525 鉱山の魔極獣と田舎芝居
鉱山に現れた魔極獣対帝国軍
『
1118/白蒼濃(11/10)
帝都 リースー王子室
ミハーエ王国ソーバト領主一族 カーレー=ソーバト
』
「という訳で君達には、ランダー鉱山に行って貰いたい」
リースー王子の唐突な要求にあちきは、少し考えてから尋ねてみた。
「なにがという訳で何ですか?」
「それで解ると思ったんだが?」
リースー王子が不思議そうな顔をするのであちきは、溜め息吐く。
「あのですね、突然そんな事を言われて解る人間が……」
「そこに魔極獣が居るんで僕達がその保険として投入されるって事ですか?」
サーレーには、解った様だ。
「話が早くて頼もしいな」
気楽そうにそういうリースー王子。
視線で何で解ったのと尋ねるとサーレーが肩をすくめる。
「昨夜の遅くまでアレキス殿下とその件で壮絶な鍔迫り合いをしてたの知ってたからね」
「ラースーちゃんを夜更かしさせたくなかったからあちきは、さっさと寝たんだけどあれ決着ついたんですか?」
あちきが冷めた視線を向けるとパーセーさんが睨んでくる。
「どうして交渉が難航したか解って居るのか?」
「リースー王子がミハーエ王国の国益を最大限にしようとしたからです」
あちきの即答にリースー王子が愉快そうに笑いながら言ってくる。
「確かにそうなんだが、前回の君達の精神的苦痛を回避する交渉を行って居たんだよ」
前回の事を思い出して頭が痛くなる中、サーレーが嫌そうに確認する。
「今回も帝国からの要請が来るまで待機ですか?」
「十日経過もしくは、百人の死者が出た所で、君達の出番になる様に折衝したよ」
リースー王子の答えにあちきは、普通に驚いた。
「よく帝国の連中がそんな条件を飲みましたね」
「まあ、保険を使っても使わなくても今回ミハーエ王国が手にする対価が変わらないって条件にしたからな」
リースー王子の説明にあちきが首を傾げ、サーレーが疑る様な視線を向けた。
「それってどういう事ですか? 保険として支払って構わない程の対価で受けたのですか?」
リースー王子がそんな甘い交渉をするとは、絶対に思えない。
「バーミンに了解を得て、『練』の魔帯輝と前回帝国が手に入れた『蒼』の魔帯輝を一時的に交換する約定をとりつけた」
「ちょっと待って下さい! 『練』の魔帯輝は、ソーバトの持ち物ですよ! それをどうして!」
あちきは、思わず声をあげていた。
そんな話は、あちきは、まるで聞いて居ない。
同じ知らなかったサーレーに睨まれながらも平然とリースー王子が応じる。
「ソーバト領主には、四半刻(一時間)前に了承を得たばかりだからな」
「それってこっちの了承を得る前に帝国やバーミンとの交渉を終えていたって事ですよね?」
サーレーが糾弾するがリースー王子は、あっさりと頷く。
「安心しろ、ちゃんと今年も魔法研究で目立った成果も無く、国防の機会も少なかったソーバトの貢献度として中央には、計上されるからな」
痛い所をついて来た。
鉄道網という貢献こそしているけど、ミハーエ王国の領地のメイン貢献度にあたる魔法研究の成果が低く、その上、幸か不幸か今年は、周辺諸国からの大きな侵攻も無かった為、武功もないソーバトとしては、次の領主会議前に目立った貢献をあまり示せない状態だった。
その為、ウーラー伯父さんが断われないのを知っての所業だ。
多分、事前通知してサーレーに暗躍されるのを防ぐ為にこんな手段をとったんだろう。
「いっその事、あちき達がソーバトに戻るって選択肢もあるんですよ」
あちきがそう牽制するとリースー王子が満面の笑みを向けて来た。
「それは、喜ばしい事だな。ただし、ターレー義姉上の厳重な監視で何もできないだろうがな」
ターレーお姉ちゃんがこないだの件でかなり怒って居るから少しの甘えも無い筈だ。
「桜の神の更なる開花を御悦びします」
サーレーが思いっきり嫌味とばかりに成長を喜ぶ貴族言葉を言うとリースー王子も表情を変えずに返して来る。
「君達からの刃の神の御心に適えたからだろう」
こっちが出した試練を超えたからと嫌味を確り入れて来る。
これ以上不毛な言い争いを続けるのも嫌なのであちきが話を切る。
「解りました。元から魔極獣を放置する気は、ありませんでしたから向かいますが、先ほどの帝国との約定、現地でも包の神の裁きは、常に公平ですか?」
あちきが敢えて貴族言葉で濁して現地でも大丈夫かと確認しておく。
「包の神の裁きは、間違いないと義父が保証された」
リースー王子の義父ってあのクソジジイじゃん。
はっきり言ってかなり怪しい。
嘘では、ないけど絶対に何か仕込んで来そうだ。
それでも前回みたいに消耗品とばかりに兵士が犠牲にされる状況は、回避される事になるだろう。
「そうそう、折衝の結果、直接的な戦闘行為は、禁じられているが、負傷者の救助と治療を行うことは、双方から許可が下りている」
リースー王子の言う双方というのは、帝国とミハーエ王国、もっと言えば中央の許可だろう。
ターレーお姉ちゃんやイーラー叔父さん辺りは、かなり渋った筈だ。
あちき達の魔力は、公的には、王族や領主より劣るって事になっている。
それなのにほぼ無制限に回復魔法を使えばおかしいって事になるからだ。
しかし、それなのにミハーエ王国側ですら了承したって事は、下手をすればキースー国王がかなり強引に許可をだした可能性がある。
理由は、簡単で中央ですら把握していないあちき達の魔力の底を知る為。
半ば公然の秘密になってるあちき達の魔力だけど、それでも実際の魔力量を知られれば色々と問題があるので伏せておきたいのが実情なんだけど、どうなる事か。
出発準備の為に自分達に宛がわれたというか、終戦直後から帝都に来た時に使わされている客室に移動してサーレーが不機嫌そうに呟く。
「今回は、完全に後手後手に回されてるよ」
「仕方ないじゃない。情報がストップしてるんだから」
あちきは、そういって未だ解放されていない『名呼びの箱』を見る。
前回の件でのターレーお姉ちゃんの怒りは、かなり深く、未だにその解放されていない。
リースー王子からの通達だと、中央からのお目付け役であるナースーさんと合流するまで駄目だそうだ。
「そういえば、ナースーさんだけど、何故か誓約器を与えられたそうだよ」
サーレーからの報告にあちきが首を傾げる。
「何故に? 絶対に本来の申請元に当たるダータスが反発したでしょ!」
サーレーが強く頷く。
「勿論、ダータスは、そんな申請をしていないし、話が上がった時点で猛反対したそうだよ。だけど今回のは、リースー王子がかなり強引に押し切った。何でも本人があっちの世界に行く際に自分の奥さんの護衛であるトモッスさんにその誓約器を受け渡す前提で帝国から供与された奇跡鋼を使ったそうだよ」
「帝国関係者に誓約器を渡す様な申請が通った時点に驚きだよ」
あちきの感想にサーレーが呆れた顔をする。
「仕方ないでしょ。仮にも三権の一角である自分の奥さんの護衛の為の物と申請されたらバーフスやダータスだって反対出来なかった。キースー国王としても新体制の移行を進める上でリースー王子の箔付けの一つって事で認めたって感じだね」
差し出されたようやく戻ってきたヨッシオさん経由で渡されたシーワーさんの手紙を確認する。
「ミハーエ王国内も大変そうだね」
その手紙には、旧体制継続を主張する勢力の暗躍とそれと対決するターレーお姉ちゃんを始めとする次世代組との暗闘の詳細が記載されていた。
「本当だったら僕もそれを手伝いたかったんだけどね……」
サーレーが寂しげに呟いた。
それが出来ないのは、今更な事だった。
帝国を始めとする国外との関係を深める現状は、言うなれば鎖国を止めた直後と同じなのだ。
ここで下手に王族の権威を落す真似は、出来ない。
そういった意味で王族に対抗し得ると思わせる存在は、邪魔でしかない。
今は、王族を中心にその権威を高めて、周辺諸国と対等に渡り合っていかないといけない時期なのだから。
「あちき達は、あちき達が出来る事をやるとしましょう」
あちきは、そういって広大な皇城を見る。
大陸一の版図を誇るヌノー帝国は、武力だけが優れていると思われがちだが違う。
ヘレクス元大将軍による軍功は、確かに凄いけど、それで頭が獲れたとしても民衆を取り込むことは、出来ない。
やろうとしたら皆殺しにしてそこに帝国民を移住させるしかなくなる。
民衆に強い叛意が残って居ればそこからゲリラ活動が続けられる。
多少は、存在するがその大半を封殺しきっているのは、帝国の侵攻政策の巧みさだ。
「帝国の連中は、帝国の支配が及んでいない人間を操る事に関しては、見事だからね」
サーレーが半ば感心した様に呟く。
「頭を獲った後、自分達に都合の良い新たな統治者を相手側から選出して、そいつに支配させる」
「この場合、自分達に都合の良い支配者って国民の恨みを自己に集める無能が多い。そしてその無能が国民の恨みを一身集めた後に刈り取り、適当な貴族を送り込む。そうやって領地を侵食していった。そんな歴史がある帝国にとってみれば他国との交渉が少なかったミハーエ王国は、さぞ食らいやすい獲物だったろうね」
あちきは、そう言うとサーレーが背伸びをする。
「そんな領地を拡げるのが得意な帝国だけど、本当の意味の統治は、下手くそ。その結果として侵攻に使った予算の回収の為に新たな侵略を行うってどうどう巡りを繰り返してきた。僕達は、それを是正させるって形で外側、ミハーエ王国に向いている力を削ぎ落していくのが仕事ってところだね」
あちきが苦笑する。
「ただ帝国の弱体化させるだけだったらもっと楽なんだろうけど、それじゃあね」
サーレーと二人、多くの人が生きる帝都を見る。
「全ての人間を救えるなんて驕るつもりは、ない」
サーレーの言葉にあちきが続ける。
「だけど関わった人達の明日が今日よりいい明日になる様にしたい。どうせ、クソジジイの事だからろくでもない無茶ぶりをしてるだろうけど、そんなのを打ち破ってやりましょう!」
あちき達は、覚悟を決めて魔極獣の待つランダー鉱山に向かうのであった。
『
1118/白碧淡(11/13)
ヌノー帝国西部、ランダー鉱山隣接仮設陣地
六将軍西方担当アナッス=ツーツ
』
「アナッス将軍、ガイアス殿下がご到着に成られました」
部下の報告に私は、副官に指示を出して、豪華とは、言えないが来客用の施設に向かう。
そこには、既にガイアス殿下がお待ちになって居られた。
「お待たせして申し訳ございます」
「気にしないでもらって結構です。それよりも時間があまりありませんので陛下からのお言葉をお伝えします」
ガイアス殿下が挨拶もそこそこに本題を口にされる。
「ミハーエ王国との約定は、ソーバトの双鬼姫到着からの十日経過もしくは、百名以上死者をだした時点でミハーエ王国の助力を得る事になりました」
それを聞いて周りの武官がざわめくのを視線で私が抑える。
「ミハーエ王国に対する対価は、既に決まって居り。実際に相手の協力があったかの有無は、関係なく、表向きは、帝国がミハーエ王国に助力されてもなんら影響がないという事になっています」
続けてガイアス殿下が口にされた内容に違和感を覚える。
「表向きは、ですか?」
私の確認に対してガイアス殿下が鋭い視線を向けて来る。
「陛下は、助力を得る前に魔極獣の討伐を望まれている。理由は、二つ。一つは、今回の対価を明確なミハーエ王国への一方的な貸しとする事。もう一つは、今度魔極獣が現れたとしても帝国の独力で解決可能だとしらしめる事です。陛下にお伝えしたい事は、ありますか?」
私は、即答する。
「陛下が望まれし結果のご報告をお待ちくださいとだけお願いいたします」
ガイアス殿下は、それに頷き、仮設陣地を後にされた。
「アナッス将軍、本当に宜しかったのですか?」
戸惑いをみせる武官達に対して私は、敢えて聞き返す。
「帝国軍人が陛下のお望みに成られた結果を出せないと?」
「そうでは、ございませんが! しかし、場所が……」
言い淀む武官の代わりに私が口にする。
「南東を担当するトレウス将軍が行った魔力発動機搭載自走車の暴走爆破を使った攻撃が鉱山内という環境では、使えない。だから有効な損害を与えられないので魔極獣を倒せない。道理だな」
「その通りです!」
私からの出た言葉だからと即座に同意を示す武官達。
「帝国軍人として倒さなければいけない敵を倒す為ならば命を惜しまぬが、倒さなくても帝国に大きな損害を生まないのならば、今は、恥を忍び、後の真の命を懸ける戦いの為に力を温存すべきだと考えて居るのだな?」
激しく肯定し始める武官達。
「そうです! 我々は、決して命惜しくて躊躇した訳では、ないのです! 我々の力が真に必要となる時の為に今は、ミハーエ王国の助力を得るという屈辱に耐える所存であります」
私は、そんな武官達に睨みつける。
「お前等は、我々の不甲斐でミハーエ王国の者への感謝の言葉を陛下に口にさせるつもりか!」
「それは……」
黙り込む武官達に対して私は、はっきりと宣言する。
「解って居るのか私達は、既に一度その不甲斐なさ故に陛下に降伏させるという屈辱を背負わせているのだぞ!」
「あれは、ミハーエ侵攻軍が不甲斐なかっただけです」
武官の一人の抗弁を私は、一蹴する。
「我らが頼りになるのであれば陛下ならば帝都を捨ててでも徹底抗戦されていた!」
そうなのだ。
終戦魔法戦争での降伏宣言は、陛下の敗北では、ないのだ。
陛下ならばあの状況からでも逆転の一手を打てていた事だろう。
それが行えなかったのは、帝都を失った事による周辺諸国からの逆襲を我等が受けきれないと判断された故の事。
「何より、我が精鋭部隊すらソーバトの双鬼姫に敗れて居る」
私のその一言に傍に控えて居るその帝都での模擬戦に参加していた者達が悔し気な表情を浮かべている。
「陛下が望まれると言う事は、それは、帝国にとって必要な事であり、決して不可能な事では、ない! ならば我等は、それを実行するのみだ!」
私は、そう武官達を一喝してから副官の待つ部屋に戻る。
「それにしても十日ですか……」
複雑な表情を浮かべる副官に対して私が問題の鉱山を見る。
「洞蜥蜴の駆除は、進んでいるが問題の魔極獣は、どうだ?」
「天包剣を使えば傷を負わせられる事は、確認しておりますがそこで問題が」
副官からその問題を聞いて私は、思わず唸ってしまう。
「厄介な相手だ。十日以内に攻略するには……」
目の前に絶壁が立ち塞がった様な気がするがそれでも私に諦める心は、一欠けらも無かった。
『
1118/白碧濃(11/16)
ヌノー帝国西部、ランダー鉱山最深部
ミハーエ王国ソーバト領主一族 サーレー=ソーバト
』
僕達が見守る前で帝国軍西方所属の人達が戦って居る。
「確りと天包剣でダメージ与えてるね」
感心した様子のカーレー。
「あの剣に合わせた鍛錬を積んである。おそらくお前達との戦いを想定した上での事だろう」
帝都出発前に合流したナースーさんの説明にヨッシオさんが嫌そうな顔をする。
「この打ち合わせ前にも敵意剥き出しだったからな」
「それにしても今回の魔極獣は、なんというか……」
コシッロさんが生理的に受け付けないって顔をするのも解る。
問題の魔極獣の周りには、例の如く大量発生した魔獣、洞窟に住み着く大型の蜥蜴、洞蜥蜴が居る。
この洞蜥蜴は、洞窟の闇に潜んで、そこから得物を襲うって待ち伏せ主体の狩りを主にするスタミナタイプの魔獣。
詰まる所、ダメージを喰らってもそうそう死なない。
脚の一、二本斬りおとされても平然と動いて、緑色の血をまき散らしながら帝国の人達と戦う様は、かなりスプラッターな光景だ。
それでもその中心にいる洞蜥蜴を大きくした様な魔極獣の存在に比べればまし。
何せ、さっき言った様に天包剣で確かにダメージは、与えられている。
きっとダメージが蓄積して居れば倒せていただろう。
問題は、ある程度ダメージを受けると周囲の洞蜥蜴を吸収し、回復してしまうって事だ。
体に張り付いた洞蜥蜴が融ける様に吸収する様は、かなりグロテスクである。
そんな訳で前回と違い、ダメージこそ与えられているのに一向に成果があがらないという嫌な展開が続いている。
当然帝国側も吸収されない様に周囲の洞蜥蜴の排除を行っているが、なにせ数が多い上、生命力も高い。
生存本能なんて無視して魔極獣に特攻して吸収されるのを防ぎ続けるのは、難しく折角蓄積させたダメージをゼロにされてる。
「突貫車三機投入!」
その言葉と同時に魔極獣の傍に居た騎士達が離れ、運転席が無い小型自動車の様な物、帝国の開発した木霊筒で遠距離操作出来る自走車、突貫車が魔極獣に突っ込んでいく。
動きの鈍い魔極獣は、それに激突される。
そこで突貫車が自爆、流石の魔極獣も大ダメージを受ける。
このまま攻め続けられれば勝てるんだろうけど、カーレーが準備運動をしながら上を指さす。
僕が確認すると案の定、天井が持ちそうも無かったので詠唱を始める。
『新の神の慈愛と包の神の慈悲の風と天を覆いたまえ。風包防天』
僕の魔法の発動と同時に天井の崩落が始まる。
「このまま防ぎ続けられますけどどうしますか?」
カーレーの問い掛けに副官が迷いを見せるがアナッス将軍は、即断した。
「全軍後退せよ!」
号令に従い兵士達が後退したのを確認した所で僕も魔法を解く。
同時に激しい騒音と共に目の前が瓦礫に塞がる。
僅かな期待の眼差しが向けられるがそれを打ち砕く様に瓦礫の中から無傷の魔極獣が這い出て来る。
ゲームとかでは、通常攻撃無効系に有効な地形利用攻撃がノーダメージなだけじゃなく回復する隙を作る事になる。
「完全に詰んでるね」
僕の呟きに周りの帝国軍の人達が悔し気な表情を浮かべるのであった。
『
1118/白碧濃(11/16)
ヌノー帝国西部、ランダー鉱山隣接仮設陣地
ミハーエ王国鳶札兵士 ムサッシ
』
「そっち、無駄に動かさない。死ぬよ!」
カーレー様がそう叫びながら腹に傷を負った兵士の鎧を『名呼びの箱』を使って取り外し、酒をぶっかける。
「いてぇー! 死ぬぅー!」
悲鳴を上げる兵士を拙者が押さえつける中、カーレー様は、傷に入った瓦礫を綺麗に取り除き回復魔法を使う。
『刃の神の下で受けし痛みを癒せ、回復』
みるみる塞がっていく傷。
最後にお湯で傷跡を拭うと帝国軍の衛生兵に渡してさっき動かされそうになっていた兵士の所に行く。
「何であっちに運ばせないだ!」
不満気な傍に居た兵士に対してカーレー様が傷を負った兵士の確認をしながら答える。
「目立った外傷がないのに動けないって事は、体の内部の怪我なの。そういった場合、下手に動かすと見えない怪我が広がるおそれがある。やっぱり頭の中に傷がある。このまま動かしてたら一生動けなくなってた」
そう診断され回復魔法を使うと兵士の顔色が良くなる。
突貫車による天井の崩落が一部的で終わる訳がなく、連鎖したそれは、後退した兵士達にも負傷が多発させていた。
戦線維持が不可能と判断したアナッス将軍の判断で完全撤退。
そうして治療が始まったのだが、ここで獅子奮迅の活躍をしているのがカーレー様とサーレー様だった。
以前の疫病の時もそうだが、こういった緊急事態に対する対応は、早くそして的確だった。
大量の負傷者に成れている帝国の衛生兵ですら感心する程であった。
百に届くかもしれない治療を終えて、ようやく一息吐いているとナー師範がやってこられた。
「何故治療をしたんだ? ミハーエ王国の国益を考えたらならば死亡者が百人越させてこちらが協力出来る様になった方が良い筈だぞ?」
疲れからだれていたサーレー様が苦笑する。
「救える命があるなら救うのは、人として極々当然の事だと思いますけど?」
「帝国の人間の命でもか? 三腕、お前達は、平気なのか? そいつらは、何時襲って来てもおかしくない連中なのだぞ?」
ナー師範の言葉にヨッシオが頭をガシガシとかく。
「知ってますよ。実際に治療の慌ただしさに紛れて毒を塗った短剣を持って近づいてきた奴が居ますからね」
「本当に非常識だよ。治療中怪我人傷口にその毒が入ったらどうするつもりだったのかな?」
問題の短剣を直ぐに炎で燃やしたカーレー様の言葉にナー師範が呆れた様子を見せる。
「問題にすべきことは、違うだろう。命を狙ってくる奴等の命をどうして助けるのだ?」
「命を狙われるなんてよくある事でしょ。そんな事を気にしていたら何もできませんよ」
サーレー様は、平然とそう答えるとナー師範が肩をすくめて言う。
「まあ、私は、お前達の監視ともしもお前達が躊躇した時にここの魔極獣を倒すだけだ」
そういって誓約器、時無棒を前に出す。
「時間を止める誓約器なのですよね?」
コシッロの疑問にナー師範が頷く。
「制約も単純な物にしたので刹那の時間だがな」
「その刹那の時間さえあればナースー殿でしたら、十分にあの魔極獣を倒せる事でしょうね」
サーレー様の言葉にヨッシオが驚いた顔をする。
「魔極獣すら単独で倒せるなんて凄いものだな」
「相性だよ。今回の奴って回復力だけは、高いけど防御力自体は、低いからね」
カーレー様がそういうとサーレー様も頷かれる。
「だいたい、ここまで行動を観察が終ってれば僕でも単独討伐出来るよ」
帝国の西方軍が倒せていないそれを単独で倒すというのだから誓約器というのは、規格外の武器である。
「魔極獣って奴は、通常の武器や魔法では、倒せない様になっている。多分だけど、神獣の試練を超える事が最低条件になってるんだよ。帝国軍が使って居る天包剣も神器『天包』を模倣にしてるし、魔力発動機だって神器『八百約の陣』で作った誓約器『魔動発器』を模倣している」
カーレー様の説明にサーレー様が上を指さして言う。
「天上の方々の思惑が感じられる仕組みだけど、地上で這いずり回る僕達としては、それに従うしかないんだよ。そんな事より問題は、通常の方法で帝国軍に今回の魔極獣を回復させず倒しきるだけの攻撃を継続させられないって事だよ」
「このまま時間切れになる可能性が高いって事か?」
ヨッシオの言葉にサーレー様が首を横に振った。
「治療の紛れて色々と聞き取りして確認したけど、人が背負える大きさの魔力発動機が大量に運び込まれていて、それを背負って特攻する人達が選別されてるね」
「それってまさか、その人達に特攻させて自爆させるって事ですか! でもそんな事をすれば死亡者が直ぐに百人を超します。それに先程の戦いで普通の大きさの魔力発動機数台の爆発でも倒せなかったのを倒しきれる保証が無いと思います」
コシッロの指摘に対してカーレー様がため息を吐かれる。
「期限が切れるくらいだったらと賭けに出る可能性が高いんだよ。その賭けの対価がその人達の命なんだけどね」
嫌な対価だが、帝国の連中にとっては、カーレー様方に頼るよりも兵士を何千人殺した方が増しという考えが一般的らしい。
「良くない情報の追加だけど、運び込まれたそれって急造だから安全性は、皆無。治療中の怪我人の一人に僕達に隠れて特攻訓練していた兵士が居て、騙す様に聞き出した話じゃ、訓練時点で暴走した挙句、装着した兵士が死んだって事が複数回あるらしいよ」
サーレー様は、心底嫌そうに伝えて来た。
「一回あった時点で止めようと思わないかね」
呆れ切った顔をするカーレー様の言葉にナー師範が断言する。
「たかが兵士の命、百や二百でミハーエに貸しを作れるのだから帝国としては、妥当な判断だろう」
明確に不機嫌さを顔に出すカーレー様とサーレー様。
ヨッシオやコシッロも隠そうとしているが嫌悪感が漏れている。
多分拙者も同じ顔をしている事だろう。
「ここは、一つ少しテコ入れをするしかないね」
カーレー様の言葉にナー師範が指摘する。
「帝国がお前達の直接的な手助けを認めると思って居るのか?」
サーレー様が肩をすくめた。
「まさか? そんな事は、しませんよ。倒すのに必要な情報をそれとなく伝えるだけです」
「それは、利敵行為だぞ」
ナー師範の警告に対してカーレー様は、笑顔で言われる。
「またまた、ここに保険としている以上、敵認定は、おかしいですよ。それに今回の事で帝国だけで倒せた所でミハーエ王国の利益は、損なわれませんよ」
「帝国に借りを作る事になる。それは、損失と言わぬのか?」
ナー師範の詰問に対してサーレー様は、平然と頷く。
「はい。そんな書面一つも残していなく、どんな不利益が発生するかも解らない物を僕達は、損失と呼びません」
無言で睨むナー師範に対してカーレー様が笑顔で尋ねる。
「ナースー様は、あちき達に何かを命じる権限は、ありませんよね?」
「中央に報告がいくのは、覚悟しておくのだな」
ナー師範は、そう言い残して自分の部屋に戻っていった。
「あの人も所詮は、貴族って事だよな」
不機嫌そうに口にしたヨッシオにサーレー様がサラッと言ってくる。
「王城で何を埋め込まれてきたの?」
「……なんの事だ?」
一瞬の間が空いたがヨッシオは、惚けられた。
「コシッロさんの顔に出ているよ」
カーレー様が指さす先、コシッロが顔を引き攣らせていた。
落胆のため息を吐くヨッシオを他所にサーレー様が語る。
「シーワーさんからの報告書に三人が王城に呼ばれたって話があったからね。処罰をするならソーバト内で済ませる筈。貴族でもない兵士が王城に呼ばれたとなれば何かしらの理由がある。洗脳とかも考えたんだけど、コシッロさんの体に僅かに何かを仕込んだと思われる痕跡があったんだよ。胸のそれって何かを埋め込んだ後、回復魔法で傷を塞いだんでしょ?」
全て見抜かれている様だ。
諦めて拙者が説明する。
「ターレー様に自爆型魔法具を埋め込まれました。次に御二方を危険に会せた時は、即座に発動するとの事です」
カーレー様が顔を押さえる。
「迷惑かけているね。発動出来なくする方法を何とかするからそれまで上の命令には、素直に従っていて」
「別に気にするな。元から首から上が飛ぶ覚悟は、してたんだからよ」
ヨッシオの言葉にコシッロも続ける。
「ヨッシオの言う通りです。今回処刑されていないだけでも幸運だと思って居ます」
「だからって他人に命を握られている状態は、落ち着かないでしょ?」
サーレー様がそう言われるが拙者は、首を横に振った。
「構いません。この旅に同行した時点でこの命は、カーレー様とサーレー様に預けてあります。貴女方に危険を会せて処刑されるというのなら望むところですよ」
困った顔をするカーレー様。
「そういうのは、特攻で死のうとする兵士達と同じじゃないの?」
「違う! 奴等は、上からの命令だからそれに従って仕方なく命を落とすんだ。俺達は、それが当然だと思ったからこの処置を受け入れた!」
ヨッシオがそう断言した。
「ターレー様は、処理を受けるか護衛から外れるかの選択肢を下さったのです」
コシッロの補足にサーレー様が苦虫を噛んだような顔をする。
「いくら僕達の事だからって本人の意思を無視して命を懸けさせたら僕達が辛いと解ってるからだね。ターレーお姉ちゃんらしいよ」
そうなのかもしれない。
ターレー様は、前回の事を本当に心配されていた。
何よりミハーエ王国から出れないその身に苦しまれていた。
言葉にされていなかったが、体に埋め込まれたそれは、ターレー様からの真摯な願いの塊なのだ。
「拙者達の願いは、一つ。カーレー様とサーレー様が信じる道を真っ直ぐに進まれる事。その為ならばこの命も惜しくもありません。逆に拙者達の為にその道から外れるとしたら一生後悔するでしょう」
拙者の宣言にヨッシオもコシッロも強く頷く。
そんな拙者達を見てカーレー様が大笑いする。
「本当に馬鹿だね。貴方達程の力があればもっと賢い生き方出来るだろうに」
「馬鹿なまま早死にしても構わないさ。小賢しく長生きするなんてまっぴらごめんだぜ」
ヨッシオの言葉にコシッロも続ける。
「御二方によって救われる者達がウチ等の生きた証です」
サーレー様が嬉しそうに苦笑する。
「本当に馬鹿。まあ僕達も人の事を言えた義理じゃないけどね。それじゃあ、馬鹿は、馬鹿らしく田舎芝居の準備を始めましょうか」
そして拙者達は、元敵国の兵士の命を護る為の田舎芝居の準備を始めるのであった。
『
1118/白碧光(11/18)
ヌノー帝国西部、ランダー鉱山最深部
六将軍西方担当アナッス=ツーツ
』
「鉱内の状況の確認は、終わっているな?」
私の確認に副官が応える。
「はい。昨日の内に最も安定した場所を選定し、そこに誘導を進めて居ります」
「誘導終了次第、周囲の洞蜥蜴排除を優先し、半数以下になった所で作戦開始だ」
私は、そう指示を出しながらこの作戦が失敗した時の事を検討を始めていた。
我々に与えられた期間は、残り八日。
今回失敗すれば、更に優良な場所を見つけるのは、難しいだろう。
作戦の大幅な変更を余儀なくされる。
その場合、現段階で一番可能性が高いのは、小型魔力発動機を背負わせた兵士の大量投入による自爆作戦。
昨日の死亡者は、ソーバトの双鬼姫の治療もあり十名以下だ。
今日の被害者を出来るだけ抑え、初回に五十名で観測し、次の一回で確実に仕留めるのが望ましい。
仕留めてしまえば死亡者が百人を超えても構わない。
ただ問題があるとすればソーバトの双鬼姫が初回のそれを見て次を妨害してくる可能性があると言う事だ。
兵士の命を思っての事だろうが、元より兵士達は、帝国の為に死ぬのが当たり前であり、それを忌避自体がおかしいのだ。
そんな思考をしながらふと問題のソーバトの双鬼姫をみると見慣れない物を手に持って居た。
それは、棒の先を割ってその先に両端を繋げる様に帯状の物がついている。
三腕も何かしら動いている。
用心の為に監視していると、ソーバトの双鬼姫が手に持ったそれの帯状の部分に小さな塊をつけて引っ張ってから放していた。
すると弓の矢の様にその小さな塊が飛んでいく。
それを三腕が持つ的に当てている様であった。
「うーん、暗くて命中率は、悪いな。ヨッシオ、明るい方に動いて!」
サーレーの言葉に的をもった三腕の一人、ヨッシオが明るい方、魔極獣と退治する為に大量の灯りをともしている方に移動する。
「やっぱり明るい方が当てやすそう!」
サーレーは、そういってまた小さな塊を放った。
それは、的を外れ魔極獣に当たる。
『GOGAAAAA』
普通の攻撃が通らない魔極獣が悲鳴を上げた。
「サーレーの下手くそ。アナッス将軍、すいませんが兵士の人達に弾にしていた奇跡鋼の回収をさせてください」
カーレーがそういって来た。
「直ぐに回収させろ!」
私の号令に伝令兵が走り、騎士が天包剣で牽制するなか兵士が負傷しながらも問題の塊を回収して私の所に運んできた。
それは、成形されて居ないが私ですら数える程しか現物をみていない奇跡鋼の塊であった。
「貴族らしい贅沢な遊びでしょ?」
手を差し出して来るサーレーに私は、舌打ちしたくなった。
「贅沢ですませられますか?」
こんな指先程の塊だといっても奇跡鋼だとしたら大金貨数十枚(数千万円)してもおかしくないのだ。
「貴族の贅沢に際限は、ないって事ですよ」
カーレーが気軽い様子でそう口にするが私は、睨みつける。
「この田舎芝居は、何のつもりだ!」
語尾を強めて告げる私に対してカーレーが首を傾げる。
「田舎芝居って何の事ですか?」
惚けるつもりらしいがこっちも引くつもりは、ない。
裏で何を企んでいるか解らないのを放置しておく訳には、いかないからだ。
そんな私の視線から視線を逸らしてサーレーが呟く。
「全く関係ない話ですが、今回のミハーエ王国と帝国の間で決められた対価なんだけど、何故か現物の所有者であるソーバトの確認が無いまま締結されたみたいなんですよ。僕らが知らない所でね。そんな仲間外れにされた僕等がちょっとした遊びで気分晴らししてたって話なんですがね」
「関係ない話か?」
こっちに顔を向けていたカーレーが即答する。
「はい。あちき達は、ミハーエ王国からの指示に素直に従う所存ですから」
これ以上は、何も言わないだろう事は、なんとなく察せられたので奇跡鋼を返す。
すると田舎芝居の続きとばかりに奇跡鋼を使った的当てを再開させるのであった。
そんな様子を見て私は、副官に問う。
「お前は、今のやりとりをどう見る?」
副官は、神妙な顔で答えて来る。
「在り得ない話では、ないと思われます。私も中央軍に居た頃に経験しましたが自分の部隊を私を無視して動かされた時は、強い反発心を抱きました。当然、上の指示に逆らう気は、ありませんでしたし、ソーバトの双鬼姫も逆らわないでしょう。ただ、逆らわない範囲で不満がある事を主張したのがいまの田舎芝居なのでは?」
「表向きの対価が変わらないなら帝国に花を持たせて交渉を行ったミハーエの者に意趣返しする為に奇跡鋼ならば原石でも有効な攻撃が出来る事を伝えたという訳だな」
私の言葉に副官が頷いた。
ありそうな話であった。
違和感が無い訳では、ない。
それでも陛下の望みを叶える為には、利用すべき事だろう。
「直ぐにこの事を中央に報告。奇跡鋼の手配を」
私の指示に副官がすぐさま動き出すのであった。
『
1118/白碧光(11/18)
ミハーエ王国王城、リースー王子執務室
ミハーエ王国第二王子、リースー=ミハーエ
』
「随分と下手な芝居をされたと聞きました」
私は、そう木霊筒越しに相手に伝えると不服そうな声で相手、サーレーが答えて来る。
『僕は、十分に上手く芝居したと思いますよ。田舎芝居の振りという芝居を』
田舎芝居の振りと来たか、確かにナースーからの報告通りだとしたらあからさま過ぎる。
それでも言っておかなければいけない事がある。
「芝居の上手い下手をおいておいて、その事で帝国による魔極獣討伐の可能性が高まるのは、あまり歓迎しなのですがね」
『関係ないでしょ。帝国は、元から僕達って保険を使うつもりは、無かったんですから』
サーレーが淡々と言うがまあその通りだろう。
「だからといってやり易くする必要があったのですか?」
私の更なる追及に対してサーレーがニヤリと笑った気がした。
『僕達がパチンコでやったのは、リースー王子が帝国に好条件でパチンコという情報と現物を取引し易くする為なんですよ』
話が大きく変って来た。
「パチンコを帝国にですか?」
『はい。元々単純な作りで、小規模ですが帝国との戦いで使われています。模倣には、多少の時間がかかりますが帝国でも再現できる以上それをミハーエで独占は、出来ません。だったらまだ模倣が出来て居ない今のうちに提供して対価を得るというのが上手い使い方だと思いますが?』
サーレーの提案は、確かに的を得た物である。
パチンコは、魔法を使えない兵士にとって弓よりも簡易的に遠距離攻撃手段を手に出来る有益な武器である。
これが模倣が不可能であれば帝国にその技術を流出させることは、まずしないだろう。
しかし、その簡素の形態から模倣を防ぐのは、実質不可能といっても良い。
どうせ模倣されるのならこちらのカードの一つとして帝国に提供するというのは、十分に検討に値する。
特に今回は、帝国では、絶対に加工できない奇跡鋼の原石を使用する状況では、ある意味一番有益な武器であると言わざるえない。
パチンコを帝国に提供するのにもっとも価値が上がっている瞬間だ。
言うなればサーレー達は、私のパチンコという外交カードの価値を高める為に芝居を打ったという事になる。
ある意味、その通りなのだろうが、問題が全くない訳でもない。
「そういう事でしたら事前にこちらに通知して貰えれば準備が進められていたのですがね?」
私の指摘に対してサーレーは、待ってましたとばかりに実に嬉しそうな声で言ってくる。
『断わらないと解って居れば相手に確認しないで話を進めるやり方がリースー王子が好まれると考えて敢えてそうしたのですがいけませんでしたか?』
こっちだったか。
対価の件での意趣返しを企んでいる節が見られ、パチンコの提供がそれなのかと疑って居たが、そんなに単純な仕掛けは、打ってくる訳が無かったのだ。
正直、これで私が損失を喰らう様ならソーバトに対して双子の管理能力不足を追求し、中央に抱き込む手札の一つにする事も考えて居た。
しかし、建前上は、完全に私の利益に繋がる行動である、それでは、手札には、ならない。
何より、対価の件でこちらが先にやったやり方なのだ、それが問題あるとすれば私のやり方も問題になってしまう。
「桜の神の満ち足りに至らぬ己を恥じ、白の神より包の神に至る今も弛まぬ働きを致しましょう」
嫌味を籠めてこっちが未熟だからこれから全力でやるといってやるとサーレーが応じた。
『リースー王子ならば包の神の元の奉仕は、金の神に伝えられると信じています』
努力が必ず報われるから大丈夫でしょうと返されては、これ以上、この件は、突っ込めない。
その後、多少の情報交換を行った後に指示を出す。
「パーセー、ダースー。今すぐ国中の呼びのパチンコを集めろ。時間との勝負だ。一刻も早く、一つでも多くのパチンコを現地の届けられるかどうかで価値が大きく変る。今回の事以上の貸しにする為にも急ぐのだ!」
私の指示に側近達が即座に動き始める。
「今回の件で一度既に言った事ですが、もう一度言わせて頂きます。妹達は、鏡の様な物。騙そうとすれば平然と自分達の都合のみで動きます。しかし、誠意をもって対応すれば誠意で返してくれます。その事をお忘れなく」
サーレーが感情的な発言を押し通そうとした時の用心の為に同席を願ったターレー義姉上の言葉に私は、深く頷く。
「十二分に理解しました。包の神の法を損なう行い、白の神の元、反省致します」
やり方を間違えた事を反省する言葉に納得した様子でターレー義姉上が退室していく。
「誠実ですか……。ある意味、それを体現出来得るターレー義姉上だからこそあの双子が従って居るといるのだろうな。本当に逃がした魚は、大きかったな」
そんな事を呟きながら私は、この後に控える帝国との交渉方法の検討を始めるのであった。
『
1118/白桃深(11/23)
ヌノー帝国西部、ランダー鉱山最深部
ミハーエ王国ソーバト領主一族 カーレー=ソーバト
』
あちきの目の前には、ある意味物凄い光景が展開されている。
大量の大人の兵士がパチンコを手に通常の武器魔法が全く通じない敵と対峙している。
「「「「撃て!」」」」
四方部隊の同時の号令と共に一斉にパチンコから弾が打ち出される。
それが次々と蜥蜴の魔極獣に命中していく。
一発一発は、そう大きなダメージでは、ない。
しかし、それが百発を超し、更に続くとなれば別だ。
全身がズタボロになっていく魔極獣。
再生の為に周りの洞蜥蜴を一気に吸収し、全回復を果たすがそれは、悪手だ。
パチンコでの連撃は、止まらない。
って言うか、この状況で必死に撃った弾を回収している重装備の兵士さん達ご苦労さんと言いたい。
それは、いくら固いといった所でパチンコで放っただけのそれは、分厚い装甲と盾をもった兵士さん達には、大きなダメージには、ならない様だ。
そんな事を考えて居る間に再び魔極獣は、ズタボロになっていく。
回復しようとするが、この時になって初めてそいつは、気付く。
回復に使える近場の洞蜥蜴は、さっき使い切ったって事実に。
魔極獣は、魔獣といっても知能は、確かにあるらしい。
あちき達の時も、唯一有効な攻撃が出来るあちき達を優先して狙った事からもそれは、解る。
だからこそ、大きなダメージに対して思わず過剰なまでの回復行動をとってしまったのだろう。
その失策に気付いた魔極獣は、ここで逃亡に入ろうとするが甘い。
帝国軍だって伊達に連日この魔極獣と戦って居た訳じゃない、天包剣を装備した騎士がその足を切り裂き、逃亡を阻止され、パチンコで放たれる奇跡鋼が魔極獣の命を削っていく。
『GUUGYAAAAA!』
断末魔の叫びと共に魔極獣は、絶命した。
「やったぞ!」
歓声をあげる帝国軍の軍人達を背にアナッス将軍がやってくる。
「今回の事は、借りとしておく」
「なんの事だか解らないのですが?」
あちきが惚けるがアナッス将軍は、表情一つ変えずに断言した。
「借りは、必ず返す。それだけは、覚えて置け」
そう言い残してさっていったアナッス将軍を見てサーレーが肩をすくめる。
「借りは、返すけどその後に、絶対僕達に勝つって感じだね」
「無理に敵対する事ないと思うんだけどね」
あちきのその言葉は、残念ながら帝国の人達には、受け入れられないのだった。
魔極獣の強さって今のレベルならばカーレー達には、脅威では、ありません。
あくまで今のレベルでですが。
今後、時間経てば経つほどに強くなっていきます。
次回、カタハの強化月間




