528 スキー板の活用と北の帝国軍事情
ただ抗議するだけの話
『
1118/白紺濃(12/16)
ヌノー帝国北西部雪山の麓 ゲレッテ
蒼札皇子 ガイアス=ヌノー
』
「という訳で対処をお願いします」
鉄道走行車の駅がある町まで呼び出したサーレーの要求に私は、問い返す。
「すまないが詳細を教えてくれないか?」
「あーあー聞いちゃった」
珍しく同行しているカーレーの呟きに嫌な物を感じながらも私は、訂正をしない。
この双子の事だ。
あんな言い方をしたのも、何かしらの思惑があってだろう。
だが、それを知らずに放置して問題が大きくなった場合、私の責任になりかねない以上、聞かない訳には、行かなかった。
「聞かれた以上説明しましょう。こちらにどうぞ」
サーレーに先導されて外に出て暫く言った所で一つの商店があった。
その店先に売られている物を指さす。
「何でソーバトのみが製造販売している筈のスキー板の模造品が売られているんですかね?」
私は、頭を巡らせてそこで売られているスキー板についての知識を掘り起こす時間稼ぎをする。
「そういえば伝達に来たカタハは、まだ到着していないのだな?」
「別段合流を急がなくても良いって言ってあるから倹約家のソウハが馬鹿高い鉄道走行車を使う訳ありませんから」
カーレーの説明に私が納得する。
私がここまで来るのに使った鉄道走行車は、軍用であり、主に軍人や軍事物資を搬送する為の物である。
平時は、商人が商品の発送にも使っていて人も乗れるが、その料金は、けっして安いものでは、ない。
「小金を惜しむ報酬を出していない筈なんだがな」
私の呟きにカーレーが肩をすくめる。
「訓練用だって魔帯輝を買い込むからね」
「それは、いくらあっても足らんな」
私は、そう同意をしつつ、掘り起こした情報の整理を済ませてから告げる。
「確かスキー板は、軍事物資扱いをされていると記憶しているが、それがどうしてこの様な売られ方しているのだ?」
「それは、本来単なる移動手段の一つでしかないから。模造品を安くすれば民間でも売れますよ」
カーレーの説明に私は、疑問を口にする。
「そもそもどうしてそのスキー板が軍事物資扱いされて製造販売制限を受けて居るのだ? 強い理由が無ければ正式に製法を買ってこんな模造品を売らせない様になるのだがな?」
サーレーが少し考えてから近くにあった店を指さして言う。
「ここで長話するのもなんだからそちらの奢りでお茶を飲みながら話をしませんか?」
側近の者達が直ぐさま確認して問題ないと判断したので私は、応じる。
「どうぞお好きな物を注文して下さい」
席について直ぐに先ほどの言葉を後悔したくなった。
ソーバトの双鬼姫は、席につくと同時に大量の注文をしたからだ。
「そんなに食べれるのですか?」
私が呆れ気味に聞くとカーレーが最初に来た焼き菓子を齧りながら答える。
「あちき達は、元の国じゃ色々あって結構食事に困ってたから、金持ちから奢られる時は、限界まで食べる事にしてるの」
ミハーエ王国領主一族とは、思えない考えだが今更なのでそこは、追及するのは、止めよう。
グラスの果汁に口をつけながらサーレーが尋ねて来る。
「さっきの件だけど、根本的な処から話すと長くなるね。簡単にすませるなら一言で済むけど?」
個人的には、ソーバトの双鬼姫との神経を使う会話を長々としたくないので簡単な説明で済ませたいが、話の根幹が解らないままでは、正しい判断を下せるとは、思えなかった。
「根本の所からでお願いします」
私のその答えにサーレーが出題してくる。
「何故寒い季節の戦争が避けられると思う?」
「やはり収穫も少なく、十分な兵站が賄えないからでは?」
私は、以前に教師から聞いた答えを口にするとサーレーが苦笑する。
「要因の一つだけど、実は、それは、対処方法がある。保存性が高い物を白旬(十一月、十二月)までに貯め込んでおけば良いんだからね。実際に帝国が雪解けと同時に侵攻した時の食料は、そうやって集めたものでしょ?」
確かにそうだった。
「そうするとやはり雪ですか?」
私の答えにサーレーが頷いた。
「そう、正確に言えば雪による移動速度の極端な低下が問題なんだよ。寒さもきついけどそれだって暖をとる手段を用意すれば回避できる。だけど移動速度の低下は、兵站の増大や作戦行動の遅延にも繋がる。この問題が解決出来ないと寒い時期、雪が積もる時期の戦争は、現実的とは、言えない。ここまでは、理解出来た」
この話の流れを聞けば何が言いたいのかは、解ってくる。
「詰り、スキー板が移動距離の低下を抑制する事で雪が積もる時期の侵攻も可能になると言いたいのですか?」
私の指摘に対してサーレーが軽い否定をしてくる。
「そこまで極端じゃないけど、少なくとも先行部隊として送り出して国境くらいは、侵攻可能だよ」
それは、かなり有益な事だった。
戦争とは、時間との勝負である。
もしも前回の侵攻でそれが行えたのならば侵攻速度は、かなり高くなっていた事だろう。
「まあ、口先だけどどうこういっても理解し辛いだろうからこれをみてよ」
カーレーは、そういって砂糖の壺を中央に押し出してそこに円錐にした氷をおいて見せる。
「平の部分で置けばそんなに沈まないよね。でも逆にするとこうなる」
カーレーは、そう言いながら氷を逆さにすると氷は、砂糖に埋まっていく。
「詰り、その状態が人が歩く時であり、先ほどまでの状態がスキー板を使った状態を意味するのですね?」
私がそう答えるとカーレーが肯定する。
「そうだよ。結局の所、雪の上を移動するので大事なのは、重量に対して雪に面する面積がどれだけ大きいかなんだよ。それが大きければ大きい程、沈みづらく行動しやすくなる」
「ついでに言えばスキー板は、摩擦を減らす事で斜面を滑る事も出来る。実は、ここまでだったら、帝国にも似たような物がある。雪駄という靴や木の板を使った移動手段とかもね。スキー板の一番優れている部分は、斜面を登れるって事なんだよ」
サーレーの補足説明に私は、首を傾げた。
「斜面を登れるのが凄い? 普通に登れる物じゃないのか?」
「あのね、雪山を昇るのって大変なの。それが比較的楽に行えるスキー板は、雪中移動で一番総合力が優れていると言えるね」
カーレーがそう断言し、それに続けるようにサーレーが結論を口にする。
「そういう訳でミハーエ王国を侵攻する可能性のある国に高性能なスキー板が渡ると防衛上の問題になんで、軍事物資として輸出に制限がかかっているんだよ」
話の概要は、理解出来た。
確かにそういった物であれば他国にそうそう渡せる物では、ないな。
「それでしたら帝国は、ミハーエ王国に攻める事は、ありませんから問題ないのでは?」
そう自分でも白々しい事を告げるとサーレーが微笑む。
「それを本気で言ってる? この状況をミハーエに伝えれば輸出の完全停止もあるけどそれで良い」
妥協の余地は、あまり無い様だ。
「軍事関係となると私の一存では、どうにもできません。直ぐに帝都に確認をとり対処させて頂きたいのですが?」
私は、そう引き延ばしにかかる。
「三日後には、ソーバトへ報告しますね」
サーレーのその言葉に私は、頭を下げる。
「ありがとうございます」
そう答えながら、この後は、死ぬほど忙しくなると覚悟を決めるのであった。
『
1118/白紺濃(12/16)
ヌノー帝帝都、アレキスの執務室
蒼札皇太子 アレキス=ヌノー
』
『以上の状況での交渉の為にスキー板の軍事的評価情報をお願いできませんでしょうか?』
ガイアスからの要求に私は、即座に応じる。
「解った。こちらで直ぐにまとめてそちらに送る。それまでの間にソーバトの最新の交渉内容の確認をしておいてくれ」
『了解しました』
ガイアスは、そういって木霊筒の通信を終えた。
この後、お互いの配下の人間が木霊筒でやり取り、交渉内容を伝達する事になるだろう。
「イカルス、スキー板に関する軍事的評価を早急にあげる様に通達してくれ」
私の命令にイカルスが即答する。
「既に配下の者をポセント大将軍の元に走らせております」
何時もの事だが、こちらの要求に即座に対応してくれるイカルスは、実に優秀な臣下だ。
「しかしソーバトの双鬼姫も随分と小事で動いて居りますね」
イカルスは、スキー板関連の資料を用意しながらそう口にした。
「小事か……」
私の呟きにイカルスが続ける。
「はい。決して安いとは、言えませんが寝具等と異なり販売先が限定されている為、その規模は、小さいかと」
私も資料の一部に目を通して肯定する。
「金銭的な面で言えばそうであろう。この場合、問題としているのは、軍事面かもしれん。それについては、ポセント大将軍の対応待ちだな」
そうして執務を継続していると、配下の一人が慌ただしい様子でイカルスに報告を入れる。
それを聞いたイカルスが少し怪訝そうな顔をしていたがこちらに許可を求めて来た。
「ポセント大将軍が先ほどの件でアレキス殿下への直接の返答を行いたいとの事ですが如何いたしましょうか?」
「ポセント大将軍が直接動く事なのかもしれない。通せ」
私の答えに配下の者達が足早に外に向かい、ポセント大将軍が入って来た。
「アレキス殿下の貴重な時間を頂き、感謝致します」
ポセント大将軍のその言葉に私が返礼する。
「こちらから要請した事だ気にする事は、ない。それよりも貴殿が直接足を運ぶような事案と考えて良いのか?」
ポセント大将軍が連れて来た軍部所属の文官にいくつかの資料をイカルスに提出させながら答えて来る。
「スキー板の件ですが、北東方面の蛮族撃退において高い成果を上げており、輸入枠の増加を要請する為の準備を進めておりました」
イカルスが提示してきた関連個所の資料を一読してから私が言う。
「確かに独自の移動手段で撤退する蛮族への追走において高い性能を見せている。これならば輸入枠の増加も考慮に値するな」
それも含めた意味でポセント大将軍が直々に説明に来たのであろう。
「軍部でも極秘で複製を試みて居りますが、特に有益な板と靴を固定する器具が高度で未だソーバト製には、遠く及ばないのが現状です」
思わず苦笑してしまった。
「一応は、ミハーエ王国でもソーバトだけの製造販売とされている。十分に気を付けるのだぞ」
「はい。ギガンス将軍もその点に関しましては、十分の配慮していると判断出来ます」
ポセント将軍のその返答を受けて私が小さくため息を吐いた。
「そうなると民間の模造品販売をソーバトの双鬼姫に報告されるのは、色々と面倒だな。先にリースー王子に一報を入れて、その対策の交渉に乗じて輸入枠の増加に斬り込む事にしよう」
「アレキス殿下のご配慮に軍を預かる者として感謝致します」
頭を垂れたポセント大将軍が再び頭を上げた時にイカルスが声を掛ける。
「ポセント大将軍、一つ確認したいのだが、私の記憶間違えでなければ北西部でも同じような蛮族の反抗戦が行われていた筈だが、そちらには、スキー板は、有効で無かったのか?」
ポセント大将軍の顔がなんとも言えない物に成ったがそれでも実直な性格故に答える。
「イカルス殿の記憶に間違えがありません。ただ、スキー板も安い物では、なく、それを一定数配備するのを上から命令出来ません。それをしてしまえば六将軍権限への干渉となってしまいます」
軍部の力関係と言う奴だな。
基本、軍での大将軍の命令は、絶対である。
しかし、六将軍は、各方面を任されている事もあり、かなりの権限を有している。
徴兵や装備品、騎士兵士の配置等々、そういった権限への干渉は、あまり好まれない。
大きな反発を呼ぶ、特にポセント大将軍は、仮の大将軍と侮る者もいる以上、あまり権限への干渉は、避けたいのだろう。
その事を置いておいても気になる事があった。
「アーイン家の後ろ盾があるギルンス将軍が蛮族対策に有効なスキー板の購入を行わない程資金不足しているとは、思えないのだがな?」
実際に天包剣等をアーイン家の資産で用意した事もある。
私の疑問にポセント大将軍の答える。
「それですが、対魔極獣装備を優先して購入を進めています」
「……どういう事ですか?」
イカルスが思わず聞き返すのも解る。
魔極獣は、四体発見され、それぞれが魔帯輝の属性に準じている事から残り六体居ると考えられているが、この広い大陸の中でその残りの六体の内の一体でも帝国にいる保証など全くない。
帝国内で発見された二体やミハーエ王国で発見された二体の距離を考えれば、西方部で発見された以上、北西部で発見される可能性は、低い。
それこそ北東部の方が可能性が高いだろう。
それなのに何故その様な準備の必要があるのかまるで理解出来ない。
そんな私達の考えに気付いたのかポセント大将軍が口にする。
「終戦魔法戦争以降、帝国は、他国侵攻を制限しています」
「当然だ。ミハーエ王国に敗戦し、これを好機と領土奪還に動き出した周辺諸国への対応でとてもでは、ないが侵攻を行える訳がない」
私の言葉に続けるようにイカルスが言う。
「そもそも、侵攻の要であったヘレクス元大将軍が居ない今、今まで通りの侵攻が行える訳がありません」
その言葉にポセント大将軍が苦笑するのを見て慌ててイカルスが続ける。
「ポセント大将軍を批判している訳では、ありません。それどころか私個人としては、現状が帝国にとってよりよい状況になっていると考えて居ます」
「元より仮初の地位、その様なお気遣いは、不要です」
ポセント大将軍の言葉に対して私は、はっきりと告げる。
「配慮などでは、ない。実際に帝国の景気が向上し、ミハーエ王国への賠償金を支払いを除いても帝都の財政は、上向きになっている程だ。軍事的な面でも、鉄道により迅速な兵力の輸送が可能になり、こと防衛に関しては、間違いなくヘレクス元大将軍がいた時代より向上していると想定していたのだが違ったのか?」
敢えて問い掛ける様にしてポセント大将軍の答えを促す。
「はい。現行の国土防衛という面では、確かに以前よりも向上しているのは、確かです。しかし、それは、私個人の力というよりもミハーエ王国の技術提供が大きいと思われます」
「謙遜するな。それを有益に使える様にしているのは、お前の力量だ。我等皇族は、お前の力を信じ、大将軍という地位を預けている。その事を忘れないで貰いたい」
私の言葉にポセント大将軍が頭を下げる。
「勿体なきお言葉です。その言葉に報える様にこの身を賭して職務に当たらせて頂きます」
「それで、話がそれたが、何故ギルンス将軍が魔極獣装備を揃えているのだ?」
私が改めてそう問うとポセント大将軍が答える。
「侵攻無き現行で将軍としての一番の功績、それが魔極獣討伐なのです」
イカルスが呆れた顔をする。
「馬鹿々々しい話だ。遭遇するかも解らぬ魔極獣討伐の準備をするよりも国土防衛に予算を割くのが本来の六将軍の役目であろう」
イカルスの言う通りである。
父上が皇帝の地位に着いてからの帝国軍は、侵攻は、大将軍の仕事であり、六将軍の真の役目は、侵攻の隙を突いて攻めて来る周辺諸国の軍から国土を護る事なのだ。
それが功績を求め、魔極獣討伐の準備を優先し、国土防衛に有益なスキー板を購入しないなど本末転倒も良い所である。
しかしながら、防衛に関して言えば大将軍からの命令するというのは、あまり好ましくない。
後々に悪い前例として残さず、侵攻を行う大将軍が兵力不足だと防衛の兵力を要求する可能性を防ぐ為の配慮である。
「実際の防衛戦では、問題ないのか?」
私の問い掛けにポセント大将軍は、複雑な表情を見せる。
「北の蛮族の侵攻は、防いでおります」
その言い方が全てを物語っていた。
「詰り、北東部の様に追撃まで成功させていないという所だな」
私の予測をポセント大将軍が肯定する。
「はい。ギルンス将軍からは、雪の中の追撃は、元々有効では、ないとの返答を受けて居ます」
イカルスが大きなため息を吐いている。
「その為の装備の予算を無駄にしておいてそう言うのですか?」
ポセント大将軍は、何も答えない。
私は、話を根本に戻す。
「その件は、別個処理をするとして、今回のソーバトの双鬼姫からの通告だが、軍としての要望を聞かせて貰おう」
「民間の模造品でスキー板の輸入が停止されるのは、軍としては、容認できません」
ポセント大将軍のはっきりとした答えに私が応じる。
「確かな成果も上がっている以上、当然の答えだな。解った。この件は、民間の販売を全面的に禁止するのと引き換えにリースー王子を通じてミハーエ王国の中央からの圧力をかけて輸入枠の増加を進めよう」
「アレキス殿下に御手間をお掛けするに相応しい結果を出す事を誓います」
そう宣言してポセント大将軍が退室していく。
「さて、問題は、ソーバトの双鬼姫だが、単純な通告だけで終わるか?」
私の呟きにイカルスが応える。
「そこは、ガイアス殿下にお任せしてみればどうでしょうか?」
「そうだな、ガイアスだったら、より帝国に利益になる形にしてくれるだろう」
私は、そう決めて、リースー王子との交渉の準備を始めるのであった。
『
1118/白紺深(12/17)
ヌノー帝国北西部雪山の麓 ゲレッテ
札無し下働き サレ
』
「民間での販売は、全面的に禁止となりました」
ガイアス殿下がそう告げ、販売店に兵士を連れて販売停止命令を告げる文官を示す。
「随分と早い対応ですね?」
少し意外そうな顔でカレが尋ねるとガイアス殿下は、完全な作り笑顔で応える。
「帝国は、ミハーエ王国との契約をそれだけ重視していると言う事です」
「密かに軍でスキー板の模倣しているのを誤魔化す為じゃないの?」
僕の突っ込みにも平然とした顔でガイアス殿下が返して来る。
「何の事だが解りませんが?」
何気に面の顔が厚いんだよな。
「こっちとしては、こっちの利益が侵害されなければ問題ないよ」
そう僕が話を終わらせようとした時、ガイアス殿下が雑談の様に話始めた。
「そういえば、昨日の事ですが、安売りをしていたスキー板で楽しく遊ぶ子供達を見ました。その中でもっていない子がいたのですが、その子は、今日にも買って貰って皆と遊ぶんだと言って居たのがほほえましかったですな」
カレが半眼で突っ込む。
「業と言っているよね?」
「いえいえ、単なる感想であり、貴女方とは、全く関係ない話です」
ガイアス殿下が誤魔化しに入るが僕が斬り込む。
「さっきのは、嘘でしょ? スキー板の購入層は、主に雪山に仕事に行く大人。だから子供に買い与える程安くない筈だよ」
「それが、スキー板の製造は、失敗が多いらしく、その失敗策を子供用として売っているらしいですよ」
ガイアス殿下の言葉に僕がスキー板の販売店の様子を思い出す。
確かに長く伸ばそうとして失敗した物を適当に斬りおとしたとしか思えない粗悪品が売られていた。
ニコニコ顔のガイアス殿下の前から僕達は、立ち去る。
「絶妙な線を攻めて来たね」
カレの言葉に僕が頷く。
「絶妙ですか?」
コシッロさんの言葉にカレが応える。
「そう絶妙だよ。今回の件は、完全にあちらの落ち度、それを改善するのに代償なんて必要ない。敢えて代償を求めるのなら対処するからこれからの輸入数を増やしてって交渉するくらいなんだよ」
僕が続ける。
「だからこちらとしては、あちらに明確な利益になる物を渡すことは、ない。それを踏まえた上でただこちらに言われっぱなしにならないようにするには、どうしたらいいかって事なんだけど、そこでガイアス殿下が考えたのが子供の遊びを利用する事。一見すると帝国側には、何の利益もなく、それで居て一方的にミハーエ王国に言われるままじゃないって印象を与える。これが実利に触れて居たら僕達が動く事ないから感情面だけで圧力をかけて来た。なかなか考えられた手だよ」
「無視すれば良い事だ」
ナースーさんがそうバサッと斬るがカレは、気にせず話を続ける。
「無視するのも負けた気がするからね。どうにかしてあちらの利益にならず子供達に新しい遊びを提供する方法を考えないとね」
「スキー板が軍事物資なんですから難しいのでは?」
ムサッシさんの疑問に僕が少し考えてから答える。
「そこだよ。軍事物資でなければ良いんだよね。スキー板から軍事物資になる要素を抜けば……」
思いついたネタを低コストで実行する方法を模索するのであった。
『
1118/白紺光(12/18)
ヌノー帝国北西部雪山の麓 ゲレッテ
蒼札皇子 ガイアス=ヌノー
』
「あれは、なんですか?」
私は、子供達が使って居る物を見て思わず聞いてしまった。
「雪板」
サーレーが名前だけ答えて来るので軽く睨むとカーレーが実物を見せてくる。
「スキー板の代わりにただ滑り降りるしか出来ない雪板の作り方を教えたんだよ」
「雪板でしたか? その作り方を教えて大丈夫なのですか?」
私は、完璧に疑いを持って尋ねるとサーレーが頷いた。
「言ったでしょ、ただ滑るだけだって。両足を一つの板に着けるからスキー板と違って上がる事も出来ない上、支点が一つなので多くの荷物を持つのも難しい。軍用には、相応しくないの」
「そうですか。それは、安全です」
そう適当に返す。
理想としては、少しでも軍用に転用可能な物が欲しかったが、今回大事なのは、ソーバトの双鬼姫に言われるままでは、無かったという実績だ。
そんな私を見てカーレーが言う。
「ガイアス殿下も色々と大変ですよね」
色々の所にかなり違和感を覚えるがここは、気にしなかった事にするのであった。
簡単に言うと北西担当の六将軍、ギルンスがどんな人間かを説明した回。
実は、本筋は、次の魔極獣討伐で、そっちのネタを考えて居て遅くなりました。
次回、越えなければいけない雪山




