬鹿息子は、リーモーさんが責任もって処刑したよ。これがその証拠の馬鹿息子の遺髪」
カーレー様は、そういって一束の髪を差し出された。
私は、それを大人しく受け取る以外の選択肢は、無かった。
「白の神の刻まれし我が行いを謝罪します」
カーレー様は、肩を竦める。
「勘違いしているよ。あちきは、単なる遺髪の配達人のカレ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
そういう事になって居た。
今回の一連の事件は、ラーメーが最初にドルゴへ入った直後、リーモーが処刑したという事でソーバトの双子とは、無関係という決着をつける事になったのだ。
「それとこれは、リーモーさんからの個人的な謝罪文だって」
次に差し出された謝罪文には、リーモーがラーメーの処刑を勝手に行った事を謝罪し、その償いの為に自ら貴族の地位を捨て、国を出て二度とこの国の土を踏まないと書かれていた。
様々な思いが胸を過る中、カーレー様が尋ねられた。
「一つだけ聞いて良いですか? 何故リーモーさんは、ここまであんたの馬鹿息子の事を庇ったのですか? 正直、自分を馬鹿にした挙句、罪を着せようとした相手。その罪を軽くする為に自らの全てを捨てる必要は、何処にも無かったと思いますけど?」
「ラーメーにも乳母兄弟が居ました。それがリーモーの息子です。ですが、まだ幼子の頃、特殊な病気に同時に掛かりました。リーモーは、必死に治療法を探し、その努力結果一人分の治療薬を手にしました。そして……」
言葉の途中でカーレー様が止める。
「すいません。余計な事を聞きました」
頭を下げるカーレー様を見ながら私は、あの時のリーモーの姿を思い出す。
顔には、出て居なかった、それでも薬を差し出す手の震えがその心情を語って居た。
そんなリーモーにとってラーメーの死は、自分の息子の死と同じ、それだけに自分の地位を捨ててでも少しでもその罪を軽くしたかったのだろう。
「この後、配達結果を伝える予定ですが、疲れたので少し休んでますので、あちきが居ないと思って独り言でもすきに喋って居て下さい」
カーレー様は、そういって適当な椅子に座られた。
「今までの全ての事に感謝している。二度と会う事が無いとしてもお前との絆は、決して変わらない」
カーレー様と反対を向いて独り言を口にした。
そうこれは、あくまで独り言である。
ラーメーを勝手に処刑した事を感謝しているとなっては、いけないのだ。
そんな事をしてしまえば折角のリーモーの行いが無駄になってしまう。
カーレー様は、立ち上がると背伸びをして言われた。
「そうだ。リーモーさんの国外追放に強制同行させられる一人の少年が居るんですが、その哀れな少年の為に何か贈り物をしたいんですが何か頂けませんか?」
私は、振り返りそうになるのを必死に堪え、そして机の引き出しから一つの石を取り出し机の上に置いた。
「これは、息子が成人した時に授ける予定だった物だ。最早不要になった物、その少年に渡して生活費の足しにしてくれ」
カーレー様は、それを受け取り部屋を出ていくのであった。
『
1119/包鳶薄(04/08)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴッスの館
遺髪配達人 カレ
』
「おいそれって?」
ヨッシオさんがあちきの持って居る意志をみて驚いた顔をするのであちきが肯定する。
「奇跡鋼だね。カーカナの上位貴族といってもこれを手にするのは、物凄い大変だった筈。それを息子の将来の為に手に入れて居たんでしょうね」
ヨッシオさんは、苦笑する。
「そこまで愛されていたのに馬鹿な事をしたな」
あちきは、強く頷く。
「そうだね。でも、盲目の人間に嘘の目標を教えた卑怯者がいるんだよ」
すれ違おうとしていたその貴族の目前で大魔華双輪を回転させる。
「ちなみにあちきは、遺髪配達人のカレ。ここで罪を犯してもそう言う事で処理されるよ」
あちきは、ただそれだけを伝えると冷や汗を垂らすその貴族が言う。
「な、何の事だが……」
「帝国から金を貰った証拠は、直ぐに見つかるでしょうね」
あちきがそう宣告するとその貴族が引きつった笑みを浮かべる。
「万が一、帝国から金を受け取った証拠があったとして、何もしていなければ罪になりませんよね? 私は、ラーメー様が望まれた情報とその手足になりそうな騎士を集めただけ。間違ってもソーバトの双鬼姫には、一切の手出しは、していませんよ」
そう、こいつは、卑怯な事に今回の一連の事件で決して罪を犯して居ない。
ただ、ラーメーに情報を流したり、失態を犯して後がない騎士達を集めておいただけ。
ラーメーが勝手にドルゴに入り、その指示に騎士達が従っただけという建前を上手く作り出している。
これが交戦中ならばまだしも、帝国は、既に条約提携国であるから即座に罪にする訳にもいかない。
だけど大きな失敗をしている。
「一刻も早く今回の情報を寄越せってさ帝国の連中にせっつかれたんでしょ? だからあちきが来た時にリーメーさんの執務室の傍で盗み聞ぎをしていた。そして……」
あちきが視線で促すとヨッシオさんが貴族の懐を弄り木霊筒を取り出す。
「良いこと教えてあげようか。帝国にある木霊筒は、公式には、全部リーモスで作られた事になってる。まあ、実際には、帝国が模倣した劣化版も多く利用されてるんだけど、少なくともミハーエ王国内では、絶対に無い筈なんだよ。帝国から非公式で渡されていない限りね」
顔を青褪めさせるその貴族にあちきが宣言する。
「この後貴方を召喚するだろリースー王子は、売国奴相手なら死んだ方だましって目に合わせる事を躊躇しないよ」
膝を着き貴族が涙ながら懇願する。
「何でも致します。ですからどうかお助け下さい!」
あちきは、背を向ける。
「残念ですがただの遺髪配達人のカレにリースー王子に意見する力なんてありませんから。そう言う事で」
「お待ちください! カーレー様!」
貴族の悲痛な叫びを無視してあちきは、帰り道を急ぐのであった。
『
1119/包鳶薄(04/08)
ミハーエ王国カーカナ領、ドルゴ近くの森
元カーカナ貴族 リーモー=ドッス
』
「故意に帝国に今回の情報を流したのですか?」
私の問い掛けにサーレー様は、頷かれた。
「嘘情報をいくつかのルートに分けて流した。今回の事に一枚かんでる帝国の連中にしてみれば正確な情報欲しさに関係をもっている貴族をせっつくと思ってね」
同行する少年が眉を顰める。
「何で今回の事に帝国が絡んでいるなんておもったのだ?」
サーレー様は、あっさりと言われる。
「ミハーエ王国内でこういう裏工作に長けた人間ならばほぼ間違いなく僕達の怖さをしってるからね。処刑される様な馬鹿息子みたいな手繰られ易い駒は、使ってこないよ」
同行する少年は、不満げな顔をみせるが、それだけの存在だからこそ、今回の事をこういう形で治められたのかもしれない。
そしてリーメー様に報告にいかれて居たカーレー様がやって来られた。
「遺髪と手紙は、渡したよ」
「包の神の采配に喜びを感じいります」
私の感謝の言葉にカーレー様は、眉を顰められる。
「だからあちきは、ただの遺髪配達人のカレなんだからね!」
「そうでした。ありがとうございます」
そういって改めて頭をさげた私にカーレー様が告げられる。
「これは、単なる偉い人の独り言。『今までの全ての事に感謝している。二度と会う事が無いとしてもお前との絆は、決して変わらない』」
リーメー様の言葉に胸が締め付けられる思いでした。
そしてカーレー様は、同行者の少年にとんでもない物を渡される。
「これは、その人からの国外追放に強制同行させられる少年へ、憐みをもってくださった物。その人の亡くなった息子さんに渡す予定の物だったらしいよ」
「これをチチ……」
受け取った同行の少年の言葉の途中でサーレー様が両頬に平手を入れてからこちらを見られる。
「今度こそ確り躾て下さいね!」
「はい。今度は、決して間違えません」
私は、そう宣言してまだ名も無き少年と共に生まれ育ったカーカナを離れるのであった。
『
1119/包鳶薄(04/08)
ミハーエ王国王城 リースー王子の執務室
第二王子リースー=ミハーエ
』
「件の貴族の資料です」
ターレー義姉上がそういって帝国に情報を流していた貴族の資料を提出された。
「桜の神が踏まれた道に感謝を」
そう訪問を感謝してから私は、資料を軽く確認してから呟く。
「謹慎中だった筈なんですがね?」
ターレー義姉上は、大きくため息を吐かれる。
私の側近、バーフス貴族のパーセーですら同情の視線を向ける程に大変そうだ。
だからこそ確認しておく事がある。
「三腕のソーバト領主への報告なしの即時処刑だけは、行わない事にするを認めるのですか?」
「認めなければ、もっと面倒ごとになりそうな予感がしましたので」
ターレー義姉上の予感は、多分当たっているだろう。
「警護の面で言うなら、あいつ等の防御無しに騎士数名を殺さずに戦闘不能にしたんだ一応の合格点は、出しただろうな」
私の護衛騎士の判断に私は、頷く。
「まあ、きつく締め付け過ぎるのも問題でしたからね。ですが、これ以上の妥協は、王族として認められません」
「了解しています。それでですが、一つ提案があります」
ターレー義姉上の提案は、かなり有益な物として私も賛成し、その選抜を手伝う事にするのであった。
ウェーフ神国とカーカナ領の話でした。
双子の謹慎は、また解けません
次回、双子の謹慎話その二、ソーバト版です




