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エピローグ:君の祖母は

これにて完結です。


でも、番外編などは出す積りです。


次は新作で会いましょう!!

私は何処に居るのだろうか?


辺りは暗くて分からない。


狂犬の撃った弾に偶然にも当たったのは覚えている。


あんな小僧に殺されるのは胸糞悪いが、これも運命と受け止めた自分が居た。


・・・恐らく長く生き過ぎた故に人生に終止符を打ちたかったのだろうな。


戦友たちが死んで行く中で私だけが生き残り、こうして余生を送っている。


それは仕方ない事だ、と思っている。


戦場は平等にして、不条理で理不尽に死を与えて行く。


だから、誰が死ぬのか分からない。


それなのに私だけが生き残った。


それが我慢できなかったのだ。


だが、それももう直ぐ終わる。


この・・・酷く懐かしい感覚は・・・・・・・・・・


嗚呼、この感覚は・・・・・・・・・


『どうも、ハント少尉。いや、大尉でしたね』


私の目の前に現れた戦友---フリッツが居た。


「ああ、フリッツ・・・・・・」


私はフリッツに震える手を伸ばす。


『ちょっと少尉。じゃなかった大尉。フリッツだけじゃないですよ』


『そうですよ。俺達も居ます』


『仕方ねぇさ。少尉は何時もフリッツに甘かった』


聞き慣れた声がする。


ああ・・・・嗚呼・・・・・・・


「皆・・・いるのか?」


かつて私が搭乗した戦車に乗り共に戦場を駆けたカメラート達よ。


『大尉。戦女神に会えたんですか?』


フリッツが問い掛けて来る。


「あぁ。孫娘とも会えたよ」


『孫娘?ああ、ソフィア嬢ですか』


「知っているのかい?ああ、そうか・・・マルグリットも居るのだな?」


『はい。我々と共にヴァルハラに居ます。とは言え、向こうは女神。毎日のように尻を蹴られて訓練です』


敵も味方も関係なくやられているようだ。


ヴァルハラは勇敢に戦った者たちが戦乙女に導かれて、暮らす宮殿の事だ。


しかし、同時に神々の黄昏に備えて日々訓練に勤しむ場所でもある。


そこに彼等とマルグリットは居るのか・・・・・・・・


「では、私も行こう。だから、迎えに来たんだろ?」


『いいえ。違います』


フリッツの否定する言葉に私は驚く。


「な、何故だ?!私だけどうして・・・・・・・・・」


『戦女神から伝言です。孫娘を3人と共に頼む、と』


「3人?誰だ?」


『3人揃って俺達の敵だった男達ですよ』


『彼等と共に孫娘を頼む、と。そして・・・ブルドッグを助けてやれ、との事です』


「どうして、私だけ・・・・・・私はまだ行けないのか?」


私だけがまだ行けない。


それが酷く悲しかった。


『そんなに落ち込まないで下さいよ。俺たちだって早く大尉とは会いたいです。しかし、まだ大尉の役割は終わっていないんです。それが終われば皆で大尉を迎えに行きますよ』


虎と言う名の軍馬に乗って・・・・・・・・・


「・・・そうか。分かった。では、これより大ドイツ師団第3装甲連隊ウィリアム・ハント大尉は、マルグリット・ヴェスパの孫娘であるソフィアを護衛する任に就く!!」


『はっ!!』


そして私と部下達は向き合う形でドイツ国防軍式の敬礼をして、最後にこう言った。


ジーク・ハイル ヴィクトーリア。


勝利万歳 勝利の女神。


そこで私は意識をまた手放した。


「・・・・さん、・・・・・さん」


誰かの声が聞こえる。


誰だ?


私は眼を薄らと開けて名を呼ぶ人物を見る。


そこに居たのはマルグリットと瓜二つの容姿を持つ・・・豊穣の女神---ソフィアが居た。


傍らにはゴダール、モーガン、ウォルターが居る。


「気が付いたかい?ハント大尉」


ゴダールが私に話し掛ける。


「ここは、何処だい?」


「ベルトラン伯爵の屋敷さ」


「私は、どうしてここに?」


ゴダールが説明を開始する。


あれから私は直ぐに病院に運ばれて手術を受けたらしく、無事に生き延びたらしい。


そして直ぐに屋敷へ連れて行かれた。


「主人は・・・ベルトラン伯爵は?」


言わなくても彼女の泣き腫らした顔を見れば判る。


「・・・消えてしまいました」


ソフィアが悲しそうに答えた。


相棒のショウ・ローランドと共に煙のように消えたらしい。


まったく・・・西部劇の主人公みたいに何も言わず消える者が主人公と言えるのか?


惚れた女を置いて行くなど恥曝しな真似をしおって。


「すまないね。私があんな真似をしなければ・・・・・・・・・」


「貴方のせいじゃありません。それに・・・・彼の本当の姿が分かって何処かで嬉しいんです」


「・・・・・そうか。それで、君はこれからどうするんだい?」


「ここに住まわせてもらいます。勿論、パン屋を営みますけど」


「私の金で大学にも行けるのだよ」


「それなら心配いらない。私の金で彼女を演劇の名門大学へ行かせる」


君の金は孤児院に寄付した、とウォルターが話す。


「ちなみに店の修理代は私が出した」


今度はゴダールが言う。


2人揃って私に対抗意識を持つように見て来た。


それが酷く可笑しくて・・・・楽しかった。


戦友たちと過ごした日々に似ている。


「ハントさん、私に祖母の事を話してくれませんか?」


ソフィアは私に優しく語り掛けてきた。


マルグリットが最後、私に言ったように・・・・・・・・・


「ああ、そうだね。では、先ず・・・・・・・・・・・・・」


私は身体を起こして潤んだ瞼を伏せながら話し始めた。

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ハント氏は私に祖母---マルグリット・ヴェスパの事を話し始めた。


まるで初恋の相手を思い出すかのように、ハント氏は嬉しそうに話し続けて、それを聞くゴダール、ウォルター、モーガンの3人も同様に懐かしそうに聞いていた。


彼等がどれだけ私の祖母に“熱い想い”を抱いていたのか、何だか判る。


それは決して、もう“報われる恋”ではないから。


私の場合はどうだろう?


この屋敷に戻ってから数日後に・・・・ベルトランさんとショウさんは何処かへと消えた。


それこそ煙のように・・・・・・・・・・


置き手紙だけ2人が住んでいた家に置かれていた。


『豊穣の女神へ。パンは美味かったが、女優を目指せ。そうすれば映画館に足を運んでやる。じゃあ、あばよ』


短い言葉しか書かれていなかったけど、私の心に大きな釘を打たれたのは確か。


これを読んだ時、私は泣いた。


ううん・・・・さっきも泣いていた。


私は願った。


何処にも行かないで下さい。


それなのに彼は消えてしまった。


何処に行ったのかは分からない。


以前の私なら泣いて、泣いて、泣き続けていただろう。


でも、今は違う。


私にはモーゼルとスレイプニルがある。


祖母が乗り、撃った物が2つも・・・・・・・・・


やり方は教えられたし、これから覚えて行く。


大学にも通うけど合い間を見れば出来る。


彼が何処に行ったのか分からないなら・・・私の方から探しに行けば良いんだ。


その答えに行き着いたのは少し前の事。


今は無理でも必ず探しに行く。


そして改めてベルトランさんに自分の想いを伝える。


例え彼が拒否しても構わない。


何があろうと・・・世界を敵に回しても私は彼の傍に居る。


そう・・・・自分に誓ったんだ。


その誓いを守る為にも今は励む。


何でも良いから自分の力に入れて、血肉とする。


そうする事で少しでも彼の役に立ちたい。


だけど、今はハント氏の話す祖母の事を聞き続ける。


祖母がどんな人だったのか?


どんな思いでスレイプニルを駆り、モーゼルを撃っていたのか・・・・・・・・・・


それを知りたい。


私の気持ちに応えるようにハント氏は話し続けた。


ふと、ハント氏が外を見る。


もう夜だと言うのに・・・・・・・・・白い結晶が雪から降り出した。


その雪は白くて汚れが無い。


何だか・・・・純白のウェディングドレスのように見えて、将来私が着る事を暗示しているようにも見えた。


私がそれを着るのは後・・・・・・・・・・・・・・・

                                         亡霊編 完


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