030 重曹とそれぞれの作業スペック
遂に重曹が完成します
「サーレー、こーくすの状況を説明して下さい」
ターレーお姉ちゃんに言われ僕がまとめた資料を向うから持ってきたホワイトボードに書き写す。
ノートのディスプレイを見せるって方法もあったけど、角度によって違うので、メモ用に持ってきたこれを使うことにしている。
その様子を見ていたターレーお姉ちゃんが不思議そうに口にする。
「何度も見ていますが書いたものが消して、また書けるのは、不思議な光景ですね」
「ある意味、通常の書くって行為と違うからだよ」
説明にターレーお姉ちゃんが視線を向けてくるとカーレーが続ける。
「ターレーお姉様が普段書くって言っているのは、文字を対象物に染み込ませる、または、削り込んでいるって状態。いま、サーレーがやっているのは、文字を対象物の上に置いて行っているって感じなの。簡単に言えば、土の上に棒で字を書くのと石を置いて文字を作るのとの違いなんだよ」
「なるほど。理屈は、解りました。何度も書き直す事が出来るそれは、さぞ普及している事でしょう」
僕は、書きながら応える。
「残念だけど、こういった会議とか連絡版ぐらいにしか使われないよ。理由は、さっきの説明でも解るけど、保存性が低いって事。それに僕達の世界では、紙の大量生産出来て格安だからその度に新しいのを使うのに抵抗がないんだよ」
「紙を大量生産なんて夢の様な状況ですね」
ターレーお姉ちゃんの言葉にカーレーが首を横に振る。
「そんな事無いよ、その気になればこっちの世界でも出来るよ。でもそれをやってもこっちの世界では、意味が薄いんだけどね」
ターレーお姉ちゃんは、苦笑する。
「そうですね、紙の運用があまり一般的でないのに大量にあっても値崩れするだけですね。紙を大量に製造する前に、識字率の向上等々色々と必要な事がありますね」
「紙自体が存在するから、必要性があれば、自然と大量製造の方法は、産まれると筈ですからね」
カーレーがそういって締めた所で書き出しが終わった。
「マリュサの働きで、下町にもコークス工場が出来ました。現在の所、一定量のコークスが製造されて領内での試験販売が行われています」
書き出された数値を見て少し難しい顔をするターレーお姉ちゃん。
「まだ、純利益が薄いわね。作業効率の改善が必要かしらね?」
「それもありますけど、販売ルートに無駄が見られます。具体的には、コークスだけをもって販売しようとしています。運搬ルートを他の製品と変容していかないと利益が減りますね」
僕の意見にターレーお姉ちゃんが頷く。
「そうね、改善して、利益を上げる様に指示しましょう。それでは、今日は、次の段階に進みましょう」
僕が頷き、コークスと石灰石を準備する。
「これからするのは、コークスの製造に近いですけど、目的が大きく違います」
「確か発生する気体を確保するのよね?」
ターレーお姉ちゃんが確認してくるので僕が頷く。
「はい。化学式は、以下の通りです」
僕が記述した化学式をみてターレーお姉ちゃんが思考する。
「この化学式というのは、魔法研究に用いられる式に近いものがあります」
「研究者は、何処の人間も記号化するものなんでしょう」
僕の言葉にカーレーが苦笑する。
「でもさ、それって記号の意味が理解できない人間には、変な文字列以外のなんでもないよね?」
「個別名と現象を書き並べていたら無駄な長文になりますから仕方ない事です」
ターレーお姉ちゃんが理解した所で僕は、事前に用意した石炭炉にコークス炉と同じ形で熱して、気体を採取を開始する。
「それでは、こっちは、こっちで準備しますか」
そういってカーレーが水と塩を用意する。
「まずは、塩水を作ります」
水に十分な塩を入れながら混ぜ、そこにコークスの製造に出た成分を生成して作ったアンモニアを入れ、解けきった所で僕が集めた炭酸ガスを吹き入れる。
暫くすると容器の底に沈殿が始まる。
それを回収してターレーお姉ちゃんに見せる。
「これが重曹です」
製造を見ていたターレーお姉ちゃんがホワイトボードにその工程を書き出していきます。
「ジュウソウ製造に必要な工程でネックになるのは、やはりこの気体を取り出す所。ここで使用した様な装置を大量生産用に作るのは、難しいわ」
「魔法を付け足すとしたらそこだと思います」
僕の提案にターレーお姉ちゃんが頷く。
「風の魔法を使用して、発生した気体を逃がさないようにすれば良いわね」
「そうなると、吹き込むのも魔法にした方が良いですよね」
カーレーの提案にターレーお姉ちゃんが同意する。
「そうね、実際やってみましょう」
ターレーお姉ちゃんの監督の下、魔法を組み込んだ重曹製造を始める。
「塩水の製造は、どうしますか?」
塩水を作ろうとしたカーレーに対してターレーお姉ちゃんが制止する。
「そこは、手作業で十分でしょう。先ほどの手順は、確り見ていましたね」
「はい、ターレー様」
そういって側近が塩水の製造を始める。
手持ちぶたさにカーレーが複雑な顔をするとターレーお姉ちゃんが釘を刺す。
「カーレー、何事も自分でやろうとしては、いけません。出来るだけ、側近の者に任せなさい」
「はーい」
口では、そういっていても不服そうなカーレーに苦笑をしながらもターレーお姉ちゃんが魔法を使う。
『包の神の示す道を進む風よ、風幕』
発生した気体がターレーお姉ちゃんの魔法で空中に留められる。
そうしている間に液体の方が準備完了をした。
それを確認してからターレーお姉ちゃんが魔法を切り替える。
『金の神の示す道を進め風、風流』
塩水への風が流れが生まれる。
暫くして合成された重曹を集めてカーレーが確認する。
「問題ないみたいです」
「そう、良かったわ。使用した魔法のレベルも低いし、この方向でジュウソウの開発を続けましょう」
ターレーお姉ちゃんが手順を纏める中、カーレーが呟く。
「重曹が出来たら一気に洗剤とか作りたいよね?」
「却下です。研究開発というのは、一歩ずつ確実に行っていくものです」
制止にも不服そうな顔をするカーレーに気付きターレーお姉ちゃんが懇々と説明をする。
「このジュウソウを製造する為の新たな炉の作成、風の魔法を使う為の魔帯輝と使用者の確保、販路の計画等々、この時点でも決めなければいけない事が山のようにあります」
「でも一気に洗剤製造まで行えば、余計な施設の開発の手間が省けると思います」
カーレーの反論を僕が潰す。
「最終目標は、洗剤単体ならそれでもいいけど、重曹は、他にも活用方法があるから、一度製造販売を整えた方が妥当です」
ターレーお姉ちゃんも僕の考えに頷く。
「そうね、それにね……」
ターレーお姉ちゃんは、言葉を区切り、視線を側近の方に向ける。
カーレーがそちらに視線を向けて表情を変える。
僕は、気付いていたが、側近の人達がかなり困惑しているのだ。
「やはり、異国の技術には、抵抗があるのでしょうか?」
僕の小声の問い掛けにターレーお姉ちゃんが表情を変えないように小声で返してくる。
「それもあるけど、何より私達と同レベルで考えては、駄目って事よ」
その言葉の意味は、僕は、あっちの世界でも感じた事がある。
学校のグループ課題、僕が自分のペースで進めていくと皆の作業がどんどん遅れていく。
最終的には、僕だけか、カーレーと二人で大半をこなして居た事は、度々あった。
相談するとお父さんが苦笑として言った。
『処理スペックが違うんだ。だが、勘違いするなだからといって相手を侮るな、得手不得手なんて誰にでもある。俺にもあるしお前達だってある。自分達が不得手の物をそういった人達が補ってくれているんだからな』
お父さんは、酪農家の人達の生活を説明してくれた。
朝早くから動き出し、いう事も理解しない動物達に指示を出して、毎日同じ様な事をしていく。
単調とも思え、ストレスの溜まるそんな作業を腐らず、更に優れた肉や牛乳、羊毛等を作っている人達の精神力には、素直に尊敬出来た事を思い出す。
実際、僕達の、他人の体を黙々と洗うなんて作業を平然と行えるなんて僕には、無理だ。
どうして自分でやった方が効率が良いだろうという考えが顔にでてしまうと思う。
「解った。それじゃあ、この後は、重曹の活用法を考えよう。これをお湯に溶かせば簡易洗剤には、なるよね」
カーレーも受け入れて、出来上がった重曹の活用方法のあげだす。
「消臭剤にも使えます。食事にも色々と使えますね」
僕達が上げた方法を側近に記入させて、ターレーお姉ちゃんが決定する。
「これだけあれば、それぞれの研究だけで暫く掛かりそうね。試験運用を行って有益な物から研究を進める事にし、洗剤製造より、そちらを優先します」
「「はい」」
今日の研究は、活用方法のリストアップで終了したのであった。
重曹って活用方法が多すぎ。
実際、そのままでも洗剤代わりになるしな。
試験運用の殆どは、書かずに結果のみの報告のみって形になると思います。
次回は、カーレーが夕食会で変な事をします




