第十四章:戦いの狼煙
「ブレイズ、距離は?」
「・・・700だな。ドラグノフは1500だが、800が妥当だろ?」
「あぁ。まぁ、安心しろ。それ位なら十分だ」
「そうかい。それはそうと、兄貴たち大丈夫かな?」
「問題ないだろ。まぁ、煩い駄犬は来るだろうが」
「あいつって、本当に実力はどうなんだろうな?漫画のギャグキャラみたいな感じだし」
シャルル・ペス、か。
「・・・・傭兵だったのは事実らしい。しかし、実戦経験は皆無だろうな」
「というと後方支援とか主計とか?」
「だろうな。少なくとも後方なら敵と会う確立は低い。主計とかになれば尚更だ」
「確かに。その割には如何にも自分は幾多の戦場を駆け巡った、と言っているな」
「どうせ自分が所属していた隊と逸れたとか、壊滅したとか、逃げたとか、の理由で仕事先が見つからない。なら、嘘を吐いて自分を高く見せようとしたんだろう」
俺等が会話している間にも車は近付いて来る。
防弾という事も考えたが、同じ所に撃つ技法---ワンホール・ショットなら何とかなる。
旅団とか言ってたが、数で見ると半分にも満たない。
「しかし、旅団と言った割には少ないな。何か遭ったな」
「どう見る?」
「IRAも一枚岩じゃないだろ。まぁ、アメリカが絡んではいないが、店を爆破したんだ。上層部が激怒したのかもな」
「ああ、アメリカに住むアイルランド人のシンパ、か」
IRAの資金源は割とある。
それはアメリカに住むアイルランド人たちが送る金だ。
イスラエルとそこは似ている。
向こうもアメリカに住むユダヤ人が送る金なども絡んでいるからな。
「あいつ等が出す金は多いし大きい。それによって武器などを得られるからな。しかし、和平派と分裂したと考えると・・・余り無いのかもな」
「そうかもしれんが、何人かは居るだろ?」
「居るさ。それでも・・・分からんぞ。もしかして、ディアドラとかが絡んでいたり?」
「有り得なくはないな。まぁ、今はあいつ等の方を倒すのが先決だ」
『おい、何を無駄話している。早くやれ』
無線機越しから軍曹が俺等を叱る。
「今からやる。そっちも逃がすなよ?」
『貴様等のような餓鬼共と一緒にするな。ボケが!!』
ボケが、と言い無線は切れた。
「俺、あの人は苦手だ」
ブレイズは何とも言えない顔で言いつつ、クレイモアを起爆させる装置を持った。
「俺が狙撃したら後部の車をやってくれ」
「了解」
「・・・・・・・」
静かに息を顰めてスコープを覗き込む。
運転手の頭を狙う。
2発だ。
グッ・・・・・・・
引き金を引き、弾がガラスを貫く。
防弾ではなかったか。
一発で片はついた。
「よし、次だ」
ブレイズが起爆装置を何度も押した。
左右に取り付けたクレイモアが爆発し、車を鉄球が貫いたり食い込んだりした。
良いぞ・・・・・・
「これでも食ってろ。テロリスト!!」
ブレイズが今度はM24型柄付き手榴弾の紐を引いて投げた。
M24は木製のグリップが特徴的である。
その下にねじ込み式の安全キャップがあり、それを外して引けば中で摩擦して導火線に火が点く訳だ。
クレイモアを浴びて奴等は怯んだが、そこへ手榴弾を投げられた事で慌てる。
精々、自分達が得意とする爆破で死ぬんだな。
俺とブレイズは一目散に逃げる。
背後で爆発音を聞きながら。
「さぁて、次は大佐達だな」
「あぁ。向こうはどんな手を使うか・・・楽しみだ」
「元自由フランス軍にしてアルジェリア帰り・・・・・ゲリラ戦を学んだからな。アルジェリア帰りは」
「確かに。屋敷の使用人たちもレジスタンスとなれば、ゲリラ戦だな」
「あぁ。後は後ろから来るであろう第一外人落下傘連隊と挟み打ちで勝ちだな」
「そうだ。しかし、油断はできない所が戦場の怖い所だ」
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「ふふふふ。“戦いの狼煙”としては申し分ないな」
双眼鏡を覗きながら私は満足する笑みを浮かべた。
「ですね。しかし、無駄口が多いです」
「そう言うな。それで、2人は?」
「はっ。現在、バリケード並びに弾薬運び中です。まだ幼いのに・・・・・・・・・」
「戦場では幼くても戦う。そうする事で日々を生きて行くのだ。彼女達も、その気持ちだろう」
「もしくは店を壊した者たちに復讐する為、ではないのかな?」
ウォルターが“エンフィールドNO.2”を構えながら言う。
「確かに。君としての見解は?」
「どちらもだろうね。良い事か悪い事か、と言えば悪い事だろう。しかし、仕方あるまい」
「・・・まったく。奴等にはタップリと授業料を支払って貰うといけないな」
可愛い孫たちに、こんな真似をさせるのだから。
「確かに。私たちの時代で十分だよ。あんな子まで戦う必要があったのは」
「それでも世界に争いは消えない。嫌な世の中ですね」
モーガンがモーゼルを構えた。
「私たち人間というのは業が深い。嫌であるが、仕方ないな」
「その通りです。しかし、彼等を見ていると昔を思い出します」
「ああ、弾薬運びだったね?」
「はい。一発でも弾が当たれば即死亡。そんな役割でしたが、少しでも大人の役に立ちたい。そしてドイツ軍を追い出したい気持ちで一杯でした」
「私もだ。しかし、彼等もまた軍人としての任務を果たそうとした。そこは評する」
「根っからの軍人ですね」
「そうだな。君のようにレジスタンスから執事になれたように・・・私も別の事をしたかったよ」
ウォルターも飛行機乗りから諜報部員へとなった。
私だけだ。
ただ、陸軍として今まで生きて来たのは・・・・・・・・・
「大佐、何を言われます。大佐だからこそ私を含めた者たちはアルジェリアで戦えたのです。今もです」
「そうか。まぁ、これが終わったら孫娘達に囲まれながら余生を過ごすとしよう」
「何でしたら、ここに店でも開きますか?BARを」
モーガンが思い付いたように言った。
「ほぉう、BARか」
「はい。旦那様も私も酒は好きです。それにピアノを弾ける者も居りますからね」
現代において貴族で居るのは難しい。
大抵は消滅した。
それでも生きていられるのは、ここで取れる葡萄で出来たワイン。
そして・・・亡き当主の祖父たちがレジスタンスの手助けをした、という事だろう。
もっとも、それさえ何時まで続くか分からない。
となれば今の内に対策を練るのは良い事だ。
「それなら昼はカフェにしよう。もちろん紅茶も出す、ね」
ここぞとばかりに、ウォルターがイギリス人らしいユーモア溢れる事を言った。
「紅茶か。イギリス人はどうして紅茶を好む?私はコーヒー党だ」
「私から言わせればコーヒーほど嫌いな飲み物は無い。それに君はドロドロではないか」
「そっちの方が濃くがあって美味いんだよ」
3人揃って笑い合う。
何だかんだ言いつつも・・・皆、あの3人を孫のように愛しているのだ。
その孫たちをあんな眼に遭わせたのだ。
『生きて“還れる”と思うなよ?糞餓鬼共が』
「さぁて・・・・歓迎の宴だ」
私たちはそれぞれの武器を構えた。
奴等は車から降りて進んで来る。
しかし、とてもじゃないが動きが滅茶苦茶だ。
「どれ、私からお見舞いしてやろう」
モーガンが何時の間にか煙草を取り出して銜えている。
火を点けると、灰皿に置き風を読む。
「くたばれ。糞餓鬼」
モーゼルが火を吹き、餓鬼の脳味噌をぶちまける。
「良い腕だね」
「マルグリットから褒められたんです」
『貴方、射撃の腕があるわね。どう?今度は私と遊撃隊として動かない?』
「そう言われたのかい?」
「はい。それで遊撃隊として動きました」
「羨ましいね。私など彼女と会話らしい会話など出来なかったよ」
ウォルターが悪戯小僧のような笑みを浮かべて言う。
その間も敵は来るのだが、私達にとっては相手にならない敵だった。