031 戦場指揮とそーだー
次期領主オーラーの語りの夕食会
「オーラー、本日も包の神の御心に沿った行いご苦労であった」
夕食の場での父上からの労いの言葉に私は、返礼する。
「全ては、金の神の恵みの為でございます」
その様子を見ていたカーレーが首を傾げる。
「そういえば、オーラー様ってどんな仕事を為さっておられるのですか?」
「カーレー様……」
護衛騎士のコーローが眉を顰め、ターレーがため息と共に説明する。
「オーラー様は、ソーバト領軍の訓練に携わっております」
「それって騎士団長のカーロー様の仕事じゃないんですか?」
カーレーの疑問に私が直に答える。
「カーローの仕事でもあるが、実際有事の際には、領主の一族が旗頭になる必要がある。その為にも常日頃から騎士や兵士達への指示を行っているのだ」
「なるほどです」
納得するカーレーだったが、何かに気付いた様子になる。
「そうなると、あちきもそれをしておいた方が宜しいのでしょうか?」
「そなたは、女性であろう、不要だ」
私の言葉にイーラー叔父上が少し思案した後に告げる。
「前例が無かった訳では、無い。歴代の領主一族の中では、女性で戦場の指揮を執られた御方も居られた」
「でしたら……」
カーレーが何か言いかけるが、イーラー叔父上が釘を刺す。
「カーレー、お前は、その前に領主の一族としての礼儀を学ぶ方が先だ。今のままでは、とてもじゃないが、騎士や兵士達の前に出して指揮をさせられないぞ」
「はーい」
不服そうな顔をするカーレーにコーラーが自分の事の様に自信満々に告げる。
「そうだ、兄上は、とても優秀なのだ。お前等が出る必要は、無いのだ!」
「はいはい」
カーレーは、全く気にした様子は、無く、それにコーラーは、尚も何か言おうとした時、イーラー叔父上が視線を向けた。
「現時点では、あまり考えられないが、二箇所以上で、戦線が広がれば、主戦場にオーラーが出るのは、当然だが、もう一方には、カーレーが出る可能性は、高い。今の御主では、まだまだ戦場に出るには、未熟すぎる」
「イーラー叔父上、その様な事は、ありません。私は、サーレーやカーレーより立派な指揮を執れます!」
そう主張するコーラーに対してサーレーが口を挟んでくる。
「それは、一度でも僕に勝ってから口にした方が良いですね。あの程度の腕前では、護衛の騎士が居ても戦場じゃ危険すぎるって思いますね」
「一度も勝ってないのは、御主が勝負を避けているからだ! 今すぐにも勝負を……」
コーラーの言葉の途中で父上が声を上げた。
「そこまでだ!」
父上に視線が集まる。
「戦場の指揮者を決めるのは、私の仕事だ。現在、臣下でしかない者が口にする問題では、無い」
その言葉にイーラー叔父上が頭を下げる。
「臣下として出すぎた発言、お許し下さい」
その態度に周りの者達は、軽い驚きを覚えていた。
さもあらん、家臣の中には、このミハーエを実質的に動かしているのは、イーラー叔父上だと言う者すらいるのだ。
それを踏まえた上でイーラー叔父上は、父上を立てる為、忠臣としての態度を執ったのであろう。
父上もその態度に応じる。
「特別に許そう。同時に戦場の指揮は、第一にオーラー、これは、代わりは、ない。しかし、第二には、カーレーとサーレー、ターレーの三人をもって当たらせる。皆の者もそう理解しろ」
「領主、私は、とても戦場に立てる力は、ございません」
慌てるターレーに対して父上は、頷く。
「承知をしている。我が親族の中で戦場に立てるだけの力を持つものは、私、イーラー、オーラー、そしてカーレーだ。御主を含めて、他の者の腕前では、ただの戦場の飾りにしかならぬ。その上でイーラーが申した様にカーレーは、領主一族としての教育が不十分、それを補う役目は、重要だと認識する事だ」
父上の説明にターレーも納得した様子で頭を下げる。
「領主の深い考えも理解できずに至らぬ発言、申し訳ございませんでした」
「良いのです。女性が戦場に出ると言うのは、あまり褒められた事では、ありません。コーラー、貴方が十分な力を身につけなさい。それが領主一族、ひいては、ミハーエの繁栄に繋がります」
母上の言葉にコーラーが立ち上がる。
「当然です。きっとサーレーやカーレーに負けぬ力を身につけてみせます」
目を輝かせる弟の様子を微笑ましくも思うが、同時にカーレーよりサーレーが先に来るところに連敗の拘りを感じるな。
「そうだ、『そーだー』をもって来て」
カーレーがそう女官に命じると女官が一本の瓶を持ってきて、蓋を開けて注がせる。
それは、不思議な泡を発生させていた。
「それは、なんだ?」
私が尋ねるとカーレーが女官に指示する。
「今日、作ったジュウソウを使って作ったそーだーって飲み物です。発泡酒から酒気を抜いた様な物です。オーラーお兄様も一口どうぞ」
そういって一口飲んで見せてくる。
女官が注いだそれを私も飲んでみる。
「なるほど、確かに発泡酒に近い飲み物だな」
「いつの間にこんな物を作っていたのですか?」
ターレーが少しきつい視線を向けるとカーレーが視線を反らしながら答える。
「厨房の菓子専属のフッジイに新しいレシピを教えている時に思いついて、作って貰いました」
「そんな事をしていたのですか? 貴女達の知識は、ミハーエの貴重の財産なんですから気安く教えては、いけません」
ターレーの忠告にカーレーがため息を吐く中、興味をもったのか父上が声を掛ける。
「まだ残っているか?」
すると側近達が小さく話しあって、少しの間が空いてから数本の瓶が運び込まれる。
「厨房の者がかなり作っておりましたので用意させました」
父上の執事、ウールーがそう説明して、全員に一本ずつそーだーを揃える。
「飲みなれていないコーラー様は、間違っても瓶を強く振ってから飲んでは、いけません」
サーレーの忠告にコーラーは、女官が持っていた瓶を手に取り大きく振る。
「たかが飲み物、私でも平気だ!」
「待て、それが発泡酒と同じなら……」
私の制止は、間に合わずコーラーが蓋を開けると、予想通り泡が吹き出してコーラーに直撃する。
「サーレー!」
ターレーが睨むがサーレーは、微笑む。
「ターレーお姉様、僕は、ただ忠告しただけですよ」
「名指しした時点で、挑発だね」
カーレーの指摘に私も頷く。
「あまり弟をからかわないもらいたい」
慌てて女官達に顔を拭かれていたコーラーが立ち上がる。
「もう我慢できない、勝負だ!」
そんなコーラーに母上が笑顔のまま告げる。
「コーラー、領主である父親の前ですよ?」
その先を言わないが何が言いたいのかは、聞くまでない。
「もう少し仲良くしてもらいたいものだ」
椅子に座って無言でサーレーを睨むコーラーを見ながら私は、呟くのであった。
「うむ、これは、面白い飲み物だ。酒気が無いのだ、子供でも十分に飲めるな」
イーラー叔父上が満足そうにそういって、そーだーは、領主一族に大いに受け入れられるのであった。
ソーダーを出したかった為に書いた夕食会でした。
まあ、書いているうちに次の話に繋がる話、戦場指揮がでました。
この考え方は、武闘派のソーバト特有の考えに近いです。
普通は、ただ、後方で指示を出すだけの方が一般的です。
サーレーとコーラーの関係は、多分、こんな感じがデフォです。
次回は、また短く、騎士団長カーローによる、救援要請に関わる話です




