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第六章:大戦を経験した者

ブレイズが運転する車で俺たちの家に着いたのは8時を回る頃だ。


ソフィア嬢達は何時の間にか寝てしまった。


しかし・・・それが良いかもしれない。


嫌な事は全て忘れられる。


眠る事で現実から逃げられるんだからな。


「・・・誰だ?」


家の前には赤い車が停められていた。


フェラーリか?


いや、よく見ればポルシェだな。


相棒以外に乗るとしたら・・・・・・・


「やっと帰り?ブルドッグ」


煙草を地面に捨て、靴底で踏み消して男前な女---エレーヌ・ヴィンフリードが出て来た。


俺と相棒が初めてパリで仕事をした依頼人であり、ヨーロッパのブラック・ウォーター社版とも言われたプリンセス・エリザベス社の社長でもある。


まぁ、俺と相棒を道化にした代償に右手を相棒に撃ち抜かれて“傷物”にされたが。


それからは腐れ縁と言うには早いが、色々と世話になっている。


どういう訳か、ここに居るし、足元の煙草を見れば、どれだけ居たのか判る。


「何の用だ?」


相棒は車から降りてソフィア嬢を抱き上げて、問い掛けた。


俺はクラリス嬢で、ブレイズがベルランテだ。


「一夜の相手をしたのに酷い言い草ね」


「相手をした?俺が相手をしてやったの間違いだ」


「ふんっ。それより・・・ラジオは聞いた?」


「あぁ。ネオナチだろ」


「えぇ。私の会社も被害を受けたわ。何故だと思う?」


「俺と関係があるからか?」


「それもあるわね。何せ、あんたは私の“犬”だもの」


『プッ』


俺とブレイズは思わず笑った。


犬・・・顔は確かにブルドッグだから間違いないが・・・・・・・・・


「生憎と戦争の犬だが、飼い犬じゃない」


「ッ・・・・あんたは私の犬よ。それより誰よ。その女」


「誰だって良いだろう。邪魔だ」


相棒はドアの前に立つエレーヌを乱暴に退かすと、ドアを開けようとした。


「・・・・・・相棒」


「おう」


俺はクラリス嬢をブレイズに任せて裏口へと回る。


「・・・・・・」


裏口を僅かに開けて見るが、ワイヤーが引っ掛かっていた。


開けた途端にボンッ、か。


たっく・・・だから、爆破テロリストは嫌いだ。


ナイフでワイヤーを切り、一安心と言いたい所だが・・・・あの狂犬の事だからまだあるだろう。


静かに中に入り、探して見ると色々な所にあった。


嫌がらせに等しい数だ。


それとも・・・自分を敵に回した事を後悔させたいのかもしれないな。


しかし、それはこっちの台詞だ。


俺と相棒を敵に回したんだ・・・・容赦しねぇ。


とは言え全ての仕掛けを外すのに時間は結構、掛った。


「・・・やれやれだ」


相棒は3人をベッドに寝かせて降りて来ると息を吐いた。


「まったくだ。しかし、あいつは何なんだ?幾ら俺達に怨みがあるとは言え、ネオナチまで巻き込むか?」


「実は、それについて有力な情報があるんだよ」


ブレイズが手を上げた。


「何だ?」


相棒が訊ねるとブレイズは話し始めた。


「俺の伝手で来た情報何ですけど・・・・最近、ネオナチの間では“総統閣下”と呼ばれる老人が居るそうです」


総統閣下?


「総統って、あのちょび髭が生えた伍長でしょ?」


エレーヌが訊ねるとブレイズは頷いた。


「えぇ。まぁ、これはネオナチの大半が当たる事ですけど、そのちょび髭伍長はベルリンで死にましたけど・・・・代わりと言えるナチスはまだ居ます」


「ああ、WWⅡ時代を生き抜いたナチ高官、か。しかし、大抵は死んだか隠居暮らしだろ?」


俺が言えばブレイズは頷いたが、こうも言った。


「だが、中には未だに第3帝国を築こうと考えている奴も居る」


「その話なら私も聞いたわね。確か・・・・東部前線に出た老人とか」


「それなら私も知っているよ」


ドアが開いて杖を持った老人---ゴダール大佐が現れた。


「お久し振りと言えば良いかな?ミス・エレーヌ」


「えぇ。お久し振りね。ムッシュ・ゴダール」


「やぁ、ベルトラン伯爵、ショウ少佐、ブレイズ君」


大佐は俺達にも挨拶を交わすと、上を見た。


「私の孫たちは2階だね?」


「もう養女にしたのか」


相棒がジタンを吸いながら言うと大佐は頷いた。


「失礼な言い方だが、店は潰れた。壊れたとあっては直すだろう。しかし、借金もあるんだ。ここは養女とするべき、と私は思う」


「まぁ、それが得策だろうな」


「それはそうと・・・狂犬が来たのかい?」


「あぁ。ソフィアの店を爆破しやがった」


「なるほど・・・私の方にも手紙が来たよ」


大佐が手紙を渡して来た。


中身はこうだ。


『薄汚いジョンブル共に味方する者達に告ぐ。

 我々の神聖な独立運動を邪魔した事は万死に値する。

 これから貴様等を真綿で絞めるように殺してやるから、せいぜい神様にでも祈っていろ』


「何処の三文小説だ?こんな内容は今時の餓鬼でも書かないぞ」


『言えてる(わ、な、ぜ)』


三人揃って頷く。


「まったくだ。しかし・・・・厄介な相手だよ。礼儀も知らん餓鬼共からは実戦経験のある先輩、として尊敬されている」


「ネオナチ、か」


「その通りだよ。餓鬼共を締め上げて聞き出せたのは、ミス・エレーヌが言った通り東部前線で戦った老人だ」


「あんたの網に引っ掛からないのか?大戦後、外人部隊にはナチスが入ったんだろ?」


第二次世界大戦後、植民地問題なども抱えていたフランスはナチスに所属していた大量の兵士を外人部隊に受け入れた過去がある。


となれば、大佐の戦友も居るだろう、と判断した事には頷ける。


「生憎と皆、戦死したよ。まぁ、私が戦死させた奴も居るが」


「そうか。まぁ、東部前線を戦った奴等は・・・ソ連に引き渡されたからな」


「その通りだよ。そして最後は・・・・分かるだろ?」


「大半が収容所で強制労働、虐待などで死亡、ですよね?」


エレーヌが言うと大佐は頷いた。


「あぁ。スターリングラードの戦いで降伏した“第6軍”の9万6千人の内、生きて祖国に帰れたのは6千人だ。雪道を徒歩で捕虜収容所まで向かった」


その中でも凍傷で死んだり、ソ連兵に殺されたりした。


降伏する前に空軍などに救出されたが・・・・・・・・・・


「空軍に救出されたのか、または収容所から生きて帰ったのか・・・どちらかは分からない。しかし、そんな経験をした老人だ。餓鬼共が崇拝するには十分じゃないか?」


『確かに』


俺たちは口を揃えて断言した。


何処の国でも捕虜を虐待したり、降伏した兵士を殺す、女を犯す、などは当たり前のようにある。


先進国とされている国だって、そうだ。


それ以前の戦いとなれば、もう分かり切った事だな。


東部前線はそれが顕著に出ていると言える。


相手が相手だから、そうかもしれないが。


そんな地獄を味わったんだから・・・戦争を知らない餓鬼が崇拝するのは納得できる。


「しかし、それだけでは難しいな」


相棒はジタンを揉み消して喋った。


「あぁ。だが、先ず言える事は、彼女達を安全な場所に移す事だ」


ここも安全ではない、と暗に大佐は言っている。


「そうだな。それはそうと、大佐。こいつを知らないか?」


相棒がモーゼルを大佐に投げる。


「!?こ、これを何処で?!」


大佐は渡されたモーゼルを見て驚いた。


「ソフィアの話では家に届いたらしい」


「ソフィアの家に・・・・いや、そんな筈は・・・・・だが、噂では・・・・・・・・・」


「何か知っているのか?」


「・・・あぁ。知っているとも。ベルトラン、すまないが・・・君の屋敷に連れて行ってくれないか?それからミス・エレーヌ。君のお爺様も呼んでくれ」


「それは構わないけど、何がどうなっているの?」


「・・・・この銃は、第二次世界大戦を経験した者だけが知っているのだよ」


『?』


その意味を俺たちは知らないから首を傾げるばかりだった。


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