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第五章:フランスNO.1の傭兵

俺と相棒は孤児院からそれほど離れていない場所に来ていた。


ここは極一般的な住宅地で子持ちが多い家が多い。


ここでは販売をする。


「あそこに買いには行けない。だが、あのパンは欲しい奴等は多いんだよ」


だから、電話で届けさせるって訳か。


俺はなるほど、と頷きながらジタンを銜えた。


「所で、リヒテンシュタイン公国まで行く足---車はあるのか?」


まさか、電車やヒッチハイクで行く訳ないだろう、と思っていたが敢えて訊いた。


「いいや。車も向こうが用意する」


何から何まで他人任せだな。


まぁ、自分の車を使うよりそちらの方が、足が付き難いから良いが。


「車の方は“私は回る”を注文した」


私は回る・・・ボルボか。


「まぁ、あれは頑丈だからな」


ボルボは世界の車メーカーの中でも頑丈さはピカイチだ。


俺は乗った事が無い。


だが、その噂は聞いているから信用できる。


そして住宅地へと到着した。


相棒はクラクションを1回だけ押せ、と俺に言ってきた。


俺は言われた通りクラクションを1階だけ押した。


するとドアと言うドアが開いて御婦人方が出て来た。


まるで、待ち伏せされた気分だ。


何せ御婦人方の眼は殺気立って居るんだからな。


「さぁ、仕事だ。仕事」


相棒はドアを開けて降りた。


俺もそれに倣い、降りる。


そしてパンを取り出すと御婦人方がバア!!と駆け寄って来た。


まるで銃剣突撃みたいに気合いが入った眼つきで一瞬だが・・・・逃げたいと思った程に。


あっという間に俺らは囲まれた。


本の数秒で囲まれたから、戦場なら二人とも殺されている可能性が高い。


御婦人方は相棒にパンをくれ、と言い相棒は一列に並んでくれ、と頼んだ。


するとこれまたバア!!と音を立てて一列に並んだ。


・・・・軍隊経験者か?


などと俺は思いながら相棒と共にパンを売り始めた。


パンを買った御婦人方は金を払うと直ぐに家の中へと戻って行った。


「・・・パリの女ってのは、ああいうもんなのか?」


「何を言ってんだよ。まだ序の口だ」


あれで序の口?


まだあるのかよ・・・・・・・・・


俺はあれで序の口と言われて、些か疲れを感じた。


戦場に居るより何だか疲れる感じだった。


それからまた別の場所に向かったが・・・・ここは更に凄かった。


何せ奥様方が我先にと飛び出して来て俺らを取り囲んだのだから。


強烈な香水が鼻を突くし、やたら身体を触られて嫌な事この上ないが愛想良くした。


相棒はぶっきら棒な態度ながら、それが逆に奥様方には受けるのか色々と贈り物を渡されている。


もはや慣れたのだろう、という顔だった。


地獄のような・・・ある意味、戦場より地獄だった場所から何とか脱出する事に成功した俺は心底、疲れ果てていた。


だから、今は相棒が代わりにハンドルを握っている。


「おっと、もう時間か」


車の内部に取り付けられたデジタル時計は既に午前12時になっていた。


「どれ、近くの“キャフェ”で飯でも取るか」


俺は疲れ切った顔で頷いた。


キャフェとはパリ周辺ではカフェの事を言うらしい。


まぁ、こんな知っても余り為にならない事は頭の片隅にでも放っておく。


車を路上に停めて近くのカフェに腰を降ろした俺と相棒はコーヒーを頼んだ。


と言ってもフランスでコーヒーを頼むとエスプレッソが出るから、コーヒーを頼みたいなら“カフェ・アロンジェ”と言わなければならない。


俺も相棒もコーヒー党だが、気分を変えてエスプレッソにした。


数分して盆を持った男性の給仕‐‐‐“ギャルソン”が現れテーブルに焼き立てのクロワッサンとエスプレッソを置き、更にジャムとマーガリンを添え付けた。


相棒は幾ばくかチップを渡してから何も付けずに食べたが、俺は先にエスプレッソを頂いた。


風味が濃くて何時も飲んでいるコーヒーとは違う味わいが印象的だ。


外で食べている為、些か寒い事は否めないが然して問題ではない。


相棒はクロワッサンを食べ終えてからエスプレッソを飲もうとしたが、そのカップに煙草が放り投げられた。


「てめぇみたいなブルドックが、パリの飲物を口にするんじゃねぇよ」


俺は相棒の斜め横に立った奴を見た。


年齢は相棒と同じ位だが容姿は金髪に碧眼と一般的な容姿だったが、顔は歪んでいて1度見たら忘れたい顔だった。


懐が僅かに膨らんでいるから拳銃を所持しているのも分かる。


「あんた、誰だい?」


俺は男に訊ねると奴は鼻で嗤ってきた。


「てめぇみたいな餓鬼に名乗るのもおこがましいが、冥土の土産だ。敢えて答えてやろう。その耳をかっぽじってよぉく聞きやがれ!!」


俺は誇り高いんだ、と付け足す男に俺は心底呆れ果てた。


それにこの言葉遣いは・・・・・・・・・・・・・・


『この世の土産だ。目ん玉をくらってよぉっく拝みやがれ・・・・・・・・・・!!』


などと独自の言い回しをして右肩に彫られた桜吹雪を見せる某お奉行兼遊び人の言葉遣いと瓜二つだ。


まさか、この男が日本の時代劇を見る筈も無いから自分で考えたんだろうな、と俺は思う。


「俺の名はシャルル・ペス。シャルル・ペスだ!!フランスでNO.1の傭兵だ」


「・・・・・・・」


どう見てもNO.1という顔つきじゃない。


顔で判断するのはどうかと思うだろうが、自分でNO.1と公言する奴ほど下から数えた方が速い奴らだ。


その上、自分でこうも公衆の真ん前で傭兵だと公言する馬鹿丸出し。


こんな奴がフランスのNO.1って言うならフランスの傭兵界も底が浅いと思う。


「何の用だ?せっかくのエスプレッソを台無しにしやがって」


相棒は到って冷静な口調で犬みたいな名前を持つ傲岸不遜でナルシストな傭兵に訊ねた。


「言った筈だ。ここは俺の縄張りだ。てめぇみたいな東洋人が来るな」


人種差別を惜しみも無く曝け出すシャルル・ペス・・・もうただのペス---犬の名前で呼んで良い。


この男は俺のエスプレッソにまで唾を吐いて来やがった。


・・・食べ物を粗末にしやがって。


俺はカップを置いた。


「お前さんは俺の母親か?それともボスか?いいや違う。どちらでもない」


そんな奴が俺に命令できるのか?と相棒は訊ねた。


「耳が聞こえないのか?ここは俺の縄張りだ、と言ったんだ」


「縄張りなんて餓鬼みたいな事を言いやがって。俺らに縄張りも国境も無い。少しは勉強しろ」


「減らない口だな。その口を閉じさせてやっても良いんだぜ?」


懐に手を伸ばすペス。


ここまで馬鹿とは・・・・・・・・・


こんな所で拳銃を抜けば直ぐに鬼より怖い警察が来るのを知らないのか?と俺は思う。


だが、それならそれで良い。


こんな男がどうなろうと俺の知った事ではない。


「やれるもんならやってみな。逆に俺が裁縫針で縫ってやるよ」


これに俺は吹いた。


相棒が裁縫針・・・似合わねぇ・・・・・・・・・・・・


だが、犬みたいな名前を持つ方はそうではなかった。


「・・・・人が下手に出てれば付け上がりやがって」


懐から今度こそ拳銃を出そうとしたが、それを無視して相棒は立ち上がった。


「ここは戦場じゃない。もし、やれば忽ち警官が来るぜ?」


また豚箱で“オカマ”にされたいのか?と相棒は言った。


されたいのか?・・・・オカマに・・・誰かの“愛人”にされたか。


それとも“公衆便所”にでもされたか?


などと俺は思った。


そして相棒は俺に合図して金を置き、車に戻り始めた。


俺もそれに続く。


「・・・・・てめぇは必ず殺してやる」


「お前に出来るなら、な」


相棒と俺は喚き立てる煩い犬を放って車に乗り込み、次の配達場所へと向かった。


やれやれ、面倒な奴だと俺は思った。


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