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カムイの森  作者: 墨人
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第04話 建国神話と統一戦争

 大陸の東の海に、四つの島からなる弓状の列島があった。

 そこに住む者達(の一部)からは『昇陽』と呼ばれており、その由来は神話の時代にまで遡る。


 今では大海に浮かぶ島となっているが、神話の時代、昇陽は大陸の一部だった。

 そこには倭族という農耕や漁を生業とする人々が住んでいた。

 倭族はしばしば他民族からの侵略や略奪を受けていた。略奪は収穫物だけではなく婦女にも及び、抵抗すれば容赦なく殺された。残された者達も飢えに苦しみ、また多くの者が死んだ。

 人々は他民族の侵略を受けない平和な土地を希求した。奪われず、飢えず、自らが働いた分だけ豊かに暮らせる平和な土地を。


 ある時、人々の願いを叶える存在が現れた。

 昇陽に伝わる神話に一番最初に登場する神、『倭割神わかつかみ』である。

 倭割神の強大な力は大地を断ち割り、倭族が住む土地を大陸から切り離し、東の海へと移動させた。

 その時に真ん中あたりを持って引っ張ったため、昇陽は弓状に形を変え、千切れた土地が三つの島になったとされる。


 倭族の人々は驚喜した。望んでも叶うはずの無い願いが、この上も無い形で叶ったのだ。海に隔てられた大陸から掠奪者が来る事は無い。土地ごと移動して来たのだから、田や畑はそのままあるし、周囲全てが海となれば漁も思いのままだ。

 大陸を離れ、東の海へ。つまりは「陽の昇る」海へと。だから倭族は自らの住む列島を昇陽と呼んだ。

 昇陽は豊かな国となった。


 しかし繁栄は翳りを見せ始める。

 神によって生み出された昇陽には、いつの間にか数多くの神が存在していたのだ。その数は八百万ともいわれるが、これは大げさすぎる。本当ならば倭族の人々よりも神々の方が何倍も多いということになってしまうのだ。とにかく、そんな表現を用いたくもなるほどに、多くの神が存在したのだった。

 山の神や海の神、風神や雷神を始めとして巨木や巨岩があれば神が宿り、果ては人家においても竃や便所にまで神が宿る始末である。

 神の存在は昇陽の人々に益と害の両方をもたらした。

 雨の神やその土地の神が良い具合に働いてくれれば大豊作になるし、海の神が優しければ大漁だった。

 だが風神や雷神が暴れれば大雨や落雷がおこり、山の神が身震いすれば地滑りが起こる。

 人々の生活は神々に支配されている状況だった。


 そんな状況をよしとしない者達がいた。

 昇陽という国が出来たのは、なるほど倭割神という偉大な神のおかげだろう。だからといって昇陽を神の手に渡してしまって良いのか?

 昇陽は倭族のものである。昇陽を神々の手から人間の手に取り戻すのだ。

 彼らは神々に戦いを挑んだ。

 その中心になったのが『神狩かみかり』と呼ばれる異能の力を持った者達だった。

 神狩は人の身でありながらも神と同等の力を持ち、次々と神を殺し、封じた。

 長い戦いの末に神々は姿を消し、昇陽は人の手に戻った。

 ところがこの戦いは昇陽をいくつもの小国に分裂させる結果をも招いてしまった。

 土地によっては神々から害ではなく、恩恵をより多く受けている場合もあり、そんな土地では神狩は歓迎されなかった。神がいなくなる事によって貧しくなってしまう地域もあり、そこに住む人々は神狩を憎みさえしたのだ。そうした土地による差が、分裂の原因となったのだった。

 神々から昇陽を解放する戦いを終えた神狩達が住みついたのが本州(昇陽で一番大きい弓状に反った形の島。他の三島は千切れた欠片だという建国神話に基づいた呼び方。本土と呼ぶ場合もある)の中ほどにある『京』の地だった。


 これらの建国神話や昇陽解放の伝承は、京以外の国では違った形で伝わっていたり、全く伝わっていなかったりする。昇陽という呼称すら知らない人々までいるのだ。

 京では史実として伝えられるそれらの真偽を確かめる方法は無い。他の国に伝わる異なる伝承の真偽もまた同様だ。

 地域によって多少の訛や変形はあっても、昇陽のどこに行っても言葉が通じる事や、民族的な外見特長が共通している点から、もともと倭族という同じ民族だった事はかなりの確度で真実だろう。また各地に残る封神塚ほうしんづかが昇陽解放の伝承にある程度の信憑性を与える程度だった。

 とは言え、京に住む人々にとっては、それらは史実なのである。

 ならば。

 神々の支配から昇陽を取り戻した神狩の末裔たる自分達には、昇陽を統一支配する権利がある。

 そうして始まったのが京による昇陽統一の戦役だった。 

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