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落ち目領地とハーフな双子  作者: 鈴神楽
一年目 異世界生活に慣れよう!
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010 ディーラの暦と綺麗過ぎる剣

カーレーとオーラーとの対決です

 あちきの名前は、カーレー=ソーバト。

 マーネーさん達からマナー等色々スパルタ教育を受けている間に苗字が変わったのだが、母親のそれから父親のそれに変わっただけだと納得しようと思う。

「色々と下準備がある為に公の発表は、二人の洗礼の時とする」

 イーラー叔父さんがそう説明するので、あちきが手をあげる。

「だ、お父様から聞いたんですが、洗礼って生まれ旬の最初の日にやると聞いたんですが、こっちでの誕生日は、どうするんですか?」

 まだ駄目親父をお父様というのには、抵抗がある。

 イーラー叔父さんは、すこし悩んだ顔をしているとサーレーが口にする。

「こっちで言う一旬は、およそ僕達の世界の二ヶ月なので僕達の誕生日は、三旬目の五日目が妥当だと思います」

 因みにあちき達の誕生日は、五月五日子供の日だ。

 それにしてもこっちの暦は、意外と面倒だ。

 曜日が魔帯輝のランク、淡から光の六つで光が日曜日って感じになり、その六日を一週間とする。

 魔帯輝の属性が週を意味して、オウソウヘキトウコウレントビコンゲンギンの十週で一旬となり、六旬で一年とする。

 旬には、神様の名前、新・包・刃・コガネサクラセリフが付いている。

 だからあちき達の誕生は。

「刃の旬の黄深か、今は、包の旬の鳶の深だからおよそ三週間。短いが情報の隠蔽も考えればそれで行くのも良いだろう。マーネー様、刃の旬に洗礼を行える様にお願いいたします」

 イーラー叔父さんの言葉にマーネーさんが応じる。

「お任せください。アーラー様の娘として恥ずかしくない洗礼を執り行える様に準備を進めておきます」

 マナーのスパルタ教育が続く予想にあちきが軽く眉を顰めているとターレーお姉ちゃんが声を掛けて来れる。

「私もサポートしますから頑張りましょう」

 異母姉妹なのに本当に良いお姉ちゃんだ。

「洗礼が行われるまで、二人の事は、城内でも最低限の共有のみとし、機密扱いにする」

 イーラー叔父さんがそう宣言して慌しく出て行こうとした時、ターレーお姉ちゃんが声を掛ける。

「イーラー叔父様、業務の再検証は、私が進めていて構いませんでしょうか?」

 イーラー叔父さんは、頷く。

「すまぬが頼む。私は、あの二人の発表までは、そちらを優先したいのでな」

「解りました」

 そう請け負ったターレーお姉ちゃんにサーレーが近づく。

「僕も手伝いたい」

「それは……」

 躊躇するターレーお姉ちゃんをあちきが後押しする。

「遅かれ早かれ手伝う事になると思いますし、サーレーは、そういった物が得意ですからきっと手助けになりますよ」

 ターレーお姉ちゃんが頷く。

「そうね、手伝って貰いましょう」

「はい」

 ターレーお姉ちゃんとサーレーが部屋を出て行くとマーネーさんも動き出す。

「私も色々と準備をしないといけませんね。明日から改めてマナーを教えますから今日は、ゆっくりしていなさい」

 マーネーさんの言葉にあちきは、心底ホッとした。

 そして気付くと部屋には、あちきと側近って言われている人達だけになってしまっていた。

「えーと、あちきが町に行くって無しですよね?」

「城からは、絶対に出すなと厳命されています」

 ターレーお姉ちゃんと一緒に来ていた女性騎士さんがそう断言してくる。

「それってやっぱりスキャンダルだからなの?」

 あちきの問い掛けに言葉を濁すかと思ったが、女性騎士さんは、驚いた顔をしている。

「もしかして自分達がどれだけ規格外な存在か認識していませんか?」

 そうだったので素直に頷く。

「この国では、魔力の大小が重要だというのは、理解していますね?」

 確認してくる女性騎士さんの言葉をあちきは、肯定する。

「その所為で父親が家出してますから」

「カーレー様とサーレー様は、王族でもそうそう居ない全属性光の魔力を持っています。これは、ソーバトの歴史の中でも始めての事なのです」

 女性騎士さんの熱の篭った説明に物凄いらしい事は、解った。

「それで変なちょっかい出されないように隠そうとしているんだ。まあ、理解しましたけど、正直暇です。何かやる事ありませんか? マナーの特訓以外で」

 最後のは、重要ポイントだ。

 勉強や習い事自体は、嫌いじゃない。

 でもマナーって奴は、想像以上に神経を使う。

 今日のマナー学習ポイントは、限りなくゼロに近い。

「そう言われましても、いっその事、ターレー様達と合流しますか?」

 女性騎士さんの言葉に少し思案する。

「それもありだと思うけど、護衛の人達は、良いの? 物凄い書類との格闘戦になるよ」

「書類との格闘戦って何ですか?」

 女性騎士さんの疑問にあちきが答える。

「サーレーの処理速度って慣れた人達でも降参するレベルだから、それに付き合うとなると何十という書類を同時に抱えてそれらを無秩序に参照していくことになるから、近距離格闘戦並みの判断を酷使する事になるけど、それに付き合いたい?」

 女性騎士さんは、少し考えてから口にする。

「詰まり、イーラー様やターレー様と同じレベルって事ですね」

 なんとなくそんな気がしたが、同じタイプなんだ。

「ソーバトって意外と文系の血もあるんだね」

「私達は、騎士なので文系の作業は、あまり得手としておりません」

 女性騎士さんの正直な言葉にあちきが頷く。

「あちきもどっちかというと武系だけど、そうだ、ちょっと剣の鍛錬したいんだけど場所とかどうにかならない?」

 あちきの提案に女性騎士さんが手を叩く。

「それは、大変宜しいです。私も武勇伝にあるアーラー様の剣を見てみたいですから」

「そういえば、まだ名前を聞いてなかったね? 知ってると思うけどあちきは、カーレー」

 あちきの挨拶に女性騎士さんは、頭をたれて告げる。

「ターレー様の護衛騎士を任されていますテーリー=スーハトと申します。それでは、移動します」

 テーリーさんと移動を開始する。

 まあ、他にも何人もいて、やたら遠回りしてるのは、あちきの存在を隠蔽しようとしてる所為だろうな。

 そして、中庭みたいなところに出る。

「ここでしたら、領主の一族以外には、参りませんので存分に鍛錬をなさってください」

「ありがとうございます」

 そういって私は、軽い準備体操から、型の反復等を始める。

 それらが一通り終わった所でテーリーさんに声を掛ける。

「少しやりませんか?」

 少し躊躇した様だがテーリーさんは、頷き剣を持ってあちきの前に立って、頭を下げる。

「よろしくお願いします」

「お願いします」

 私も頭をさげるとテーリーさんが苦笑する。

「今回は、良いと思いますが、次からは、別に返礼は、要りませんからね」

「うーん、こういうのは、上下関係は、無いと思いたいんだけどな」

 あちきの言葉にテーリーは、肩をすくめる。

「そういうのは、ナーヤ山でもない限り通じません。それでは、こちらから行かせてもらいます」

 そういって踏み込んでくる、それにあちきも剣をあわせる。

 何合か剣を合わせる。

「流石は、領主の一族の護衛騎士って所ですね」

「いえいえ、私などまだまだです。まだ洗礼前だというのにこれほど腕前を持つカーレー様には、敬意を感じます」

 そこからスピードを一段階上げるけど普通についてくるからかなりのものだ。

 少なくとも武闘大会に出ていた人間でテーリーさんに勝てそうなのは、ムサッシさんくらいだろう。

「テーリー、ここは、領主一族のみの鍛錬場所だぞ!」

 その声がした方をみると、そこには、武闘大会の授与式にオーラー様の隣に居た騎士が居た。

「コーロー、この御方は……」

 説明しようとするテーリーさんに小声で注意する。

「ここであちきの素性をばらすのは、必要最低限に入る? 入らないなら適当な謝罪してこの場を後にしようよ」

 テーリーさんは、少し悩んだが、自分が判断できる事じゃないとしたのか頷く。

「ターレー様からこの者の世話を頼まれていた為、ここにしちゃったの」

 この人、勝手にターレーお姉ちゃんの名前使ってる。

 意外といい根性してるな。

 しかし、ターレーお姉ちゃんの名前が効いたのかその騎士さんも怒りを静める。

「その者は、確か武闘大会の優勝者だったな。その腕前をみたいというのは、解るがもっと場所を選べ」

「はい。気をつけます」

 そしてあちき達が去ろうとした時、騎士の後ろに居たオーラーさんが声を掛けてきた。

「待て、私もお主の腕前をみたい。相手してもらおう」

 自信満々のその声にあちきは、正直戸惑った。

 はっきり言って、テーリーさんに護衛騎士の人、あちきと比べたらこの人、一段腕が落ちると思うから。

 それも下手に手加減したら解る位には、腕は、立つんだから厄介。

 悩んだ挙句、あちきは、諦めた。

「手加減しないで相手しますからね」

「望むところだ」

 そういって剣を握って中央に行くオーラー様にあちきは、駄目親父の話に出てきた、ウーラー伯父さんとの事を思い出す。

「行くぞ!」

 素早い踏み込み、鍛錬もしっかりしてるのも解る。

 だからこそあちきは、その剣筋がはっきりと理解できた。

 軽く受け流して間合いをとる。

「流石にやるな。これならどうだ!」

 綺麗な、綺麗過ぎる剣筋でオーラーさんの剣は、あちきに向かって振り下ろされる。

 それもちゃんと寸止め出来る力加減で。

 体をずらしてかわしながら確信する。

 この人、絶対に実戦に出しちゃ駄目な人だ。

 駄目親父が剣術の鍛錬の際によく言っていた悪い例、素直過ぎる剣なんだ。

 あちきは、護衛騎士さんの方を向く。

「あちきは、自分のやり方で攻めますけど良いですね?」

 護衛騎士さんには、その意味が理解できただろうが、オーラーさんは、気付いていない。

「良いぞ。受け止めてやろう!」

 やる気満々なオーラーさんにあちきは、業と大きな体移動を見せる。

 使っている技は、同じ七獣武技だからそこから出される技は、オーラーさんにも簡単に予測できたからだろう、基本にそってそれに対する防御をとった。

 あちきは、強引に踏み込みを変化させて、構えと反対に打ち込みを放つ。

「一本で良いですか?」

 驚いた顔をするオーラーさん。

 振り返るとテーリーさんも護衛騎士さんも複雑な顔をしている。

 なんとなく状況が掴めた。

 これが赤の他人だったら、適当に流すけど、鍛錬を確りして向上心がある従兄妹相手だ、はっきりという事にした。

「オーラー様、貴方の剣は、教法通り過ぎます。実戦では、通じません」

 いきなりの駄目出しにオーラーさんは、憤慨する。

「無礼だぞ!」

「そう言われるだろうから、気付いていても誰も指摘出来なかったんだろうね。でも、今みたい通り、あちきみたいな子供にも一本とられるのが現実なんだよ」

 睨み返すあちきに、オーラーさんは、剣を構えなおして言う。

「一度の勝利で思い上がるな! 実力を見せてやる!」

 踏み込みが強くなり、鋭くなる剣筋。

 でも、基本通りなのは、変わらない。

 どんなに早く、鋭くても、剣筋が明確なら避けるのも受け流すのも難しくない。

 オーラーさんの全力が続く間、受け流し、息をついたその瞬間、突きを放つ。

 あちきの剣が喉元に触れた。

「そこまでだ!」

 護衛騎士さんがあちきの剣を払い落とす。

「オーラー様に向かって無礼の数々、ただで済むとは、思うな!」

 怒りを籠めたその瞳をあちきは、受け止めた。

「あんな実戦で使えない剣がソーバトの領主の剣になると思っているの!」

「オーラー様は、我々が死守する!」

 護衛騎士さんがそう断言するがあちきは、反論する。

「そんなのは、貴方達の傲慢と保身だよ! ソーバトの領主の一族の者には、常に最前線で戦う覚悟が必要なんだよ! そうですよね、オーラー様!」

 視線を向けるとオーラーさんは、応じる。

「当然だ。だからこそ、日々の鍛錬を欠かした事は、無い! だが、それをお前の様な庶民に指摘される覚えは、ない!」

 オーラーさんの嫌悪感に護衛騎士さんが動く。

「この無礼者を処分します」

 本気だろう。

 この人は、強い。

 勝てるかどうか解らないけどやるしかないなと覚悟を決めた時、テーリーさんが苦虫を噛んだ顔で間に入る。

「コーロー、この御方は、アーラー様の御息女、カーレー様よ。今の貴方の発言は、領主の一族への攻撃とされてもおかしくないのよ」

「アーラー様の御息女!」

 目を見開き固まる護衛騎士、コーローさん。

「その様な話、私は、聞いた事は、ないぞ!」

 反発するオーラー様に対してテーリーさんは、礼儀を崩さぬ様にしながら抗弁する。

「ほんの数刻前に発覚した事です。領主一族の機密として、まだ機密扱いされていましたので、先ほどは、あのように申し開きをしましたが、ターレー様から、カーレー様の守護するように厳命されています」

「本当なのか?」

 ターレーお姉ちゃんの名前にオーラーさんも戸惑う。

 そこに武闘大会の時にも一緒にいたもう一人の騎士さんが現れた。

「オーラー様、どうなされましたか?」

「カーロー、この者がアーラー叔父上の娘というのは、本当の事なのか?」

 オーラーさんの問い掛けに事情を聞いていただろうその騎士、カーローさんが肯定する。

「はい。次の洗礼の際に公に発表されると思われますのでどうかこの事は、内密にお願いいたします」

 その答えを聞いた直後、コーローさんが剣を振り上げた。

「度重なる御無礼、この命をもって償なわせてもらいます」

 自決しようとしたのをテーリーさんとカーローさんで必死に止める。

「待て、落ち着くんだ!」

「早まらないで、知らなかったんだからしょうがないじゃない!」

「止めないで下さい! 己の身の程を弁えぬ愚かな発言に行動、これは、死なねばなりません」

 この後、死んで罪を償うというコーローさんを宥めるのにかなりの時間が掛かったのであった。

ソーバト武系の遭遇でした。

書いている途中、コーローとテーリーの年齢設定を勘違いしていた事に気付き慌てて言い回しを修正したりしています。

次回は、サーレーのソーバト文系の会合って感じです

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