046 護る護衛騎士と先を見る領主一族
旗取り準備会です
「キーローさ、キーロー、今回は、よろしくお願いしますね」
イーラー様の護衛騎士でしかない、私、キーロー=スーハトに思わずさん付けしそうになるカーレー様に私は、忠告する。
「カーレー様、ご事情は、承知して居りますが、今回のことにあたり、立場の違いを重々にお考え下され」
「気をつけます。それで今回の参加状況は、どうなっていますか?」
カーレー様の質問に私は、部下に揃えさせた資料を見せる。
「変則的とは、いえ模擬戦闘なので騎士団からも多くの参加者が居ります。参加者の内訳は、こちらに」
私が差し出した資料をサーレー様が受け取り、検分していく。
「想定していたより、旧領主派の貴族の参加が少ないですね」
「あの会合の影響もあり、戦える者が少ないというのもありますが、現状、これいじょう現体制に反抗する意思を見せたくないという日和見的な対応でしょう」
私の答えにサーレー様が少し残念そうにする。
「もう少し反応があった方がこちらとしても勢力分布が解って良かったんですがね」
政治的な判断、それをこのサーレー様は、普通になされている。
その姿は、私が仕えているイーラー様の若い頃を思い出す。
イーラー様も幼少の頃より優れた政治力を身に着けて居られていた。
騎士団長をやっている弟のカーローは、戦闘力が高い、アーラー様やウーラー様をどうしても重んじているが、私は、違う。
戦闘力や現場の指揮など、我々が幾らでも補助できる。
そんな事よりも領主一族として真に必要とされるのは、イーラー様の政治力だろう。
ヌノー侵攻が無いこの数年、ソーバトを衰退を抑えていたのは、間違いなくイーラー様の手腕といっても過言では、ない。
だからこそ、その護衛騎士でもある私は、その身を護り、その命令を確実に遂行しないといけない。
今回、副団長でもある私がカーレー様達の下についたのには、それなりの理由がある。
一つは、万が一にもカーレー様やサーレー様に何かがあっては、いけない。
今回の件を利用して暗殺も考えられる。
状況から考えて少数で行われる。
そうなった場合、個の戦闘力が成否を分ける。
そこで戦闘力が高い私が直接動くことになった。
他にもカーレー様とサーレー様が使うだろう異国の戦略を直に体験して、それを今後の騎士団に活用する為。
そして一番の理由は、もしもカーレー様とサーレー様の魔力について発覚する可能性があった場合、そこに居たものを処分する為。
私がイーラー様から与えられた命令を再確認する中、サーレー様が配下の者達に指示をだしていた。
「随分と細かい指示を出して居られますね?」
「戦い、特に防衛戦は、始まる前に八割方決まりますからね」
サーレー様の言葉に内心、素人さの感じた。
「戦場とは、生き物です。どうなっていくかなど始まってみないと解りません」
「そんなのは、一介の兵士の言葉ですよ。宣言します。この戦い、貴方が決着をつけます」
サーレー様の宣言に私は、眉を顰める。
「それは、下策では?」
私が戦う、それは、カーレー様とサーレー様が危険に晒されていることを意味する。
「キーローは、騎士団の人だからどうしても護衛対象の安全を最優先に考えているかもしれないけど、模擬戦では、そういう考えは、捨てた方が良いよ。今回の目的からして、あちき達の目前まで相手が来ないと意味が無いんだから」
カーレー様が自信たっぷりに告げられた。
「しかし……」
言葉を濁す私にカーレー様が続ける。
「『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』って言葉があちき達が育った所の軍師の言葉であるんだよ。意味は、敵味方を確り把握すれば戦いに負けないって事。現状の敵は、誰で、その情報がどれだけあるか理解している?」
こういう所なのだろう、イーラー様を初めとする領主一族と私やカーローの様な騎士の違いは。
戦場での先を見ることが出来ても戦いの先を見る事を常に強いられている領主一族。
そんな能力を有しているからこそイーラー様は、この御二方を重用されつのだろう。
そして私に求められる仕事は、何かも。
「浅慮な発言でした。一騎士として、カーレー様とサーレー様を守護する事を誓います」
「期待しています。カーレーの出番は、無いと考えて宜しいですよね?」
サーレー様の問い掛けに私は、強く頷く。
「当然です。サーレー様にも座ったままで頂いて全く問題ありません」
そこにテーリーがやってくる。
「サーレー様、今回ですが、本当にこの人数でよろしいのでしょうか? 騎士団からもう少し人数を追加すべきでは?」
今回、この作戦で防衛側に立つ騎士は、私を初めとした領主一族の護衛とその指揮下で動く兵士のみ、テーリーが不安を覚えるのも当然だ。
「今回のこちら側の想定をここで説明しますが、ここだけの話にしておいてください」
その言葉に慎重に頷くとサーレー様が続ける。
「内乱を想定して作戦行動をします。その場合、領主側として信用できるのは、貴方達直属の騎士のみ。その状態で仮想領主であるカーレーを護りきる。それが今回の目的として考えてください」
「内乱なんてそんな事が……」
戸惑うテーリーに対してカーレー様が苦笑する。
「単なる想定。でもね、上の人間は、少しでも可能性がある事に関しては、考慮に入れないといけないんだよ」
「そうかもしれませんが……」
尚も渋るテーリーに私が告げる。
「護衛騎士として、どんな状況下、例え親兄弟が敵に回っても護衛対象を護りきる。その練習だと思え」
「……はい」
テーリーが小さく頷く中、サーレー様が城内の地図を広げる。
「今回、参加者は、複数の出発地点から城内に入り、ここを目指す事になります。騎士の人数差は、凡そ五対一、守備側が完全に不利です」
「それで護りきれるでしょうか?」
テーリーの質問にカーレー様が即答する。
「騎士の数の差で一番差が出る魔法戦、これが野外戦だったら、勝ち目は、皆無だったよね」
そういってからカーレー様は、兵士の一人に視線を向ける。
「魔法を使った戦闘が基本だから相手も、有利を疑っていないけど、今回大切なのは、そうじゃないんだよ」
「屋内では、魔法の使用が制限されるからですね?」
テーリーの言葉にカーレー様が頷く。
「そう、だったら今回、一番大切なのは、なんだと思いますか?」
テーリーが悩みながら口にする。
「通常兵士を含めた兵数ですか?」
「残念、それも大切だけどもっと大切な事があります」
カーレー様は、そういって私を見る。
「連携と情報の共有だ。さっきからの細かい作戦指示は、それをする為の準備だ」
サーレー様が頷く。
「屋内では、数の有利を十二分に生かせないんです。数の有利を生かす為には、敵にあった戦力の供給が必須。さて相手がそこに気付けるかが大きな分岐点になるでしょう」
「解りました」
そうテーリーは、納得するが、勝ち負けとは、別な思惑も存在している。
それが先ほどから話に上がっている連携だ。
その連携の状況を見て、会合後の貴族達の力関係を把握する。
それが今回の主目的なのだろう。
こうしてゆっくりと確実に戦いの準備が進む。
その様子を見ているうちにサーレー様が言っていた言葉が正しい気がしてくる。
「戦いが始まる前に八割方は、決まっているか。それに相手は、気付いているのだろうか?」
私は、そういって模擬戦の襲撃側が居るだろう方向を見るのであった。
今回登場したキーローですが、話に出てないだけで、イーラーの護衛として結構いろんな場面に居たりしています。
例えば会合の場面では、万が一の暴走に備えイーラーの傍に居ました。
次回は、旗取り実戦を相手視線から行います




