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弱き者  作者・鯨雲

注・この物語はフィクションです

  作中に現れる人名 事件 名称などはすべて実在するものとは一切関係ありません


男の子は黒いマンションの中で隠れていた。現れる“あいつ等”に見つからないために

 外は大雨により、道はぬかるんでいて、洪水のようになっていた

 大雨の〝音〟によって、ある程度までの音は遮られており、こちらの音があいつ等に届くことはまずないだろう

「お兄ちゃん……辛いよ……」

 何日も寝ていない妹の目は赤く充血していた

「大丈夫だ……なにかあったら俺が助ける……」

 黒い呪われたマンション

 大人なんて一人もいない。いるのは使い物にならない弱者達だけだ――

 一歩この部屋から廊下に出れば、たちまちあいつ等に食われ、死んでいく――

 俺達は弱き者……。強き者とは違い、何も力を持っていない……

 持っているのは、恐怖や憎悪といった負の感情のみだ……


 配給されるはずの食糧は最近は来ない……

 栄養が足りなく、倒れる者や、目を白くしながら意識を失うものなど後を絶たない

 今の俺ですら、何も食べるものがないから、仕方なく自分の〝腕〟を噛んでいるのだから

 腕は赤くなり、ところどころの歯型の部分から血が少しづつ出てきている

「おにいちゃん ダメ! 血が出ちゃったら……」

「……………ゴメン、そうだったな……」

 配給食糧もなければ医療器具もない

 口の周りにつく自分の血を舐める

 おいしくなんかない……、舐めても吐き気がするほどマズイ鉄の味だ……


 光りが差し込むことはない不安が全身を(おお)い。やがてその不安にうち負けた者は全員この部屋から出て行き、そして死ぬ――

 部屋の外にいる化け物共は教も何かを探すかのように、廊下行ったり来たり


 一歳年が離れている妹は、恐怖によって寝つけられないのか

 今日もまっすぐと、部屋の前のドアをずっと見つめている

 このドアが唯一の俺達の生命線

 このドアが破られれば……この部屋にいる……十三人もの人間が死ぬのだ

“グリモア”と呼ばれるかつての人間によって――


 2030年 この日、人類を脅かす災害が多発して全世界で発生した

 生物災害(バイオハザード) この災害により発生したウィルスは、人体に影響を及ぼすタイラントウィルスと呼ばれるものだった

 発生条件は不明、生態も不明。なにもかもが不明なこのウィルスは、人に感染すると、その人の体を蝕み、この世の者とは思えぬ化け物に変身する

 現在の人類は、そのウィルスに抵抗するだけの〝耐性〟を持っている

 だけど、その耐性を持たなかった人はたちまちウィルスに体を侵食され、侵食された人体は変形し、動物――いや、化け物に変身する

 この化け物ことを、俺たち人類は<グリモア>と呼ぶ


 このグリモアは世界を滅ぼそうとする人類の天敵だ

 人類を喰らい続け、殺戮を繰り返す存在、かつて俺たちと同じ人間だったという記憶の欠片さえ持っていない


 人類の大半の以上がグリモアに侵食されたと聞いた

 残る人類は10000と満たないだろう……

 グリモアにとって俺たちは邪魔者の“旧人類”に過ぎないのだろう

 このグリモアが原因で旧人類滅亡のカウントダウンが始まっているのだから―――


 だけど――――――


 旧人類もやすやすと殺されるわけにはいかないのだ

 俺たち旧人類には、新人類(グリモア)に対抗するための力を持つ者がいる

 その力というのが、スキルと呼ばれる力だ

 あるものは何もない空間に瞬間的に火を着火させる力を持ち

 また、あるものは音速のような速さを得た者もいる

 だけど、それは限られた人間が持てる力だ――

 俺たち弱き者に、そのような力はない

 精々、この耐性を手に入れるので精一杯だろう

 俺たちにスキルはない――

 ただおびえながら、一日一日を生き延びることしかできない弱気者なのだ――


「お兄ちゃん!」

「………!」

 俺はボーっとしていた意識を、妹の大声により意識を呼び戻された

「ど、どうした?」

 ドスンドスンッ!

「っ!?」

 ドアに衝撃が走っていた。軋むような音と共に、ドアにひびが入っていく


 数秒後――、ドアが破られ、生活が絶望的でも、俺達は何とか生きてこれていたこの部屋には

“悪魔”がやってきたのだった

 (わに)のような悪魔、その正体は――

「グリ…モア……!」

 辺りにいた大勢の人間が悲鳴を上げる


「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「来るなッ! 来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「終わった……ここで……終わった……」


「くそっ! 逃げるぞ!」

 俺は妹の手を引こうと妹の手を取ろうと――した……

 だけど――――――


 そこにはいたのは、上半身から下をグリモアによって食われている――妹だった


「お、お兄ちゃん……助け…て……」

 妹の目は、よりいっそう赤く充血していく

 腹部の部分に深く刺さるグリモアの歯によってポタポタと血が流れる

 白かった肌の色からは、体温がなくなっていくかのように、紫色に変化していった――


 そして、グリモアは俺の妹を一気に口の中に入れ、飲み込んだ――

「うあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 俺はすくむ脚のまま、ドアから出た

 その俺の後に続いて、部屋にいた多くの人たちも出る


 だが――


 廊下の外に待ち構えたのは、新たなグリモアだった――

「助けてくれええええぇぇぇぇぇぇぇ!」

「死にたくない! 死にたくなんかないよ―――――!」

 部屋で過ごした、俺の仲間達が次々とグリモアによって喰われていく


 俺はマンションの二階の窓を突き破り、そのまま落下――

 下は地面になっていて、背中から落ちた俺は強烈な痛みが背中から全身にわたっていた

「ぬあぁぁぁ……があああぁぁぁぁ……」

 痛い……痛い……――――――


 もう立ち上がる気力も精気も残っていない……

「俺も……ここで喰われるのかな……?」

 そう思うと、悲しくなってきた――

 生きたいとは思っていない、仲間の分まで生きてやれなかったから……悲しいのだ

 こんなところで死ぬのか……俺は……―――


「おい、そこのおぬし」

「……………」

「おぬしに聞いておろうに!」

 ゲシッと誰かに俺の顔を蹴られた

「いて………」

(わらわ)がおぬしに話しかけているのに無視するとは何事か!」

「………誰だ、お前?」

 そこには、赤い和服姿で、赤い番傘を差した黒い長い髪の少女がいた――

「妾か? 妾は<鳳凰院焔(ほうおういんほむら)>じゃ。して、おぬしの名は?」

「俺の……名前……?」

 絶望に感じていた感情が今だけは不思議な感覚におちいっていた

「びゃくや…<黒乃(くろの)白夜>だ……」

「白夜……良い名じゃの……」

「お前は何しにここに来た……?」

「……妾はここの人間達を救い着たのじゃ……、少し遅くなってしまったが……」

「救いに? 笑わせんな……! 配給もろくにわたさないで見捨てやがったくせによ!」

「ち、違――!」

「何が違う……! 遅れた理由も俺たちのことを見捨ててたからだろ! 俺達は弱きものだからな! 強者が見捨てるのもわかるよ!」

「違うのじゃ! こっちにも……事情が……」

「いいわけはいらない! 返せよ! 俺の妹を! 返せよ! 俺の仲間を!」

「スマヌ……」

 少女は下をうつむく

「スマンじゃねえだろ!」

「スマヌ……」

「もういいよ……お前にいくら言ったって、もう妹も仲間も戻ってこない……」

「……………」

 すべてもう……過ぎ去ってしまったことなんだ……

 少女が口を開いた


「なら妾と一緒に、新人類に仕返ししてみないか?」


 俺は驚いた、こんなことを本当に口にする人間がいることに

 そして高らかに少女は言う

「新人類抹殺計画 妾と一緒に、グリモアを殲滅する計画をしてみないか?」

「バカじゃねえのか……できるわけがない……」

「妾を誰と心得る!」

「知るか」

 女はうつむいていた顔をこちらに向けた

「妾は新人類に対抗するスキルを持っておる」

「だから、なんなんだ……」

「人類の敵である“新人類(グリモア)”敵は強大で、妾一人では絶対に敵わぬ」

「お前が勝てないんじゃ、俺がお前と一緒に行っても意味ねえよ」

「意味ならちゃんとある!」

 少女が強く言う

「お前と一緒なら、妾もがんばれる気がする」

「なぜ俺なんだ? 他にもいるだろ。俺は弱き者、強き者のお前に選ばれる存在じゃない」

「妾はおるしがいいのじゃっ! おぬしじゃなきゃダメなのじゃ! これでも……ダメか?」

 番傘と一緒に腕をぶんぶん振り、駄々っ子のように迫る

「決めるのはおぬしじゃ、妾と一緒に来るもよし、このままここに残るのもよしじゃ……じゃが、妾はおぬしと行きたいのじゃ! おぬしとなら、どこまでもいける気がする」


 少女が俺に手を差し伸べてくる

 その少女の手は、白く、細く

 強く握ってしまったら折れてしまいそうなくらいか弱そうだった

「妾と一緒に参ろう!」

 俺は妹のこと、仲間達のことを思い出す

 俺はただ何もできず、見ていることだけしかできなかった

 見ることにも逃げ出し、たった一人、俺だけが生きている

 弱き者の中で、たった一人――


 俺は少女の手を握っていた

 少女は朗らかに笑う

「俺に何ができるわけでもない、俺は弱い、弱く何もできないかもしれない……だけど、俺は、死んだ仲間達のためにも、妹のためにも……俺は、その計画に参加してみたい」

「うむっ!」

「だけど――!」

「?」

「少しでも裏切るような行動を取ったら、俺はどのような手を使ってでも、俺はお前を殺す」

「うむ…わかった、ではこうしよう」

 少女は一呼吸をした後、ゆっくりと口を開く

「妾は絶対にお前を裏切らない、絶対に――これでよいか?」

「まだ信用はできていないがな」

「用心深いと、好かれないぞ? 妾に」

「別に好かれたくなんかないし」

「なにおー!」

 少女はポカポカと叩いてくる

「妾に好かれて嬉しくないとはどういうことなのじゃ!」

「どうもこうもない! そういうことだ!」

「ムスー……」

 口を尖らせ、不満の表情を作る


「それでは行くか、妾達の長く、果てしない戦いの道に」

「ああ、わかった」

 後方に見える黒いマンション

 しばしそのマンション別れを告げる

「なあ、白夜殿」

「白夜でいい」

「白夜、妾の番傘、持つことを許可してもよいのじゃぞ」

「別に、いらない」

「ムッ……なら……、妾もう腕疲れた! もう持てない! 白夜ぁ~持って!」

 ただの駄々っ子かよ……

「断る」

「どうして!?」

「お前にそこまでする気がないから」

「持つのじゃ!」「無理」「持って!」「死ぬ」「ダメ!」「なにがダメだ!」


 そして結局――


「はあ、なんで俺がこんなことしなきゃならないんだ……」

 少女は自分の着る着物を揺らしながら「ありがとう! 白夜!」と言った


 少女のにっこりとしたその笑顔は、俺が見てきたどの笑顔よりも一番輝いていた――


作者・鯨雲

代表作・「Arcobaleno,Afist,Andante」「クレッシェンドシリーズ」


次・鯨雲から一人貝さん

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