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第八章:依頼人と出発

パリ市街の北北東約23kmのロワシー=アン=フランスにある“シャルル・ド・ゴール国際空港”の前に俺と相棒は車を停めて相手が来るのを待っていた。


名前は言わなくても分かる通りあの糖尿病持ちでルーズベルトから忌み嫌われたドゴールから名付けられている。


俺と相棒が乗っている車は“私は回る”が言語のVOLVO。


堅牢に掛けては右に出る車は居ないとさえ言われる車だ。


だが、ただの車じゃない。


窓は全て防弾ガラスでタイヤにも防弾効果・・・正しく言えばパンクさせられても走れるように工夫されている優れ物だ。


あの武器商人ユーリーがサービスでやってくれたらしい。


正しく持つべき者は戦友だな。


武器はトランクの中だが、拳銃だけはちゃんと懐などに仕舞い込んでいる。


トランクに入れるのはどうかと思ったが、それ以外に隠す場所が無かったから仕方ない。


そんな事を思いながら俺は運転席でジタンを吸う相棒に乗せる相手の事を訊ねた。


「どうやって相手だと分かるんだ?」


「胸に白い薔薇を付けている」


胸に白い薔薇、ね・・・・・


「狙撃手なら赤くて深い薔薇に出来るな」


「まぁな。だが、相手がそうじゃないと嫌だ、と言うんだよ」


「やれやれ。余程、的になりたいのかな?」


「だろうな。・・・来たな」


相棒はジタンを灰皿に捨てた。


「行って来る。車を頼む」


「あいよ。お前さん」


相棒は運転席から出て一組の男女の方へと歩んで行った。


男の方は黒髪だが殆ど白い毛に覆われている。


しかし、身体付きは良いし眼光も鋭い。


少なくとも実業家というよりは数多の戦場を駆け抜けてきた老兵と言った方が皆、納得するだろう。


黒一色の服装でイギリス人が好んで被る山高帽を被り、胸には白い薔薇が飾られていた。


「・・・・あれなら程度の悪い物でも当てられるぜ」


J.F.Kを暗殺したイタリア製のボルトアクション式でもあれなら当てられるほど目立つ。


もう一人は男物のスーツを着ていたが、明らかに女だった。


何で分かるのか?


伊達に猟犬という渾名を頂戴している訳じゃない。


鼻が効くんだよ。


だから、僅かに女物の香りがしたから判断できたし胸の方も見れば一目瞭然だ。


服装はダーク・スーツに水色のボタンシャツと黒いネクタイ。


その上からトレンチコートを着て、極めつけにソフト帽という出で立ちだ。


「・・・相棒じゃあるまいし」


この国は相棒みたいな奴等が沢山いるのか?と思ってしまった。


容姿は20代半ばという所で金糸の髪は肩の辺りで切り揃えられており青い瞳は鋭く周囲を警戒していた。


中々様になっているからあの女がボディ・ガードか。


男は相棒を上から下まで見て眉を顰めた。


眉を顰めたくもなる。


相棒の格好はトレンチコートにハンチング帽とサングラス。


あの顔だ。


何処からどう見ても「この男を探しています」と壁に張られている感じだ。


まったく目立ってどうする、と思うが俺も人の事は言えないが。


やがて相棒が2人を伴い車に近づいてきた。


そしてドアを開けて2人を後部座席に入れて自分は運転席に座った。


「君は誰だ?」


開口一番に男は俺を見ながら訊いてきた。


「先に名乗るのが礼儀だろ?」


「これは失礼した」


男は俺の言葉に害した様子も見せず薄らと笑みを浮かべてみせた。


・・・・何処かの犬に比べれば遥かに大人の対応だ。


「私の名はウォルター。ウォルター・ネモリーズ。リヒテンシュタイン公国にある株式会社の筆頭株主だ」


今回、君等を雇った者だ、とウォルターは言った。


「どうも今回の件は怪しいので、保険を掛けたんだ」


荒事を専門に行う俺たちを雇ったのはその為か、と俺は納得した。


「君等なら4日間でリヒテンシュタイン公国に着く、と弁護士が言っていたからね」


「随分とあいつを買っているんだな?」


相棒が口を開いた。


「君の事を言っていたよ」


どんな仕事だろうと必ず完遂するプロ中のプロだ、と。


「そりゃどうも」


相棒は前を見たまま礼を述べた。


これに女の方は眉を顰めたが、ウォルターはまったく気にしていなかった。


そしてウォルターは隣に座る女を紹介した。


「こちらは私の秘書にして護衛のエレーヌ・ヴィンフリードだ」


「エレーヌ・ヴィンフリードよ。元フランス国家警察---“ジャンダムリン”の“GIGIN”に所属していたわ」


随分と輝かしい経歴を持っているな、と俺は思った。


だが、ただそれだけだ。


俺らの世界では経歴も大事だが、その経歴が本当かどうかの方がどちらかと言えば大事だ。


経歴を偽りタンマリと儲けて雲隠れなんてよくある話だ。


ただし、そういう奴ほど“流れ弾”に当たって死ぬんだよな?


戦場ではない場所で。


この女の経歴が本当かどうかはこれから分かるだろう。


「それにしても驚いたわ。凄腕の傭兵が日本人とは、ね」


「日本人の傭兵が珍しいのかい?」


相棒がジタンを銜えながら訊ねた。


「日本人なんて刀を未だに差して頭にピストルを付けているんでしょ?」


何時の時代を言っているんだよ・・・・・・・・・・


まぁ、侍という言葉が世界中に広まっているから仕方ないが。


「刀もピストルももう無い」


相棒はシガー・ライターで火を点けながら言い返した。


「そうだったわね。・・・あの“成り上がり”に負けてから腑抜けになったんだわね」


「当たりだ」


フゥー、と煙を吐きながら相棒は頷いた。


「所で君等の名前は?」


ウォルターが俺らの名を訊ねた。


そう言えば、自己紹介がまだだったな。


「俺はショウ。ショウ・ローランドだ」


「よろしく。で、そちらは?」


まだ名乗っていない、とウォルターは言った。


「ベルトラン。ベルトラン・デュ・ゲクランだ」


「ほぉう。あの百年戦争で大活躍した英雄の名前を持つとは・・・・いやはや、見た目通りの男だね」


「買い被り過ぎだ。俺は歴史に名を残す程の男じゃない」


「そうかな?歳を取っているとどの人間が歴史に名を残すのか分かるんだよ。君もショウ君も歴史に名を残すよ」


断言する、とウォルターは言った。


「どうかしらね?」


エレーヌが話をぶち壊す・・・例を上げるならRPGでせっかく築いたばかりの陣地を木っ端微塵に破壊するように口を挟んできた。


俺らに喧嘩を売っているのか?


それともエリートである自分だけでは不安と思い、俺らを雇った事が気に入らないのかもしれないな。


しかし、こんな事で怒るほど俺も相棒も暇でも無い。


「さぁて、行くか」


「そうだな」


俺と相棒はエレーヌを無視した。


相棒はキーを回してエンジンを掛けるとクラッチを踏んでギアをロー・ギアに入れた。


そしてゆっくりと発進させてリヒテンシュタイン公国を目指した。


時刻は午前9時。


今から4日間でリヒテンシュタイン公国まで行かなくてはならない。


「所でムッシュ・ベルトラン。君はなぜ傭兵になったんだい?」


ウォルターが年代物のパイプを取り出しながら相棒に訊ねた。


「スリルを求めているからだ」


相棒は新しいジタンを銜えながら答えた。


「ショウ君は?」


君付けで呼ぶとは・・・あんた位だ。


「俺も似たような物だ。失礼な言い方だが、余り傭兵の過去を聞かないでくれ」


傭兵になる者は何かしら後ろめたい・・・挫折を味わっている。


それを穿り返されるのは誰もが嫌がる事だ。


だから、俺らは必要最低限の事しか訊かないようにしている。


「これは失礼した。どうも、歳を取ると好奇心旺盛になってね」


「いや、良いさ」


どうも、このウォルターという爺さんは食えない。


ペースが乱れる、と言えば良いだろうか?


調子が狂うぜ。


「ブルドックさん。いつ食事をするの?」


エレーヌが相棒の渾名を言った。


まぁ、顔で思ったんだろうな。


「さぁな」


相棒は煙を吐きながら答えた。


「怒っているの?私がブルドックと言って」


「怒っていない。怒っていたら客相手の商売は出来ないからな」


尤もだ。


「じゃあ、どうしてそんな口調なの?貴方の口調は相手を不快にさせるわ」


あんたもな、と俺は思った。


「生憎と地なんだよ。食事はパリを出てからだ」


以上だ、と相棒は言うと煙草の灰を灰皿に捨てた。


俺はシートに背を預けながらサイド・ミラーで追跡車が無いか見たが無かった。


『暫くは・・・出ないか』


まぁ、こんな所で狙うほど向こうも馬鹿じゃないか。


俺らを雇ったという事はそれだけ危険な仕事、という事だ。


だから、警戒していたが今は大丈夫かと思った。


相棒は煙草を吸いながら安全速度で運転している。


「少し寝る」


相棒に断ってから俺は眼を閉じた。


昨日、クラリス嬢に夜遅くまで稽古をして些か寝不足なんでな。


ウォルターといい、調子を狂わせる人間が多いなと俺は思いながら神経の一部を残して後は断った。


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