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第十五章:本命と囮

俺とソフィアが屋敷を離れて既に数時間は経過した。


恐らくだが、そろそろ奴等は攻撃をしている頃だろう。


問題ないとは思うが、やはり不安ではある。


アンナの寝室が汚されやしないか。


それが一番、不安だった。


しかし、ソフィアの方も心配だろう。


妹と弟が居るのだからな。


「どれ、少し休憩だ」


「休憩、ですか?」


「あぁ、まだ先は長い。今の内に休憩しておく」


「分かりました。あの、これの使い方は・・・・・・・」


「宿で教える。安い宿より高い宿の方が色々と便利だから、そちらに行くぞ」


「でも、お金は・・・・・・・・」


「安心しろ。金はある」


傭兵の金なんて二束三文が関の山だ。


しかし、餓鬼の頃から必死に貯めた金は今でも減る所か貯まり続けている。


もちろん非合法な仕事をして稼いだ金ばかりだ。


だが、金の本質は変わらない。


金も武器も要は使われてこそ、だ。


それを汚いとか何だかんだ言うのはお門違いと言える。


「あの、傭兵の仕事って儲かるんですか?」


「人や組織による。俺の場合は二束三文程度だ」


「そう、ですか」


「あぁ。普通の生活も悪くないな、と思うがな」


「・・・・・・」


ソフィアは顔に光を宿す。


ああ・・・何て事を言うんだよ。


どうせ、自分には出来ない。


それなのに俺は期待するような事を彼女に言ってしまった。


だから、ソフィアは期待してしまう。


阿呆が・・・・・・・・・・


俺は自分の軽率な態度に苛立ちを覚えながら近くの店に車を停めた。


「そいつは鞄に入れておけ」


ソフィアにはショルダー・バッグがある。


モーガンが渡した物だが、モーゼルが入るように工夫されていた。


「持って行って大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。買う物は食べ物と水。後は要らん。以上」


分かりました、とソフィアは言い車から降りた。


俺も降りる。


しかし、辺りを見まわして何も無い事を確認する。


「行くか」


「はい」


そう言ってソフィアは俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


「行きましょう、ベルトランさん」


新婚夫婦のように彼女は言った。


「そうだな。新妻さん」


俺はソフィアに言い、足を向けた。


店の中に入ると、やる気のなさそうな店員が俺とソフィアを見る。


しかし、ソフィアの方には色眼を向けている。


『餓鬼が・・・ブチ殺すぞ』


視線を向ければ店員は直ぐに逸らした。


それで良い、と俺は思いつつ食べ物と飲料水を買う。


もちろんガラス越しから車に変な真似がされていないか、見ている。


今の所は問題ないか。


そう思っている間にソフィアは買い物を済ませていた。


早いな。


「ベルトランさん、行きましょう」


「あ、あぁ。そうだな」


気が利いている、と思いながら俺は外に出る。


そして車に戻りエンジンを掛けた。


「気が利くな」


思わず口に出した。


「そうですか?ベルトランさんが窓を見ていたので、私は買い物をしようと考えただけです」


そういうのが気の利く行動、と言えるんだよ。


これがエレーヌ辺りなら「ちょっと何を見てんのよ!早くしなさい!!」とか言うだろう。


しかし、ソフィアはそれを言わずにやった。


こういう所が気の利いた行動と言える。


まぁ、女を比べるなど言語道断だ。


だが、エレーヌとソフィアでは・・・比べる事も無いだろう。


どちらが“良い女”か、と問えばソフィアだ。


エレーヌは未熟だし、一緒に居て疲れる。


何て思っていると、また後ろから車が来た。


しつこい奴だな。


「ソフィア、シッカリと掴まっていろ」


「・・・また、ですか」


「あぁ。しかも、同じ相手だ」


「・・・・・・・・・」


『イエロー・モンキー!!』


ああ、煩い。


やはり、タイヤでも撃ってパンクさせるべきか。


しかし、ここでやると面倒だから、もう少し引き離してからだな。


俺はギアをチェンジして速度を上げた。


だが、奴もまた速度を上げてくっ付く。


改造でもしてあるのか?


それなら納得するが、速度に技術が付いて来ないと・・・・・・・・・・


『ぎゃああああ!!』


ペスは物の見事に道路から出て、電柱に衝突した。


「・・・速度は守らないとな」


自分も人の事は言えないが、そう言った。


「・・・・・・」


ソフィアが僅かに唇を震わせる。


笑いを堪えている感じだな。


そう思って言ったから御の字と言える。


やはり女は笑顔が一番だ。


この笑顔も見納めと思うとやるせない気持ちであるが・・・・・・・・・・・・

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「何で囮の私に本命が来るのよ!!」


私は自分の不運に泣きたい気分だった。


後ろから追い掛けて来る奴等は銃を撃って来る。


何処だろうとお構い無しだ。


だから、テロリストは嫌いだし、軽蔑する。


紳士ではない。


あいつも紳士とは程遠いが、それでも優しい所はある。


でも、今は・・・・・・・・・


「どうやって、奴等を潰すかね」


下手に反撃したら倍返しで返って来るし、警察の厄介にまでなる。


かと言って逃げ切れる自信も無い。


一台程度なら何とか出来るが、数台では分が悪すぎる。


「・・・仕方ないわね」


貢がせた新車だけど、命の方が大事だ。


何よりフェラーリは私の好みじゃない。


「悪いけど、貴方は一人で逃げてね」


車に人と言うのはおかしいが、敢えて私は言い一般道路に入った。


と言っても店などはなく森があるだけだから、隠れるには申し分ない。


そしてシートベルトを外してシュマイザーMP40を取る。


アクセルに傘をやって、踏み続かせシートベルトでハンドルを固定した。


窓を開けて抜けるタイミングを計りつつ、敵が来るのを見た。


この次のカーブで逃げれば大丈夫かもしれない。


私はカーブに入った瞬間にフェラーリから飛び降りた。


直ぐに森へ隠れて奴等が通り過ぎるのを見送った。


「精々、頑張ってね。荒馬ちゃん」


埃を払いながら私はシュマイザーMP40のライフルスリングを肩に吊るして歩き出した。


あの男---ブルドッグはスイスへ行く、と言っていた・・・・・・・・


なら、私もスイスへ行こうじゃないの。


こんな役を押し付けたんだから、お仕置きとご褒美を貰わないと気が済まないわ。


お仕置きは私が与えるけど、ご褒美はあいつから貰いたいわね。


ご主人様の私に熱い口付けが良いわね。


それもソフィアとかいう小娘の眼前で・・・・・・・・・・・


あの小娘と会ったのは、ブルドッグとホテルで過ごした時だ。


買い物中だったのかしら?


袋を片手に歩いていたけど、私とブルドッグを見るなり茫然としていた。


私は直ぐに察したわ。


ああ、この女が調べた女と・・・・・・・・・・・


ブルドッグと猟犬に依頼をする時、経歴などは全て調べた。


どちらも傭兵として名は売れていたし、実力も申し分ない。


その中でも際立つのは2人の渾名ね。


ブルドッグことベルトランは不死身の王。


どんな攻撃を受けても翌日には回復している。


馬鹿みたいな話だが、調べた限り・・・・異様な程に治癒能力が高い。


それが理由だった。


猟犬も渾名の通り、狩りを行う犬。


何処に逃げても追い掛けて、見つけ出して、確実に爪牙で仕留める。


どちらも通り名通りの実力を誇る。


話を戻すと、そんなブルドッグは女に好かれている。


それも財政界の女とも関係があるから侮れない。


でも、そいつらには眼もくれず、ただ一人の女に夢中だった。


それがソフィア。


パン屋の娘で借金持ちの敗北者。


そんな女に何であいつが拘るのかは知らない。


だが、私があいつに抱かれた時点で勝ちだ。


それなのに本命の私を置いて行ったのだから良い度胸だわ。


まぁ・・・・・今回の仕事で終わりね。


私の勝利と言う形で・・・・・・・


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