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落ち目領地とハーフな双子  作者: 鈴神楽
七年目 節目帝国のフリーな双子編
521/553

521 名を背負う意味と我儘の相手

カタハの嫁

1118/桜鳶平(10/09)

ヌノー帝国の西方、テルメット砦

蒼札皇子 ガイアス=ヌノー


「これが今回の手紙だ」

 相変わらずの不機嫌そうな顔でソーバトの双鬼姫からの手紙を渡して来るカタハに周りが良い顔をしないが今更なので私は、気にもせずに手紙を読む。

「デトリアンの元王子の自分達への襲撃計画を手助けするなんて、本当にこちらの想定を無視してくれる」

 私は、手紙に書かれた内容に驚きを隠せなかった。

 デトリアンの元王子の襲撃計画自体は、既に帝都にまで密告が上がっていた。

 ソーバトの双鬼姫の後処理役の私の所にも通知が来ていた。

 私は、襲撃が失敗したデトリアンの元王子一派の処罰をどうするかを決め初めていたのだが、蓋を開けてみれば計画の改善に襲撃対象であるソーバトの双鬼姫自身が参加しているのだ。

「あれらが帝国の予想通りの行動をとらないなんて何時もの事だろう」

 カタハの言葉が全てだった。

 この仕事を任されてから正に身に染みる程痛感させられている。

「それにしてもこれは……」

 手紙を熟読した私は、言葉に困っていた。

 ソーバトの双鬼姫の襲撃計画なんて物は、帝国では、腐る程立案され、実行されている。

 そのどれもが失敗に終わっているのだが、この計画は、今まで見て来た中でも屈指の出来である事は、間違いない。

 計画改善におけるデトリアン周囲に関する知識の深さや発想の柔軟性は、刮目に値し、特訓と称して行われていた技量確認の結果も高い物であった。

「こんな物をこちらに見せてくると言う事は、そういう事なのだろうな」

 私は、深いため息を吐く。

 ソーバトの双鬼姫の目的は、大凡見当がついた。

「アナッス将軍にこの手紙の写しを送れ。軍事的な評価を貰い、使える様なら本格的に帝国軍に参加させる」

 側近にそういって手紙を渡す。

 アナッス将軍の評価を待って帝都と連絡をとって処理を行わなければいけないが問題が一つあった。

 諸々の手続きを行いその結果をソーバトの双鬼姫に返信した方が良いのだが、それを届けるカタハが待つのを嫌うと言う事だ。

 帝国に仕えている者ならば命令一つでどうにでもなる。

 ただの帝国民ならば同様である。

 しかし、カタハは、元帝国軍人で今も帝国民だが、事情が少し異なる。

 いま私が駐留しているこの砦を作ったスマホット王国の将軍の息子なのだ。

 元より帝国に従順な態度を示していない。

 帝国軍に入ったのも父親を倒したヘレクス元大将軍を打ち破る為。

 そのヘレクス元大将軍が居なくなった今は、その原因であるソーバトの双鬼姫を打ち破る為にその旅に付き合う形で実力を磨いている。

 こちらの命令を聞く謂れが存在しない上、毎度の伝達兵の真似事に不満を高めている。

 側近は、無礼者をとっとと処分すべきだと言ってくるが、ソーバトの双鬼姫に接触できる貴重な駒を処分する訳にもいかず、適当に宥めて使っている。

 そんな状態な為、返信が出来るまで待って居ろと言っても待つとは、限らない。

 元より急ぐ事でもないので駄目元で確認してみる。

「暫くこの砦で鍛錬していかないか?」

「構わない」

 意外にもすんなり了承してきた事に内心驚きながらも頷く。

「そうか、手紙を届けてもらっている礼だ、色々便宜をはかろう」

 私は、そういって側近に逃がさないように指示を出すのであった。



1118/桜鳶濃(10/10)

ヌノー帝国の西方、スマホットの付近

札無下働き サレ


「西部に入ってから僕達がやたら危険地域を動いている事だけどそこそこ理由があるんだよ」

 僕の言葉にヨッシオさんがジト目で見て来る。

「ほーそれは、聞いてみたいな」

「難しい話じゃないんだよ。西部の中央よりは、帝国になって年月もかなり経過しているせいで中央とそう変わらない文化が形成されているの。それに対して西部の国境付近は、元の国の文化が色濃く残っているから珍しい食べ物も多いから」

 僕の答えにコシッロさんが沈痛な表情をする。

「食べ物の為にあんな面倒な事をする羽目に……」

 それに対してカレが反論する。

「あー食べ物を馬鹿にしたな。美味しい物を食べるって事は、人生にとって重要な事なんだよ」

「命を懸けてまでですか?」

 ムサッシさんが胡乱そうにみてくる。

「それじゃあ、皆は、毎食これで良い?」

 僕は、そういって戦時中に用意したカロリーメイトモドキを見せる。

「それは……」

 コシッロさんが若干引くのをみてカレが笑顔で詰め寄る。

「栄養は、たっぷりいきていくのには、問題ないよ」

 ヨッシオさんも眉を顰める中、ナースーさんが頷く。

「それなら問題ないな」

「そうですね」

 ムサッシさんまでもが同意してしまうので僕が舌打ちする。

「この二人は、修行馬鹿なのを忘れていた」

 カレは、少し考えてから確認する。

「ナースーさんやムサッシさんは、栄養補給をし、地道な鍛錬を積み、実戦を繰り返せば強くなれると思って居る?」

「日々の鍛錬こそ、強くなる唯一の方法」

 ムサッシさんが信念を籠めて口にするとナースーさんが断言する。

「実戦で磨かれる技など芸事にしか過ぎぬ」

 フムフムとカレが頷く。

「確かにね。でもねうちの駄目親父は、毎朝の鍛錬こそ欠かさないけど絶対的に訓練量でアースー先生に劣り、戦争なんて殆どない国に行ってしまったからヘレクス大将軍の戦績とは、比べるのもおかしいくらい。その両者に圧勝してるけどどうしてだと思いますか?」

 普段上から目線のナースーさんの顔が明らかに変わった。

「天才というものなのでは……」

 自分でも納得出来ない様にムサッシさんがいうのでカレが爆笑する。

「魔力無しって言われ、ミハーエ王国でクズ扱いされていた駄目親父が天才だっていうの?」

「……魔力だけが戦いの才能とは、限らない」

 魔法王国ミハーエ貴族としては、認めたくないだろう言葉をナースーさんが絞り出すとカレは、再び頷く。

「そうだね。でもね、駄目親父が言ってたよ。勝負の結果なんて運や状況によっていくらでも変る、だけど強いか弱いかは、心技体で決まるとはっきりしている。体は、日々の訓練で鍛え上げ。技は、日々の技の反復練習と実戦での熟練で磨かれ。心は、積み上げる続けた自信と戦いを繰り返した経験、そして生き方で芯と化す。芯が無ければどれだけ体を鍛え、技を磨いても意味がないそうだ」

「生き方ですか?」

 コシッロさんが尋ねてくるのでカレが大きく頷いた。

「そうだよ。生き方。駄目親父は、断言してる。『ただ強さを求める奴だけには、絶対に負けない』ってね」

 ナースーさんの顔が一気に厳しい物になる。

「それは、私には、絶対に負けないって言いたいみたいだな?」

 カレは、それを笑顔で肯定した。

「ほぼ間違いなくね」

「根拠のない推論だ! 私は、学院時代とは、違う! 絶え間ない努力をし、強くなるために家も何もかも捨てた!」

 ナースーさんは、そう強硬に主張した。

 ナースーさんが色んな物を捨ててるのは、知ってる。

 何せあのダータスに生まれながら王族を護るって事すらせず、子供も放置し、帝国との戦争にも参加していない。

 だから生まれ故郷のダータスでは、蛇蝎の様に嫌悪され、息子から一切の親愛を受けず、戦争にも参加していない故に貴族としての立場すら危うい存在。

 他の貴族ならそれこそ生きた心地のしない立場にありながらそれらを全く気にせず己を鍛え続けた。

 その上、貴族の立場、家族、生きて来た足跡の全てを捨ててお父さんが居る世界に行こうと言うのだからはっきり言って正気の沙汰とは、思えない。

 だからこそカレが言う。

「駄目親父がよく言っていたよ。強くなるために何かを捨てるっていうのは、願掛けでしかない。それで多少は、強くなっても強さの芯には、ならない。だって単なる神頼みなんだから」

「神頼みだというのか私の強さが!」

 ナースーさんが怒声をあげた。

「おい、そこまでにしとけよ」

 焦った顔をしてヨッシオさんが止めて来るがカレは、更に挑発した。

「証明して見せるから来てみてよ」

「本当の強さという物を教えてやろう!」

 ナースーさんの棍が消えた。

 そう見える程の高速の突き。

 はっきりいってあんなの躱せる訳が無い。

 だからカレは、躱さなかった。

 事前に行っていた防御魔法でそれを受け止めた。

 実は、この話を始める前から準備は、済ませていた。

 苦い顔をするナースーさんが防御魔法を破る為の魔法を使おうとした時にハッとした顔になった。

 僕は、普段魔帯輝を入れて渡す革袋を見せる。

 ナースーさんは、肉体強化の練習として日常的に高度な魔帯輝を使っている。

 当然の様にそれが帝国で補給できる訳もなく、密かに会って居る本国との密偵から受け取る訳にもいない。

 僕達が名呼びの箱から取り出して補給している。

 だからこんな小細工が出来た。

「肉体強化系に必要な魔帯輝や防御のそれは、あっても、防御魔法破壊に適した魔帯輝ないですよね?」

 僕の言葉にナースーさんが悔し気な顔を見せる。

「計画的だったのだな?」

 カレが満面の笑顔で応える。

「因みにこっちからは、攻撃しませんよ。どうせ通じませんから」

 暫く棍を構えていたナースーさんは、諦めた様に降ろす。

「引き分けだ。負けない事が強さとは、いえないぞ!」

 負け惜しみにも聞こえるその言葉だがある意味あっている。

 だからこそカレが頷いた。

「うん。でもね、勝てないって事は、弱さだよ」

 ナースーさんの歯ぎしりの音が聞こえてきそうだ。

「駄目親父だったら間違いなく防御魔法を破る方法を何時も用意している。それをナースーさんがしなかったのは、単純な話し自分一人ならどうとでも出来るから。実際、こっちは、攻撃が防げてもそっちを倒す手段がない。でもさ、それでナースーさんは、誰かを護れますか? 自分一人生き残る事が強さなんですか?」

 カレの言葉にナースーさんが棍をただ睨む。

「弱さを背負えない身軽な人間に真の強さは、宿らない。どんなに研ぎ澄ませて必殺の刃となってもそれは、脆い。ナースーさんの強さってそんな強さなんですよ。そんな強さじゃ、図太く、一度寝ただけ相手の為に平然と数千人の武装集団を敵に回し護りきる駄目親父には、勝てませんよ」

 カレがそう言ってその話を終える。

 無言のナースーさんを後目に僕達は、歩き出す。

「お前等時々大人げないな」

 ヨッシオさんの突っ込みに僕が頷く。

「誰が負けっぱなしにしておきますか!」

 呆れたって顔をするコシッロさん達。

「だけどそれだけじゃない。上手く行けば邪魔なナースーさんを排除できるかもしれないじゃん」

 カレの言葉にムサッシさんが驚いた顔をする。

「中央からの監視役を排除するつもりですか?」

 僕が肯定する。

「ターレーお姉様が居れば十分だよ。制御できない情報が中央に届けば余計な軋轢を生むからね」

 暫くして歩き出すナースーさん、その動向は、まだまだ解らない。



1118/桜鳶深(10/11)

ヌノー帝国の西方、スマホット

玄札平民 ソウハ


「もう離縁して良いのよ?」

 そう義母が言ってくる。

 私は、首を横に振る。

「いいえ、私は、これからもカタハの妻であり、お母様の娘です」

「ずっと帰ってこない放蕩息子なんて捨てても誰も咎めは、しないわ」

 義母のその言葉に私は、はっきりという。

「私が待っていたいんです」

 大きなため息を吐く義母。

「本当に帝国兵になったと思ったら勝手に辞めてハンターになったきり音沙汰なしのろくでなしの何処が良いのかしら?」

「私だけでは、ありません。あのヘレクスを倒そうと頑張るカタハを応援している人は、多くいました。今だってそれを越した証を得る為にソーバトの双鬼姫を倒そうとしている。そんなカタハの妻である事を誇りに思って居ます」

 私の思いを口にすると義母は、申し訳なさそうな顔をする。

「そこまで言ってくれる貴女だからこそ、これ以上付き合わせられないわ」

「そんな事を言わないで下さい。ここを、帝国支配下の悪政で親を失った子供達を育てる孤児院、その経営の為に私財を投げだしたお母様の手助けをさせてください」

 私は、そう懇願すると義母は、首を横に振る。

「駄目よ。もうお金に出来る私財は、なく。帝国の統治も以前よりよくなった。それどころか領主主導の孤児院さえ出来て、そこに孤児達を預けられる目途もたった。後は、残った借金の全てを私が背負えば良いのよ」

「私も返すのを手伝います」

 私の提案を義母は、受け入れません。

「大金貨三十枚(三千万円)なんてとても払える金額では、ないわ。契約不履行で私が犯罪奴隷になるそれで終わるの。それに貴女を付き合わせられない」

「それならばなおの事です。お母様を犯罪奴隷になんてさせられません。なるのだったら……」

 私の言葉を義母が止める。

「それ以上は、言っちゃ駄目よ。良いの。元から覚悟していた事だから」

 私達がそんな話をしていると数人のガラの悪い男を引き連れた成金そのものの男がやって来た。

「奥さん、借金の返済期日を過ぎてますが金は、用意出来たかい?」

「いいえ、できませんでした。直ぐには、無理ですが孤児を移動が終った後のこの土地を、足りない部分は、申訳ありませんがこの老体を奴隷として売って下さい。これでも元将軍の妻、色々と高値を付けてくれる人がいるでしょう」

 義母がとんでもない事を言う。

「お母様!」

 私が止めようとするが義母は、首を横に振るだけで止めてくれない。

 成金そのものの男、元スマホット王国軍の施設隊の小隊長、コガネッテは、ニヤニヤした顔で言う。

「確かに色々と売れそうですが、それでも足りませんね」

 義母は、眉を顰める。

「そうでしょうか? 土地込みでしたら大金貨三十枚くらには……」

 その言葉を遮り様にコガネッテが言う。

「借金には、利子が付くんですよ。今の総額は、大金貨五十枚(五千万円)です」

「そんな、そんな筈が……」

 驚く義母より前に出て私が言う。

「そんな法外な利息は、ありえないわ!」

 コガネッテは、肩をすくめて告げる。

「それがあるんですよ。ちゃんと契約書に書いてありますよ、借金の返済期間を一日も過ぎたら利息が十倍になると」

 差し出された契約書に小さくその事が書かれていた。

「そんな……」

 私が戸惑う中、コガネッテが言ってくる。

「それでですか、足りない分として将軍がもって居られた魔法具、風刃を御譲り頂きたいのです」

 義母の顔色が一気に変わる。

「あれは、譲も何もカタハがもっていったままです!」

「構いません、権利さえ頂ければ回収する方法は、幾らでもありますから」

 諦めないコガネッテに義母がはっきりと告げた。

「あれは、我が家の最後の誇りです! その誇りだけは、売れる訳がありません。例え、借金返済としてこの命を差し出す事になってもです!」

「どうしてもですか?」

 コガネッテが念をおして来ると義母が断言される。

「どうしてもです」

 コガネッテは、卑しい顔で告げる。

「そうなると貴女には、帝国の軍人の所に差し出す事になりますよ? 貴女の旦那、元将軍に家族を殺されたその家に行けば簡単には、死ねませんが、本当に宜しいのですか?」

「私がどんな目に遭おうとも決して譲れない物があるのです」

 義母は、躊躇なくそう言い切られた。

 コガネッテは、舌打ちする。

「良いだろう。連れて行け!」

 大人しくついて行こうとする義母だったが私がコガネッテに詰め寄る。

「待って! お母様を売るなんて辞めて! 私が、私が代わりになるから!」

「ソウハ、貴女は、黙って居なさい!」

 義母がそう声をあげるがコガネッテは、愉し気に笑った。

「カタハの妻である貴女が身を売ると言うのですか?」

「ソウハには、関係ないわ!」

 必死に言い募る義母だったがコガネッテは、本当に嬉しそうにいう。

「良いでしょう。前々から一度愉しみたかったのですよ。それでは、奥様をどうするかは、今夜の貴女の態度しだいって事で宜しいでしょうか?」

「貴女がこんな事に付き合う必要は、無いわ!」

 義母が止めてくれるが止める訳には、いかない。

「その言葉信じて良いのですね?」

 コガネッテは、愉悦の表情を浮かべる。

「ええ、散々私を弱者と見下したカタハの女を抱けるのです。これ以上の痛快な事がありませんよ」

 悔しくない訳がない。

 それでも義母をこのまま死に行くような場所に売られる訳には、いかない。

「今夜は、良い酒が飲めそうだ!」

 高笑いをあげるコガネッテが私と義母を連れて孤児院をでた時、そこに不思議な組み合わせの人達が居た。

 前面にまだ成人前だろう双子の少女、その後ろに兵士らしき三名、最後尾に身分が高そうな男性。

 一見すると最後尾の人を護衛する集団にも見えたそれを見てコガネッテが慌てる。

「これは、これは、ミハーエ王国の兵士様では、ございませんか。この様な所にどの様な御用が?」

 ミハーエ王国の兵士、その言葉に私だけでなく、義母やコガネッテの周囲の者達も緊張する。

 敗戦国の国民にとって戦勝国の兵士は、絶対である。

 どの様な理不尽な事をされても何も言えない。

 それは、スマホット王国が帝国に敗れた時に嫌という程に理解させらえた。

 この孤児院に居る子供の何割かは、そういった被害者だ。

 前にいた元気が良さそうな方が笑顔で言う。

「余計なやりとりは、面倒だから率直に言うね。この孤児院の借金を買い取る。まさか嫌とは、言わないよね」

 そういって少女が持って居た革袋を拡げる。

 そこには、大量の大金貨が入っているのが私にも見えた。

「しかし……」

 躊躇するコガネッテに対してその少女が続ける。

「売り気がないならそれでも良いよ。ただし、そうなるとあんたが帝国に媚びを売る為に横流したスマホットの軍事物資についての請求が発生するだけだから」

 目を見開くコガネッテ。

「何を言っているんですか! 私は、そんな事をしていませんし、もししていたとしてもミハーエ王国の人間にそんな事を請求する権限は……」

「ヌノー帝国は、税収の総額から一定割合の賠償金を払っている。だから税収を減ずる原因に対して処罰を要求する権利がミハーエ王国には、あるんだよ。今回の場合、貴方が横流しした物資が正規の手順で帝国に移譲されていなかった事による税収の減額の責任を追及した時に帝国がミハーエ王国に逆らってまで貴方を庇うと思う?」

 少女の言葉に顔を真っ青にしながらもコガネッテは、絞り出すように言う。

「しょ、証拠があるのか!」

 そうするともう一人の少女が書類を見せる。

「スマホット王国の事務官って優秀でね、物資の正確な記録があったんだよ。帝国側の移譲された時との数値が合って居ない。そして帝国側の関係者の証言もとれてる。帝国側も今更そんな昔の事をほじくり返して罰するつもりは、ないだろうけどね?」

 少女が意味ありげな視線を見せる。

 何が言いたいのかは、はっきりと解る。

 無理に罰するつもりは、ないかもしれないが逆にそれを罰せない事で不利益になるなら幾らでも罰を与えるだろう。

 この場合、一番罪を背負わされるのは、ほぼ間違いなくコガネッテだろう。

「それじゃあ、そう言う事で精々処刑されない事を祈ってね。あちき達は、貴方が処分された後で格安で債権を手に入れる予定だから」

 そういう元気そうな少女の隣を駆け抜けてコガネッテは、奥にいた男性の傍に言って懇願する。

「貴方様がこの者達の雇っている貴族様ですよね? この孤児院の借金は、差し上げます。それだけでは、ありません、それ相応の献上金も用意させて頂きます。ですからどうか今回の事は……」

 縋る様なコガネッテの態度にたいしてその男性は、つまらなそうに告げる。

「私は、ただの監視役だ。お前が交渉すべきは、その娘達。カーレー=ソーバトとサーレー=ソーバトだ」

 今度こそこの場にいた誰もが驚愕し、言葉も出なかった。

 そんな中でも最初に声を出せたのは、義母だった。

「……ソーバトの双鬼姫」

 あまりにも大き過ぎる名前に動けないでいると中、元気そうな少女。

「あちきがカーレーね。さてと献上金だっけ? ふざけるのも大概にしときなよ。さっきのは、最後の機会だったんだよ。あそこで迷わず債権を売っておけばまだ商売として金貸しをやってるとして対処してあげたの。でもね、あんたは、妥当な金額を提示したのにも関わらずそれを躊躇した? どうしてだか解る?」

 カーレー様が私達の方をみられた。

 義母が思案して声を出す。

「多分、既に私の売り先が決まっていたと言う事ですね」

 もう一人の少女が頷いた。

「そういう事。元スマホット王国の残党、特に帝国側に早期に寝返った連中は、元将軍には、煮えくり返る思いを何度もさせられてたらしいからね。その妻で仕返ししようとしていた。そんな下種の連中とつるんで不当な事をやり続けるのを止める気がないって事だから。もうお終いって事。因みに僕がサーレーだよ」

「嘘だ! こんな小娘達があのソーバトの双鬼姫じゃない! その名を騙る不届き者を殺せ!」

 コガネッテがそう命じるとコガネッテの部下達が一斉に襲い掛かる。

 それに対してカーレー様は、苦笑する。

「あのさ無駄な足掻きをして余罪増やすの?」

「五月蠅い! もし本当ならば処刑されるのは、間違いない。罪が一つ二つ増えようが一緒なんだよ!」

 コガネッテの言葉にサーレー様は、肩をすくめる。

「罪が増えればそれだけ死ぬまで苦しむ事になるのにな」

 そんな言葉を交わしている間にもコガネッテの部下達は、御二方に詰め寄っていたが、後ろに控えて居た兵士達がそれを防ぐ。

「さてと、軽く返り討ちにしてやりますか」

 カーレー様が背中から大きなわっかを取り出す。

「あれがソーバトの双鬼姫、カーレー様が使う、大魔華双輪なのね」

 義母が真剣な表情を向けていたそれは、帝国の人間ならば誰でも知っているソーバトの双鬼姫とヘレクス元大将軍との決戦の一幕に語られる奇跡の武器だった。

 しかし、それが使われる事なく、事態は、収束するのであった。



「ナースーさん、やり過ぎですよ」

 カーレー様の言葉に奥に控えて居た男性、こちらもミハーエ王国貴族らしく碧札を持って居るナースー様が言う。

「お前達が殺すなというから生かしてあるぞ」

「これを生きてるっていうかは、少し問題だと思います」

 サーレー様がそういうのも仕方ない。

 最初の攻撃を防がれたコガネッテの部下達にナースー様は、突入すると、手に持った棒で次々と殴り倒していったのだ。

 まだスマホット王国が健在な時に兵士達の訓練をみせて貰った事があるが、訓練された兵士達のそれと比べても段違いの技量なのは、素人目にも明らかだった。

 男達は、最低でも腕の一本が折れ、中には、手足が全てあさっての方向に向いている人までいる。

 カーレー様は、まるで子供の悪戯に苦笑する様な表情を見せながら震えるコガネッテの傍にたった。

「覚悟は、良い?」

「お許し下さい! 何でも致します! 財産も何もかも献上しますからどうか命だけは!」

 必死の命乞いに対してカーレー様は、一言。

「同じような事を言った債権者を許した事あったらね」

 蒼白の顔をして何も言えなくなったコガネッテを背にカーレー様は、こっちを向いた。

「あちき達は、これからコレを連行するんだけど、助かったと思わないでね。貴女達の債権は、きっちり確保するから。それの使い道は、もう決まってるしね。そうだね三日後、迎えに来るからそれまでに孤児院の引き継を済ませて置きなよ」

 そう言い残すとカーレー様達は、コガネッテ達を連れて去って行かれた。



 急展開過ぎて思考が追い付かない状態の私だったが義母が言ってきます。

「まだ遅くない。今だったら離縁すれば政治の道具にならなくて済むわ」

 その一言で私は、現状が全然改善されていない事を思い出した。

 コガネッテに穢される恐れこそなくなったがもしかしたらそれより酷い事になるかもしれない。

「解って居ると思うけど、ミハーエの貴族が敗戦国に敗戦した国の人間を平等に扱う訳がないわ。間違いなく政治の道具として使い潰される。まだ小物のコガネッテの方が周りへの影響は、すくなかったかもしれない……」

 辛そうな顔をされる義母に私は、告げる。

「離縁しません。お母様だけをそんな辛い目には、合わせません」

「貴女という人は……」

 義母は、悲しそうだが僅かに嬉しそうな顔をされた。

 私は、小さくとも義母の助けになれるのならと覚悟を決めるのでした。



1118/桜紺平(10/15)

ヌノー帝国の西方、テルメット砦

玄札平民 ソウハ


「まさかあの人が何度も戦いに使っていたこの砦にこんな風に訪れる事になるなんて……」

 義母は、そういって元は、スマホット王国の砦、今は、帝国軍が使用するテルメット砦の防壁を見上げて居ました。

「ここに連れて来られたという事は、相手は、帝国の人間なのでしょうか?」

 私の疑問に義母は、眉を顰めます。

「現在は、そうかもしれないけど、元スマホット王国の人間の可能性は、あるわ。あの人は、意外と敵も多かったから」

「そんな将軍に悪意を持つ人間なんてスマホット王国には、居なかった筈です!」

 私の主張に対して義母は、ゆっくりと首を横に振った。

「あの人の手で身内を亡くした人は、決して少なくないわ。そういう人達にとってみれば私は、絶好の報復対象なのよ」

「……信じられません」

 私は、そう口にすると、こっちの話を聞いて居たのかサーレー様が言ってきます。

「私腹を肥やしていた悪党とか、国民を家畜の様に使い潰す馬鹿、国庫を自分の財布だと勘違いしている能無し、そんな連中にも家族や親しい人間がいるんだよ。得てしてそういう奴は、国の為に死なずに自己保身で平気で帝国に付き従ったからね」

「そんなの逆恨みです!」

 私の反論にカーレー様が頷く。

「それが理解出来る真っ当な人間だったら死んだ相手の妻やその息子の嫁で報復しようなんて馬鹿な事は、しないんだよ」

 納得出来ないそんな言葉に義母は、頷かれました。

「そうでしょうね。そういった人達を懐柔するには、丁度良い餌を手に入れたという訳ですね?」

「幸運だったと思うよ」

 カーレーのその言葉に私は、拳を握りしめていた。

 怒鳴りそうになる気持ちを抑え私は、問い掛ける。

「人を遊戯の駒の様にして楽しいですか?」

 サーレーは、苦笑する。

「人を駒の様に扱えなければ貴族なんて出来ないんだよ」

 戦勝国の貴族の傲慢過ぎる言葉に私は、ただ堪えるしかなかった。

 そうしている間に砦の中に入る事が認められた。

「もしもの時は、これで自害するのよ」

 義母がそういって小さな小瓶を見せてくれた。

 それは、前に一度だけ見せてもらった猛毒の小瓶だった。

 将軍の妻として時には、敵国から狙われる事もあった義母が万が一の時に将軍の足枷にならないようと常に忍ばせていた物。

 私は、震える手でそれを受け取って思う、これから私は、これを使う事が救いとなるかもしれない状況に足を踏み入れるのだと。



 私達が通らされたのは、砦の中とは、思えないほどの豪華な一室だった。

「こういう砦ってお偉いさんたちが来ることがあるからこういう部屋もあるんだよ」

 カーレーがそう説明してくる。

終戦魔法アーラー戦争の英雄、帝国さぞ肝を冷やしている事でしょうね」

 義母の言葉にカーレーが手を横に振る。

「そんな訳ない。今だって、いつでも暗殺出来る様に両隣と天井に兵を仕込ませてるくらいだもんね」

 私は、驚き立ち上がるがサーレーが落ち着いた様子で言ってくる。

「大丈夫、準備をしてもそれを実行に移すのを制止できなくなるって事は、ここの将軍に限ってないから」

「信用されて居られるのですか?」

 驚いた顔をする義母にカーレーが頷いた。

「まあね。信用は、している。ただし、油断は、してないけどね」

 その視線の先に立つ兵士、ソーバトの双鬼姫の三腕が油断なく警戒をしていた。

 そんな想い空気を打ち払う様にカーレーが口を開く。

「ようやく来たみたいだぞ」

「人を使いに出しておきながら自分達でくるとは、どんな了見だ!」

 そういって扉を開けて入って来た人を見て私も義母も言葉を無くした。

「よくよく考えたら賭け勝負の代償としていつも伝言頼んでて、労働報酬を払って居ないのに気付いてね。はい。これがそれ、価値は、そっちで決めて」

 カーレーが渡したそれを見てその人は、言う。

「なんだこれは?」

 サーレーが義母を指さして言う。

「貴方の母親の借金の債権。色々あってけど結局大金貨十五枚(千五百万円)で買い取った。偶には、親孝行しなよ」

 その直後私と義母が叫んでいた。

「「カタハ!」」

「なんで母さんとソウハがここに居るんだ?」

 その人、カタハも驚いた顔をする中、サーレーが言う。

「言ったでしょ。借金の債権だって。貴方が好き勝手に旅している間にその人は、夫の残した遺産を元に少しでも元スマホット王国の人間を救おうと色々と動いていたんだよ。その結果が、財産を全て失って身売り状態になってた」

「そこを偶然、カタハの奥さんを見てやろうと行ったあちき達が到着して、すぐさまヤバそうな連中を排除しておいたの。もう一度いうけど、その価値は、そっちで決めてね」

 カーレーの言葉にカタハが頭を掻きむしる。

「解った。俺の持って居る全財産だ!」

 そういって差し出した財布を見せるカタハに対してカーレーが首を傾げる。

「それが妥当な金額だと?」

「五月蠅い! これ以上は、何も出ないぞ!」

 カタハがそう怒鳴るとサーレー肩をすくめる。

「債権の買い取り金額にも届かないよ。カタハさんが払い終わったと思うまで伝令役をお願いね」

「最初からそれが目的か!」

 睨むカタハに対してカーレーが大きく頷く。

「毎回、勝負だとか色々と手順を踏むのだ面倒だったからね」

 急展開の状況に私が戸惑う中、義母が手を挙げた。

「状況を説明して貰えますか?」

 その言葉にカーレーが大きく頷いた。

「まずは、そこからだね」



「軍を辞めたカタハは、ヘレクス元大将軍より強い事を証明する為、三腕に挑もうと旅に同行しているって事ですか?」

 義母の問い掛けにカーレー様が頷く。

「そういう事。帝国の人との伝令役に丁度良くって重宝していたんです。まあ、部下じゃないからその旅に文句言ってくるんですけどね」

「当然だ! 俺は、帝国にも、ミハーエ王国にも屈しない!」

 カタハの主張に私は、苦笑してしまう。

「変わってないわね」

「五月蠅い!」

 睨んでくるカタハを義母が真剣な顔で見ていた。

「その心意気だけは、立派だと言えます。ですが、それで結果は、伴っているのですか?」

「実力は、上がっている。何れは……」

 カタハは、信念を籠めてそう口にしたが義母は、大きくため息を吐く。

「あの人は、よく言って居ました。何れ勝てるなんて言葉は、ただの負け惜しみでしかない。本当に勝つつもりならばそれだけの理由が必要なのです。カタハ、貴方にそれがあるのですか?」

「……」

 沈黙するカタハを中心に重苦しい空気が広がる。

 その沈黙を打ち破る様に義母が告げます。

「貴方の人生です。貴方の自由にすれば良いでしょう。しかし、それにソウハを付き合わせては、いけないわ。もしも勝つ理由も口に出来ず続けるというのでしたら、いまこの場でソウハと離縁しなさい」

「お母様! それは……」

 私の言葉を義母が遮る。

「これは、貴女の意見は、関係ありません。カタハ、どうするのですか?」

「ソウハとか……」

 こっちをみるカタハの目には、戸惑いがあった。

 それでもカタハが口にする。

「俺は、強くなる為ならソウハと……」

 そんな私を絶望させる言葉が終る前にカーレー様が声をあげた。

「はい、そこまで! ソウハさんの意見を無視したこんなやりとりは、あちきが認めないよ」

「お前に認めて貰う必要なんてない!」

 カタハがそう言い捨てるがカーレー様は、はっきりという。

「あちきが認めない相手を旅に同行させる訳ないよ。無理に話を続けるんだったら二度とあちき達の前に顔をみせないでね」

 悔しそうな顔をするカタハを他所にカーレー様が義母の方を向く。

「貴女の考えも解ります。本人達がどう思おうと、妻が帰らぬ夫を待ち続けるのは、宜しくありません。ですからここで一つ試しを行っては、どうですか?」

「試すとは、どのように?」

 義母が真剣に聞き返すとカーレー様が説明されます。

「カタハさんは、ヘレクス元大将軍を超すのを目的としています。その最低限基準として三腕を同時に相手にして勝つっていうのがあります。それを踏まえて、次の光の日、三腕の三名と一人ずつ戦い、一勝でもする事。それが出来たなら自由にさせる。もしも出来なかったら、その時は、あちき達のこの帝国漫遊が終った後、スマホットに戻ってソウハさんと夫婦として暮らしていく」

「ちょっと待てそんな事を勝手に決めるな!」

 カタハが抗議するが義母は、頷かれた。

「それが妥当ですね。カタハ、貴方も夫の血をひく男子ならば、自由は、自分の手でつかみ取りなさい。それが出来ないのでしたら風刃を持つ資格は、ありません!」

 カタハは、自分の腰に下げた風刃の柄を握り締める。

「解った。良いだろう! いずれは、勝たなければいけない相手、それが今回になっただけだ!」

 覚悟を決めたカタハのその言葉に私は、どう反応したら良いのか解らなかった。



1118/桜紺深(10/17)

ヌノー帝国の西方、テルメット砦の物見台

玄札平民 ソウハ


 私は、物見台に居た。

 何故と言われたら一人になれる場所がそこくらいしか無かったからだ。

 ソーバトの双鬼姫と共に来た私達への帝国軍人の監視がきついのだ。

「どうしてこんな事に……」

 誰の耳にも届かない筈の私の呟きに答えが返って来た。

「行動してなかったからだよ」

 声の方を見るとサーレー様が居られました。

「どうしてこんな所に?」

 問い掛けるとサーレー様が不思議な道具を私の耳に当てられた。

『だからソーバトの双鬼姫には、絶対に悟らせるなよ』

『無論です。例の魔法具を調査した痕跡は、絶対に残しません』

「これなんですか?」

 私の疑問にサーレー様は、木霊筒と呼ばれる遠くの人間と話す魔法具を見せられた。

「これを応用した盗聴用の魔法具。どうせこっちとの約定無視して、調査すると思ったから魔法具の内部に仕込ませておいたんだよ。その為に監視の目を誤魔化してここに居るの」

「止めなくて宜しいのですか?」

 私の指摘にサーレー様は、肩をすくめる。

「ここで止めてもやり方を変えるだけだからね。こっちとしては、証拠だけ残して後で何かの時に使うだけ。元々調査されて困る重要部品は、実は、ここにあったりするしね」

 サーレー様の手に乗せられた小さな道具を見る私。

「こんな小さな物があんな大きな魔法具の重要な部品なのですか?」

 サーレー様が頷かれます。

「軍隊と一緒。駒として動く兵士が多くいるけど大切なのは、指示をする頭になる一部の将校だけなんだよ。後は、幾らでも替えが効く」

「そんなものなんですか?」

 正直、あまり理解していない私に対してサーレー様が言う。

「話を戻すけど、ソウハさんがカタハさんと離婚するかでこんな大事になったのは、一般的な良妻であろうとして、結婚式すら正式に上げていない夫の帰りをただ待って居るだけだったからだよ」

 いきなり話を戻されて戸惑いながら私が主張する。

「しかし、代理結婚なんてあの当時は、珍しくありませんでした。それに私には、お母様を手伝う以外に出来る事は、ありませんでした」

 私とカタハは、それこそ生まれた直後にお互いの両親によって結婚の約束がなされていました。

 あの頃は、元スマホット王国の男性が軍に入っても、反乱に協力されては、困ると東部で軍務に就くことが多く、成人前の私を残し、カタハは、東部に向かった。

 その為、成人した時に代理結婚をして、カタハの帰りを待ちつつ義母の手伝いをしていました。

 これは、私だけでなく、スマホット王国の多くの女性が同じ様な思いを虐げられていた。

「今、他の元スマホット王国の女性も我慢しているんだから、自分も我慢するのが正しいと自己弁護してたでしょ? 他の人の夫は、ちゃんと数年に一度は、帰ってるよ。カタハみたいに一度も帰らない所か、軍を辞めてしまったのをそれと同列に考えるのは、間違いだよ」

 サーレー様の鋭い指摘にも私が聞き返す。

「それでは、私は、どうすればよかったんですか?」

「軍を辞めたという手紙を受け取った後に直ぐに向かうか、離縁すればよかったんだよ」

 サーレー様に即答されてしまって私は、戸惑う。

「それは……」

 言葉を紡げない私に対してサーレー様は、続けます。

「はっきりいって東部でハンターやっていたカタハさんは、目的を失い完全に腐ってた。例え何もできなかったとしても妻なら傍にいてその支えになってあげるべきだった。そんなんだからカタハさんは、妻なんて必要もないとあっさりと別れを口にしようとしたんだよ」

 私には、信じられない言葉でした。

「あのカタハが挫折していたっていうのですか?」

 小さい頃から自信満々で、周りに男子のだれよりも強かったのにそれでも鍛錬を欠かさない強い信念を持って居たカタハが挫折していたなんて信じたくも無かった。

「上には、上がいるんだよ。英雄なんて言われている僕達だって、一緒に来てるミハーエ王国貴族のナースーさんには、勝てない。周りには、平気そうな顔をしてたけど、僕達にも模擬戦の後に凄く悔しくて眠れない日があったよ」

 そう口にしたサーレー様は、本当に悔しそうな顔をしている。

 終戦魔法アーラー戦争の英雄ですら挫折をしている。

 その事実が私の中にあったカタハの像をぼやけさせる。

「討てない父親の仇、それを超える事で自分の思いを昇華させようとしていたカタハさんだけど、その仇すら居なくなった。間に合わなかった事が許せず、それで強くなるためって言い訳をして現実逃避をして軍も辞めた。もしもの話になるけど、その時に貴女が傍にいて、新たな道を進む事を勧め、よりそって居たらカタハさんは、今みたいに強さを求めてもがき続けるような生き方は、してなかったと思うよ」

 考えた事も無かった。

 私の中にあったカタハは、常に独りで先に行き、誰の助けも必要としてない、そんな人間だったのだ。

「でも私が東部に行くなんて事は、無茶な話で……」

 私は、自分で言いながらそれが言い訳でしかないと解って居るから声が小さくなっていく。

「そうだね無茶だね。だから諦めたその結果が今の状況。納得した?」

 サーレー様のその言葉は、悔しい程に真っ当で私は、何も言い返せない。

「後悔してるんだったらこれからは、変えれば良い。明日どんな結果が出るとしても、それを無視して自分が正しいと思う道を進めば良いよ。そうすれば少なくとも今回みたいに他人に自分の婚姻を左右されるなんて事は、なくなるんだから」

「……出来るでしょうか?」

 思わずそう聞いてしまう私にサーレー様が首を傾げる。

「さあ、それこそ、それを決められるのは、貴女だけだとおもうけど?」

 私が何か言う前に兵士達の足音が近づいてくる。

「僕の不在に気付いたみたいね。それじゃあ、僕は、退散するから」

 そういってサーレー様は、見張り台から飛び降りた。

 私が慌てて駆け寄るとサーレー様は、空中で方向を変えて窓の一つに侵入していった。

「まるで嵐のような人です」

 私は、私の心の中に大嵐を起こしたサーレー様をそう評した。



1118/桜紺光(10/18)

ミハーエ王国王城 大会議室

王族護衛騎士 ダースー=ダータス


「それで何が始まるんだ?」

 帝国への過剰出兵の件でマーグナに釘を刺して帰って来たばかりの俺の質問に同じリースー王子に仕えている文官、パーセーがため息混じりに告げる。

遠離会合鏡エンリカイゴウキョウを使っての帝国西部の砦で行われるあの三腕と帝国兵士の試合の天覧です」

 言われた意味を理解するのに少し時間が掛かった。

「おい。あの双子は、またそんな無茶を言ったのか?」

 俺は、憤りを感じながらそういうとパーセーは、首を横に振る。

「今回は、違う。何でもその試合の許可をターレー様から頂く為の資料をマースー様が偶々見て。どうしても見たいと申されたそうだ」

 俺は、どうしているのか不思議に思って居たマースーを半眼で観る。

「そんな我儘を言ったのか?」

 誰がとは、口にしないがパーセーには、解って居るだろう。

「無論、帝国との外交を為されているリースー王子は、反対されましたが、レースー王子からの強い要望で許可せざる得なかったのです」

 多忙のレースー王子がこの場に居て、申し訳なさそうな顔をされていた理由も理解出来た。

「ターレー様が対応されなかったのか?」

 こういった問題において一番に頼りになる名前を俺が上げるとパーセーが帝国の方を見る。

「無論された。ただ、国境防衛の為の大々的な鉄道網の施設計画の為の会議に伴う宴席に出る事を条件で承認したふりをして、帝国側から断りを入れさせようとしたらしいのだが、失敗に終わったらしい」

「魔極獣の件の時から改造がされていないのなら、大量の情報やりとりで軍用の木霊筒通信網を占有する筈だよな?」

 俺がうろ覚えな知識でそう確認するとパーセーが頷いた。

「それで正しい。たかが兵士の試合の為に帝国の連中がそれを認める訳がないって算段だったのだが、ヌノー帝国皇帝の一言で許可が下りてしまった」

 ターレーは、ちゃんとした盤上遊戯ならサーレーにも勝てる切れ者で、今回もそれだったら成功した謀略だったのだろうが、あの帝国のジジイに盤からひっくり返されて台無しにされた様なもんだろう。

 双子の馬鹿に表面上笑いながら内心激怒してた姿を思い出される。

「王宮上層部から制止が無かったのか?」

 俺が気になった事を聞いた。

 まだ未完成の魔法具にこちらの有力戦力、それを帝国に開示するような真似を上の連中が黙認したとは、思えなかった。

「遠離会合鏡については、既に何度か使っているからな、あれらが確り機密を維持するなら問題ないだろう。そして三腕の件だが、上の連中は、所詮兵士の実力、開示してもなんの問題ないと判断したらしい」

 パーセー自身が納得していない説明に俺は、頭を掻く。

「上の連中は、何を考えて居るんだ! 三腕は、デースー兄貴だって認めるソーバトの屈指の戦闘力だぞ! それをそう気軽に見せるんじゃねえよ!」

「とにかくそういう訳でここでその試合の天覧が行われる。リースー王子の護衛には、気を付けろ」

 パースーの言葉に俺は、無言で頷いた。

 天覧試合って事で普段は、居ない連中がここに集まっている。

 その中には、三権体制を嫌悪する連中も含まれている。

 王族に対して滅多なことは、しないと思うが万が一がある、十分に警戒しておく必要がある。

 そんな事を考えながらまだ時間があるというので従姉弟として一言いってやろうとマースーに近づく。

「白の神より包の神を通さず金の神へ結ぶ行いは、神の加護の外にあります」

 俺からの貴族言葉での警告に嫌そうな顔をするマースー。

「もう、そんな嫌味を言わないでよ。これでも全く考えて居ない訳じゃないんだから」

 周りに王宮でも礼儀に細かい連中が多いっていうのに貴族言葉抜きで話して来るマースー。

「どういう考えかは、知らんが、本気で周りが迷惑してるだろうが」

 俺が周りに聞こえない様に小声で告げるとマースーは、苦笑する。

「まあ、ターレーには、心労かけてるのは、自覚あるけど、これは、必要な事だと思うのよ」

「こんなお前の愉悦がか?」

 俺がきつい言葉を吐くとマースーは、あっさりと肯定する。

「必要。だってこれを認めた連中は、三腕の実力を甘く見ている。もっと言えば未だにソーバトをただの中位領地だって勘違いしている。だからここでその力を見せつけてやらないとね」

 表向きは、中位領地だが、次代の第一王妃、王族に負けない魔力をもつ双子、今までとは、一線を引く新機軸の魔法、国境防衛の要に成り得る鉄道等々を輩出しているソーバトは、間違いなくミハーエ中では、かなりの発言力を持って居る。

 そして今回戦う三腕は、その一つを警護してるのも重要だが、継王の日の試合の様に戦いを左右する働きが可能な今後のミハーエに大切な駒だ。

 その情報をこんな大々的に広げようとしているのだ、他国との戦いに関わる俺としては、冗談も大概にして欲しい。

 確かにその力をみせつけて現実というのを教えてやるのも大切だと思うが俺は、断言してやる。

「今言ったのは、後付けで、ただ単にムサッシの奴の刀捌きを見たかっただけだろう?」

「勿論じゃない!」

 一切の躊躇をせずに認めて来るマースー。

 戻って来た俺に対してパーセーが尋ねて来る。

「ダータスは、本気であれを次の第一王妃にしようとしてたのか?」

「言わないでくれ、ダータスですらもう無かった事にしている汚点だからな」

 俺は、ターレーの第一王妃としての素養とマースーの自由さに掌を返して全面的賛成に変ったダータス事情に頭を押さえるのだった。



1118/桜紺光(10/18)

ヌノー帝国の西方、テルメット砦の鍛錬場

札無し下働き カレ


「皆さまお待たせしました! これから先のミハーエ王国とヌノー帝国の戦いで大きな貢献を挙げたソーバトの三兵士様と元スマホット王国の将軍の息子、カタハ様との対決が始まろうとしています! 実況は、三兵士様に仕える下働きカレ、解説は、ナーヤ山に居たナー師範で行わせて貰います」

 あちきは、ライブ放送になる事になったのでテレビ中継ぽくやってみた。

 隣に座る解説役のナースーさんがなんだそれって目をしてくるけど無視。

「カタハ様は、気合も十分です。実力もかなりのものだと思われますがどうでしょうか?」

 あちきの問い掛けにナースーさんは、やる気なさげに応えてくれる。

「基礎は、出来ている。実戦経験も豊富だ。まず帝国でも一流といっていい実力をもっているな」

「これは、かなり良い評価ですね」

 あちきがそう相打ちするとナースーさんが失笑する。

「だが相手が悪い。三腕と呼ばれるあの三人は、魔法抜きであればナーヤ山で上位に入る。勝ち目は、存在しないな」

 場を考えない言葉に帝国の連中の視線がかなり痛い。

 試合場の周りを改めて見回すと大勢の観客がいる。

 帝国の砦だからその殆どが帝国軍人なのだが、その中には、元スマホット王国の連中も居るみたいだ。

 統治から数年、帝国軍に入った元スマホット王国兵士達も転属願いでこの砦に来ることが許されているらしい。

 カタハさんの事を良く知る人間もいるから今回の戦い、他人事じゃないのかもしれない。

 実際の所、今回の話は、ここまで大事にするつもりは、無かった。

ターレーお姉ちゃんに一応の承認を貰うだけの予定がマースーさんが割り込んだ挙句、クソジジイのゴリ押しでこなってしまった。

「まあこうなったなったら愉しむけどね」

 あちきは、そう呟いてから試合場の中央の立つカタハさんを見る。

 一目で緊張しているのが解る。

 だけど同時に今までにない強い決意を感じた。

 そしてサーレーが最終的な確認に向かっていく。



1118/桜紺光(10/18)

ヌノー帝国の西方、テルメット砦の鍛錬場

鳶札ハンター カタハ


「今回の決め事の最終確認。カタハさんは、ムサッシさん、コシッロさん、ヨッシオさんと一対一で戦い、一勝でも出来たらこのまま自由。逆に一勝も出来なかったら僕達の帝国の旅が終った後は、ソウハさんと暮らして養うって事で問題ないね?」

 サレの言葉に俺が頷く。

「俺が勝てば良い事。問題ない」

 俺は、風刃の柄に手を添えて告げるとサレが告げる。

「それじゃあ、これよりカタハさんの三腕への挑戦を始めます。カレ!」

 その声に応え、声を拡張する魔法具を持ったカレが試合場とその周囲に響き渡る様に宣言する。

『それでは、第一試合、鋭腕ムサッシ戦開始!』

 宣言と同時に俺は、風刃の抜き放ち、その力を発動させた。

 複数の風の刃がムサッシさんに迫る。

 不可視のそれをムサッシさんは、紙一重で躱していく。

 その後方で地面や観客を護る壁に斬り込みが入り、周りの観客がざわめく。

『おーと見えない攻撃がムサッシを襲う! 解説のナー師範、これは、どういった攻撃なのでしょうか?』

 解って居るだろうに態々そう尋ねるカレに面倒そうにナースーさんが答える。

『カタハが持つ魔法具『風刃フウジン』の能力だ。嵌め込み式の魔帯輝に魔力を与える事で風の刃を生み出す。正直、カタハには、勿体ない程の武器と言えよう』

『勿体ないとは? 十分に使いこなせていると思いますが?』

 カレの疑問をナースーさんは、鼻で笑った。

『ムサッシと何度も戦っているのだ、今の攻撃が牽制にもならないくらい理解して当然だと言う事に気付いて居ないのにか?』

 悔しいがその通りだった。

 元よりこの攻撃が当たるなど考えて居なかったが次の攻撃の為の崩しになればと思って居たのにムサッシさんに乱れは、ない。

 ただ魔帯輝を無駄に消耗しただけになってしまっている。

 それでも何故紙一重で避けられたのかと疑問が残る。

 俺は、慎重に間合いを詰めていき、剣の間合いの僅かに外から風刃の能力を使った。

 今度こそ、体勢を崩して、一気に間合いを詰めよう力を貯め込んで居た。

 しかし、ムサッシさんは、まるで風の刃がはっきりと見える様に僅かな動きでそれを躱していかれ、踏み込めない。

『今も風の刃が放たれたみたいなのですがどうしてムサッシは、躱せたのでしょうか?』

 カレが俺と同じ疑問を口にした。

『解って行っているのだろう? 魔法攻撃にしろ物理攻撃にしろ、攻撃には、予兆が存在する。特に魔法攻撃の場合は、それが顕著だ。あの風刃の風の刃は、その速さと引き換えにその前兆が明確に感知できる。私なら目を瞑っても避けられる』

 ナースーさんの解説に俺が戸惑う。

 今まで何度かムサッシさんと戦ってきたが、こんな避け方をした事は、見た事が無かった。

「悪いが何時もと違って全力で行かせて貰う。次で終わりだ」

 ムサッシさんがそういって刀を大きく振り上げた。

 隙だらけの構えにしか見えない。

 頭では、今すぐに踏み込むべきだと解って居る。

 しかし、勘が下がれと叫んでいた。

 俺は、勘に従って一歩下がった。

 しかし、次の瞬間、ムサッシさんの刀が目の前を通り過ぎて行った。

 胸部装甲が分かれ落ちていく。

 何が起こったのかまるで解らなかった。

 唯一解るのは、自分が負けたそれだけだった。

『まるで瞬間移動したように一気に間合いを詰めたムサッシが振り下ろした刀が勝負を決めた! ムサッシの完勝だ!』

 カレの叫びに周りが一気に感嘆の声をあげる。

『狼技の高速の詰め寄りと鳥技の神速の振り下ろしを合わせ、熊技の武器破壊まで含めた技だ。どれも基礎の技を昇華させている。勘違いされがちだが、七獣武技シチジュウブギには、複雑な技も多いが、その真価は、それぞれの基礎技であり、それをどれだけ高められるかだ。ムサッシは、そういう意味では、正に基礎を奥義と呼ばれる領域まで高めたのだろう』

 ナースーさんの説明に対してカレが尋ねる。

『そうなるとカタハは、踏み込んで居た方が良かったのですか?』

『ただ狼技の代わりに猫技で対処するだけだ。あの鳥技の神速の振り下ろしと熊技の武器破壊の合わせ技を防げない限り、どっちにしても負けは、確実だった。それだけだ』

 ナースーさんが断言した通りなのだろう。

 背を向けて去るムサッシさんとの差を俺は、痛感するのであった。



1118/桜紺光(10/18)

ミハーエ王国王城 大会議室

王族護衛騎士 ダースー=ダータス


 その試合を見ていた者達からざわめきが起こる。

 見る者がみればムサッシがやったのがどれだけ凄い事なのかは、はっきりと解る。

 少なくともダータスの騎士ならばその実力がはっきりと認識できただろう。

「単純な振り下ろし。それこそが一番難しいのよ。それにそれだけじゃない。一気に間合いを詰め切る歩法に日本刀でしか出来ないだろう芸術的な斬り方。想像以上ね」

 本当に嬉しそうにマースーが語る。

「元より技術だけならカーレー殿より上だったからな」

 俺もあれらと行動を共にする事が多かった。

 当然その護衛役の三腕ともだ。

 必然的に模擬戦を行ったが、魔法無しの戦いでは、勝率が一割未満だった。

「日本刀という武器ならば最高の技量をもっているのかもしれないな」

 俺の呟きにマースーの目が輝く。

「絶対に帰ってきたら模擬戦するわ!」

「マースー様!」

 デースー兄貴が睨むがそんな事お構いなしに今からその時の戦いの事を考えて型を始めるマースーであった。


1118/桜紺光(10/18)

ヌノー帝国の西方、テルメット砦の鍛錬場

ミハーエ王国の鳶札兵士 速腕のコシッロ


 カタハの疲労回復の為の時間、カーレー様と試合の細かい解説の締めにナースー様が言われる。

『三腕とまるで同列みたいに思われているが、ムサッシは、他の二人よりも上を行っているだろう』

 そう、ムサッシは、ウチらより強い。

 そんな事は、嫌って程に理解している。

 ナーヤ山に居た頃は、男と女の差とか色々と言い訳を考えてほぼ互角だなんて自分を誤魔化していた。

 それがソーバトに仕官して、共に訓練し、刃を並べる様になってはっきりと解ってしまった。

 ウチがムサッシより未熟だという事実を。

 それが女だからなんて言葉は、ここ一番という所で強敵を何度も倒しているカーレー様という同性の年下をみていたら使えない。

 性別、戦法、訓練時間、武器そんな目先の事など関係ない。

 純粋にムサッシの技は、ウチの技を超えている。

 それがどうしようもなく理解出来た。

 負けたままでは、居られない。

 そう思って訓練や実戦を繰り返した。

 自分が強くなっているって自覚は、ある。

 それでもムサッシは、更に上を行っていた。

 それに単純に勝ちたいと思えていたのは、前までだ。

 終戦魔法アーラー戦争、あの戦いでウチは、自分の未熟さを思い知らされた。

 ヘレクス元大将軍との戦い。

 その中で一番劣っていたのは、自分だと理解している。

 そしてそれ故にカーレー様を重傷を負わせてしまった。

 そんなカーレー様を逃がす為に多くの騎士がその命を賭した。

 その命の重さは、カーレー様達の肩に今も乗っている。

 ウチ等がもっと強ければ背負わせる事が無かった重さ。

 その時から強くなる理由が変わった。

 ムサッシにただ勝つだけじゃなく、ムサッシよりカーレー様達を強く守れる様に。

 そんな想いと裏腹に殺し屋に利用された事もあった。

 そんなウチ等でもカーレー様達は、言われた。

『ここまで大事になる予定は、無かった。それがこうなった要因の一つは、三腕の低評価だよ。ミハーエでは、まだまだ魔法以外の評価が低いからね。良い機会だからここで強いって見せつけなよ』

 そんな事を何故口にしたのかヨッシオが後で言っていた。

『三腕の立場は、軽いんだよ、何か事があった場合に容易に処分される。そうならない為に自分達の価値を上げろって事さ。本当に嫌になる程に部下思いだぜ』

 護るべき相手に護られているって状況に苛立ちを隠せないヨッシオとウチも同じだった。

 ムサッシも同じだったのだろう。

 だからこそ普段は、鍛錬の為と相手の戦い方に合わせていたのを止め、自分本来の戦い方を見せたのだろう。

 当然、ウチだってそうするつもりだ。

 そんな事を考えて居る間に回復を終えたカタハが中央に出て来る。

 相対したウチに対してカタハが自分を鼓舞する様に宣言する。

「次があるなど考えない! 絶対に勝つ!」

 ムサッシに負けた事がよほど効いたのだろう。

 ウチに言わせてみればカタハは、ある意味三腕より優れている。

 それは、強い魔力を持つ事。

 三腕がこれほどまでに評価されるのは、単にカーレー様とサーレー様を護るという状況だからだ。

 御二方の強力な防御魔法が無ければ無数に飛んでくる矢、四方八方からくる攻撃、強大な魔法など防ぐ術などないのだから。

 風刃という魔法具を使えるカタハの魔力は、ある種の妬みすら覚える。

『第二試合、速腕コシッロ戦開始!』

 カーレー様の合図と共にウチは、正面から近づいていく。

 無論、カタハは、風刃の力で攻撃してくるが、そんなのは、ムサッシがやってみせたように躱すのは、そんなに難しくない。

「負けられない!」

 カタハは、そう怒声を上げながら一気に間合いを詰めて来る。

 ウチの右手の剣とカタハの風刃がぶつかる。

 すぐさま、左手の剣がカタハを狙う。

 大きく下がる様に躱すカタハに対してウチは、更に踏み込んで対応する。

 間合いは、広がらない事に焦りを見せながらもカタハは、風刃で薙いだ。

 私は、右手の剣でそれを受け止める。

 カタハの視線が左手の剣に向かったのを確認してからウチは、左手を大きく振り上げる。

 再び間合いを空けようと剣を引いたカタハに対してウチは、右手の剣を突き出す。

 咄嗟の判断で身を捩り直撃を避けたカタハだったが驚きの表情を見せていた。

『おーと左手の剣を振るうと見せかけた右手の突きを放った。コシッロの奇抜な攻撃にカタハは、動揺を隠せません!』

 カーレー様の実況が会場に広がる。

『別段珍しい技じゃない。二つの武器を使う相手にする時に片方の武器に気をやり過ぎたのが間違いだ』

 ナースー様の解説通りだ。

 それでもこんな戦い方は、してこなかった。

 これは、カーレー様達が何時もしている勝つ為の戦い方。

 模擬戦の時は、そんな事をして勝っても意味が無い為してこなかったそれをウチは、してみせた。

 それだけでカタハは、簡単に引っ掛かった。

 その顔をみれば解る。

「何で正々堂々戦って勝てるのにこんな手を使うか不思議?」

 ウチの問い掛けにカタハが苦虫を噛んだ顔をしながらも肯定して来た。

「そうだ。こんな小細工などしなくても……」

「真剣勝負に小細工なんて無いわ。どんな技であれそれを生かしきれるかどうか、それが全て」

 ウチは、そう断言すると同時に今度は、こちらから間合いを詰めた。

 苛立ちながらもカタハは、ウチの攻撃を必死に防ぎ続ける。

 双剣から放つ連続攻撃、ウチが速腕と言われる由縁の攻撃。

 それでもこれは、模擬戦でも見せているのでカタハは、なんとか凌いでいる。

 元々素質があるのだ、何度も模擬戦でやった攻撃ならば防げる。

 だからこそ次の一連の攻撃で決める。

 ウチは、深い呼吸と共に右腕の力を抜いた。



1118/桜紺光(10/18)

ヌノー帝国の西方、テルメット砦の鍛錬場

ミハーエ王国の鳶札兵士 剛腕のヨッシオ


「コシッロの双剣の連撃に耐えるなんてカタハも成長したな」

 俺が気楽にそういうと隣に立っていたムサッシは、気にした様子も見せずに告げる。

「ただの慣れの産物だ。問題は、これからだな」

「そだな」

 俺は、コシッロの右腕から力が抜けるの確認した。

 次の瞬間、今までと違った軽い右の剣だけの連撃が始まった。

『これは、どうした事だ! 今までとは、全然違う軌道で右手の剣が襲い掛かっていく!』

 カーレー様の実況の後にナースーが解説を入れた。

『蛇技の鞭を使う技術と鳥技の高速の剣振りを合わせた技だ。力でなく、柔軟な腕のしなりを利用し、通常とは、異なり且つ連続した攻撃を放てる。その分、力が入らず致命傷には、程遠くなるがな』

「まあ、それでもこの試合なら致命傷を意識する必要は、ないから問題ないだろうな」

 俺は、軽口を叩く中、カタハは、その想定外の攻撃を防ぎきった。

 だが次の瞬間には、勝負は、決まっていた。

『決まった! 二戦目もカタハの敗北だ!』

 カーレー様がカタハの敗北宣言をする。

「いくら慌てるからって双剣使い相手に片方の剣だけに集中すれば負けるわな」

 俺は、そういって肩をすくめた。

『元より試合だからと致命傷にならない右の剣での決着などするつもりは、無かったのだろう。本命は、右の剣に集中したカタハの死角を左の剣で突く事にあったのだ』

 ナースーの勝負の解説が始まる。

 カタハの体力が回復するまでの場繋ぎだろう。

「次は、俺だな」

 軽く体を動かし、準備を始める。

「解って居ると思うが勝つのだぞ」

 ムサッシの言葉に俺が苦笑する。

「冗談を言うな。圧勝するに決まってるだろう」

 今回の戦いの本当の相手は、目の前にいるカタハでは、ない。

 魔法具を通して俺達の力を探っているミハーエの貴族連中だ。

 奴等にしてみれば魔力が低い俺達なんて肉盾以外の何物でもないだろう。

 そんな俺達がソーバトの双鬼姫の三腕として有名になっている事を良く思って居ない奴等も多いって話だ。

 そういう奴等の中には、気に入らないって俺達の処分を言い出す貴族だって居る。

 これは、ほぼ間違いない。

 カーレー様達は、言葉を濁していたが、ミハーエに居た頃から俺達への風当たりが強い場合があった。

 特に継王の日の模擬戦の直後等、あの戦いで俺達の手で戦闘不能判定された連中は、たかが兵士の分際でと憤慨し、嫌がらせをしていたらしい。

 その大半がサーレー様がこっちが気付く前に潰していたとシーワーの奴が自慢気に言っていた。

 サーレー様がこっちを気にして隠してたっていうのに空気が読めない奴だ。

 とにかくそんな腐れ貴族共にしてみれば処分する機会があれば俺達を処分したい。

 そこで今回の帝国漫遊だ、カーレー様やサーレー様は、こっちに責任が来ない様に細工しているだろうが、それでも難癖をつけてくる連中が居る。

 その時に俺達が直接そいつらをどうこうする事は、出来ない。

 サーレー様任せになり、多分どうにかしてしまうだろうが、それをするのに立場が悪くなると判断された場合、ソーバトの上の連中は、俺達の処分を強行する可能性がある。

 それが嫌って訳じゃない、それどころかもし本当に足を引っ張るようなら処罰されたって構わない。

 だがそうしたらカーレー様達は、責任を感じるだろう。

 そんな事にならない為にもここで俺達の実力を公的に示して、腐れ貴族共に難癖つけられない様にしなければいけないんだ。

「カタハなんかに苦戦してられないんだよ」

 俺の呟きは、こっちに向かって来たカタハにも聞こえただろう。

 怒りをその目に宿してカタハが風刃を構える。

『第三試合、剛腕ヨッシオ戦開始!』

 そしてカーレー様の宣言と共に俺の試合が始まった。



1118/桜紺光(10/18)

ヌノー帝国の西方、テルメット砦の鍛錬場

鳶札ハンター カタハ


 今まで生きて来た中で一番の怒りを覚えた。

 ヨッシオさんの言葉じゃない。

 そんな言葉を言われる自分の弱さがだ。

 これまで何度も模擬戦を繰り返して来た。

 一対一ならもう少しで勝てる様になると思って居た自分を殴り飛ばしたい。

 相手は、まるで本気を出して居なかったのだ。

 本気を出されたらまるで勝てない。

 勝てる気がしない。

 後一歩なんてもんじゃなかった。

 一気に遠ざかった相手の背中に俺は、苛立つ。

 それでももう試合が始まっている。

 ヨッシオさんは、動かないでこっちをただ見ている。

 俺も不用意に踏み出せないでいた。

『カタハ、攻めに入らない! どうした事か?』

 カレが業とらしい実況を続けているのが腹立つ。

『三腕の中でカタハが唯一勝てるとしたらこの剛腕だけだろう。傭兵出身のヨッシオは、戦闘勘が鋭いが技術的な面では、カタハよりも劣っている。実戦ならともかく、こういった模擬戦なら勝つ可能性は、あるだろう』

 ナースーさんの言葉を俺は、自分の中で検討する。

 確かにムサッシさんもコシッロさんもその技術は、凄い。

 だがヨッシオさんは、強引な技が多く、それさえ凌げばこちらにも勝ち目があった。

 今回のこの正面からの戦いならなんとかなる筈だ。

 ここは、落ち着いて相手の動きを待ってから攻撃をしようと考えて居るとヨッシオさんが苦笑する。

「待ちの姿勢で勝てると思ってたのか? なら終わらせるぞ」

 馬鹿正直に正面から歩いて接近してくる。

 歩法も何もない隙だらけの接近。

 これならば間合いすら間違えなければ確実に一撃を入れられる。

 そう確信して、ヨッシオさんの間合いに入る一瞬前に風刃の力を放った。

 避けても受けても行動が制限される。

 そこに一撃を入れる。

 そう思ってヨッシオさんの隙を見逃さない様に凝視する。

 しかし、想定外の事が起こった。

 ヨッシオさんは、避けも受けもしなかった。

 風の刃に身をさらしながらも一気に詰め寄って技も何もない大振りで大剣を横薙ぎしてきた。

 今から下がっても避けきれない。

 咄嗟に身を屈めて避けた時、顔面が熱くなった。

 遅れて来た痛みにヨッシオさんの膝が顔面にあたったのだと解る。

 次の攻撃を防がなければと風刃を振るうがヨッシオさんの手甲をつけた腕で受け止められてしまう。

「終わりだ!」

 大剣の腹が横っ面を痛打した直後、俺は、意識を失った。



1118/桜紺光(10/18)

ヌノー帝国の西方、テルメット砦の鍛錬場

玄札平民 ソウハ


『第三戦もカタハの敗北、これでカタハの完全敗北が決定しました』

 カーレー様の宣言に落胆の声が周りから聞こえて来る。

 私は、そんな中、義母を見た。

 義母は、悲しそうであったが同時にそこに驚きの色は、無かった。

「お母様、もしかしてこの結果を予測されていたのですか?」

 私の疑問に義母は、小さく頷かれた。

「そうね。カタハは、勝てないだろう事は、あの三腕を見た時から解って居たわ」

 少し意外だった、元将軍の夫人だとしても相手の力量を計る目があるとは、思わなかったからだ。

 そんな私の考えに気付いたのか義母が続ける。

「別に相手の強さが解った訳じゃないわ。解ったのは、あの人達がソーバトの双鬼姫の三腕という名前を背負うに値する人達であると言う事」

「名前を背負う?」

 意味が解らず聞き返すと義母が教えてくれる。

「夫は、スマホット王国の将軍という名を背負っていたわ。夫が連れて来る人達の中には、将軍や英雄等の意味ある名を持つ人達が居たわ。でもその多くが高名という鎧をまとっているだけだった。でも一部の人達は、その名を背負って居たの。名前を背負うというのは、決して楽な事じゃない。将軍という名を背負った居た夫を見続けた私だからその大変さは、よく知っている。だから名前を背負った人間にそうでない人間が勝てないと解ったのよ」

「それでもカタハが十分な実力があれば……」

 私の反論を遮り義母が断言する。

「ある一定以上の力をもった者同士なら名を背負った者相手に背負わない人間は、勝てない。戦いっていうのは、そういう物よ」

 私には、納得いかない言葉でした。

 そして私の今一番気になる事は、倒れたカタハの体でした。

 サーレー様が近づくと頬を叩く。

「うん、反応があるから大丈夫みたいだね」

 安堵の息を吐く私だったが、気付いてしまう。

「これでカタハが帰ってくる……」

 それは、口にこそした事が無かったが長い間の望みだった事。

 カーレー様達の漫遊が終ってからと条件が付いたとしてもその望みが叶うのだから喜ぶべき事なのだと思う。

 しかし、私の中には、納得いっていない気持ちがあった。



1118/桜紺光(10/18)

ヌノー帝国の西方、テルメット砦の物見台

玄札平民 ソウハ


『独りにしてくれ』

 敗北したカタハにそう言われ私は、またここに来ていた。

「カーレー様達の旅が終ったらカタハが帰ってくる……」

 カタハの敗北による結果に私は、未だ呑み込めずにいた。

「カタハも叶わない願いを追い続ける良い事よね?」

 疑問形になってしまうのは、仕方ないと自分を納得させようとした時、また予想外の声が聞こえた。

「叶わなくても追い続ける事に意味があるって事もあるよ」

 声の方を向くとカーレー様が居られた。

「あまり意味を感じられません、どうしてこんな所に?」

「下は、色々と面倒だから逃げて来た。それよりさっきの言葉だけど人の幸せを他人が決めるのは、間違いだよ。どんなに報われないと思って居てもそれを追い続ける事が幸せって人もいるしね。ちなみにミハーエには、絶対に無駄だと自他共に思って居ても追い続けた人が居て、その人は、諦めなかったからその目的を達成する機会を得たよ」

 カーレー様の言葉に私は、俯いてしまう。

「その人は、幸せだったのでしょうか?」

「さっきも言ったけど幸せだったかどうだかは、本人しかわからないよ。ただ言えるのは、本人が確りと踏ん切りをつけないとそれは、一生心残りになるって事かな」

 カーレー様は、そう告げられた。

「私は、カタハの重しになってしまうのですか?」

 私の疑問にカーレー様は、大笑いをする。

「凄いね。好き勝手しまくってるカタハさんの心配が出来るなんて」

「カタハは、好き勝手やってるわけでは、ありません! カタハの帝国のヘレクス大将軍を超えるという願いは、スマホット王国の者達の願いなんです!」

 声を荒げて私は、そう言って居た。

 カーレー様は、少しの間、私を見た後に告げます。

「結局の所さソウハさんは、どうしたいの?」

「私ですか?」

 思わず聞き返す私に対してカーレー様は、頷かれます。

「そうソウハさんは、カタハに傍にいて欲しいの? 欲しくないの?」

「それは……」

 答えられない私にカーレー様が続けます。

「結局の所さあちき達が一番気にしてるのは、そこ。婚約者だから代理結婚までしてるのに、結婚してからずっと会えずにいた。それが平気だったんならこの先も居なくても良いの? そうだったら離縁したら?」

「そんなことは、ありません! 私は、カタハの事を愛してます。だから……」

 足手まといになりたくない。

 口に出せない言葉を胸に押し込めて思いだけを視線に乗せるとカーレー様が言う。

「自分勝手な相手に自分を押し殺して付き合うのって良い事だと思う?」

 カーレー様の問い掛けの意味が解りませんでした。

「相手が自分勝手をするのならそうするしかないのでは?」

 私がそう答えるとカーレー様が首を横に振る。

「実は、自分勝手な人を自分勝手なままにしとくのは、相手にとっても悪い事なんだよ。基本人間関係なんて自分独りの考えで動いても上手く行くわけない。お互いに我儘を言い合って、妥協点を見つけていく事が正しい関係だよ」

「……我儘を言い合う?」

 考えもしなかった答えに私が戸惑って居るとカーレー様が言われます。

「大切なのは、ソウハさんがどうしたいかだよ。それをもう一度考えてみたら? あちきは、邪魔だろうから別の場所に行くよ」

 そう言われるとカーレー様は、来た方向とは、別の方向に行ってしまわれた。

「私がしたい事……」

 漠然とした答えに私は、その場で頭を悩ませるのでした。



1118/桜玄淡(10/19)

ヌノー帝国の西方、テルメット砦の入り口

鳶札ハンター カタハ


「カタハ、解って居るわね」

 母さんの言葉に俺は、渋々と頷く。

「解って居る。勝負での約束事を違えない。ソーバトの双鬼姫の旅が終ったらスマホットに帰る」

 納得出来ない事だが勝負の結果だ仕方ない。

 そんな事を考えて居るとソウハがやってきて言う。

「カタハ、一つ聞いていい?」

「スマホットに帰ってからにしてくれ」

 俺がそうそっけなく返すがソウハは、引き下がらなかった。

「今じゃないと駄目な事よ」

 苛立ちを堪えながら俺が言う。

「とっとと言え」

「私の事が好き?」

 ソウハの言葉に俺は、呆れる。

「そんなくだらない事を聞きたかったのか?」

「くだらなくない! 私は、カタハの事が好き。だから離縁なんて考えなかった。カタハは、私の事が嫌いだから離縁しようとしたの?」

 何時になく強気なソウハの言葉に俺は、戸惑う。

「……そんな事は、ない! ただ、俺は、色恋事よりも優先する事があるんだ!」

「だったら好きなの? はっきり答えて!」

 しつこいソウハの言葉に俺は、驚く。

 ソウハとは、物心つく前から知っているがここまで自己主張してくることは、無かった。

「好きだ。これで良いか?」

 俺の答えにソウハが微笑む。

「それが聞きたかったの」

 ソウハは、母さんの方を向いて頭を下げる。

「お母様すいません! 私は、お母様のお手伝いを続けられなくなります」

 いきなりの言葉に俺が首を傾げる。

「いきなり何を言っているんだ?」

「カタハは、黙って居なさい」

 母さんは、そう俺を黙らせるとソウハの傍に行き確認する。

「本当にそれで良いの? 自分の息子ながら我儘な上、貴女を大切にしないわよ?」

 ソウハは、強く頷いた。

「はい。私がカタハの傍に居たいんです」

「おい、何を言っているんだ? 勝負の約束で俺は、お前とスマホットで暮らすのが決まっただろうが?」

 俺がそう聞くと母さんは、深くため息を吐く。

「本当にこの子は、相手の気持ちも解らないんだから。本当にこんな息子に育ててしまってごめんなさいね」

 母さんの謝罪に対してソウハが首を横に振った。

「いいえ、お母様が育ててくれた、信念を曲げないカタハだから好きなんです」

「心底バカ息子には、勿体ない良い嫁ね。好きにしなさい」

 母さんがそう何かを許すとソウハがこっちを向いた。

「カタハ。私は、決めたわ。私がカタハについていく。だからカタハは、自分の思った通りに生きて」

「しかし、それでは約束を違える事になる」

 勝負の約束を反故する訳にいかないと俺が言葉に困っているとカレが言ってくる。

「ならないよ。負けた時の決め事は、ソウハさんと暮らして養う事。ソウハさんとスマホットに戻るなんて決めて居ないね」

「だがな、もしも戻らないで良いとなれば下手をすればミハーエに行く事だってあるんだぞ?」

 俺がそう反論するがソウハが断言する。

「カタハと一緒に居られるなら帝国だって、ミハーエ王国だって関係ないわ」

「……ソウハ」

 俺は、ソウハを見詰めてしまう。

「お熱い事で。だけどな養うって約束なんだから訓練だけじゃなく仕事もしろよ」

 ヨッシオさんがそう囃し立てるとカレが続ける。

「そうそう、立場的に面倒なんだから確り護って上げなよ」

「大丈夫です。私は、カタハを信じています」

 俺の代わりにソウハが答えると周りが更にひやかしてくる。

「それじゃあ、私は、スマホットに帰るわね」

 母さんは、そういうとサレが言う。

「孤児院の合併の件は、こっちで帝国の圧力かけておくから安心してください。ほらカタハさんも一緒にいく奥さんの旅支度もあるんだから」

「お前等は、勝手に話を進めるな!」

 怒鳴るが誰も俺の話を聞かないのであった。

分割してもいいってくらいに長くなりました。

一応カタハは、かなりの兵士としては、かなりの上のクラスの実力者って事になります。

三腕が強過ぎるだけです。

次回、今回裏方が多かった双子が砦で色々してました

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