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第二十三章:短い時間だから

朝日がカーテンの隙間から入って来る。


その前に俺は眼を覚まして銃の手入れをしていた。


コルト・パイソン357マグナム。


リボルバーのロールスロイスと渾名された高級リボルバーだ。


威力も申し分なく対人用なら十分だろう。


もっともパイソンも今では品質が落ちている。


だが、俺のパイソンは初期型だから品質も性質も文句ない。


シリンダーの汚れをブラシなどで綺麗に洗い落しつつ、オイルなどを塗り込む。


銃身と内部も同じくやった。


ふと、ベッドで眠るソフィアを見た。


・・・・・可愛らしい寝顔だな。


正しく女神の寝顔、と言える。


こんな極上と言える女を前にして、理性を保てる男が居るなら会いたいものだ。


会えたなら・・・過ちを犯したりしないように、その極意を伝授してもらいたい。


ソフィアは知らない。


俺が姿を消す事を・・・・・・・・


昨夜、彼女は俺にしがみ付いて泣きながら乞うた。


『お願いですから、消えないで下さい』


俺は答えなかった。


答えられる訳が無い。


それをソフィアは敏感に感じ取り、大きく泣いたんだ。


ベッドの中でしか女は泣かせない。


しかし・・・別の意味で泣かせてしまった。


ポリシーに反するが、仕方ない。


あの世で詫びるしかないだろうな。


いや・・・彼女は天国に行くから詫びる事など出来ない、か。


「・・・・・・・」


パイソンのシリンダーに弾丸を込める。


まったく・・・俺も焼きが回ったな。


自分が嫌になるも、仕方ないと諦める気持ちがあった。


弾を込め終えたパイソンをホルスターに仕舞った。


そして窓を開けて煙草を吸おうとした時だ。


「・・・何で居るんだよ」


窓の下には女が居た。


エレーヌ・ヴィンフィールド、だ。


どう言う訳か支配人と話し合っているが、中には入れていない。


「囮が本命と合流してどうするんだよ」


使えない女だ。


ジタンを銜え火を点けながら俺は携帯を掛けた。


『やぁ、ベルトラン伯爵。どうしたね?』


紅茶を楽しんでいるのか・・・ウォルターの軽快な声が聞こえてきた。


「孫娘をシッカリ教育し直せ。囮が本命と合流した」


『何と・・・いやはや、使えない孫だね』


血を分けた孫娘だと言うのに、辛口なコメントだった。


しかし、ジョンブルと言うのはユーモア溢れる皮肉を時に言う。


自分自身に対しても、だ。


つまり・・・・・・・・


「あんたも経験ありか」


『あぁ。まぁ、あの娘の事だから予想はしていたさ』


「迷惑な女だ」


『そう言わんでくれ。それはそうとソフィアはどうした?』


「ベッドで寝ている。おまけに隣室にはハント氏が居る」


『ほぉう・・・来たのかい』


「あぁ。先回りされた」


『流石は・・・・・で、ソフィアとは?』


「会った。断罪を求めたが・・・・“恩赦”を与えられたよ」


『だろうね。彼女は戦女神ではないのだから。まぁ・・・彼にとっては死より辛い罰かもしれないし、場合によっては幸福なのかもしれないね』


「・・・・・・・」


『君は何れショウと共に消えるんだろ?その時、彼女の傍に居られるのは私たち位な物だ。そして、彼が一番マルグリットを知っている。それを話せば傷は表面くらいは癒せる』


「・・・・頼む」


俺は言った。


『任せてくれ。少なくとも私、モーガン、ゴダールは屋敷に住む。クラリス達も当面はここで暮らす手筈だ』


「そうか。モーガンが許したなら良い」


『それは違う。彼は君なら許す、と判っていたらこそだよ。君でなければ先に連絡する。良い執事だよ』


「アンナも褒めていた。屋敷の者は家族だ、とな」


『流石は伯爵夫人だ。屋敷の者たちを掌握していたようだね。で、これからどうするんだい?』


「今日、行く。そっちはどうなんだ?」


『餓鬼共なら昨日で殲滅したよ。お遊びにもならない。実に弱くて情けなかったよ』


「だろうな。あんた等みたいに命を賭けて戦った奴らじゃないんだ」


『確かに・・・あの時代は生きる事で精一杯だったからね。よし、分かった。では、そちらは頼むよ』


「あぁ。こっちは任された」


『では・・・・・・・・・』


携帯を切った俺は溜まった灰を指で叩き落とした。


今日で終わりだ。


銀行に預けられている金を寄付して終わり、帰って俺と相棒は旅に出る。


その前に・・・・狂犬と決着はつけるが。


あの男を殺さないと面倒だ。


ここで殺せば後腐れは無くなる。


「・・・・・・・・」


ピンッ


ジタンを外に放り出し、俺は窓を閉めた。


それから暫くしてソフィアは眼を覚ました。


「・・・おはようございます」


「あぁ。シャワーを浴びろ。食事を持って来させる」


俺は電話を取り上げてフロントに電話を掛けた。


ソフィアはシーツを胸元まで起こして浴室へと向かう。


直ぐにフロントは出た。


朝食を頼みながら俺はジタンをまた銜える。


受話器を置いた時にドアが叩かれた。


「誰だ?」


パイソンを抜いて壁に張り付いて訊ねる。


『ハントだ』


「・・・鍵は開いてる」


ドアが開き、ハント大佐が入って来た。


「ソフィアは?」


「シャワーを浴びている」


「そうか」


ハント大佐は中に入るとソファーに腰を下ろした。


「良いかな?」


魚雷型の葉巻を取り出し、ハント氏は訊ねるが無粋でしかない。


「俺もやってるんだ。やれよ」


「そうだね」


苦笑しながらハント大佐は葉巻を吹かし始める。


「それで、あんたはどうするんだ?」


「一緒に行く。私が持っている片方で、金ではない品物を取り出せる」


「金でない物?」


「あぁ。モーゼルの方は現金。君の国で表すなら・・・100億だ」


「大した金額だな。それだけあれば楽して老後を送れるぜ」


「そうだな。しかし、ソフィアは拒否した・・・寄付するんだろ?」


「あぁ。で、金でない物は?」


「行けば判る。だが、彼女は・・・人から奪い取った金は要らない、と言った」


「・・・なるほど。あんたが稼いだ金を渡す気か」


「あぁ。それなら受け取ってもらえるだろ?いや・・・・受け取ってもらう」


それ位しか自分には出来ないんだ、とハント氏は告げた。


「男が女に残せる物なんて餓鬼と金くらいだろ?」


男なんて女に比べたら、その程度の事しか残せない。


この爺様の場合は金だった。


「そうだな。我々、男は・・・・つくづく女という生き物に勝てないよ」


「それが普通だ。それはそうと、あんたは俺に殺されると思わないのか?」


「思っていたさ。君なら彼女を護る為に私を殺す。いや、他の奴等も皆殺す。後腐れ無いように、ね」


違うかい?


ハント大佐の質問に俺は紫煙を吐いて答えた。


「違わない。まぁ、これは俺の問題でもある」


アンナの屋敷を汚し、俺を殺そうとした。


「単純な理由だね」


「複雑な理由---哲学的な理由でも欲しいのか?」


「まさか。哲学的な理由など要らない。我々は極限の場所で、単純な事をして、今まで生き永らえて来たんだ。死ぬまで変わらないさ」


俺たちのような人間は・・・・・・・・・・


「確かに」


俺は紫煙を吐いて頷いた。


「ソフィアがシャワーを浴び終えたら、少し散歩でもしないか?」


「行くまでか?」


「あぁ。昨夜の事は・・・・恥ずかしい事だったが、今は少しでも彼女と話したい」


「まるで再会した祖父だな」


「そう感じているよ。少なくともマルグリットに出会った男達は、誰もが思うだろう」


彼女とは会えない。


だが、孫娘が居るのなら・・・その孫娘と話をしたい。


「どれだけ好きなんだよ」


「言葉では言い表せない程さ。君だって亡き奥方をどれ位、好きなのか・・・言葉で言い表せるかい?」


「・・・いいや。短いからこそ濃厚な時間を過ごした。とてもじゃないが、文章でも表せないぜ」


「それと同じさ。私も短い付き合いだったからこそ、表せないし好きなんだよ」


その言葉に俺は納得しながらソフィアが戻って来るのを待った。


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