第十六章:初めての恐怖
更新が遅れました。
今回はソフィアが初めて・・・・ベルトランが人を殺す所を見ます。
午後7時に俺とソフィアはホテルにチェック・インした。
本来なら予約しなければ入れないのだが、伝手で入れた。
しかも、非常口に近い場所だから助かるぜ。
俺とソフィアはエレベータに乗らず階段で部屋まで行った。
カードを使い、ドアを開けて中に入る。
ソフィアはベッドに腰を下ろしたが、俺はそのまま部屋の中を隈なく調査した。
特に変わった様子は無いな。
「・・・・・」
ジタンを取り出して銜えようとしたが、止めた。
「何で、吸わないんですか?」
ソフィアが訝しんで訊いてくる。
「煙草、嫌いだろ?」
「あ・・・・・・・」
最初に会った時、彼女は俺に煙草は止してくれ、と言った。
それ以来、出来る限り吸わないように心がけてきたんだが、肝心の本人は忘れていた様子だ。
「あの、吸って良いですよ。ベルトランさんのお金で泊れたんですし、お世話にもなっているので」
「それは俺も同じだ。まぁ、許してくれるなら吸わせてもらうぞ」
ジタンを銜えて火を点ける。
フィルターも短いが、煙草自身も短い為に強烈なニコチンが口内に広がった。
しかし、それがまたジタンの特徴と言える。
「フゥー・・・モーゼルを見せてみろ」
特に会話をする意味も無い、と思い俺はモーゼルを見せろ、と言う。
「はい・・・・・」
ソフィアは未だに信じられない顔でモーゼルを渡してきた。
重くて大きい。
今の拳銃では考えられない代物だが、三流国家や貧乏人なんかは今でも使用していると聞いている。
世界は広いからな。
「それって今の拳銃だと、やっぱり見劣りしますよね?」
「当然だ。自動拳銃が出来た頃に作られたんだ。今時、これを使う奴は物好きな奴か貧乏人くらいだな」
「そうですか・・・・・・・」
「あぁ。俺も撃ったが、やはり愛用の銃が馴染む」
「リボルバー、ですか?」
「いいや。これは非常用だ。本命はコルト45。リボルバーを使用する軍隊も稀だな。いや、今は居るのかどうかさえ怪しい」
「でも、知り合いの人とかは護身用に・・・・・・・・」
「あくまで個人が持つならリボルバーは良い。特にお前さんみたいに素人なら尚更だ」
「そうですか・・・・・・・」
「何か気になるのか?」
「いえ、クラリスも・・・ショウさんから拳銃の扱いを教えられて、ベルランテも教えられたじゃないですか」
貴方とショウさんに・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・」
クラリスは相棒から“S&W M10”を与えられている。
護身用として考えるなら申し分ない。
ベルランテはキャンプに行った時、俺がコルト ウッズマンを撃たせた。
22LR弾は威力こそ弱いが、殺傷能力は当然ある。
まぁ、あくまで護身用兼サバイバルとして撃たせただけだ。
それに対して彼女は一度も撃っていない。
それが心に引っ掛かっているのか。
「こんな物は撃たない方が良い。ただ、本当に護身用として持つならリボルバーを持て」
「・・・・・・」
ソフィアの眼は何かを強く訴えていた。
それが何なのか・・・・分かったが、分かりたくはない。
「撃ち方くらいは教えてやる」
否定しながらも万が一を考えて俺は教えてしまう。
自分に嫌気すら覚えるが、後悔するなら今が良い。
モーゼルをソフィアに渡す。
「先ず片手で撃つのは慣れてからだ。今は両手で持て。右手で持ち、左手は添えるように」
ソフィアは言われた通りモーゼルのグリップを右手で握り、左手を添えるようにした。
「次に照準だ。銃は撃った瞬間に跳ね上がる。特に素人だと腕ごと上げるから、空を撃つようなものだ」
それを避けるには下に銃口を向ける。
もちろん跳ね上がる角度なども頭に入れて、な。
「撃鉄を起こして狙う。後は引き金を引けば弾が出る。そいつは10発だ」
「弾を補充するには、どうすれば?」
「弾倉を取り出して新しいのに変えるか、クリップで纏めて装填する」
モーゼルC96はクリップ装填式しかないが、M712なら弾倉装填も可能だ。
ただし、持ち運びなどを考えるならクリップの方が良いだろう。
「クリップを弾倉の上に当てたら、親指で押し込むようにして下へやるんだ」
そうすれば弾が補充される。
ソフィアは慣れない手つきながらも覚えていた。
必死な表情で・・・・・・・・・
それがどんな意味をしているのか。
・・・考えたくなかったが、してしまった。
それから3時間が経過した午後10時。
やっと夕食を食べた。
部屋に持って来させて食べる。
黙って飯を食べるが、ソフィアは何処か幸せそうだった。
こんな事にさえ幸せを感じるとは・・・・・・・・・・
「本当に質素な女だな」
「え?」
「いや、お前さんを見ていると質素を画に描いたような人物だと思った」
「・・・・・・・」
「別に酷い意味じゃない。質素でありながらも、それに幸せを見い出せる。それが良い」
贅沢を良しとしない。
寧ろ質素でありながら、そこに幸せなどを見い出そうとしている。
そこが良い。
「そ、そうですか・・・・・」
ソフィアは真顔で褒められたので顔を赤くする。
そういう素直な性格が大佐達の心を射止めているんだろうな。
マルグリット・ヴェスパという女の孫娘。
これもあるだろうが、知らなかった。
その前で養女にしたいと言ったんだから、ソフィアの人柄が正当に評価されたと思う。
「飯を終えたらシャワーを浴びろ」
「ベルトランさんは・・・・・?」
「銃の手入れと電話だ」
それだけ言い俺はステーキを食べた。
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私は温めのシャワーを頭から浴びた。
ベルトランさんと一緒の部屋・・・・・・・・・・
全く非常識なのに、私の心は高ぶっている。
必死に止めようとしても、高ぶる心は収まらない。
やっぱりベルトランさんが好きなんだ。
そう実感させられるし、同時に抱かれたいと思ってしまう。
墓石の前でアンナさんに願った。
ベルトランさんを愛する事を許して欲しい、と・・・・・・・・・・
答えは聞けなかった。
当たり前と言えば当たり前であるけど・・・・・やはり、何処かで答えを期待した。
いや・・・・答えを得なくても私から・・・求めれば良い。
そうすれば良い。
でも、私は答えを求めてしまった。
それは彼を愛しているが故に・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・止めよう」
考えた所で何も変わらない。
私はシャワーを浴び終えて身体をタオルで拭き始めた。
しかし・・・・・・・
いきなりドアが開いてベルトランさんが入って来た。
え?
「べる・・・・・!?」
いきなり私の口をベルトランさんは抑えた。
「ルーム・サービスが来た。頼んでいないのに、だ」
『・・・敵?』
「可能性はある。直ぐに着替えて行ける準備をしろ」
私は無言で頷いた。
その間にベルトランさんはドア越しに会話をした。
「すまないが、待ってくれ。妻が入浴中でな」
『出来るだけ急いで下さいよ。私も仕事なんです』
「あぁ、分かってる。おい、ソフィア。まだか?」
「も、もうちょっと待って下さい。今、着替えている所です」
私は急いで着替えた。
髪は濡れたままだし、身体だって拭き切れていない。
それでも急いだ。
着替え終わってショルダー・バッグを持った。
それを見てからベルトランさんはドア越しに言う。
「妻が着替え終わった。所で、そのルーム・サービスはホテル側かい?」
『はい。今、当ホテルで無料サービスなんです。ちなみにメニューは赤ワインとチーズなどです』
「それは楽しみだ。それじゃ開けるよ」
ベルトランさんはドアを開けた。
しかし、直ぐに壁に張り付く。
直ぐにホテルのボーイ姿の者が来た。
でも、手には・・・・銃が握られており既に引き金は掛けられている。
小さな音が連続で鳴り、ベッドを貫く。
「なっ!?」
「・・・気付くのが遅過ぎる」
バッとベルトランさんが手を出し、男の首を・・・・・・・・
ボキッ・・・・・・・・
まるで枝でも折るような音がした。
そして男は息絶える。
人って、あんな簡単に死ぬ物なの?
いえ・・・どうして、そこまで冷静に殺せるの?
怖い・・・・・・・・
ベルトランさんが怖い。
「・・・行くぞ」
私の様子にベルトランさんは気付いたが、何も言わないで部屋を出る。
私はその後を追い掛けた。