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落ち目領地とハーフな双子  作者: 鈴神楽
一年目 異世界生活に慣れよう!
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039 監視の騎士と二種類の間諜

ナーナンに双子とターレーが到着しました

「新の神の御声にカーレー=ソーバトがありました」

 あちきの言葉にあちき達の前に控えていた中年の騎士さんが返礼する。

「ウーミー=フネスもある幸運を神に感謝致します」

 同じ様に、サーレーとも初対面の挨拶を行った後、ウーミーさんがお約束の挨拶を続ける。

「この度は、御助力の為に領主の一族の貴女様方が参られた事、我がナーナン領主も大変感謝しております」

「全ては、同じミハーエのより良い未来の為の事です」

 ターレーお姉ちゃんも社交辞令で返しながら事務的な話し合いをしている。

 ウーミーさんは、こっちが余計な事をしないかの監視役だろうし、ターレーお姉ちゃんだってあちき達が余計な事をしないかを監視している。

 二重に監視されてるあちき達だけど、今回に関しては、別に関係ない。

 本気で海にバカンスに来ただけだからだ。

 その旨は、サーレーが遠まわしに報告してあり、こっちに来る前に色々と釘を刺された上で許可を取っている。

「それでは、皆様が滞在する屋敷へご案内します」



 ウーミーさんに先導されてあちき達は、一つの屋敷に到着する。

「こちらが皆様に滞在して頂く屋敷となります」

 あちきは、少し周囲を見回してから一言。

「ソーバトの護衛は、優秀なので、森で待機されておられる騎士様方は、お戻り頂いても問題ありません」

 ウーミーさんの顔が強張る中、ターレーお姉ちゃんが続ける。

「本当に細心の御配慮ありがとうございます」

「いえ、こちらも過剰な警護は、余計な緊張の元だと気付かず申し訳ありませんでした」

 ウーミーさんがそう表情を繕い言う中、サーレーが合図を送ってくる。

「ナーナンのお手伝いに来て余計な手間を増やしてしまいました。そのお詫びにこちらから皆様の所に労いの言葉を伝えさせて貰おうと思います」

 あちきがそう告げるとウーミーさんが慌てる。

「そんな事は、必要ありません」

「そうわ行きません。先ほどもターレーお姉様が申した様にミハーエのより良い未来の為の行為。お互いに礼儀を失する事は、出来ません」

 あちきが尚も踏み込むとウーミーさんは、言葉に詰まる。

「カーレー、その様な事をしたら、皆様が本来の仕事に戻るのが遅くなり、余計にお手数をおかけする事になりますよ」

 ターレーお姉ちゃんは、あちきそういってからウーミーさんの方を向く。

「皆様は、ご多忙で、直ぐにも戻られた方が宜しいのですよね?」

「はい。こちらの警護が必要なければ向かわなければいけない作業が御座いまして、重ね重ね申し訳ございません」

 ウーミーさんは、申し訳なさそうな顔をしてそう言ってから指示を出す。

「それでは、晩餐会で」

 ターレーお姉ちゃんがそう言って屋敷の中に入り、何か言いたげだったが、あちきは、沈黙を促すジェスチャーを見せる。

 暫くの沈黙の後、サーレーが口にする。

「聞き耳を立てている人は、もう居ないよ」

 その一言にターレーお姉ちゃんが小さく安堵の息を吐く。

「カーレー、非公式な監視を排除するのを焦っては、いけません。一度中に入ってから打ち合わせを行ってからもっと穏便にしなさい」

「それより、ターレーお姉様、ナーナン人達、騎士以外の人もかなり動員してたけど、こころ当たりありますか?」

 サーレーの質問にターレーお姉ちゃんが難しい顔をする。

「領地の貴族以外をかなり使っている事ね。よく解りましたね?」

 あちきは、下を指差す。

「騎士達が居たのは、気配で解ったから、あちき達が会話している間にサーレーが地面を確認したの」

「明らかに騎士とは、違う足運びの痕跡が全体的にありました」

 サーレーの説明すると、ターレーお姉ちゃんが状況説明を開始する。

「ナーナンの特徴は、教わったわね?」

 あちきが頷く。

「ミハーエで唯一海に面した領地で、海運の要ですよね」

「同時にミハーエやヌノー帝国と対抗する為に小国が作ったカイキ連合との小競り合いが多い領地です。それが何を意味しているか解るわね?」

 ターレーお姉ちゃんの補足にサーレーが即答する。

「国外勢力との接触が危惧されているって事。カイキ連合との小競り合いがほぼ恒常化しているのに関わらず、他領の兵力を最小限に留めているのが、その調査を行われない為だって可能性も考えられます」

「実際に幾つかの国と中央に報告していない交渉の痕跡は、援軍に送った騎士から報告を受けています」

 ターレーお姉ちゃんの答えにあちきが手を叩く。

「詰まり探られると痛い場所があるから、今回の件もあまり乗り気じゃなかった訳ですね?」

「それでも観光は、ナーナンの重要な収入源、おざなりに出来ない。第一、ソーバトが必要以上に配慮した上、目的、関税の軽減を遠まわし的にも通告した中で拒否を行えば後ろ暗い所があると言っている物だから今回の申し出を断る事が出来なかったって所ですよね」

 サーレー読みにターレーお姉ちゃんが渋々頷く。

「イーラー叔父様は、別段、ナーナンのこの様な対応を危険視していないわ。監視される事もある程度は、予測の上、問題があるとしたら、騎士以外の監視がどういった者達かですね」

 サーレーは、短い沈黙の後に予測を口にする。

「寝室よりリビング、人が集まる所の外を下調べしている痕跡があるから、政治的間諜と言うより、商的間諜だと思います」

「そうなると、余計に外部との繋がりを危惧されるわ」

 重苦しい表情を浮かべるターレーお姉ちゃん。

「あのーその二つにどれだけの違いがあるのですか?」

 ターレーお姉ちゃんの護衛騎士、テーリーさんが申し訳なさそうに聞いてくる。

「簡単に言うと、情報収集のポイントの違い。寝室、偉い人個人を中心に情報収集するのが政治的間諜、国や領地に所属するタイプで、リビング、人が集まる場所を中心に情報収集するのが商的間諜、ギルドとか組織に所属するタイプ」

 サーレーが続ける。

「今回は、後者だから、領主の命で動いている筈の騎士ウーミーが管轄しているのは、おかしい事になる。十中八九、関係を持った国外の組織からの協力者って可能性が高くなる」

 短い沈黙の後、テーリーさんが焦燥した様子で口にする。

「それは、不味いのでは?」

「不味い、不味くないと言えば確かに不味いかも知れません。しかし、先ほど言った様にイーラー叔父様は、この事をそれ程重要視していません」

 ターレーお姉ちゃんの説明をテーリーさんが理解していない様子なのであちきがフォローする。

「非公式に国外組織との繋がりを持つのは、領地運営では、許容範囲内って事だよ。この間、オーラーお兄様が増援に行ったカーカナだって、ウェーフ神国の教会と繋がりがあるって話がちらほらとあったらしいからね」

「そういう物なのですか?」

 理解が追いつかないテーリーさんにターレーお姉ちゃんが短く肯定する。

「領地運営は、綺麗ごとだけでは、行えないのです。こちらもそれに気付いていないという前提で立ちまわります」

「そういう流れになるからあちきも騎士には、言及したけど、その他に関しては、直接的に口にせず、あくまで騎士に対して探りを入れるって感じで話を続けた」

 あちきがウーミーさんとの会話の説明をするとサーレーが苦笑する。

「僕の予想だと、騎士ウーミーは、こっちが気付いているとどうかに確信は、持てていない。でも万が一にも気付かれる危険性を避けて、監視を遠ざけたって所」

「遠ざけたという事は、まだ監視があるって事ですか?」

 テーリーさんの確信にあちきが窓から見える遠方の木を指差す。

「あそこに肉眼だと点にしか見えないけど人が居るよ」

 携帯のカメラで確認済みである。

「解りました。こちらでも十分に気をつけておきます」

 テーリーさんがそういう中、ターレーお姉ちゃんが手を叩く。

「この話は、ここまで。一度、休憩した後、滞在の準備を行い、晩餐会に備えましょう」

「了解しました」

 側近の人達が慌しく指示を出していく。

「ターレー様方は、こちらで」

 あちき達は、テーリーさんに先導され、貴賓室に向かった。

 そこで入ってからターレーお姉ちゃんにお願いする。

「あちき、海で泳ぎたい」

「監視の目が緩くなるまで却下です」

 ターレーお姉ちゃんの即答にもあちきが怯まない。

「大丈夫、ある程度の監視だったら気付かれない自信があるから」

「カーレー、貴女自身が平気でも護衛の人間は、無理ですので駄目です」

 ターレーお姉ちゃんに即断されてしまった。

「護衛をつけないって訳には……」

 ターレーお姉ちゃんの怖い笑顔にあちきは、言葉の途中で口を閉ざすしかなかった。

 仕方ないのであちき達は、晩餐会まで大人しくするのであった。

移動は、他領地にある各領地の大使館みたいな所にある新刃の門を使っています。

作中にもあった様に今回は、カーレーもサーレーもバカンスのつもりです。

しかし、この双子がトラブルに巻き込まれない訳は、ありません。

次回は、ナーナン側の晩餐会に出席します

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