011 反論だらけの書類と魔力の有効活用
財政改善にチート発動です
僕の名前は、サーレー=ソーバト。
今更だから苗字の事は、気にしない。
今は、ターレーお姉ちゃんと一緒にイーラー叔父さんの執務室に来ていた。
「私達がやらなければいけない事は、領主であるウーラー伯父様の承認を受ける為にイーラー叔父様に提出された申請書を確認して、その業務の無駄や不合理点を見つける事です。そして合理化を行い、予算を捻出する事がソーバトの明日に繋がります」
ターレーお姉ちゃんは、そういって幾つかの書類に目を通し始めます。
元々居た文官の人達が僕を気にしていますが、それよりも今は、状況を把握が最優先です。
僕は、処理している人達をぐるりとみて回ります。
特にターレーお姉ちゃんの視線の動きに注目しました。
そして今は、空席の机に広げられた書類の山を見ます。
大きく分けて四つの山がありました。
軽くその内容を確認してその山の内容は、理解できました。
一番低い山は、もう了承された業務で、後は、領主の承認を待つだけでしょう。
今の高さが上がっているのは、イーラー叔父さんの確認待ちの物だと思います。
そして問題なのは、その他の二つの山。
訂正箇所が書かれている物とその訂正箇所に関して反論が記述された物の山です。
この二つの山がかなり高いのがターレーお姉ちゃん達を悩ましているのでしょう。
僕は、反論が記述された書類をいくつか確認してから、他の文官さん達の書類を確認を始めます。
「サーレー様、難しくございませんか?」
そう問いかけてきた文官さんに僕は、頷く。
「いくつか解らない単語は、あります」
「でしたら説明を致しますが?」
そう言ってくる文官さんに僕は、首を横に振る。
「単語が解らなくても前後で大体の意味は、理解できますから、自分の仕事を進めていてください。それがソーバトのイーラー叔父様のお役に立つ事です」
そう言って、出来るだけ色んな書類に目を通す。
そうしている間にかなりの時間が経ったのだろう、イーラー叔父様の確認する書類の山が増えている。
「ターレーまだ作業をしていたのか? サーレー、君まで何故?」
戻ってきたイーラー叔父さんが意外そうな顔をするとターレーお姉ちゃんが口ぞえしてくれる。
「今後、領主の政に関わる事になるので勉強の一環として連れてまいりました」
「そうか、それで勉強になったか」
イーラー叔父様の問い掛けに僕は、頷く。
「はい。それで提案なのですが、今やっている作業の優先度を落としては、どうでしょうか?」
必死にやっていた作業に対する駄目出しに文官さん達が思わず凝視してくる。
イーラー叔父さんは、苦虫を噛んだ顔をして言う。
「今の作業が実りが薄い事は、理解している。しかし、それでもやらねばならないのだ」
僕も頷く。
「やらなければいけない事だという事は、承知しています。しかし、タイミングが悪すぎます」
「タイミングが悪い? どういう意味だ?」
イーラー叔父さんの問い掛けに僕は、ずばりという。
「今のソーバト領主一族は、庶民から見てもジリ貧です」
「サーレー!」
流石にターレーお姉ちゃんが嗜めて来ますが言わないわけには、いきません。
「そんな状況で既得権を持つ貴族が折れる訳がありません。簡単に言えば、今の領主一族は、舐められています。あの書類の山がその証拠では、ないですか?」
僕は、反論が書かれた書類の山を指差した。
イーラー叔父さんもそれを苦々しい様子で見る中、文官さんが声を出す。
「サーレー様、領主一族が軽く見ている貴族など居る訳がありません」
それに対してイーラー叔父さんは、首を横に振る。
「建前は、止めるんだシールー。サーレーの言うとおり、今の貴族の多くが領主の意見に反抗しても大丈夫だという甘えがある。そうでなければこちらがあげた改善案に反論をあげるなどせぬ」
「それでも領地の貴族が領主の一族に反抗する訳がありません!」
必死に訴える文官、シールーさんに対して僕が頷く。
「多分、それは、正しい。だけど、実際表立って反抗したり、それこそ他の領地に鞍替えする事は、ないでしょうね」
他の領地に鞍替えという事場にターレーお姉ちゃんが驚く。
「当然です。そんな事がありえません」
僕は、イーラー叔父さんの目を見ながら告げる。
「実際するかどうかは、この場合、関係ないのです。それが出来るかもと思わせる空気が今のソーバトには、あるというのが問題なのです」
大きく息を吐くイーラー叔父さん。
「サーレー、君の言葉は、正しい。だといって、ここで何もしなければソーバトの状況は、悪化する」
僕は、頷く。
「ですから優先度を落とすだけです。ソーバト領主の一族の勢いが戻った時なら、これらの改善案を通すのも容易でしょうから」
「その勢いを取り戻す術がないのよ」
辛そうにいうターレーお姉ちゃんに僕は、一つの申請書を見せる。
「隣の領地、マーグナからの魔力が篭った魔帯輝の譲渡願いです。これは、数の折衝を行うって事になってますが、向うの要求通り譲渡して、その見返りで魔法研究の予算を捻出するのでは、どうでしょうか?」
「その様な無駄な魔力を持つ者など居ない」
イーラー叔父さんの言葉に僕が手を上げます。
「僕とカーレーがいます。僕達は、まだ魔法を使えません。ですから魔力を無駄にするくらいならこの様な交渉に役立てるべきだと思います」
「そうかお前達が居るのだったな」
イーラー叔父さんは、目を瞑り色々と模索してから口にする。
「シールー、魔帯輝の譲渡願いを全部集め、それに必要な魔帯輝の確保を行え。他領土とコネを持つ貴族達にも交渉しろ。解っていると思うが、あまり表立って動くな。こっちにこのワイルドカードがある事を知られる訳には、いかないからな」
「了解しました。直ぐに」
シールーさんが慌てて動き出す。
「他の者もシールーのバックアップをするのだ。手が空いている者に関しては、今の作業の継続。あくまで優先度を下げるだけだ。ソーバトの勢いが戻り、離反や反抗が不利と確信させた所で一気に改善案を押し通すのだからな」
こうして慌しく動き出すイーラー叔父さんの執務室。
ターレーお姉ちゃんが苦笑していた。
「私達が必死に何か手が無いかって模索していたのですが、こんな簡単に突破口が出来るのですね」
イーラー叔父さんは、呆れた顔をする。
「元からサーレーやカーレーの様なワイルドカードが無ければ出来ない案だ。忙しくなるぞ」
イーラー叔父さんも書類の整理を始める中、僕は、ターレーお姉ちゃんの手伝いをするのであった。
サーレーの特殊技能発動。
実言うと、アーラーってカーレーの武とサーレーの文を合わせた完全チートだったんです。
それでも魔力なしって事で忌みされて来たんですから、この世界の魔力重視主義は、困ったものです。
次回は、ようやく領主、ウーラー様の登場ですが語りは、その奥さんです




