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落ち目領地とハーフな双子  作者: 鈴神楽
一年目 異世界生活に慣れよう!
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025 後ろ盾と魔力を籠める苦労

移動装置での移動でバーミンの館です

「カーレー、もう一度、復唱するんだ」

 イーラー叔父さんが何度目かも忘れた確認をあちきにして来た。

「絶対に光ランクまで魔力を籠めないですよね」

「それだけじゃない!」

 かなり強めの口調のイーラー叔父さんにあちきは、続ける。

「基本、濃までで、深までは、練と桃だけだって事ですよね」

「基本的では、ない。絶対に死守するんだ」

 睨んで来るイーラー叔父さんにあちきは、一歩下がりながら頷く。

「はい。絶対に死守します」

 それなのにイーラー叔父さんは、物凄く悩んだ顔をしてキールーさんを見る。

「やはりお前も一緒に行ってもらった方が良いかもしれない」

「部外者が居れば余計な詮索を生む可能性が高くなるのでやはり避けるべきだと。それに条件を変えるには、マーネー様との交渉が必要です」

 キールーの返事にイーラー叔父さんが疲れた顔をする。

「解っている。しかし、それでも不安だ」

「イーラー叔父様、私が確りと監視します」

 ターレーお姉ちゃんが真摯な目でそう告げるとイーラー叔父さんは、強く頷く。

「お前だけが頼りだ。確りと監視をしていてくれ、妹達とその他一名を」

 その他一名が誰なのかは、言うまでもないだろうな。

「そろそろ出発の時間です。行ってまいります」

 ターレーお姉ちゃんがそういって頭を下げるとイーラー叔父さんが応じる。

「刃の神の加護があらんことを」

 何故か出陣の時のあいさつなのだが、誰も変に思っていない。

 本当に何故だろう。

 ターレーお姉ちゃんに先導されてあちき達は、マーネー様の部屋に向かう。

「お母様、参りました」

 扉が開かれてマーネー様が普段と違った装いの姿をして待っていた。

「貴女達も着替えなさい」

 女官達がいそいそとあちき達の回りにやってくる。

「どうして着替えるんですか? このままの格好では、いけないんですか?」

「当然です。これから行くのは、他の領地なのですから」

 マーネー様の答えに、あちきが首を傾げる。

「でも、貴族のいる場所ですよね、城の中での服装なら失礼が無いと思いますが?」

「今の服装は、ソーバトでの流行の服です。服の流行には、その領地ごとの特徴が現れます。他の領地に行くのに変えずに行くのは、不勉強を晒す事でしかありません。気をつけなさい」

 マーネー様の指導が入ってくる。

 マーネー様は、駄目親父絶対主義の美容暴走キャラのイメージが強いけど、政治もかなり出来るらしい。

「お母様、行く前にもう一度確認したいのですが、これから会いに行くマーナー=バーミン伯父様は、バーミン領主家の有力者って事で宜しいのですよね?」

 サーレーの質問をマーネー様は、肯定しない。

「その認識は、不足があります。マーナー兄上は、領主家の有力者の側面より魔法研究の第一人者という実績の方が有名であり、今後の貴女達の後ろ盾とするのは、そちらなのですから」

 これからあちき達が向かうのは、マーネー様の実家があるバーミンらしい。

 そして会うのが、マーネー様のお兄さんのマーナー=バーミン。

 血の繋がりも全く無いが、貴族的に言うとあちき達の伯父さん当たるらしい。

 不思議な感覚だが、貴族では、洗礼の時に母親と名乗った人の親族を本当の親族として扱う。

 今回の対面は、あちき達を紹介して、その後ろ盾になって貰う為のものらしい。

「私が居なくなった後、ムーマー義姉上が色々と良しなにと約束をしてもらいましたが、それだけでは、足りません。いざと言う時にロードソーバトやイーラー様にも対抗できる後ろ盾が必要なのです」

「イーラー叔父様は、信用できるお方です」

 珍しくターレーお姉ちゃんがマーネー様に反論している。

 マーネー様も否定は、しない。

「確かによほどの事が無ければ貴女達に不利益がある事は、しないでしょう。しかし、ウーラー兄上を含めてソーバトのどうしても必要な事なら貴女達を犠牲にします。そうなった時にマーナー兄上の後ろ盾があるかないかで貴女達の選択肢が大きく変わります。自分の身を護る為です。出来るだけ良い印象を持ってもらうのですよ。そうイーラー様との約束を多少超える事があっても」

「お母様!」

 ターレーお姉ちゃんが釘を刺す。

 服を着替えさせられているサーレーが小声で説明してくる。

「見せる魔力の上限については、ほぼ一週間に亘りお母様とイーラー叔父様が相談したそうです」

 きっと物凄い話し合いだったのだろう。

 そんなこんなで準備も終わり、あちき達は、マーネー様の部屋に不自然な形で設置された門の前に立つ。

「カーレーとサーレーがこれを使うのは、初めてですね、これは、新刃シンバの門と呼ばれる魔法具です。儀式を行った光ランクの蒼魔帯輝を二つに割り、一つを目的の新刃の門に設置しておき、もう一つをこの様に設置して使います」

 マーネー様は、半円の蒼魔帯輝を門にはめ込む。

『新の神の力宿りし門よ、刃の神の力で一つと化せ。新刃の門』

 門が開かれ、その先には、見慣れぬ鎧を纏った騎士達が居る。

「行きますよ」

 そういってマーネー様が通り、あちき達もその後を追う。

 側近も全員通った所で門が閉じられた。

 先頭で通ったマーネー様が向うの騎士さんに告げる。

「アーラー=ソーバトが妻、マーネー=ソーバトとその連れが新刃の門を超えました。確認を」

 騎士さんは、あちき達の人数や容姿等を記録する。

「入国審査みたいなもの。これで戻りの時と合わせて不法の滞在者が出来ないようにしているんだよ」

 サーレーが説明してくる。

「確認を終了しました。マーネー様、バーミンへの帰還お喜びいたします」

 騎士さんの言葉にマーネー様が頷く。

「マーナー兄上への取次ぎを」

 マーネー様の言葉に騎士さんが応じる。

「直ぐに、お部屋でお待ち下さい」

 そうすると一人の騎士さんの先導の下、あちき達は、広い部屋に通される。

 そこには、かなり広く、調度品も豪華であった。

「ここは、お母様がマーナー伯父様に用意して貰っている個室です。盗聴対策も万全ですから多少は、気を抜いても大丈夫ですよ」

 ターレーお姉ちゃんの言葉にあちきが質問する。

「どうしてそんな個室があるんですか?」

「私がここで魔法の研究をする事があるからです。今居るこの館は、バーミンの魔法研究施設にあたり、私は、ここでいくつの成果を発表していますから」

 マーネー様は、魔法の研究でも有名って聞いてたけど、こんな施設で研究していたのか。

「本来ならソーバトで研究して、ソーバトで発表出来れば良いのですが……」

 言葉を濁すターレーお姉ちゃんだったが、全部を言わなくても解る。

 ソーバトにマーネー様が十分に研究を行えるだけの施設が存在しないんだろう。

 マーネー様の側近が慣れた様子でお茶の準備をしている。

 そうして一息を吐いていると、扉の外から女官の声が聞こえてくる。

「マーネー様、館様がお時間がとれたそうです。対面の間におこしください」

「了解しました」

 マーネー様がそう返答し、準備を始める中、ターレーお姉ちゃんが念を押してくる。

「魔力を確認される筈だから、イーラー叔父様に言われた事を絶対にまもるのですよ」

「「はい」」

 あちきとサーレーが返事するが何故かターレーお姉ちゃんは、不安そうな顔をしている。

 準備も終わり、マーネー様に連れられて対面室に到着する。

 そこでは、偉そうというより賢そうって感じの人があちき達を待っていた。

 入室して、恒例の挨拶が始まる。

「「新の神の御声が届いておりますでしょうか?」」

 そう口にしたあちきとサーレーをその男性は、じっくりと観察してから返礼が来る。

「新の神の御声にマーナー=バーミンがありました」

 頭を上げてあちき等も返礼する。

「カーレー=ソーバトもある幸運を神に感謝致します」

「サーレー=ソーバトもある幸運を神に感謝致します」

 挨拶が済むとマーナー様が口にする。

「余計な挨拶は、省こう。君達は、儀礼上は、私の姪という事になる。しかし、私は、魔力が低い者を認めない」

 側近の人達が魔力測定用の魔帯輝をあちき達の前に用意する。

「早速だが、魔力を測定をして貰う」

 マーナー様の言葉にマーネー様が視線で促し、ターレーお姉ちゃんが不安そうな顔を見せる。

 ターレーお姉ちゃんの不安そうな顔にマーナー様側は、多少の落胆の色を見せている気がする。

 サーレーが合図を送って来た。

 サーレーとは、交渉を行う前に幾つかの合図を決めてあるので、ちょっとした動作であちきに色々と教えてくれる。

 今回は、相手が何で落胆しているか。

 こっちの不安とは、真逆な事、魔力が低くて通るかをターレーお姉ちゃんが心配していると誤解しているとサーレーが予測しているのだ。

 無論、ターレーお姉ちゃんは、そんな事をこれっぽっちも心配していない。

 ターレーお姉ちゃんの心配は、あちき達が魔力を籠めすぎないかだけ。

 実は、さっきは、返事を普通にしていたが、あまり自信が無かったりしている。

 基本、あちきは、制限なしに魔力を籠めるのが得意で、サーレーは、細かく魔力を籠めるのが得意。

 事前の練習の時は、サーレーは、数回で出来るようになったが、あちきは、最後の練習の時も三回に一回は、失敗している。

 今回は、その時に言われた通りに少し低めに魔力を籠める事にした。

 そうやって魔力を籠め終わる。

 サーレーは、上手に制限ギリギリに魔力を籠め終えて居たが、あちきは、練魔帯輝を濃で止めてしまった。

「もう少し頑張ってみなさい」

 微笑み続行を促すマーネー様を止めるようにターレーお姉ちゃんが声をかけてくる。

「お母様、無理をさせては、いけません。カーレー、頑張りすぎは、色々と大変です」

 色々の所がやたら強調されたのは、気のせいでなく絶対に止めろって意味合いだろう。

「双子ならば魔力も近いはず、限界まで頑張って見なさい」

 マーナー様の言葉にターレーお姉ちゃんは、抗弁出来ず、視線で釘を刺してくる。

 私は、呼吸を整えて、魔力を籠めるのを再開する。

 これって意外と難しい。

 魔帯輝に魔力を籠めるのって量を送ればランクがあがる訳じゃない。

 無論、相応の魔力が必要だが、大切なのは、濃度。

 だから淡の人が幾ら大量に籠めても魔帯輝のランクは、上がらない。

 そしてあちきにとって問題は、濃度を挙げすぎると光までいってしまうこと。

 これだけは、絶対にするなってイーラー叔父さんとターレーお姉ちゃんに何度も何度も言われている。

 それを気をつける様に魔力を籠めている所為でなかなかランクが上がらない。

 自分でも苛立ってくるのが解る。

 隣でサーレーがもう成功させているんだから失敗したくない。

 その思いが力みになっていく。

 直感的にあちきは、しゃがみこんだ。

「もう限界です」

 結局、濃のままで終わってしまった。

 なんともいえない空気が流れる中、ターレーお姉ちゃんが駆け寄ってくる。

「頑張りましたね」

 そういったターレーお姉ちゃんの顔は、良く止めたわって言っている様に見えた。

 あちき達が魔力を籠めた魔帯輝を凝視していたマーナー様が口にする。

「両者ともターレー並みの魔力を持っているな。全属性もちは、貴重だ、私が後ろ盾になってやろう。解っていると思うが、それ相応の代償は、払ってもらうぞ」

「はい」

 サーレーが即答した後、あちきも立ち上がって答える。

「はい」

 こうしてあちき達のマーナー様との対面は、終わった。

マーナーって貴族っていうより研究者って側面が高いです。

因みにバーミンの領主は、マーナーの弟がなっています。

今回は、カーレーが失敗しかけましたが、最後の一線で堪えました。

次回は、かなり短いマーナー様の語りの予定

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