004 武闘大会予選とギャンブルじゃない賭け方
武闘大会予選開始
あちきの名前は、夏阿零。
ちょっとした便宜上、カレと名乗っている現状。
取り敢えず武闘大会に出る事になりました。
「優勝は、無理だろうけど、本選には、出てね」
サーレーは、そういってから賭け屋の倍率調査に向かった。
「当座の活動資金は、欲しいからね」
あの駄目親父の所為でギャンブルって言うのがどういう物かは、解ってる。
だからあちき達は、ギャンブルは、しない。
決まった金額を、あちきに賭けて、勝ったら分の半分を次の勝負に上乗せしていく。
何処で負けても最初の掛け金以上の負けは、しない方向で行く事になっている。
「それもこれも、本格的な賭けの対象になる本選にあがらないと」
そう呟いていると係員の人が出てくる。
「これより予選を開始します。参加費と引き換えに渡された木札に掛かれた番号毎に予選を行いますので、自分の番号の順番が来たら、会場に入ってください」
あちきの番号は、八番。
本選出場選手が八名だから、多分、最終組だ。
因みにこの武闘大会は、魔法ありと無しがあった。
どちらかというと魔法ありの方が花形みたいだが、平民は、有益な魔法を使える人間は、少なく、人数的には、魔法無しの方が多い。
他の予選の戦い方を観察していて気付いたのだが、この大会の参加者は、全体的に若い。
洗礼した直後の人も多く出ている。
逆に年配の人は、あまり居ない。
「昨日の人みたいな人は、少ないね」
「年に数回している兵士募集の催しみたいな物だから、そう何度も挑戦する物じゃないからよ」
そう説明して来たのは、マリュサさんだった。
「お店のほうは、良いんですか?」
「店番は、置いてきたからね。それより、本選に残れそう?」
マリュサさんの質問にあちきは、肩をすくませる。
「運しだい。強い人と予選で当たらない事を祈ってます」
「刃の神のご加護があらん事を」
そういって差し出してくれたのは、昨日頼んでいた小型の刀だった。
「ありがとうございます。これがあれば心強いです」
あちきは、小型の刀を背中に着ける。
「刀も使うのにどうして持ってなかったの?」
マリュサさんが探ってくるから出来るだけ正直に答える。
「あちきの国では、長い刃物を持ち歩くことは、禁じられているんです」
「その鉄鞭も十分に危険でしょうに」
不思議そうな顔をするマリュサさん。
昨日使った鉄鞭、両端に鉄の握りがついていて、その間を鎖で繋げてるこれは、実は、鉄製の縄跳びだって誤魔化して持ち歩いていた。
無理があるってよく突っ込まれるたが、実際に縄跳びみたいに使って見せて強引に納得して貰っていた。
何があるか解らないから護身用として近くに住んでいた金物屋さんに作って貰ったのだ。
でも、あくまで護身用。
あちきの本命は、マリュサさんから借りた刀。
駄目親父は、仕事は、しない癖に毎朝のトレーニングは、欠かした事は、無い。
武器全般に通じていた駄目親父が一番得意としていたのが刀だったので必然的にあちきも刀が得意になっていた。
サーレーは、普段使えないからって小型武器をメインに習っていたけどね。
「八組目、出番だ」
ようやく、あちきの番がきたみたいだ。
あちきは、会場に入る。
会場は、円形のコロシアムで、観客席がその周りにある。
試合形式は、胸、心臓部分に着けた木版を破壊されるか、武器を失った時点で負けらしい。
観客は、そう多く居ないが、その中にマリュサさんが居て、こっちに手を振っている。
するとあちきの傍に居た人達が必死に手を振り返す。
マリュサさんは、美人だから仕方ないか。
あちきは、鉄鞭を構えて開始の時間を待つ。
「予選、八組目開始!」
その声と同時に参加選手が同時に動き出す。
まあ、予選は、バトルロイヤルなので、強そうな人から集中的に狙われる。
何時でも倒せそうなあちきは、殆ど蚊帳の外だ。
そうこうしている間に残りが十人を切っていた。
「まだ生き残っていたのか! 邪魔だ消えろ!」
そういうって長い槍で突いてくる。
生き残っているんだからそこそこの腕前なのだが、油断しすぎだ。
あちきは、半身でかわして鉄便をその手を痛打し、槍を落とさせる。
審判に負けを宣告されて悔しそうにする相手を他所にこの乱戦でも一際目立った大柄の選手に向かう。
大斧を構え、悠然と立ち、向かってくる相手を力と技でねじ伏せている。
七獣武技、熊技に長けた人だって事が直ぐ解る。
対峙するとその人は、油断無くこちらを探る。
「先ほどからの鞭捌き、蛇技に長けている使い手だな。しかし小手先の技では、俺は、崩せぬぞ」
相手の言うとおり、油断していない熊技の使い手をあちきレベルの鞭が正面から破るのは、難しい。
だからここは、少し変則的な技を使う。
一度大きく振って相手に防御体勢を取らせると一気に詰め寄り、鞭の有効範囲より接近し、鞭の両端を手に持ち、鎖を両手に絡ませる。
そのまま、鎖を巻いた拳で胸の木版を撃ちぬく。
「あちきの蛇技では、熊技を崩せそうも無かったので変則技を使わせてもらいました」
驚いた顔をしたが相手だったがあっさり認めた。
「こちらの読み間違えだったな。狼技に長けている相手に接近を許した時点で俺の負けだ」
他の参加選手は、この人ほどじゃなかったので楽に倒せて本選出場が決めた。
本選も鞭と拳のトリッキーな組み合わせで決勝まで無事に進んだ。
「大したものね」
マリュサさんが褒めてくれた。
「取り敢えず、当座の生活費は、確保したので次で負けても大丈夫です」
サーレーがそういって来る。
「そうだね。次は、ちょっと厳しいね」
あちきは、決勝の相手を見る。
「彼、ムサッシは、七獣武技の総本山って呼ばれるナーヤ山で修行したって言われてる、今大会の大本命。予選、本選通して圧勝して来たからその実力は、かなりの物よ」
あちきも試合を見た。
きっちりと鍛え上げた技で速さと技で相手に反応させない一振りで胸の木版を切り裂いていた。
まだ二十歳そこそこだろうにかなりの使い手だ。
すると相手、ムサッシさんが近づいてくる。
「君の戦いを見させて貰った。変則そうに見えるが実に基礎を重視した鍛錬を積んでるのが解る。さぞ名がある師匠の元で修行したんだろう」
駄目親父と名のある師匠のイメージが結びつかない。
「父親から習いました。まあ、昔は、有名だったみたいですけど十年以上前の事ですから多分知らないと思いますよ」
「十年以上前、すると誉れ高きアーラー様と同世代になるのか」
ムサッシさんの言葉にあちきは、複雑な表情をするがそれに気付かずムサッシさんは、続ける。
「魔力が無いというのに前線で戦い、多くの戦果をあげて、七獣武技の素晴らしさを再認識させたアーラー様は、拙者の目標だ。その同世代の人間を師匠とする君とは、良い戦いが出来そうだ」
そういって先に会場入りする。
あちきは、鉄便をウエストポーチにしまって、背中の刀を抜く。
「剣とやりあうのつもり?」
意外そうな顔をするマリュサさんにあちきが頷く。
「あの人、本気で強いからあちきレベルの鞭や拳じゃ勝ち目がないから」
「予定通りに賭けてますから」
サーレーがそれだけを口にする。
あちきが笑顔で応える。
「もし勝ったら掛け金でご馳走を食べよう」
そんなあちき達の会話にマリュサさんが微笑む。
「そうね、勝てたらあたしがご馳走するわよ」
「楽しみにしてますから、その約束忘れないで下さいね」
あちきは、そう言い残して決勝の会場に向かうのであった。
武闘大会の予選。
戦闘は、あまりメインにしない予定なのではしょってます。
ムサッシは、今後とも出てくる苦労キャラだったりします。
次回は、少し時間を遡った所から始まる予定です。