焔と白夜 作者・鯨雲
注:この物語はフィクションです
登場する団体、人名、事件といったものはすべて架空の物であり、実在するものとは一切関係ありません
「――――お主、力が欲しくないか?」
「……はっ?」
何言ってんだ、この幼女は……?
「だから、力が欲しくはないかと聞いておるのじゃ!」
「ち、力って……なんだ?」
「お主はとぼけておるのか? もちろん、グリモアと対抗するための力に決まっておるじゃろ」
グリモアと対抗する……力――?
「妾は……いや、NKOには人材が不足しておる。グリモアに復讐すると思う人物が少ないのだ」
「いや、それはわかってる」
「じゃあ、なんなのだ? お主の言葉の意味が理解できぬぞ」
「グリモアと対抗する力って……その――……」
「なんじゃ、そんなことか」
焔は手で「こっちにくるのだ」と言っているように、手招きする
俺はその焔の案内にしぶしぶながらついていく
――グリモアと対抗する力は、俺はスキル以外しらない。だけど、そのスキルは、選ばれた者にしか扱えない。俺は、弱き者……。弱き者にそんな大層な力は持っていない……。――せめて力というのは、抗うことだけ……。一日一日を必死に生きることだけしか弱き者の俺にはできない……
「ここじゃ」
焔に案内されたその場所には、鉄合金製の一切の錆びもない、銀光りを反射させる扉があった
焔は自分の着物の袖の部分から、銀色の鍵を取り出す
「うむ」
そして、一生懸命に背伸びをし、高い位置にある鍵穴に鍵を差し込もうとしていた
「うぬぬ……! うにゅ~……!」
「見てらんねえよ……」
俺は、背の低い幼女(焔)から鍵を取り上げ、銀色の鍵を鍵穴に差し込み、鍵を開けた
焔はその様子を見て、面白くなさそうにムスーとしていた
「ふんっ! 妾でもできたわ! 余計な事をせんでもいい!」
「へいへい……」
俺は焔から取った鍵を投げ渡すように返し、扉のノブを横に引き、扉を開けた
「焔さん、持ってきまっ!? て、てめぇなにしてやがんだ!」
「ああ?」
いつの間にかいなくなっていた薫が、台のような物を持って帰ってきた
「なんだ、お前? いついなくなってたんだ?」
「それは、焔さんがこの台をつかわないとこの扉に鍵差し込めねえから。毎回のように俺がこの台を持ってきてあげ――……!? だわわわ! 今のはなんでもない! 聞かなかったことにしてくれ!」
いや、もう、ほとんど全部聞いちゃったんだけど……
横目で焔の方を見てみると、今にも泣きだしそうにしながら顔を赤く染めていたしていた
「し、失言でした! 焔さん! 焔さんがこのことを隠して、俺が毎回のように台を持ってきてもこの台を使わずに一生懸命背伸びをしていることを……!?」
今更、自分がまた失言してしまったことに気づいた薫は、あわわわと言いながら顔を青くしていた
「お、お……お主のことなんか――――――
大っキライだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
建物全体に響くような大声焔は叫んだ
俺は事前にこうなると予測して、指で耳の穴を塞ぎ、かろうじて耳栓の役割をしていた
「ゼェゼェ、ゼェ……」
焔は息を吐きながら、怒った顔で薫を睨んでいた
そして、今度は俺の方を向いた
「行くぞ! 白夜! こんな奴ほっといて!」
「あ、ああ……」
焔は俺の手を引きながら、扉の中につれて行こうとする
そんな俺と焔の様子を見ながら薫は「社長おおぉぉぉぉぉ! 見捨てないでぇぇぇぇ!」と扉の前で叫んでいた
――どんまい、薫。首になったらいつでも言えよ。俺があざ笑ってやるから
◆
「す、すげぇ……」
「どうじゃ? さすがに人工製スキルを開発するのは無理じゃが、これくらいの武器を開発、揃えることは可能なのじゃ!
扉の向こうの部屋は、部屋一面を、武器、武器、武器、武器、武器で多い尽くした部屋になっていた
銃や刀、爆弾や放射器などがあり、中にはチェンソーや盾といったものがギッシリとそこらじゅうにはある
天井には辺りを暗く見せるように青く光るLEDライトが点いていて、銃や刀を立てかけてある壁は、一切の銃痕も、切痕も残さないと思わせるほどの厚みがあるように思えた
「こんな、設備が……いや、その前に――。なんだ……この銃や刀の数は!?」
十や百の話ではない、下手すれば千、二千以上の武器があるのだから
「優秀な人材がいての。まあ、信じてはもらえぬだろうがな」
信じられるわけがない……映画のような話なんかじゃないぞ! マトリッ○スなのか!? ここはマ○リックスの世界なのか!?
「さあ、好きなやつを選ぶよい! その武器が、そなたを守る一つの武器となり、運命を共にする体のような物となるのじゃ!」
この幼女は……時々本当にスゲェことをしてくれるよ……
グリモアを殲滅する計画や、このビルの社長。そして……今回のような部屋を埋めつくほどの武器
驚いて驚いても足りやしない……
「本当にお前なんなんだよ……」
少しの苦笑が混じり、武器を埋め尽くすほどの部屋の中にへと入っていく
こんなに、武器があるのだからさすがに迷う
いくら箱に閉じ込められたねずみ状態だった俺でも、こんなにも多くある武器を目の前にして興奮できないことはないのだ。むしろ気分がぐんぐん爽快になってきているよな気分だ
あまり寝られていないなかった俺の眠気が、この光景を見たことにより一気に吹っ飛んだんだから
俺は辺りを見渡し、自分にあいそうな武器をさがす
焔に「手にとって自分でこれは合いそうだなと思うものをちゃんと見つけるのだぞ」といわれたので、言われたとおり手に取り、自分にあいそうな武器を探すのだが……どうも自分にあいそうな武器が見つからない
銃を手にとっても、撃ったことがない俺にとっては、何か異様な物だなとしか思えない
爆弾を持っても、昔野球をやっていたわけでもないので、うまく投げれる自信がない
チェンソーは論外。そもそも武器になるのか……?
盾は自分の身を守ることしかできない
そうなると必然的に刀になることになる
幸い俺は、小学生の頃まで剣道を習っていた
中学では部活動には入らず、毎日毎日つまらない塾に通っていたのを覚えている
中学三年になってすぐの頃にこのような感染爆発事件が起きたため、剣道をやめてから二年のブランクがあるかわりに、剣を握ったことはあるのだ
そして、俺の目に留まったのは――、壁の真ん中にかけられている、紅色をした鞘が薄紅色の刀だった
俺はその刀に吸い寄せられるように近づいていった
「!? びゃ、びゃくやっ!」
焔が叫んでいた
驚いて、瞬時に焔のほうに振り向く
「な、なんだ?」
「そ、その刀は……えとー……その……」
焔は何か言いたそうにしているが、口ごもっている
「?」
この刀に一体何があるというのだ?
焔は、袖を握りながら口を開いた
「呪われるのじゃ! そ、その刀に触ると呪われるのじゃ!」
「……はっ?」
明らかにうそだというのがわかる
「だからその刀はやめるのじゃ! 刀なら他にもある! だから他のにせい!」
焔が俺にこの刀を取ることをやめさせようとする
俺は、焔の言葉を聞かずに刀を取ろうとする
「なっ!? や、やめるのじゃ!」
焔は俺に刀を取らせるのやめさせようとするが、着物ではうまく走ることができない
よって――……
「あうっ!」
着物に足が引っかかって、転んでしまう
「おいおい……」
そんな焔を見てしまってはほっとくわけにはいかず、仕方なく焔の元に向かった
「ほら」
俺は焔の目の前に手を差し伸べる
「こんなことでお主に助けられのは……一生の恥だ! うぇーん!」
手で顔を覆い、マジ泣きをする焔をなでめる
「とりあえず立てよ……せっかくの着物がグシャグシャだぞ」
「ヒグッ……うん……」
差し伸べた手を取り、焔は立ち上がった
ところどころにほこりがついてしまった着物のほこりを払う
「(ったく、なんでこんな幼女のおもりをしなきゃいけないんだ……)」
ようやく泣き止んだ焔は「ずばながっだな……」と言って、それから恥ずかしそうにしながら言わなくなった
「はあー……」
これでせっかく覚めた眠気がまた逆流してきたみたいになったぞ……
「あの刀はなんなんだ?」
俺は焔に問う
「……あれは、鳳凰院家に伝わる名刀。名は<焔火戦>。霊鳥の炎を浴びたとされる伝説の刀じゃ」
「あきらかに強そうな刀だよな……どうしてそれを使おうとしないんだ?」
「さっきも言ったが、あれは人を呪う」
「………………」
俺はジト目で焔を見る
「本当なのじゃ! 触れればたちまち霊鳥が放った焔により身を焼かれる」
「本当は?」
「妾の言うことが信用できぬのか!?」
「わかったわかった、仮にそれが本当だったとしよう」
「(本当なのに……)」
「なぜそんな大層な物がここにある」
「いや、だって……触れるだけで身を焼かれるなんぞ……怖いではないか!」
「つまり、お前もまだこの刀には触ったことがないと?」
「う、うむ……。だ、だからといって、妾のことが百パーセント嘘というわけでは……――――」
俺は天下の名刀様を堂々と壁から取る
「ホラッ触れるぞ」
「お、お主! 馬鹿なことをしおって! や、焼かれるぞ!」
「焼かれてねえじゃん」
まだ刀身まで引き抜いていない。だけど、ここまで見せ付ければ焔も大丈夫だとわかってくれるだろう
「ほ、本当に大丈夫なのか?」
焔はおずおずと指先を出し、チョンと刀に触れると逃げるように距離を置いた
「そんな怖がらなくても大丈夫だっての……」
「う、うにゅ~……」
焔は気が抜けたかのような声を出した
「妾は心配したんだぞ! お前が焼かれてしまうのではないかと思って!」
「はいはい。そういうことにしといてやるよ」
「うぬぬぬ……」
だけど、この時の俺はまだ気づいていなかった
焔の言う呪い……、身を焼かれるというのがどういうことかを……
「じゃあ、コイツをもらっていく」
「大事な家宝なのじゃが……仕方ない。お主にくれてやるのじゃ。大事にするのじゃぞ」
俺は木刀を入れる袋に、木刀の変わりに刀を入れた
腰に刀を差すなんてダサいし、歩くのに邪魔になると思ったからだ
「それじゃ、行こう」
だけど……俺は、焔が部屋の外に出る寸前、部屋の片隅でうっすら赤く光るある物を見つけた
「な、なあ、焔?」
「む? なんじゃ?」
「これってよ……まさかとは思うが……」
俺は自分の見つけたものを焔に見せる
「なんじゃ? それは? 何かの糸?」
そう、これは糸
生糸よりも、細い
よーく目で凝らさなければ見えないような糸
そして、この糸のところどころに……――――血の痕がついていたのだ
「……これは、使用済みピアノ線だ……。よく研いである……。糸に血がこべりついているような感じになってるから、使用されて結構古くなってるけど……」
「!? どういうことじゃ!?」
「ピアノ線っていうのは、低炭素鋼による鉄線なんだ。戦争のとき、相手の首の高さに設置して、このピアノ線で相手の首を刎ねることができる罠としてつかわれていた」
「ひぅ!?」
焔は聞きたくないといった感じに耳を手で塞いだ
「よ、よし。続きを話してくれ」
それじゃなにも聞こえないだろ……
「とりあえず、なんでこんな物もここにあるんだよ……使用済みだぞ?」
「妾はそんなものは知らん! 妾は知らないもん!」
「もん?」
「!? て、撤回じゃ! 妾は知らん!」
「わかったわかった」
「うぬ…………」
しかし何でこんなものが……
でも、これは使えるかもしれない
「これももらっていいか?」
「そ、そんなものが欲しいのか!? そんな血でべっとりとした汚物漂うものなんかが欲しいのか!?」
「ああ。欲しい」
「う、うむ……そなたがそこまで言うなら、妾も止めはせぬが……」
焔はまじまじとピアノ線を見つめては、嫌な顔をする
「そ、それじゃ、今度こそ本当にいいのか?」
「ああ、今度こそいい」
「それじゃ、今度はNKOの仲間達を紹介するのじゃ! エントランスに集合させておる。皆そなたをまっておるぞ」
「ああ、わかったよ」
俺が焔の後をゆっくり追うように歩いていると
「おそいのじゃ! 早く行くのじゃ」
と言って、俺の手を引く
黒髪の着物少女<焔>との出会いで、少しづつ俺の心情に変化かが訪れていることに自分でも気づいていた
ただ生きることで精一杯だった日々
絶望のような毎日で、怯えながら生活しなければいけなかったあの頃
終わりの見えない闇が渦巻くあのマンションの部屋の日々を、たった一日でここまで俺を解消してくれた
だけど――……
俺は復讐を忘れたわけじゃない
グリモアの殲滅ために戦う
今はまだ弱いかもしれない……――
でも、いつか俺は前線に出る
一匹でも多くグリモアを駆逐するために
それが死んでいった皆の思いだと思うから
だから俺はその思いをふみいじるわけにはいけないんだ……――――
玄関付近のエントランスに多くの人が集まっていた
台のような場所に焔が乗れというので乗った
みんなの視線が一気に自分に集まる
「あー、あー、マイクテス、マイクテス。マイク入っておるのか? まあよいわ」
焔の声がエントランス全体に響き渡る
「えー、知っているのもいると思うが、我等NKOに新しい仲間が加わった。我々と共に、グリモアに復讐するものが増えた」
自分は何のために、新人類と戦う?
「そんな、我々NKOに新しく入った人物は――」
思いのために、戦う? それが本当に自分が戦おうとする目的なのか?
違う、自分が戦おうと決意した本当の理由は――
「<黒乃白夜>! さあ、皆! 盛大な拍手でむかいいれるのじゃ!」
大勢の人から拍手をもらい、俺は焔からマイクを手渡された
どうやら皆に一言何か言えということらしい
俺が、新人類と戦おうする本当の理由とは……――
「皆さん、盛大な拍手で迎えてくださりありがとうございます
皆さんが新人類と戦うと決意していることはなんですか? 守るため、復讐のため、いろいろな理由をもっていると思います。自分にも戦うための理由をもっています。それは――――」
妹と同じような運命をたどらせないために、目の前で起きた惨劇を再び起こさせないために……
「俺は、人の運命を覆すために戦います! 決して人を殺そうとか思っていません。その逆です。俺は、一人でも多く救うために、人の運命を覆します。目の前で起きた惨劇を再び起こさないために……!」
しばらくの沈黙がエントランスにながれる
これが、本当の理由だと思う
確信は持てない
本当は、復讐のためなのかもしれない
だけど……
復讐のために戦っているんじゃ、長生きできない。そんな気がするんだ……――
もちろん、仲間の思いも大事にする。でも、まず、そこにある命を大事にしないといけない気がするんだ
死んだ人間が生き返らないのはよく知っていることだ
だから、今ある限りない命を救うことが、一番最初にやらなければいけないことなのだと思う
沈黙だった時間が、再び拍手の時に変わった
「うむ、少し冷っとしたが、だいじょうぶみたいじゃ。それで、進行をこのまま進めさせてもらうぞ。え~、次は薫によるダンス? らしいぞ」
「まってました!」
どこからともなく薫が現れる
「よし! 皆、のっていくぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
エントランスの台の上にいる俺を退いて、踊り始める薫
「よっ! まってました!」
「ブラッド―――! 今日も決まってるぞ!」
そんな歓喜あふれる声援にエントランス全体が埋め尽くされた
「やれやれ、薫のやつ、いつの間にこんなイベントを考えておったのか……」
いつの間にか焔が隣にいた
「さぁな、あいつの考えはよくわからん」
「出会って、まだ一日じゃ。わからないのも当然」
「当然ね……」
そんなもんなのだろうか……
「さ、まだ歓迎会が始まったばかりなのじゃ。次に宴会も夜にはあるのじゃからな」
パーティーばっかじゃねえか……
「その前に、少々疲れてもうたわ。ここらで二人で一杯やらぬか?」
「酒は飲まねえよ」
「たわけ! 妾はまだ十五じゃ! 酒なんぞ飲めるか!」
「十五って、俺と同じ年齢じゃねえか」
「そうじゃぞ? 教えてなかったかの?」
「一言も聞いてない」
「そうか。まあ、小さいことは気にするな」
焔はテーブルから缶ジュースのグレープソーダを持ってくる
そのグレープソーダをワイングラスに移し変える
二つに分けたグレープソーダの一つを俺に渡してくる
「さあ、乾杯なのじゃ」
苦笑交じりにワイングラスを取り、チンという音をたて
焔と乾杯した
5000文字を超えているのに気づき、あわてて終わらした感がある話になってしまいましたが、無事、次話が書き終わりました(執筆時間なんと四時間! 自分にしてはがんばった……)




