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落ち目領地とハーフな双子  作者: 鈴神楽
七年目 節目帝国のフリーな双子編
534/553

534 斬られた剣と斬れる刀

武器に拘るのは、二流?

1119/新練平(02/03)

帝国北東部六将軍の城、オーデス城

蒼札六将軍 ギガンス=アーイン


「そんな訳で先住民族への帝国からの攻撃は、控て貰えますか?」

 朗らかに周囲の者達を憤慨させる言葉を口にするソーバトの双鬼姫の一人、カーレー=ソーバトに対して俺は、端的に返す。

「例えミハーエ王国の英雄とて、帝国の軍事行動に口を出す権利は、ない」

 カーレーは、あっさり頷く。

「確かにその通りです。ですけど、ミハーエ王国王都の要求をヌノー帝国帝都が応じた場合には、従って貰えますよね?」

 後ろで控えて居る兵士達が今にも剣を抜かんとしているのが解る。

 しかし、そんな事をしてもこちら側の汚点になるだけだ。

「帝国軍人として帝都からの命令には、従うのは、当然の事だ。それを確認される覚えもないな」

 その俺の答えにカーレーが微笑む。

「そういう武骨な処は、気持ちいいと思います。それなのに北西の人は、どうしてああだったんですかね?」

 言葉の後半には、明らかな嫌悪感があった。

「ギルンス様を侮辱するのは、止めて頂きたい」

 そう口にしたのは、魔極獣件の失態で北西から逃げて来た紅札貴族の騎士であった。

 カーレーは、その男を一瞥すると俺に視線を向ける。

 何が言いたいのかは、解っている。

「ここでお前の発言する権限は、無い」

 俺の言葉に紅札貴族の騎士が口答えしようとしてくる。

「しかし、ギルンス様の名誉、如いては、アーイン家の……」

 その言葉は、途中で止まる。

 俺は、無言で合図を送って側近にそいつを退室させる。

「敢えて言うけど、今のは、失態になりますよ」

 カーレーが呆れた感じでそう口にして来た。

「解って居る。俺の訓示が足らなかったのだろう」

 俺がそう告げるとカーレーは、失笑する。

「訓示とかの問題じゃないね。あんなのを許容していた前の上の奴の所為、身内だからってそんなのを囲ってると足を引っ張られるよ」

 この言葉に対して後ろに居る者達の反応は、様々だ。

 反感を覚えている者も居るが多くの者は、同意を示している気がする。

 俺は、ため息と共にはっきりとその名を口に出す。

「それ程にギルンスの部下まで文句をつける程に奴の行いが許容出来なかったのか?」

 それを聞いてカーレーが意外そうな顔をする。

「それってアレが帝国じゃ許容範囲だって事ですか?」

 その返しには、俺も言葉が無かった。

 五千以上の兵を無駄に消費した挙句、陛下の名の元にされた契約を無視したソーバトの双鬼姫への襲撃、俺自身の許容範囲も大きく外れていた。

 だからこそチュメイの代わり六将軍を外す人間としてその名を挙げた。

 ギルンスからその事を聞かされた身内からは、文句の文が既に届き始めている。

 ただしギルンスの父親であるアーイン家当主からは、詳細の報告を求められているだけだった。

 碧札貴族、アーイン家を治める当主にとっては、息子の言葉だけを馬鹿正直に信じる訳には、行かないのだろう。

 従兄弟しては、あまり考えたくないが事と次第によっては、一族から切り捨てられる可能性もあるだろう。

 その件で新たな将軍候補であるチュメイからは、こっちに戻る前に色々と提案がされている。

 それを含めて当主には、報告を行うつもりだが、俺としては、ハバンス将軍には、残って貰い、ギルンスには、とっとと退役し、家で次期当主としての再教育をされる事を祈りたい。

「話を戻すけど、先住民族の件だけど早めに動き始めた方が良いよ」

 カーレーがそう切り出して来た。

「何故そんな事を言うのだ?」

 俺が純粋に疑問を告げるとカーレーは、複雑そうな顔を浮かべる。

「直感、多分だけど、この件より大事が起こる」

「直感だと?」

 俺が眉を顰めるとカーレーも小さなため息を吐きながら漏らす。

「あちき達の予測じゃ、帝国に三体目の魔極獣が出て来るなんて無かった。少なくとも北東方面には、出ないと想定していた」

 一気に緊張が高まった。

「次は、この北東方面に現れる可能性があるとでも?」

 俺の問い掛けにカーレーが肩をすくめる。

「そんなのは、解らない。でも現れる可能性を無視は、出来ないと思うよ」

 嫌な予測であるが的外れとは、言えないだろう。

 もし四体目がこの北東方面に現れるというなら蛮族相手に小競り合いをしてる余裕などない。

「ご忠告ありがたく受け取っておこう」

 俺は、そう言ってこの話を終らせた。

 北東方面の守護だけを考えるならばもっと突っ込んだ話もするべきなのだろうが、ソーバトの双鬼姫からの情報となれば帝国自体に影響を与える事になる。

 俺の一存で進める訳には、いかない。

「それじゃあ報告も終わったし、あちき達は、自由にさせて貰うよ」

 カーレーがそういって席を立つとその後ろにムサッシが追随する。

 その僅かな動きを見ただけでも一段と実力を挙げている事が解る。

 ソーバトの双鬼姫との模擬戦の時に刃を交えたあの時よりも。

 今やり合えばと考える中、自然に腰の剣へ手が伸びてしまった。

 その瞬間、ムサッシがこっちを振り返って視線が交差し、その剣筋が見えた。

 俺は、半ば反射的にその剣筋に対する二の太刀を想像する。

 するとムサッシもまたその二の太刀に対する様に体を僅かに動かす。

 そうなれば三の太刀の軌道が思い描かれ、体が戦闘の為の状態に移行しようとしていた。

 大きなため息を吐くカーレー。

「あのさ、ここで剣を抜くそぶりをしたら返り討ちにしても良いって許可があるんだけど?」

 俺は、慌てて柄から手を放す。

「すまない。そちらへの攻撃の意思は、無い。ただ……」

 俺は、ムサッシに視線を向けていた。

 カーレーは、ムサッシを軽く睨む。

「こっちもそっちの闘気に反応しちゃってたから問題にしないよ」

「申し訳ございません」

 大きく頭を下げるムサッシ。

 なんとも言えない空気が流れる中、カーレーは、俺とムサッシを交互に見てから言う。

「魔法抜きの模擬戦なら訓練の延長って事で内密に出来る様にしますけど?」

「よいのか?」

 俺は、思わずそう聞いて居た。

 ここでそう聞き返す時点でかなり拙いのだが、そう問わずに居られなかった。

 カーレーは、苦笑をしていた。

「こちらの立場を考えればかなり拙いのは、確かだけど強敵とやり合いたいって気持ちを無下に出来る程、あちきは、大人になりきれないんだよね」

 少し考えれば解る事だが、ムサッシは、三腕と呼ばれるソーバトの双鬼姫の警護の要だ。

 その要の実力を晒すというのは、カーレーにとって自殺行為といっても良い。

「若さゆえの過ちで済まされるとは、思えんが?」

 俺の指摘にカーレーが頷く。

「そうだね。だからお互いに内緒でやるしかないね」

 そのあんまりものあっけらかんとした態度に肩の力が抜けていくのが解る。

「そう言う事だ。これからの事は、お前達も漏らすなよ」

 困惑する部下も居たが多くの側近が仕方ないって顔をしてくれた。

「外部に知られないですむ、いい場所がある」

 こうして俺とムサッシとの勝負が行わる事になった。



1119/新練平(02/03)

帝国北東部六将軍の城、オーデス城

ソーバト所属の鳶札兵士 コッシロ


 護衛をしていたサーレー様とカーレー様と合流しようと案内された先では、模擬戦の準備が進められていた。

「カーレー、これがばれたらまたターレーお姉ちゃんから説教だよ」

 サーレー様の言葉にカーレー様は、苦笑している。

「そーだろうけどね、こういうのは、一度しっかり決着つけさせてあげたいんだよ」

「やるなって言わないけど、もう少し準備してからにしてよ」

 サーレー様は、そう言いながら何からしらの紙を出して書き出すと、案内して来た女官の一人に渡す。

「貴女、ミハーエに情報売ってるでしょ?」

 女官は、慌てて首を横に振る。

「とんでもございません。私は、そんな大それたことは、していません!」

「言い訳は、良いから。今回の事をミハーエに漏らさないって約束してくれればとりなしてあげる。それは、その代わりにあっちに流す出鱈目な情報ね」

 サーレー様は、そういうと必死に否定する女官を無視してギガンス将軍の所に向かった。

「そういう訳だから処刑しないであげて」

 ギガンス将軍は、なんとも言えない顔をしながらも応じる。

「辞めさせる事になります」

「了解、退職金は、渡しておくよ」

 サーレー様は、そういって硬貨が入った袋を女官に渡すのであった。

 針の筵の上に居るだろう女官に対してサーレー様は、淡々と言う。

「どんな理由があったとしても国を裏切っていたんだからこの位の事は、我慢しなさい」

「……どうして解ったんですか?」

 諦めた様な女官の言葉にサーレー様が面倒そうに言う。

「危ない橋と承知の上で大金を手に入れたからって、溜まった借金を一度に返したら、バレやすいんだよ」

 そこかという顔をしている女官を後目に戻ってくるサーレー様に尋ねる。

「どうしてその事を知ったのでしょうか?」

 サーレー様は、どうどうと告げる。

「間諜にしようと金に困っている人間の情報を集めてたから」

 周りから攻撃的視線を向けられるのを無視してカーレー様が確認されます。

「情報漏れ対策も出来たし、早速始めようか。それで真剣でいいんだね?」

「問題ない」

 ギガンス将軍がまず答え、ムサッシも応じる。

「真剣でこそ真の力が競える筈です」

「了解。それでは、開始!」

 カーレー様の合図と共にギガンス将軍とムサッシの戦いが始まった。



「何でずっと動かないんだ?」

 ヌノーの兵士の一人がそう呟いた。

 そう取られてもおかしくない状態でした。

 カーレー様の開始の合図から八半刻(三十分)の間、刃も合わせて居ない。

「コシッロ、どこまで見えてる?」

 サーレー様の問いにウチは、正直に答える。

「半分という所です。残りは、ウチにも判断つきません」

「半分は、解るのかよ。俺には、全然だぜ」

 ヨッシオがお手上げの仕草をとる。

「素人目じゃ、何もしてないだろうけど、両者の中じゃ既に百回以上は、刃を交えさせてるだろうしね」

 サーレー様がそういいながら地面を見る。

 ムサッシの足元は、激しく動いた様に乱れている。

 それは、ギガンス将軍も同じだった。

 ムサッシが半歩進めば、ギガンス将軍が半歩戻る。

 逆にギガンス将軍が半歩右にずれればムサッシも半歩右にずれる。

 そういう風にお互い僅かな動きに合わせて構えを変えているのだ。

「半歩、たったそれだけの違いが勝負を分ける。だからお互いに最善な状態を作ろうとしているね。でもそれももうすぐ終わる。こっから先は、実際に刃を交えて競いあう極限状態」

 カーレー様のその言葉が切っ掛けの様に最初に動いたのは、ギガンス将軍でした。

 強い踏み込みからの上段からの斬り下ろし、それをムサッシは、ギリギリの所で躱し、刀を抜いて払い切りを放つ。

 それに対してギガンス将軍は、更に踏み込み、体をぶつけて刀の軌道をずらしながらその巨体を地面倒す様に縮めると斬り上げに繋げる。

 ムサッシは、右手で持っていた刀を左手に変え、斬り上げの受け流す。

 大きくギガンス将軍の剣が上にそれた所で刀を両手に握り締め最小の動きで斬り込む。

 ギガンス将軍は、気合を籠めるとムサッシの刀を鎧で受け止める。

 そこで両者の動きが止まった。

「これで勝ちとは、言わぬよな?」

 ギガンス将軍の言葉をムサッシは、肯定する。

「当然、この様な弱き振で鎧を断てる程拙者は、自惚れて居りません」

 次の瞬間、大きく両者が離れる。

「今の勝負は、どっちが優勢だと思う?」

 サーレー様の問い掛けにヨッシオが応える。

「当然、ムサッシだろ? 最後だって有効とは、言えないが一撃決めているんだからよ」

 それをカーレー様は、否定する。

「残念だけど、よくて互角。ギガンス将軍は、自分から先に踏み込む事でムサッシに十分な攻撃を行わせていないよ」

 そう、ムサッシならば、一度刃を交え始めれば確実に攻めきれるだけの実力がある。

 何より問題な事が一つあった。

「ムサッシが力負けしています」

 ウチの呟きにサーレー様が肯定する。

「そうみたいだね。だからまともに刃を合わせられて居ない」

「体格で劣っているんだ多少は、仕方なくないか?」

 ヨッシオの言葉にカーレー様が呆れた顔を見せる。

「言っとくよ、純粋な力で勝って居ても同じ得物でムサッシさんとヨッシオさんが正面から打ち合えば勝つのは、ムサッシさんだよ。剣での打ち合いって単純な力比べじゃないからね」

 剣での打ち合いでは、筋力も大事ですが、それだけでは、十分な力とは、いえません。

 踏み込みの力を剣に伝えたり、相手の剣に正しく力を送り込んだりと力以外の要素も多く含みます。

 それ故に最初の睨み合いでの間合いのやりとりが行われる。

 しかし、二度目は、ありません。

 一度斬り合いが始まれば時間を与えるという事は、相手に有利になります。

 一瞬でも、一呼吸でも相手より早く疲労を和らげ、気力を高めて撃ち込まなければなりません。

 それでも、不十分なら、逆に相手を有利にする、そんな状況は、精神力を物凄い早さで削り落としていきます。

 そして先に動いたのは、ムサッシでした。

 刀を両手で上段に構え、一切の虚を除いた純粋な斬り落としです。

 ギガンス将軍は、それをその剣で受け止めようとしました。

 しかし、刀は、剣を切り裂き、ギガンス将軍の額の前で止まります。

「……俺の負けだ」

 潔い敗北宣言に周りのヌノー者達は、悔し気にする中、カーレー様が近づいて斬りおとされた刃を拾い上げて肩をすくめる。

「ギガンス将軍、今回の勝負は、忘れて貰えませんか?」

「帝国の誇りの為にそう言っているのか!」

 睨むギガンス将軍に対してカーレー様は、ムサッシの腕を叩いて言う。

「ムサッシの誇りの為ですよ。こんな武器の差で勝利したなんて思いたくも無いでしょうから」

 ムサッシが口惜し気に頷く。

「はい。拙者もここまで差があるとは、思いませんでした」

 戸惑いを隠せないヌノーの者達に示す様にカーレー様が一振りの刀を取り出して言う。

「ムサッシの程では、無いですけどこれを使って斬ってみて下さい」

 カーレー様は、ギガンス将軍から刀と引き換えに受け取った剣を先ほどと同じ様に構えた。

 言われるままに刀を振り下ろしたギガンス将軍が目を見開いた。

 初めて振るった刀でいとも容易く剣が斬り落とされたのだから。

 誰よりも不満気な顔をしてカーレー様が言う。

「それより上のムサッシの刀とやり合うには、この剣では、力不足過ぎますよ。天包剣もそうでしたが、帝国の人達は、もっと武器に拘るべきですね。いくら壊れなくっても鈍らで勝つには、それこそ格の違うまでの実力差が必要なんですよ」

 更に短くなった剣と引き換えに刀を受け取ってカーレー様が言われます。

「十分な武器を手に入れた時、その時に連絡してください。あちきの誇りを懸けて再戦を行いますから」

「……あいわかった」

 ギガンス将軍もそう渋々了承して、ウチらは、城を後にする事になった。



1119/新練平(02/03)

帝国北東部六将軍の城、オーデス城

蒼札六将軍 ギガンス=アーイン


 ガイアス殿下から蛮族との交渉を行う為に暫し討伐を控える様に通達があり、それに伴う指令書の作成の指示を出した後、俺は、執務室で二度切られた剣を見下ろしていた。

「奴の刀と渡り合うには、足らないか……」

 俺にとって剣とは、消耗品であった。

 良くて一戦、悪ければ戦いの最中でも変えなければ切れ味を維持できない。

 ヘレクス元大将軍も同じだったときく。

 その上で天包剣という決して壊れない武器を使っていたと。

 しかし、俺も天包剣を何度か使った事があるがあれは、剣という形をした鈍器でしか無かった。

 あんな物で敵を斬れるのは、単にヘレクス元大将軍の技量が優れていたからだろう。

 ギルンスは、ソーバトの双鬼姫に通じる数少ない武器として愛用していたが、剣としてなら普段使って居る剣で十分だと思い、俺は、それを使っていた。

 その結果が今日の敗北だ。

 最初の剣戟では、十分な手応えがあった。

 接戦になると思って居た矢先のあの暫撃だ。

 刀で剣を斬られるなんて事なんて想像すらした事が無かった。

 それを成すには、それ相応の技量が必要なのは、理解している。

 俺だからあの剣を斬れたのであって、他の帝国騎士や兵士では、無理だっただろう。

 詰りあの刀は、俺ぐらいにしか使えない帝国軍には、不適当な武器となる。

 帝国軍の最大の力は、数である。

 一本の名剣より百本の良剣なのだ。

 その考えに間違いは、無かったと思って居る。

 だが、敗北した現実が目の前に示されている。

「手に入れなければならないだろう」

 俺は、誰に告げるになくそう口にするのであった。



1119/新練濃(02/04)

帝国北東部六将軍の城、オーデス城の城下町

札無し下働き カレ


「うーん、やっぱり十分な武器は、ないね」

 あちきは、そう言うとヨッシオさんが試しに買った大剣で試し切りで大木を切り落とす。

「俺が傭兵の時に使ってた奴に比べれば何倍もましだぜ」

「普段使ってる大剣の代わりにそれ使える?」

 サレの意地悪な質問にヨッシオさんは、首を横に振る。

「アレと比べたら可哀想だろ。第一、ムサッシの刀に至っては、ミハーエ王国でも有数の武器だろ」

「魔法具でないとしたら間違いなく屈指の武器だよ」

 あちきは、肯定してから続けて言う。

「確かに並みの兵士や騎士が使うならそれでもいいよ。でもね将軍が使うのには、とてもじゃない力不足だよ」

「なんでそんな物に拘っているんですか?」

 コシッロさんが問い掛けて来るのであちきが素直に答える。

「再戦する約束したけど、今回を逃すと実現させるのが凄く難しいから」

「偶々、ナースーさんが居ないこの時じゃないとミハーエ王国に内緒で模擬戦なんて組めないからね」

 サレがそう補足するとムサッシさんが複雑な顔をする。

「拙者の為にその様な無理を成される必要は、ないと思われます」

 あちきは、睨み告げる。

「約束したのは、あちき。だからこれは、あちきの問題なの。ソーバトやダータスだったらそれなりの武器職人がいるのになー」

 ぼやくあちきにコシッロさんが首を傾げる。

「そうなのですか?」

「傭兵仲間の中でも有名な話だ。武器を買うならソーバトかマーグナにしろ。後の場所じゃ騎士用以外は、ろくな武器がないってな」

 ヨッシオさんの言葉にサレが続ける。

「リーモスとナーナンでも多少は、まともな武器が売られている。基本ミハーエ王国の場合、上等な武器を使うのは、騎士だからね。一般向けに良い武器があるのは、対ヌノー帝国で兵士にも良い武器が必要なソーバトやマーグナになるんだよ」

「騎士用だったら各領地で騎士専門の工房があってここより上等な武器を作ってる。んで最上級の武器となると軍事費に際限ないと言われているダータスと駄目親父が色々とテコ入れしていたソーバトじゃないと手に入らないんだよ」

 あちきがそういって頭を悩ませているとコシッロさんが不思議そうにつぶやく。

「それにしても魔法に特化したミハーエ王国よりヌノー帝国の方が武器の質には、拘りそうだと思って居たんですが違うのですね」

 サレが苦笑する。

「拘ってない訳じゃない。さっき言った様にヨッシオさんが持ってる大剣だって悪い訳じゃない。数を武器にする帝国軍としたら数が揃えられる武器こそが最良になるんだよ」

「詰り、俺達が使って居る様な手間暇かかった武器は、御呼びじゃないって事か?」

 ヨッシオさんが普段使って居る大剣を見る。

「ヘレクス元大将軍を除けば将軍が前線に出る事は、少ない帝国軍において突出した戦闘力は、必要ないって事でしょ」

 あちきが例外の事を考えながら言うとサレが続ける。

「ミハーエ王国でそういった武器が発達したのは、魔法が使える騎士こそ最大戦力であり、前線で攻撃魔法を使う以上は、最高の武具で身を護る必要があるからだからね」

「魔法より兵を主とする帝国より魔法を使う騎士が多い王国の方が魔力を介さない武器が優れているというのは、皮肉な話ですな」

 ムサッシさんの言葉にあちきが頷く。

「そんな事情があるからギガンス将軍の使っていた剣があの程度でも仕方ないんだけど、どうにかまともにやり合える武器を手に入れる方法を考えないとね」

「いっそのことこないだ刀を貸し出したらどうだ?」

 ヨッシオさんの提案にムサッシさんが呆れる。

「あの一回だけでもかなり拙いのだ。軍事技術流出に関わる以上無理に決まってるだろう」

「ついでに言えば幾らギガンス将軍が一流である程度刀を使えたとしてもそれを主要武器にしているムサッシと渡り合えない。ギガンス将軍には、帝国で一般的に使う剣形態で最上級な武器が必要になるんだよ」

 あちきがそう付け足す。

「そんなもんあるのか?」

 ヨッシオさんの突っ込みにサレがあっさり諦める。

「無いね。もうソーバトに帰ってから剣を仕立てて改めて模擬戦を行える細工した方が早い気がして来たよ」

 否定したいけど否定できない現状にあちきが突っ伏しているとムサッシさんの気配が変わった。

 あちきも慌てて周囲の気配を探ると不穏な気配が近づいていた。

 すると何かを抱えた少年が必死に走って来た。

 あちき達が武器の試し切りをしていた宿屋の裏庭に接した裏道を抜けようとした所で明らかに札割き連中が追い付いてくる。

「なんて運が無い連中だろうな」

 ヨッシオさんが同情する中、あちきが裏道に飛び出る。

「はーい、そこのお兄さん達、そんな子供を追いかけてまさか、童子趣味ショタコン?」

「ガキが黙ってろ。俺らは、お前みたいなガキには、立ちもしねえよ」

 札割きの一人がそういって無視して少年に詰め寄ろうとする。

 あちきは、笑顔のままその札割きの前に出る。

「誰がガキだって?」

「毛も生えてない様なガキが邪魔すんな!」

 そういって手に持って居た汚れたナイフを振ってくる札割きにあちきは、容赦なく足払いを懸けて空中に浮かせると落下の途中で手のナイフを奪い取り股間の真下にナイフを突き刺して告げる。

「大事な物は、無事だなんてどんだけお子様なのかな?」

「ざっけなー! この舐め腐ったガキを掴まえろ。自分が女に生まれた事を後悔させてやれ!」

 その札割き言葉に他の連中が反応することは、無かった。

 理由は、簡単である。

「どうして自分から危険に近づいていくんですかね?」

 コシッロさんが札割きの一人に剣を突きつけながら言う。

「苛立ちの解消だろ? 本気でついてない奴等だぜ」

 ヨッシオさんが地面と熱烈なキスを三人目の札割きにさせながら言う。

「やはりもう少し貧民街から離れた宿をとるべきでした」

 後悔の表情を浮かべながらも五人の札割きを戦闘不能にしてるムサッシさん。

「残念だけどあんたも逃がさないよ」

 サレがついでとばかりに少年を掴まえていた。

「放しやがれ! 俺は、コレを守らないといけないだ!」

 必死に少年が守ろうとする腕の中のそれにあちきが気付いた。

「それって剣だよね? 盗んだ風には、見えないけど家宝か何か?」

「違う! これは、師匠の渾身の一振りだ! これだけは、札割きなんかには、渡せねえ!」

 少年がその叫びに地面に倒れていた札割きが怒鳴る。

「黙れ! お前の師匠は、俺達の親分が囲ってる鍛冶屋なんだよ。その鍛冶屋が作った剣を俺達の物になるのが当然だろうが!」

 少年は、悔しそうに睨むがさっきの様な強い言葉は、出てこない。

「そうだとしても……、師匠は、師匠は、本当は……」

 あちきが手を叩く。

「帝国でも極上の武器を欲しがる連中が居たわ」

「いきなりなにを言い出すんだよ」

 ヨッシオさんが言葉にあちきが続ける。

「札割きの様な他人を信じられない連中、それも戦闘を生業にしてる連中だったら質の良い武器を求めて採算を抜きに極上の鍛冶屋を囲って居る可能性があったんだよ」

「確かに分不相応の武器を持って居ますね」

 コッシロさんが剣を突き付けた相手の武器を品定めする。

「その剣を見せて」

 あちきが笑顔で要求するが少年は、体全体を使って剣を庇う。

「駄目だ! これは、これを使いこなせるだけの剣士に渡すんだ!」

「その為にもその剣を品定めしたいんだって」

 あちきが更に言うが少年が背を向ける。

「駄目ったら駄目だ!」

「無理やり奪ってみれば良いだろう」

 面倒そうに奪おうとするヨッシオさんにサレが突っ込む。

「それってそこに居る札割きと同じ事しようとしてる?」

 ヨッシオさんの手が止まる中、あちきは、コッシロさんにお願いする。

「コッシロさんの剣を見せてあげて」

「解りました。少年、この剣を見てそれで判断して貰えるか?」

 コッシロさんは、札割きを牽制していない方の剣を見せる。

 その剣を見て少年が驚きの表情を見せる。

「凄い……、剣の種類は、違うけど師匠の剣と同じくらい凄い剣だ!」

「そういう事。こっちの三人は、間違いなくその剣に負けない実力をもってるよ」

 あちきが保証すると少年は、剣を包んでいた布を外してその剣を見せてくれる。

 飾りが無いが確りとした柄と鞘、そこから抜き出された刀身は、野暮ったいとも言えるがそこには、鍛冶屋の良い剣を作りたいと鎚を打った痕が見える。

「良い剣だね。でも残念だけど鉄が悪いね」

 あちきのその判断に少年が反発する。

「そんな訳ない! 師匠は、元にした鉄器を一個一個丹念に確認してまで厳選した鉄で作ったんだぞ!」

 その時点であちきには、この剣の原材料が使いまわしだと解る。

「再利用が悪いって言わない。でもね、本当に最高の一振りは、その為に用意した地金もしくは、鉄鉱石から打ち出すんだよ。理由は、簡単でね。刃と刃の最後のせめぎ合い、そこに僅かな淀みすら許されないから」

 あちきは、そういってあちき用の刀を見せる。

「これは、複数の金属を使って打ってるけどね、それには、刀鍛冶の研鑽の結果しか入って居ない。一筋の混じり物すら許されないのそれを打ってこそ最高の一振りになる」

 少年は、あちきの刀をただ見惚れていた。

 見る目は、在るみたい。

 ならばこの剣を打った鍛冶屋は、間違いなく名工だ。

 あちきは、さっきから口では、大きな事を言っているが立ち上がる気配のない札割きに尋ねる。

「それじゃあ、貴方達のねぐらに案内して。大丈夫、話し合えば親分さんもきっと解ってくれるから」

「良いだろう! 後悔するんじゃねえぞ!」

 そう言いながらも立ち上がらない札割きを見てサレが尋ねる。

「腰が抜けて立てないんだったらヨッシオさんに担がれる?」

「誰がそんな情けないことするか!」

 そう叫んだ札割きだったが、数分後には、ヨッシオさんに担ぎ上げられて運ばれる事になるのであった。



1119/新練濃(02/04)

帝国北東部六将軍の城、オーデス城の城下町の札割きのアジト

札無し少年 タララ


 俺は、札無しだ。

 間違っても犯罪を犯して札割きになった訳じゃない。

 産まれた時から札無しだった。

 俺を生んだ親は、帝国に侵略された国の人間だったらしい。

 意地を張って札を持たず、まともの仕事も出来ずに野たれ死にしたそうだ。

 師匠に拾われた俺は、師匠の元で雑用を続けていた。

 師匠は、元々は、普通の鍛冶屋だったらしい。

 しかし、取引をしている商人からもっと数を打てと要求されるのを拒み、仕事が減っていった。

 そうこうしている内にまともな武器屋に降ろせなくなった師匠が最後にたどり着いたのは、札割きの所だった。

 札割きの連中だって数が欲しいだろうが、それよりなにより自分だけのより良い武器を求めていた。

 それに師匠は、答え続けていた。

 そんな師匠だったが、そんな生き方が真っ当だと思って居た訳では、無かった。

 渾身の一振り、それを打ったら札割きの連中との取引を止めて鍛冶を辞めると言っていた。

 俺は、勿体ないとも思った。

 でも、札割き達の為に師匠の技を使われるのは、やっぱり嫌だった。

 そして打たれたこの一振り。

 師匠は、それを打ってから満足した様に頷くと鎚を置いた。

 それから一振りの剣を打って居なかった。

 当然、札割きの奴等は、怒ったが師匠は、平然としていた。

 殴られようがどうしようが気にせずにいた。

 挙句、商売道具の手すら失うかもという所で札割きの一人が気付いてしまったのだ、師匠の渾身の一振りを。

「それを武器屋に売って逃げろ!」

 俺は、師匠に言われるままにそれをもって逃げた。

 逃げ切れる訳がないと解って居た。

 それでも俺は、師匠に受けた恩を返す為に必死に走った。

 貧民街を抜けられたのは、奇跡だと思った。

 師匠は、きっとこれを売った金で俺を逃がそうと考えて居たんだと思う。

 でも、そんな事は、どうでも良かった。

 俺は、この剣を、師匠の渾身の一振りを表の世界に出したかった。

 もう少し逃げ切れば表通りに出られるけど、札割き達は、もうすぐ後ろまで来ている。

 最後の力を振り絞って走る中、変な女に会った。

 そいつは、追って来た札割きの一人をあっさりと倒していた。

 その札割きの言葉に残りの札割き連中が襲ってくるかと振り返ると、もう終わっていた。

 その後、見せられた女の連れのおばさんの剣。

 師匠の剣と同等とも思えたその剣に俺は、驚いた。

 それで俺は、師匠の剣を見せたが返った来たのは、駄目だしだった。

 元の鉄が悪い。

 そんな事は、解って居た。

 札割きがまともな材料を仕入れられる訳がないんだ。

 師匠の所に運ばれてくるのは、折れたりして使えなかった武器だった。

 師匠は、それを時間をかけて純度を高めて使っていたがそれに限界があるのも理解していた。

 それでも俺は、師匠の渾身の一振りを信じたかった。

 そんな俺に対して女は、見せて来た刀は、反論の全てを打ち砕く力があった。

 あんな剣を見せられたら俺も何も言えなくなった。

 師匠の渾身の一振り、それが最高の一振りだという俺の思いもまた打ち砕かれたからだ。

 俺は、どうしようもない脱力感に苛まれる中、そいつ等は、何故か俺や札割き達を連れてその根城にやって来ていた。

「お前等、何の用……」

 問い掛けが終る前に大剣の男、ヨッシオがそいつをぶちのめし。

「こんな事をしてタダで……」

 脅しが終る前に双剣の女、コッシロがそいつの得物を切り裂く。

「絶対にこの先には、通さない……」

 決死の覚悟を語り終える前に刀の男、ムサッシがその男の下着まで一振りで真っ二つにしていた。

 悠然と俺に話しかけた女、カレとそれとそっくりなサレが進んでいく。

 札割き達は、必死に止めようとするが、その歩みが止まる事は、無かった。

 そして師匠の所に到着するとカレは、ムサッシから刀を受け取るとされを師匠に差し出して言う。

「これに負けない剣を打てる?」

 師匠は、その刀を凝視し続けた後、俺の所に来ると、渾身の一振りを炉に投げ込んだ。

「鉄と鍛冶場は、用意出来るんだろうな!」

 師匠のその言葉にカレがニヤリと笑った。

「そっちは、なんとかするよ。さてと、それじゃあ、後始末は、どうしますかね?」

 そのままカレは、振り返るとその視線の先には、この根城の札割きの親分が居た。

「随分と好き勝手してくれた様だな。この落とし前は、きっちりとつけさせて……」

 その言葉が終る前にカレは、背中から大きな輪っかを取り出すと天井をぶち抜き、サレがなげた小さなそれは、周囲の壁を粉砕していく。

 僅かな時間で俺達の居た場所は、野ざらしにされていた。

「どんな落とし前がお望み?」

 カレの微笑みに札割きの親分は、言葉も無く消えていくのであった。



1119/新練平(02/04)

帝国北東部六将軍の城、オーデス城

蒼札六将軍 ギガンス=アーイン


「そういう訳で鍛冶場と鉄を用意して。後、ギガンス将軍専用の剣にするんだから型を見せるのと体の確認もね」

 突然来訪したカーレーの注文の俺は、どう答えるべきか流石に悩んでいた。

 そんな俺に代り側近の一人が文句をつける。

「どこの馬の骨かも解らぬ鍛冶屋にギガンス将軍の剣を作らせるつもりか!」

 カーレーは、あっさりと頷いた。

「そうだよ。少なくとも昨日使っていたあの剣より何倍もましな剣になる。文句あるんだったら、ムサッシの刀で切れない剣を用意しなよ!」

 睨みつける側近を抑え俺が言う。

「良いだろう。俺も新しい剣を作ろうと考えて居た所だ」

「話は、ついたな、まずは、型を見せろ。お主の剣を作る最初は、それからだ!」

 元札割きの鍛冶屋は、恐れる事無くそう言って来た。

 俺は、苦笑しながらも剣の型を見せた。

 その後、体の隅々を触られた。

 特に手は、重点的に確認される。

 その後は、籠城時に武器を打ち直す為に用意されていた鍛冶場で作業が始まるのであった。



1119/新練深(02/05)

帝国北東部六将軍の城、オーデス城の鍛冶場

札無し少年 タララ


 昨日から師匠は、ひたすら剣を打っていた。

 何本も何本も。

 そのどれもが俺があの時の剣より凄い出来だった。

 それでも師匠は、納得しなかった。

「こんなもんじゃ、あの刀には、勝てない!」

 そういって、師匠は、剣をひたすら打っていた。

 俺は、それを出来るだけ助ける為、ひたすらに動き続ける。



1119/新練深(02/05)

帝国北東部六将軍の城、オーデス城

蒼札六将軍 ギガンス=アーイン


「取り敢えず、どれだけ違うか試してみたら」

 夜の帳が落ちる中、未だに鍛冶屋の鎚の音が鳴り響く中、そういってカーレーが差し出した一振りの剣を受け取り、俺は、剣を振った。

「……」

 言葉が出ないとは、この事だった。

「全然違うでしょ? 自分の為に打たれた武器って言うのは、体の一部って言っても良い。あちきの大魔華双輪や神器、天包剣の様なとんでもない力は、出ない。でもね、自分の持つ全力を間違いなく振るえるんだよ」

 カーレーの言って居る意味が否応にも理解出来た。

 天包剣を使って居る時の様な大きな力を振るわされている感じもなければ、今まで使って来た並みの剣を使っていた時の様な、剣に自分を合わせる事も無い。

 自分、本来の剣が振るえる。

 それがこんなにも己を満たす物だとは、考えた事も無かった。

「良いのか? 俺にこんな剣を渡しても?」

 俺は、そう問いかけていた。

 カーレーの立場から考えれば帝国の将軍を強くするような真似に意味があるとは、思えなかった。

 次の瞬間、カーレーの大魔華双輪が手の中の剣を打ち砕いた。

「あちきには、問題無いから」

 そういってカーレーは、去っていった。

 傍に控えて居た側近の一人が去っていった方を睨み言う。

「ギガンス将軍を馬鹿にしおって!」

 それに俺は、苦笑する。

「だが真実だ。俺専用の武器があった所で誓約器を持ったミハーエ王国の上位者には、全く無力なのだからな」

 苦々しい顔をする側近達に対して俺が告げる。

「安心しろ。それが無力なだけで誓約器対策は、既に行われている」

 もうすぐ将軍になるチュメイから提案があった対誓約器用の装備の開発は、既に開始されている。

 その上で俺は、更に強くなる必要がある。

 その為にも俺は、俺専用の武器を手に入れる必要を確かに実感していた。



1119/新鳶薄(02/07)

帝国北東部六将軍の城、オーデス城

蒼札六将軍 ギガンス=アーイン


「マジで誤魔化せる限界なので、現時点で最高の武器で試合って事で妥協してもらいます」

 カーレーの宣言に不満そうな顔をする鍛冶屋、マムサメを他所に俺は、昨夜打ちあがったばかりの剣を握る。

 あの夜から新しい剣を手にするたびにその質が上がってきていることは、実感している。

 だから俺は、それを受ける事にした。

「了解した。やろうでは、ないか」

 こうしてムサッシとの再戦が始まる。

 前回は、間合いのやり取りで長々と時間を使っていたが、今は、そんな事をする気は、しなかった。

 俺は、自ら踏み込み、全力で剣を薙ぎ払う。

 最小の動きで躱したムサッシの刀が俺に迫ってくるが、その刃の先には、俺の剣が割って入った。

 力を籠めて押し返すと大きな間合いを空けるムサッシ。

 今にして思えば前回の戦いの時、俺は、剣を全く信用していなかった。

 だからこそ、体をぶつけ相手を牽制した。

 しかし、剣が信じられるのならば、もっとやり方があったのだ。

 少なくともそれだけで戦いに大きな幅が生まれた。

 そんな事を考えて居る間にもムサッシが前回同様に大きく刀を上段に構えた。

 俺も前回同様に剣でそれを受けた。

 そして結果は、違った。

 俺の剣は、ムサッシの刀を受け止めていた。

 だがそれで終わりでは、無かった。

 本来、前回でもあった筈のその先が行われる。

 刀身が滑る様に引かれ、突きが襲ってくる。

 俺は、最小限の動きでその突きを躱すと同時に剣を振り下ろしていた。

 選択肢が増えるという事は、こういう事だ。

 剣で防ぐという選択肢を選ばない事で俺は、攻撃に繋げられた。

 これがもしも最初から剣で防ぐという選択肢が無ければムサッシは、間違いなく、この攻撃に十分な対処がとれていただろう。

 その結果、お互いの攻撃は、空振りに終わる。

 自然と笑みが零れて来る。

 今までは、なんと不自由の戦い方をしていたのかと。

 武器が変わったそれだけでここまで戦い方に広がりが出来、強くなれる。

 今まで考えて居た自分の限界がどれだけ低かったのか思い知らされる。

 だからこそ、俺は、剣を力の限る振るうのであった。



「まだまだ届かんかったか!」

 マムサメが切られた刃に憤りの声をあげていた。

「半分は、俺の未熟さだ」

 俺のその言葉に嘘偽りが無い。

 本当に限界だったのだろう、試合が終わるとソーバトの双鬼姫達は、即座に退散した。

 当然、追跡の兵は、放って居るが、俺の周りに居る側近達は、暗い表情を浮かべていた。

 ムサッシとの戦いは、あの後、数合の打ち合いの後、俺の剣が斬られた。

 今度こそ俺の敗北として認めさせた。

 それが側近達には、口惜しいのだろう。

 そんな側近達に俺は、告げる。

「何を暗い顔をしている。今俺は、更なる力を得れる確信を得たのだぞ?」

 俺の言葉に側近達は、戸惑い、その一人が告げる。

「それでも大魔華双輪や誓約器には、無意味なのでは?」

 俺は、それにあっさりと頷く。

「そうであろう。しかし、それには、帝国の最大の力で当たれば良いだけの事。この力は、別の所で使えば良い。それだけでは、ないのか?」

 意表を突かれたって顔をする側近達に俺が語る。

「俺が、俺達が戦うのは、ミハーエ王国のみでは、ない! その他に多くの敵が居る。それと相対する時にこの力は、大きな助けになろう。それとも俺の力では、いくら強くなろうとも大して意味がないと言いたいのか?」

「そんなことは、ありません! そうです! ギガンス将軍が更なる力を手に入れれば帝国により大きな栄光を得られる事でしょう!」

 側近達の表情が明るくなる。

 そして俺は、マムサメに告げる。

「そういう訳だ、これからもよろしく頼む」

「当然じゃ、絶対にあの刀より優れた剣を打って見せようぞ!」

 マムサメの勝るとも劣らない気迫に俺は、更なる飛躍の可能性をみるのであった。

よく弘法筆を選ばずって言葉がありますが、最も最前線に立つ人たちってきっと細部まで拘っていると思うんですよね。

作中でもありましたが、魔法優先のミハーエ王国がそうでない他の国より優れた武器を作れるっていうのは、かなり不思議な状況ですよね。

因みに作中時間では、まだギルンスは、死んでいません。

次回、マーグナ紙幣の攻防

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