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落ち目領地とハーフな双子  作者: 鈴神楽
七年目 節目帝国のフリーな双子編
518/553

518 苦痛の無い籠城側と苦難だらけの包囲側

楽しい籠城戦

1118/桜黄平(09/03)

ヌノー帝国の西方、バルット砦

桃札ミハーエ貴族、カーレー=ソーバト


「籠城戦、それは、人を本性を曝け出してしまうものなんだね」

 あちきは、目の前で少ない料理を我さきと奪い合う兵士達を見て悲しみを感じていた。

「これは、ぜってー違うぞ。争いの原因は、お前だろ」

 ヨッシオさんが突っ込んでくれたのであちきが視線を逸らす。

「そんな、言い掛かりだよ。あちきは、ただ美味しい料理を食べて欲しかっただけなのに」

「それでどうして数限定の料理を作るんだよ。あれは、その取り合いだろ?」

 ヨッシオさんの指摘にあちきは、金のマークを作って応える。

「だって予算にも限りがあるんだもん。それでも美味しい物を知ってもらう為には、全員と言う訳には、いかないんだよね」

「だったら、全員に出せて美味しい物にすれば良いだろう」

 ヨッシオさんの正論に対してあちきが本音を暴露する。

「久々にじっくり料理出来たから手の込んだ物を作りたかったの!」

「それでこの状況を生み出したと」

 完全にあきれ顔のコシッロさんの言葉にあちきが頷く。

「そうなるね。まあ、流れって奴だよ」

「流れと言えばどうしてこんな事になったのでしょうね?」

 本当に不思議そうに言うムサッシさんの疑問に夕飯の仕込みを始めていたサーレーが答える。

「まあ、切っ掛けになったのは、アルヘレント襲撃で僕達が力を見せつけた所為で、過剰な報告義務って奴になるけけど、根本原因といえばこのバルット砦が元々がガルガード王国の物だったからだね」

「今は、ヌノー帝国の連中の物なのにそれがどう関係しているんだ?」

 ヨッシオさんの疑問にあちきが窓の外を指さす。

 その先には、ヌノー帝国と敵対し、現在も交戦中の隣国、ガルガード王国の兵士達がこの砦を包囲しているのが見える。

「本来砦って言うのは、攻め込まれる事を前提にしている。当然それに対する準備もされているんだけど、この砦に関して言えば下手をすれば現在の帝国の連中よりガルガード王国の連中の方が熟知している。こっちから攻撃し辛い陣形でより効率が良い包囲が可能なんだよ。ついでに言えば抜け道は、当然見張りが付いていて、そこから逆に侵入者がくる状態。はっきり言って、包囲が完成させられた時点でこの砦側の勝ち目は、完全に潰された状態。唯一可能だったのが籠城戦って訳だけど、普通なら絶望的な展開だったんだよ」

「絶望的ね」

 コシッロさんが美味しい料理を巡って争っている人達を半眼で観る中、サーレーが野菜の皮むきをしながら告げる。

「そう絶望的。ガルガード王国の連中は、ヌノー帝国への反抗戦の要となるこの砦を奪還する為にかなりの準備をしていたんだよ。地理的な問題を考えれば、ここを取り戻せれば補給を行う事で継続戦闘が可能と踏んでいるしね」

「帝国が数で圧倒出来ないのか?」

 ヨッシオさんの疑問に鍛錬を続けていたナースーさんが休憩のついでに応える。

「地形が不味い。圧倒的な戦力を展開するには、向いていないのだ。出来るのは、今回の様に籠城戦に追い込む事だけだ」

「でしたらその籠城戦に追い込んで再び取り戻せるのでは?」

 コシッロさんの当然の指摘にあちきが肩をすくめる。

「この砦を覆う森に魔獣が群生していて、下手をすれば軍隊を相手にするより被害が出るんだよ。今回の包囲だってそう言った場所を利用して最小限の兵力で帝国の脱出を防いでる。包囲の隙だと勘違いした連中の末路があの人達だよ」

 砦の一角で重傷に苦しむ兵士達のうめき声が聞こえて来る。

「結局の所、敵が使っていた砦を流用していたのが災いして、相手だけに有利な状況になっているという訳ですね」

 ムサッシさんの答えにあちきが頷く。

「それでも相手が取り戻そうと躍起になるだけの防御力を誇る砦だけに攻め落とすのが難しいから籠城戦にまで追い込んで時間をかけるなんて事になってるんだけど。本来なら、帝国側は、あまり勝算が無かったんだよ」

「それは、おかしいだろ。ここは、国境に近いっていっても帝国の領地だ、籠城戦をしていれば帝国の増援は、すぐ来るだろう」

 ヨッシオさんの見解にサーレーが皮をむいた野菜を鍋に入れながら答える。

「だからガルガード王国の連中は、準備をしていたって言ったでしょ。援軍にこれそうなところには、別口で侵攻を仕掛けている。そこで足止めしておけばこの砦が干上がるのを十分に待てる算段なんだよ」

「この砦の兵站でどれだけ籠城がもつかなんていうのもそれこそ嫌って程に理解しているだろうからね。勝算は、高かった筈だよ」

 あちきは、そう言いながらサーレーが向いた野菜の皮を集め、細かく切り刻み始める。

「食材だったらそこに山積みになってるのにそれも使うのか?」

 ヨッシオさんが野菜の山を指さす。

「あのね、食材を無駄遣いしちゃ駄目なんだよ」

 あちきは、そういって野菜の皮料理を続ける。

 鼻で笑いナースーさんが言う。

「ガルガード王国の連中のそんな思惑もお前達が居た所為で全く無意味になったな」

 鍋に浮かぶ野菜の灰汁を掬いながらサーレーが言う。

「『名呼びの箱』がある僕達が居る限り食料が尽きるって無いからね」

 あちきは、自分のしている『名呼びの箱』を見ながら料理を続けるのであった。



1118/桜黄淡(09/01)

ヌノー帝国の西方、バルット砦

練札騎士 テリッテス=カンデー


「確認は、まだ終わらないんですか?」

 そう目の前のポニーテールの小娘が言ってくるが無視をする。

「僕達としては、報告が終ってるんだから早く次の町に向かいたいんですけど」

 ツインテールの小娘の言葉も無視する。

「無視しないで下さい! こっちは、そっちの要望に応えてこんな森の中の砦まで報告に来てるんだから!」

 ポニーテールの小娘の言葉に私が怒鳴り返す。

「五月蠅い! お前達が帝国内で好き勝手にさせる訳には、いかんのだ!」

「それってそっちの都合でしょ? 僕達だって妥協して報告してるんだから誠意ある対応を求めます」

 ツインテールの小娘の要求に私は、睨みながら告げる。

「妥協だと? お前達は、自分達がどんな立場だか理解しているのか?」

 ポニーテールの小娘が少し考えてから答える。

「札無しの不法入国者?」

「帝国を敗北させた帝国最大の怨敵だ!」

 私の絶叫に耳を押さえながらツインテールの小娘、ソーバトの双鬼姫の片割れ、サーレー=ソーバトが肩をすくめる。

「そういう立場で言いなら、条約提携国の上位の貴族って事で譲歩もあると思うけど?」

「真っ当な手段で入国してない時点でそんな物が通じると思うな!」

 私の正論に対してポニーテールの小娘、ソーバトの双鬼姫のもう一人、カーレー=ソーバトが気楽に言う。

「大丈夫。なんせあちき達には、ちゃんとアレキス殿下が作ってくれた桃札があるもん。非公式だけど入国は、認められているよ」

 そういって見せつけて来る桃札に私は、憤りを感じる。

 こんな小娘が自分より上の札を着けているのは、はっきりと不愉快だったがそんな些末な事などどうでもよいだけの事をこいつらは、している。

 常勝を誇る帝国を敗北させる原因を作った事だ。

 あの英雄でもあるヘレクス大将軍を撃退したのだから。

 それだけじゃない。

 その後ろでいる三人の兵士は、ソーバトの双鬼姫の三腕と呼ばれ、この五人だけで町を一つ落とせると囁かれていた。

 実際に少し前にアルヘレントという町を襲撃して来たヘレント王国の兵士を同行しているもう一人のミハーエ貴族と共に撃退している。

 その気になればこの砦すら落せる戦力なのだ。

 そんな輩を帝国を自由に動かれて居て堪らない。

 本来なら帝国軍が全力を投じて討伐しなければいけない相手なのだが、見せつけらた桃札が意味する様に帝都のお偉方も非公式で承認している状況だけに手が出せないのが現状だ。

 それでも居場所だけは、把握する必要がある為にこうして軍事施設の近くを通った時には、報告を強要している。

 そして今は、六将軍、西方軍指揮するアナッス将軍に報告して、対応を回答待ちをしている最中なのだ。

「もう少し待て! アナッス将軍との連絡が取れ次第、自由にしてやる!」

 殺したいほど憎い連中だが拘束すら出来ない。

 そんな苛立ちを抱える中、報告をしている筈の部下がまだ戻って来ない。

 私とてこんな連中の顔は、長く見て居たくないのだ。

 私が部下の一人に視線で促すのを見てサーレーが呟いた。

「これは、間に合わなかったかな?」

「何が間に合わなかったというのだ!」

 私が問い詰めるとカーレーの方が木霊筒を取り出す。

「多分これで連絡しようとしてるんだと思うけど、木霊筒は、中継する木霊筒が無いと駄目なんだよ。だから砦の連絡を断とうとしたら中継している木霊筒を壊せば良いんだよ」

「まさかお前等が!」

 剣に手を掛けて威圧する私に対してカーレーが肩をすくめる。

「どうしてそんな無駄な事を。それでサーレー、心当たりがあるんでしょ?」

「心当たりだと?」

 私にとって予想外の言葉に対してサーレーが平然と頷くのだ。

「この砦の元の持ち主、ガルガード王国との戦線がいくつかあるでしょ? ガルガード王国にとって重要な拠点だったここに近い戦線が無いのが不自然。他の戦線が囮だとしたら、本命は、この砦じゃないかなって思って早く立ち去ろうと思ったんだけど間に合わなかったんだと思ったの」

 私は、すぐさま部下に周囲の偵察に出した。



 一刻(二時間)後、偵察部隊は、ガルガード王国の兵士との交戦、撤退して来ていた。

「規模は、どの程度だ?」

 私の問い掛けに部下が蒼白の顔で応える。

「五千は、切らないかと」

「砦には、騎士と兵士合わせても千を越さないのだぞ!」

 大声で叫ぶ副官を私が睨む。

「他の戦線に増援を出した後なのだ仕方あるまい」

 恐らくそれもガイガードの連中の思惑の一つなのだろう。

「兵力差は、五倍以上。木霊筒による連絡もつかないか……」

 絶望的な状況である。

「籠城ならば、堪えられないことは、ないかと。そうすれば救援が……」

 部下の一人の言葉を私は、断じる。

「他の戦線での戦いが現在も続いているのだ、多くの増援は、求められない。その状態で籠城して勝ち目がない」

 このバルット砦は、元々は、ガルガードの連中の砦であった。

 帝国の一万を超す兵をもっても、補給を徹底的に遮断する事でしか落とせなかった砦、籠城すれば耐えることは、出来る。

 しかし、増援まで食料がもつ可能性は、皆無に等しい。

 重い沈黙の中、作戦会議の場にカーレーが入って来た。

「アナッス将軍からの手紙を持ってきました」

 唖然とする私達の前に一通の封筒が置かれた。

 その裏には、確かに帝国軍部の符丁が書き込まれていた。

「どうやってこれを?」

 私の疑問に対してカーレーが腕輪を指さして言う。

「帝国の国宝をしまっているのに使っている誓約器を使って、ミハーエ王国王城、帝都を経由してアナッス将軍に報告がいった返信です」

 そういう神器に準ずる物があると聞いた事があった。

 疑わしくもあるが現状では、貴重な手紙だった。

 封筒を開けてアナッス将軍からの通達を確認した。

 そこには、こちらの状況を承知した上で時間を稼ぎの命令が書かれていた。

 それを伝えると部下の一人が声を荒げる。

「どうしてですか! 一刻も早く援軍を送られるべきでは、無いのですか!」

「これは、命令だ! アナッス将軍からの命令ならばここで死ぬのも仕方なき事」

 副官がそう断じるが部下達の中には、納得いかないって顔をする者が多い中、カーレーが言う。

「別に死ねって訳じゃないよ。今回の件であちき達が少し協力する事になったからね」

「ソーバトの双鬼姫が助力で敵を蹴散らせって事か?」

 私が苛立ちを堪えながらそう尋ねるとカーレーは、手を横に振る。

「そんなあちき達に借りを作る様な真似は、帝国上層部もしないよ。あちき達がするのは、さっきいった誓約器を使った兵站の供給だけ」

 兵站の補給だけでも納得し難いが、それでも直接助力を得るよりは、ましであった。

「ただし、それをするのに一つ条件があるの」

 カーレーの言葉に私が睨む。

「我々の困窮をみてつけこむつもりか?」

「そうだよ」

 あっさり認めるカーレーに我々の怒りが向けられる中、その条件が告げられる。

「その条件は、提供した食材をあちきたちが料理するって事だよ」

「……は?」

 私が唖然としてしまう中、カーレーが続ける。

「それじゃあ早速今夜から作るからね」

 そういって退室していくカーレー。

「おい、なんと聞こえた?」

 私の疑問に副官も信じられないって顔で口にする。

「……料理を作るといっておりました」

「ソーバトの双鬼姫がか?」

 私の言葉に誰もが信じられないって顔をするのであった。



1118/桜黄淡(09/01)

ヌノー帝国の西方、バルット砦

桃札ミハーエ貴族、サーレー=ソーバト


「なんで料理をする事になったんだよ」

 半眼で聞いてくるヨッシオさんに対して僕は、『名呼びの箱』から食材を出しながら言う。

「色々あってね」

「その色々を説明して貰いたいのですが?」

 ムサッシさんも追及してくるのでカーレーが取り出した食材をチャックしながら答え始める。

「今回の事をターレーお姉様に報告したの。その時にあちき達だけで敵包囲網の突破って案も言ったんだけど、それが両方から駄目だしが出たの」

「何でですかそれが一番確実だと思いますが」

 コシッロさんが怪訝そうに言うので僕は、チェック済みの野菜の中から今夜使う足が早い物を選びながら答える。

「こっちは、下手に帝国と他国との争いに干渉したくないって理由。帝国は、帝国で他の誰よりも僕達に戦力面で借りを作りたくないって言う面子があるんだよ」

 カーレーが選び出した野菜の皮むきを始めながら続ける。

「そんなこんなで砦が安全ならそこで大人しくしてろって話になって、その上で兵站の補給だけなら目立たないって落しどころが選択されたって訳」

 ムサッシさん達が納得しかける中、ナースーさんが突っ込んでくる。

「それでもお前達が料理する理由にならないな」

 睨んでくるムサッシさん達にカーレーが素直に答える。

「だってただ待ってるなんて暇なんだもん。料理でもして不満を解消しないとね」

 大きくため息を吐くムサッシさん達であった。



1118/桜黄淡(09/01)

ヌノー帝国の西方、バルット砦

鳶札兵士 ムサッシ


「すげえ敵意だらけの食事時だな」

 ヨッシオがそう茶化すが実際、食堂の空気は、最悪だった。

 一言で言うと宿敵の作った飯など食えるかという思いが口にしてなくとも明確に示さしてるいる。

 今にも机の上に並べられた食事を床に叩き落しそうな兵士達をとめているのは、砦の指揮官の命令でしか無かった。

 そんな中、料理を終えたカーレー様が出て来る。

「今回料理を作ったカーレー=ソーバトです。食べる前に一つお伝えしておく事があります」

 殺さんばかりの視線の中でもカーレー様は、平然と続けます。

「目の前に置かれた料理の食材は、アナッス将軍の個人資産から提供されています」

 意外な言葉に砦の指揮官が驚く。

「どういうことですか! 兵站の補充は、帝国上層部の承認の上での事では?」

 カーレー様は、苦笑する。

「補充自体は、承認されていてもその予算の全額が承認されていません。帝都のお偉方もミハーエ王国への支払いは、したくないのか手続きがやたら遅いんです。自分の所から提供する武具の補充は、直ぐに出ましたけど、新たに買い足す食材に関しては、予算がまだなく、ミハーエ王国側も代金の保証が無い段階での食料の提供は、しない方針です」

 ある意味当然の事だが、両国は、表向きこそ条約締結国として敵対していないが、長い戦争とその後の利権争いの状況からあまり仲が良いとは、言えない。

 こういった状況で妥協案が施行されていたとしてもそれがすんなり執行される訳では、ないのだ。

 帝国側は、予算を渋り、ミハーエ側は、代金の無い物は、出せないと突っぱねる。

 そういった上層部の険悪な関係のツケは、本当なら現場の下の者達が払う筈であった。

「そういう状況な為、アナッス将軍が敵の足止めをさせる以上は、十分な補給を出すべきだと個人資産から補填されました。詰り、そこに並んでいるのは、アナッス将軍の部下に対する配慮の賜物です」

 カーレー様の言葉に帝国兵士達の食事を見る目が変わる。

「足止めとは、どういう事ですか?」

 司令官だけは、カーレー様の言葉に違和感を覚えたらしく問い掛けるとカーレー様が答える。

「今回の状況は、敵の策略に嵌った状況です。そこで敵の思惑通りに他の侵攻よりこの砦の奪還を優先すれば相手の思うつぼになるとアナッス将軍が判断されました。ガルガード王国の作戦が上手く行っていると勘違いさせ、ここに意識を集中させている間に他の戦線を壊滅させる作戦になったそうです。詰り、ここで耐えることは、他の戦線の助けとして武功になります」

 武功の一言に指揮官たちの顔が一気に変わる。

 本来なら籠城戦というのは、完全な負け戦。

 例え援軍が間に合ったとしても自分達は、助けられるだけの立場で軍功としては、あまり高いとは、思われない。

 しかし、今回の限って言えば、ここで耐える事で敵の作戦を阻害させているとなれば全然別物だろう。

 十分に武功になる筈である。

 それを察した指揮官は、先ほどまでの何処か悲壮感に満ちた表情から一変した。

「お前達、アナッス将軍の我々に対する温かい配慮を一欠けらも無駄にするな! その御心に応える為にもガルガードの連中をここで足止めしてやれ!」

「「「おお!」」」

 暗い雰囲気は、何処かに吹き飛ばした兵士達がそう声をあげ我さきに食事を取り出すのであった。

 その様子を満足そうにみるカーレー様にコシッロが尋ねる。

「今の話って本当なのですか?」

 カーレー様が頷く。

「サーレーの予測が合ってたらね」

 そんな事だろうと思いながらも拙者達も食事を始めるのであった。



1118/桜黄平(09/03)

ヌノー帝国の西方、バルット砦の近くの仮陣地

ガルガード王国軍 砦攻略部隊指揮官、ガドール=ヘンケス


「ヌノーの連中は、さぞ腹を空かせているだろうな」

 私は、肉汁滴るステーキを口にしながら微笑む。

 今回の砦攻略には、十分な物資が用意されている。

「流石にまだ、食料に困る事は、無いと思いますが?」

 副官の言葉に私は、笑う。

「ああ、普通に食べてればな。だが、先が見えない籠城戦、少しでも長い間残そうと、必要最低限の食事しか与えられていない事だろう。特に兵士等、こちらからの散発的な攻撃に対応しているにも関わらず十分な食事も出来ず不満が堪っているに決まっている」

「それは、さぞ敵の指揮官も兵士達の不満の配慮に苦労しているでしょう。同情します」

 そんな風には、全く聞こえない声と顔で言う副官。

「相手の連絡手段である特殊な魔法具も潰してある。救援には、まだ時間が掛かるだろう」

 私は、部屋の隅に置かれた壊れたそれを見る。

 魔法王国ミハーエから購入しているというその魔法具で遠く離れた相手を離す事が出来ると最初に言われた時には、誰も信じなかった。

 しかし、ヌノーの連中との交戦を繰り返すなかそれが正しい事が判明し、今回の砦攻略の際には、言葉を中継する魔法具を調査して、攻撃の直前に全部破壊したのだ。

 そのいくつかは、本国に送り、今後、我が国でも使える様にする予定であるが、それは、今回の作戦には、関係ない。

「しかし、長時間連絡が無ければ不信に思って調査に来る事でしょう?」

 副官の言葉を私は、鼻で笑う。

「そんな物は、発見次第始末する。それに元より隠しきれると考えて居ない。だがな、隠す必要すらないのだよ」

「隠す必要がないとは?」

 怪訝そうな顔をする副官に対して私は、今回の作戦の巧妙さを説明する。

「ヌノーの連中がこの砦を護ろうと兵を送ろうと他の侵攻の兵を割けばそこを攻める段取りだ。そうなれば援軍も呼び戻さなければならなくなる。奴等が足掻けば足掻く程にこちらに有利になるという筋書きなのだ」

 この作戦を考えた参謀の悪辣さには、味方であった事を安堵した程だ。

「なるほど、我々は、ここで相手の怯えさせるだけで砦が落せるという訳ですな?」

 副官の笑みに私は、応える。

「その通り。我が国の砦を奪ったヌノーの連中に愚かさをその魂まで刻み付けてやろうでは、ないか!」

 私の高笑いに周りの者達も続くのであった。



1118/桜黄光(09/06)

ヌノー帝国の西方、バルット砦

紺札兵士 デレン


「今日こそは、特別料理を手にするぞ!」

 俺は、そう心を決めて戦場を見る。

 そんな俺に対して同僚が呆れた顔をする。

「そういって三日、夕飯抜きになってるな。普通の飯だって美味しいだ諦めたらどうだ?」

「五月蠅い! お前等には、あの特別料理の凄さが解らないからそんな事を言えるんだ!」

 俺の主張に同僚が肩をすくめる。

「そんなの解ってるさ。なんせ、初日お前が食べて絶賛するのを見た指揮官様が翌日から自分と副官の分を確保してるぐらいだからな」

 そうなのだ、問題の特別料理は、数量が限定されている。

 ソーバトの双鬼姫による食事の提供の二日目より始まったそれは、初回は、誰もが嫌厭していたが、その美味しそうな匂いに釣られて俺は、食べた。

 食べた瞬間、俺は、その味の虜になった。

 普通のですら普段の飯より何倍も美味しかったが、それは、別物だったのだ。

 翌日からも提供されたそれは、当然の様に取り合いになった。

 ただでさえ少ないのを上の連中が優先して確保する為、紺札の俺が口に出来る確率が低くなっていた。

 そんな取り合いの中、一つの決まりごとが出来ていた。

 それを狙う者は、通常の夕飯を辞退する事。

 その上でこれから向かう戦場、実際に殴り合いしたら翌日の戦闘に影響があると札遊戯、十色勝負での勝ち抜き戦。

 そこで勝ち抜いた数名だけが特別料理を食べる権利を持つのだ。

 ここまで真剣にこれをやった経験は、ないって程に真剣に挑んだ俺。

 そして今日は、遂に最後まで残ったのだ。

「おめでとう。今日のは、結構自信作」

 そういってソーバトの双鬼姫の片割れが差し出して来たのは、具が入って居ないスープだった。

「……これだけですか?」

 ソーバトの双鬼姫の片割れがニヤリと笑った。

「主役は、これ。もちろんこれだけだとお腹に溜まらないからパンもついてくるけど」

 差し出されたパンは、普通の食事についてくるパンだった。

「外れかよ……」

 落胆の気持ちのなかそのスープを口にした時、衝撃が走った。

「これなんだ!」

 そう叫んだのは、初めて特別料理を食べや奴だった。

 その声に同僚達は、驚いているが俺は、仕方ないと思った。

 それだけ凄いのだ。

 一欠けらの肉も入って居ないっていうのに肉の旨味が口いっぱいに広がるのだ。

 俺を含めた特別料理を食べた残りの人間が何も言わないのは、単にこの味を堪能したかったからだ。

「フフフ、油断したでしょ。肉の美味しさだけを数日掛けて抽出した手間を掛けたスープなんだからね。因みに原価だけで今回の十人前作るのに中金貨一枚(五十万円)掛かってます」

「……嘘だろ」

 同僚達が信じられないって顔でスープを見ているが実際に飲んでる俺達すればそんくらいして当然って感じだった。

 今まで味わった事のない至高の味、その味は、海の底より深く、天にも届く高みをもっていた。

 皿に残った最後の一滴までパンを使って味わった俺は、決める。

「絶対に明日も特別料理を食べるぞ!」

「馬鹿いえ! 明日は、俺達だ!」

 夕食を食べられなかった敗者の悲痛な叫びが轟き続けるのであった。



1118/桜蒼光(09/12)

ヌノー帝国の西方、バルット砦の近くの仮陣地

ガルガード王国軍 砦攻略部隊指揮官、ガドール=ヘンケス


「おかしい……」

 思わずそう呟いてしまっていた。

 ヌノーの連中が籠城戦を始めて十日が過ぎた。

 こっちの予測があっていればもう食料は、尽きている筈であった。

「敵に飢餓の空気がありません」

 前線指揮官の報告に私は、唸る。

「飢餓もそうですが、矢がまるで尽きる様子がないのが不自然です」

 副官の言う通りであった。

 ヌノーの連中は、砦からの大量の矢でこちらを牽制して数の差を埋めていた。

 補給が出来ない以上、無理に突入せずに矢が尽きるのをまっていたのだが、一向にその様子がないのだ。

「偶々大量の矢があったというのか?」

 口にしながらそんな偶然があるかと思って居ると副官の一人が声をあげる。

「ここは、少し無理をしてでも突入すべきでは?」

「馬鹿を言うな! バルット砦がどれだけ攻めづらいかは、十分に知っているだろう。まともに攻略しようとすればこの兵力差でも難しいのだ。今は、相手側の補給を阻止するそれだけに従事していればよい!」

 そう私は、命令をだしながら迷いを断ち切る。

「そうだ! 無理をする必要は、ないのだ。敵の援軍は、まだまだこちらに向かって居ないと報告されている。時間は、我々に味方するのだ!」



1118/桜蒼光(09/12)

ヌノー帝国の西方、バルット砦

桃札ミハーエ貴族、カーレー=ソーバト


 あちきは、今日も今日とて料理の下拵えをしている。

「何時まで籠って無いといけないんだ?」

 お酒が飲めず不満そうな顔をするヨッシオさん。

「他の戦場が完全に制圧出来るまでだからまだ掛ると思うよ」

 あちきは、今夜の特別料理、高級豚肉を薄切りの重ね揚げの間に塗るソースの調合を行いながら答えるとヨッシオさんがため息を吐く。

「あんたらの方が先に不満を言うと思ったんだけどな」

 それに対して、一般食用の野菜のみじん切りをしていたサーレーが鼻歌混じりに答える。

「手の込んだ料理作ったりするのは、嫌いじゃないんだよ。それに色々と仕事が溜まっていたからね」

 あちきは、夜な夜なこなしている魔帯輝の魔力籠めや帝国事業等の報告書制作作業を思い出す。

 周りからは、気楽な旅だと思われているけど実際は、ターレーお姉ちゃんの締め付けが強い。

 報告書が遅れれば『名呼びの箱』に容赦なく使用制限が掛けられるし、報告書に対しての問い合わせも多い。

 問い合わせのトップは、リースー王子で、一報告すると十の問い合わせが来るほどだ。

 リースー王子は、有能でこっちの報告を十全に活用してるらしく、その影響力は、帝国の方でも見られる。

 そんな訳でこういう時間を有効活用してそういった雑用をこなしているのだ。

「ムサッシとコシッロは、ナースー様と鍛錬に明け暮れて居るしな」

「ヨッシオさんもそっちに混ざれば?」

 あちきの指摘にヨッシオさんが肩をすくめる。

「すこしは、やってるしお前達の護衛もあるんだよ。第一、俺が問題にしてるのは、酒と女だよ」

 サーレーがみじん切りした野菜とミンチで肉団子を作りながら言う。

「酒は、ともかく女は、無理だよ」

「これが籠城戦じゃなければ戦場売春婦でも買うんだがな」

 ヨッシオさんの愚痴を聞き流しながら、ソースを寝かせる為にツボに入れながらあちきが問いかける。

「籠城戦で必須な物なんだか知ってる?」

 ヨッシオさんは、あちき達の方を指す。

「食料だな。お前達が食料を提供しているから気楽な籠城戦をやってられているんだろ?」

 あちきは、豚肉をスライスをしながら正否を告げる。

「外れ。食料は、重要だけど必須じゃないんだな」

 不満そうな顔をするヨッシオさん。

「何でだ? 食料が無ければ死ぬだけだぞ?」

 あちきは、スライスした肉を見せながら言う。

「人間にも食べられる肉は、あるよ」

 顔を引き攣らせるヨッシオさん。

「おいおい、本気で言っているのか?」

 あちきは、スライスを再開させながら頷く。

「戦場では、仲間の血で喉の渇きを癒すなんてことが実際あったって話だしね。あればいいけど食料だけあっても籠城戦は、出来ないんだよ」

「だったら何が必須なんだ?」

 ヨッシオさんの問い掛けに肉団子山を近くの兵士に見せながらサーレーが答える。

「希望。どれだけ大量の食糧があっても増援の予定のない籠城戦なんていうのは、成り立たないよ。逆を言えば希望すらあれば土壁を喰ってでも戦い抜いたって記録があるくらい」

「土壁を喰って……」

 愕然とするヨッシオさんにあちきが続ける。

「今回は、時間させ稼げば他所の戦場を終らせた他の戦場から援軍が確約されてる。逆に普通の籠城戦にない相手を足止めし続けたって功績もある。かなり恵まれた籠城戦なんだよ」

「だとしてもだな。男って生き物は、喰って寝るだけじゃ駄目なんだよ」

 ヨッシオさんの不満に対してあちきが苦笑する。

「三大欲求って奴だね。男の場合は、女性と違って溜まった物が廃棄されないから仕方ないけどね」

「露骨な事を言うなよ!」

 ヨッシオさんの突っ込みに対してサーレーが淡々と指摘する。

「女性だって性欲は、あるんですよ。男女ともに言える事ですけど性欲っていうのは、他の欲望が満たされないと出辛い物なんだよ。それでも男の場合は、子種を作り続ける関係上仕方ないって事でしょ」

「そうだが、もう少し言い方ってもんが……」

 納得出来ないって顔のヨッシオさんにあちきは、スライスした肉をくっつかないようにしながら塩コショウをふりながら言う。

「話を戻すと、女を抱きたいって希望が兵士を生き長らえさせるって言うのもあるから安易にそういうのを戦場で与えないって言うのもあるよ」

「傭兵の時は、いつ死んでも良いと思ってたけどな」

 複雑そうな顔をするヨッシオさんであった。



1118/桜碧光(09/18)

ヌノー帝国の西方、バルット砦の近くの仮陣地

ガルガード王国軍 砦攻略部隊指揮官、ガドール=ヘンケス


「まだなのか……」

 私の言葉に誰もが沈黙する。

 ヌノーの連中と睨み合って三週間近く経った。

 どう考えても食料は、尽きている筈だった。

 沈黙を破る様に副官の一人が口にする。

「絶え間なく放たれる矢が止む事もなく、敵は、何かしらの補給手段を持って居る可能性も……」

 認めたくないがその可能性もあった。

「それでもだ。我々の監視の目を逃れ砦の者達全てに渡るだけの食料やあれだけの矢を補給する等不可能な筈だ!」

 私の言葉に誰もが頷く。

 それだけに今の状況が不可解だった。

「援軍は、来ないのか?」

 私は、そう問うと副官たちは、顔を顰める。

「まだ我が方の援軍は……」

「そっちでは、ない! ヌノーの連中の援軍だ!」

 わたしの怒声に副官は、戸惑いながら答える。

「はい。援軍の気配はいっさいなく、他の戦場からもヌノーの奴等が減ったという報告もありません」

「どうなっているのだ!」

 私は、机を叩きつける。

「おかしいだろう! 我々は、奴等にとっても重要拠点である砦を包囲しているのだ! 何故ヌノーの奴等は、援軍をよこさないのだ!」

 それこそが一番の不可解な点だった。

 バルット砦がこちらが反抗戦にとって重要な拠点になると言う事は、逆を言えばヌノーの連中にとっては、決して落とせない拠点の筈だった。

 それこそ現在進行形で行われている他の戦場を一つ後退させる事になっても構わない程に。

 それなのに援軍を出す気配がまるでない。

「ヌノーの連中は、この状況を予測し、他の戦場を優先しているというならば、ここで動かなければ拙い事になる」

 私の言葉に副官達は、唾を飲み込む。

「損害覚悟で攻撃を始める。相手も長い籠城で気力を消耗している筈。一気に叩き潰すのだ!」

 私の号令に我々は、攻勢にでるのであった。



1118/桜碧光(09/18)

ヌノー帝国の西方、バルット砦の地下牢獄

ガルガード王国軍 砦攻略部隊小隊長、デレン=ケースン


 戦況の硬直化を打破するための我が軍の攻勢は、失敗に終わった。

 元よりバルット砦は、敵の攻勢に対して有益な対処手段を豊富に備えている。

 その一つ、誘い込み通路に敗走した我が小隊は、捕虜として牢獄に囚われてしまった。

「情けない隊長ですまない」

 頭を下げる私に対して部下達は、苦笑する。

「仕方ないですよ。元からここは、攻め落とせないって誰だって知ってた事でしょ」

 部下の言う通りだった。

 それだからこそ今まで包囲するだけだったのだ。

 しかし、当初の予定と異なり、砦側の疲労は、無く。

 援軍との交戦を警戒していた我が軍の方の疲労だけが一方的に増えて行った状態であった。

 その為の無理を承知での攻勢だったが、やはり無謀であり、その結果がこの状況である。

「はらへったな」

 部下の一人の呟きに私は、ため息を吐く。

「十分に食べさせられなかったな」

 補給線は、砦奪還後の事も考えられ確保されていた。

 しかし、十分とは、言えなかった。

 元よりここまで長期になると思われなかった事もあり砦攻略後に本格的な補給が行われる予定だったのだ。

 最低限の補給で予定外の長期戦、当然の様に食料は、十分とは、いえず先が見えない状況故に一回ずつの食事の量は、制限が掛けられていた。

「捕虜への食事が出ねえかな」

 そんな軽口が気楽を装う部下の口から出るが、まず在り得ない事だった。

 ただでさえ籠城で食料事情は、こちらよりも悪い筈。

 そんな状況で捕虜に食事が出される訳が無いのだ。

 そんな事を考えていると誰かが下りて来た。

 視線を向けると二人の少女と一人の兵士だった。

 兵士は、一目で解る程の強者で武器を奪われた私達では、勝つのは、難しいだろう。

 少女達をどうにか人質に出来ないかと脱出の方法を模索していると少女が持って来た鍋の蓋を開けて言う。

「食事ですよ」

「……なんだと?」

 思わず聞き返す私に対してポニーテールの少女が答える。

「言っておくけど捕虜なんだからまともな食事が出ると思わないでね」

 そういいながら少女達は、木皿に鍋の中身を入れて牢屋に我々に渡して来た。

 信じられないって顔で私が口にする。

「これは、なんだ?」

 私は、何故食事を出されるのかというつもりで聞いたのだが、ポニーテールーの少女の答えは、ずれていた。

「上の兵士さん達に出している料理で出た野菜の屑を丁寧に洗い、食べられる部分だけを焼き料理に使った残り汁に漬けた物だよ」

「そういう事を聞いて居る訳じゃない! 敵に貴重な食料を提供するのかといっているのだ!」

 私の詰問に対してポニーテールの少女が答える。

「あちきは、敵じゃないよ。あちきは、カーレー=ソーバト。この砦に偶々来ていたミハーエ王国の人間だよ」

「カーレー=ソーバトだと!」

 私は、思わず聞き返していた。

 その名前は、軍部に関わる人間なら決して無視できない名前だ。

 我等が恐れ続けたあの化け物ヘレクスを撃退した魔法王国ミハーエの化け物の名前なのだから。

「僕は、サーレー=ソーバトね」

 隣で食事を配っていたツインテールの少女がそう自己紹介してきた。

「……ソーバトの双鬼姫」

 想定外の答えでは、あったが考えられない答えでは、無かった。

 ソーバトの双鬼姫、その名は、わが国にも知られている。

 我が国だけでなく、帝国と隣接する国々にとっては、決して無視できない名前である。

 当然、その動向には、十分な注意がされて居た。

 我が国とてこの周囲に来ているという事は、確認している。

 しかしそうなると逆に不自然な事がある。

「何故、終戦魔法アーラー戦争の英雄とも呼ばれるミハーエ王国の貴族が下働きの様な真似をしているのだ?」

 それに対して二人に同行していた兵士も強く頷く。

「酔狂も程々にして欲しいぜ」

 それに対してサーレーが苦笑する。

「単なる酔狂じゃないよ。情報収集の一環。今回の籠城戦には、ミハーエ王国は、直接的に戦力を出していないけど、僕達が特殊な道具を使って補給を行っているんだよ。まあ帝国からは、お金をもらっているけどね」

 それならばこの状況での補給も可能なのだろう。

「だからか……」

 私は、苦々しく感じながらもこの状況に納得せざる得なかった。

 ミハーエには、終戦魔法アーラー戦争を終わらせた魔法を始めとして空間転移魔法が存在するという。

「そんな訳でミハーエ王国としては、間接的と言え今回の戦争に関与してしまったけど、ガルガード王国と敵対する意思は、無い。そっちだって同じでしょ?」

 カーレーが同意を求めて来る。

「随分と都合の良い解釈だな?」

 不満を籠めた私の言葉にサーレーが首を傾げた。

「そう? ガルガード王国だって本格的にミハーエ王国を敵に回し、戦況を更に悪くしたくないんじゃないの?」

 相手の言う通りなのだがそれを認める訳には、いかない。

「補給をしているだけでもそれは、帝国に利する事でないか!」

「そうだね。だからこの戦いが終わった後にガルガード王国は、ミハーエ王国に対して公的に抗議をしてくるだろうね。実際に敵対させないけど何からしらの要求を通す為にね」

 カーレーは、それをあっさりと認めた事に私達は、戸惑う中、サーレーが告げる。

「だからその交渉をするにあたってガルガード王国の情報を得ようとこうやってきた訳」

 部下達の多くが食事をする手を止める。

「この程度の施しで機密を漏らすと思ったのか!」

 私の詰問にカーレーが首を横に振った。

「まさか。元からそんな期待をしていないよ。あちき達が欲しいのは、そうだね単なる噂話くらいの情報だよ」

「噂話だと! そんなのを聞いてどうするのだ?」

私の疑問にサーレーが説明して来た。

「実は、これが意外と有効でね。例えば夫婦喧嘩をしたって話があるとするけど、その経緯を聞けばそっちの国での男女の立場の違いなどが推測できるの。こういう国民性って言うのは、実は、把握が難しいけど交渉の時には、こっちが重要視していないちょっとした拘りの違いで決裂するって事もあるから大切になるんだよ。」

「そんな訳で食事をだして口が軽くさせてそういった話を聞き出そうとあちき達が来たって訳」

 カーレーの直接的な言葉に私は、唸ってしまう。

 正直な話し、機密を話せと言われれば飢え死にしようが話すつもりは、ない。

 しかし、単なる噂話ならば話が変わってくる。

 私は、ともかく部下達の中には、食事を再開させている者が出始めている。

 つまりそれくらいなら話しても問題ないと思い始めているのだ。

 しかし、いまの説明を聞く限り、それすらガルガード王国にとっては、不利益になりかねない。

 悩む私に対してサーレーが囁いてきた。

「噂話なんてさ、どこからでも漏れる物だよね? それよりも部下に食事を与えた方がお国の為になるんじゃないのかな?」

 明らかな誘導であり、これにのっては、いけないと理性では、理解している。

 体が従わない。

 腹の虫が聞こえて来る。

「噂話だけだ」

 最後の抵抗としてそう主張しながら私も食事を再開するのであった。



「そうなんだ、それでその人は、寝取られたの?」

 カーレーが同情するようにいうと話していた兵士が悔し気に言う。

「そうだだからあいつガー……」

「そこまで上官の本名は、流石に機密だよ」

 サーレーが止めるので慌ててその兵士が口を押える姿に私は、頭痛を覚えるのであった。

 こういったやり取りが先ほどから何度かあったのだ。

 腹が膨れた事もあり、兵士達は、率先して噂話をし始め、その中で軍の内部情報にあたる部分に触れそうになる事があった。

 そうするとあっちの方から制止してくるのだ。

「お前達、もう少し話す内容を考えろ」

 私の指摘に申し訳なさそうな顔をする部下達であった。

 その後もその噂話だけが続けられる事になるのであった。


1118/桜桃光(09/24)

ヌノー帝国の西方、バルット砦

練札騎士 テリッテス=カンデー


「完全に撤退したようだな」

 私の言葉を副官が肯定する。

「はい。砦の周囲にガルガードの者は、残っていないことは、確認済みです」

 籠城戦を続けて二十日も過ぎた頃には、他の戦線を撃退させて応援が到着、包囲が不可能と考えたのだろうガルガードの連中は、撤退を開始していた。

 先程偵察から帰った兵士達の報告で残存兵が居ない事の確認も取れた。

「今回の件は、ガルガードの砦攻略を主とした侵攻作戦を我が砦が籠城する事で潰しました。バルット砦を護りきった我々の功績は、高く評価される事でしょう」

 満足気な表情でそう告げる副官に私も頷いた。

「そうだろう。ただ一つだけ問題があるな」

 私は、目の前にある料理を見る。

 それは、この砦で通常に出されていた普通の料理であった。

 それに対して私を始めとする者達の視線は、落胆の色があった。

「……兵士達の間にも食事の質が落ちたという声があがっております」

 私は、大きくため息を吐く。

「どこの世界に籠城戦をしていた時の方が良い食事を出来る軍があるのだろうな?」

 それに対する答えられる者は、誰も居なかった。

思いっきりスランプでした。

なんていうか何を書いて良いのか解らないって感じです。

それでも少しずつ書いて言ってなんとかってところです。

次回、アナッス将軍との会食です

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