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第六章:懐かしい言葉

俺と相棒はその日の配達を終えて、ル・シャ・ノワールに着いたのは夕方になってからだ。


車を停めて降りた俺たちは裏口から中に入った。


「あ、お帰りなさい。ベルトランさん」


ソニア嬢が相棒を見て小走りで近寄って来た。


「配達は終わった。これが代金だ」


相棒は金をソニア嬢に渡したが・・・・パンの売上ではない金も渡した。


あの香水の香りが強烈な奥様方は相棒に高そうな物を渡した。


それを相棒は帰ってくる間に質屋に行き、全部を換金した。


渡してきた奥様方に失礼では?と思うが、貰った物はもうこちらの物だ。


どう扱おうとこちらの勝手、と思えばそうでもない。


相棒から金を貰ったソニア嬢は「こんなに売れたんですか?」と訊ねてきた。


やはり、多過ぎたか?と俺は感じた。


「あぁ。相棒の営業が良くてな」


おいおい。俺を出汁にするな!!


と思うが、ソニア嬢は俺に「ありがとうございます」と礼を述べて来た。


「い、いえ・・・あんなに美味いパンならきっと売れると思いましたので。良い商品は沢山売って儲けないといけないので」


営業マンらしい言葉を俺は言った。


「そうですか。あの、ベルトランさん。今日の夕飯は、どうですか?」


「どうする?相棒」


何で俺にその質問を投げて来る。


と思うが俺は「お邪魔でなければ・・・・・・・」と取り敢えず御馳走になる、という意味合いを含めた言葉を口にした。


「では、直ぐに作ります」


ソニア嬢は可憐な笑顔を見せてきた。


ふと外を見れば、好色な笑みを浮かべた狼共が居た。


「・・・少し外に出て来る」


相棒は俺にそう告げると、堂々と表から外に出て行った。


あーあ、あいつら死ぬな。


俺はどうせ死ぬなら男らしく死ねよ?と内心で言いながら、煙草を吸って良いかソニア嬢の元へ行こうとした。


だが、ドアが開く音がしてチラリと視線を向けた。


「ただいま・・・って、どなたですか?」


ドアを開けて中に入って来たのはソニア嬢より若干年下の女の子だった。


年齢は、14、5歳でソニア嬢と同じ髪の毛と瞳をしている。


だが、勝気な色が見え隠れしているから性格はソニア嬢より現代風と思う。


服装は白いブラウスの上に黒の肩の所で切られた女物のベストを着ていた。


スカートの方は・・・まぁ、現代の女子なら制服を規定通り着ない。


普通なら膝丈だが、明らかに膝より上のミニだ。


どうせ、巻いて上げたんだろうなと思う。


スカートから見える足は健康そのもの。


同年代の餓鬼なら舐め回すくらい発育が良い。


俺から言わせればまだ青い。


悪く言うなら小便臭い。


「お兄ちゃん、だれ?」


女の子の影から出て来たのは、黒髪の男の子。


年齢は8、9歳くらいだ。


こちらは私服だ。


クリクリ、とした目がチャーミングでもっと歳を取れば様になるだろうな。


「こんにちは。俺はショウ。君が朝、パンと牛乳を届けてくれたベルトランさんの家に居候している者だよ」


「おじちゃんの友達?」


「友達・・・んー、まぁ、そう取って良いかな?」


俺は男の子に視線を合わせて膝を着いて答えた。


「ふぅん。ねぇ、おじちゃんは?」


「ベルトランなら外に居るよ。ちょっと用があると言っていたね」


「貴方、ベルトランさんの友達だったんですか」


女の子が俺を上から見下して訊ねてきた。


「えぇ。そういう貴方はソニアさんの妹さん、ですよね?」


裏口から入るのだから、親類と見て良いだろうと俺は思う。


「はい。ソニアの妹でクラリス、と言います」


クラリス・・・ソニア嬢と同じく可憐な名前だ。


「そして、こっちが弟のベレンナです」


「初めまして。ベレンナです」


男の子、ベレンナはキチンと礼儀正しく一礼した。


良い子だ・・・何処かの礼儀知らずで熱い灸をやられた若造よりも将来有望だな、と俺は思う。


「俺はショウ・ローランド。ベルトランより先にビジネスマンとなったが、歳では向こうの方が上だ。で、さっそくだけど煙草は何処で吸って良い?」


「外で吸うなら何処でも」


俺はそれに頷くと外に出た。


そしてジタンを銜えて一服する。


「・・・やっぱり、愛用の煙草が欲しいぜ」


今度、何処かで探そうと俺は思った。


そこへ顔をボコボコにされた男が数人ほど見えた。


その後を追うのは言わずと知れたブルドックことベルトラン。


「おいおい、程々にしておけよ?」


もう直ぐ飯の時間だ、と俺は相棒に言った。


「安心しろ。飯の時間には間に合わせる」


相棒はそう答えると、男達を片っ端から叩きのめした。


やれやれ・・・・顔に似合わずナイトでいらっしゃる事で・・・・・・・・・・


どう見ても姫を攫う黒騎士・・・悪党なのに、それが本当は姫を護る正義の騎士とは・・・・・・・・・


「世の中って複雑だよな」


と俺は一人で言いジタンの煙を空に向けて吐いた。


それから時間は過ぎて行き、午後7時。


飯の時間になった。


それまで俺は外で相棒を待っていた。


闇の中から相棒が現れた。


「片付けたのか?」


「あぁ。全員、セーヌ川に放り込んだ」


今のセーヌ川は寒いだろうに・・・・・・・・・


「随分と派手にやったな」


「あいつ等が俺の癇に障ったからだ」


淡々と答えた相棒は埃をパンパン、と叩いてからドアを開けて中に入る。


俺もそれに続いた。


2階に通じる階段を登って行くとテーブルに料理が並べられていた。


「お帰りなさい。ベルトランさん、ショウさん」


ソニア嬢が相棒と俺に「お帰り」と言った。


お帰り・・・・か。


懐かしい言葉だ。


俺と相棒は「ただいま」と返した。


そして手を洗いテーブルに腰を降ろす。


「ソフィ。悪いが、後もう少ししたら配達が出来ない」


相棒は食事をしながらソニア嬢をソフィと呼び、配達が出来ない事を伝えた。


ソフィは恐らくミドル・ネームか何かだろう、と俺は思いながら食事を進める。


「何処かに行くのですか?」


「友人を送り届けるんだ。まぁ、4日くらいだ。それが終わればまた来る」


「分かりました。でも、急いで帰って来ないで下さいね?事故などしないように」


「安心しろ。ちゃんと安全運転で戻って来る」


お土産を持ってな、と相棒は付け足した。


まるで美女と野獣のカップルだ。


まぁ、それはそれで良いが。


「ねぇ、おじちゃん。何処に行くの?」


ベレンナ坊が相棒に行き先を訊ねる。


「さぁて、何処だろうな?友人がアメリカから来るまで分からないんだ」


「ふぅん」


「どうかしたか?」


「ううん。ただ、おじちゃんが居ないと寂しいな、と思ったの」


「男の子が寂しいなんて人前で言ってはいけないぞ。男はどんな時があろうと、女の子を護らなくてはならないんだ」


俺とショウが居なくなれば、お前がお姉さんを護るんだぞ?と相棒は言った。


「でも、僕、喧嘩・・・強くないし・・・・・」


「喧嘩が弱いならショウに習え。こいつは喧嘩に強いぞ」


「おい、俺に教師をやれと言うのか?」


喧嘩・・・まぁ、戦う事に代わりはないから相手を再起不能にする程度の事を教えやれなくもないが・・・・・・・・・


「ショウさん。武道の心得があるのですか?」


クラリス嬢が俺に話し掛けて来る。


「え?ま、まぁ・・・・・・・・」


「それなら私にも教えて下さい。何でも良いんです」


最近は物騒だから自分も学校で武道---柔道と合気道を習っているらしい。


ヨーロッパは柔道が盛んと聞いていたが、こんな子まで習っているとは恐れ入る。


その上、合気道まで習っているとは・・・こりゃ一歩間違えれば凄い女性になるな。


「でも、学校で習う柔道は規則で縛られた柔道であり要は競技用です」


それを痛感している、とクラリス嬢は語った。


合気道はそうでもないが、やはりあくまで受け身という事も考えると疑問を抱かずにはいられないのだろう。


まぁ、今時の武道なんて競技用で礼儀作法が主流だからな。


柔道も昔は違うが、今はどうかな?


しかし、俺たちは違う。


相手を確実に不能にし、規則など無い問答無用の本当の武道を身に付けている。


それを反射的にクラリス嬢は分かったのか?


分かった、と言うのなら凄い事だ。


「お願いです。ムッシュ・ショウ。私とベレンナに教えて下さい」


「まぁ、護身術程度なら教えられますが・・・・・・・・・・・」


「教えてやれよ。そのお嬢ちゃんは言い出したら聞かないんだ」


改めてクラリス嬢を見るが、正しくその通りだ。


了承するまで頼み続ける、と目が言っていた。


「分かりました。ただし、厳しいですよ?」


「構いません。ねぇ、ベレンナ?」


「う、うん」


ベレンナ坊は姉に押される形で頷いた。


『こりゃ武道だけでなく、男としても鍛えた方が良いかもな』


俺はそんな事を思いながら相棒を些か怨めしく思った。


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