表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/70

第五章:狂犬と十字

ル・シャ・ノワールへ戻ったのは夕方の6時くらいだった。


ソフィアたちは車の銃痕と道路を走って見える惨劇の跡に言葉を失っている。


俺にとっては戦場と変わらない光景だ。


しかし、彼女達に衝撃的だろう。


「・・・着いたぞ」


ドアを開けて俺は3人を降ろす。


「・・・・・・・」


何か気配を感じた。


店の中からだ。


「・・・ソフィア、車の運転は出来ないんだよな?」


「え、えぇ・・・そうですけど」


「・・・・もし、店の中から音がしたら走って逃げろ。良いな」


「べ、ベルトランさんは・・・・・・・・」


「良いから言う通りにしろ」


俺はそれだけ言うと懐からコルト・パイソンを取り出した。


弾倉ラッチを引いて6発ある実弾を確認して戻した。


「そ、その銃は・・・・・・・」


「・・・・・・・」


俺は自嘲してから店の裏口から潜入した。


気配はまだある。


しかし、俺には気付いていない。


誰だ?


さっきの奴等か・・・・・・・・


あり得なくはない。


何者かは知らないが・・・痛い眼に合わせてやる。


気配がする方向へ進んで行く。


あっちは確か・・・・・・・・


なるほど。


あれが狙いか。


俺は壁から顔を出した。


背を向けた男が箱を乱暴に開けて中身を取り出す。


「こいつ、か・・・・これで莫大な資金は・・・・・・・!?」


「・・・・動くなよ。動くと頭がポップ・コーンみたいに弾けるぞ」


ガチリ・・・・・・


撃鉄を起こし俺は言った。


「てめぇ・・・ベルトラン・デュ・ゲクランだな?」


背中を向けていた男が、僅かに顔を動かして振り返る。


「あぁ。そういう・・・てめぇは?」


「てめぇと同じ犬の名前を持つ」


「・・・狂犬、か」


IRAの武闘派の中でも爆破技術に関しては最高と謳われているが、その過激さから内部でも問題視されている。


顔を狂犬は向けた。


顎と口に髭を生やして、眼鏡を掛けている。


何処にでも居そうな感じだが、眼を見れば“人殺し”の眼だと判る。


「前の件では世話になったな」


「いいや。こっちも、あんたの仲間には世話になった」


「ふんっ。イギリスと和平など下らない戯言を言う奴を仲間と思った事はない」


ギッ・・・・・・・


血走った顔を俺に向ける。


「オリビアも馬鹿な奴だ。お前らみたいな東洋人に協力して逃げたんだからな!!」


「あの女は気付いたんだよ。民衆が平和を望んでいる、と」


「ふざけるな。独立もせずに平和を望むなど有り得ない!!」


「あくまで独立を支持する、か。それは否定しないが、一般人も纏めて殺すのは外道だぜ」


少なくとも初代IRAのメンバーは一般市民を巻き込むような真似はしていない。


「外道?てめぇが言えた身分かよ?!金の為には人殺しをする傭兵のてめぇが!!」


「・・・言えないな」


「だろうな。だが、俺と貴様の違いはな・・・・祖国の為か金の違いだよ!!」


狂犬が後ろ足で蹴りを入れて来た。


「ちっ」


蹴りは避けたが奴はモーゼルを握って逃げようとする。


「弾けてみるか!!」


パイソンの引き金を引いた。


オレンジ色の閃光を放ち、38スペシャル弾が奴の手を撃ち、モーゼルを落とさせる。


「ちっ・・・・くそっ」


拾おうとする狂犬に、もう一発撃った。


狂犬は撃たれた手---左手から血を流したまま食品サンプルが飾ってある窓ガラスを破り外に逃げた。


「逃がすかよ・・・・・・・」


僅かに上がった銃口を戻し、照準を定め引き金に指を掛けようとした時だ。


「ベルトランさん!!」


ソフィアが俺の背中に立った。


「・・・逃げろ、と言った筈だぞ」


パイソンを仕舞ってから俺は言った。


「で、でも・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


モーゼルを黙って俺は疲労。


「その銃は・・・・・・」


「箱に入っていた・・・・外に出ろ!!」


急いでソフィアの手を握り裏口へ走る。


「え?!」


くそっ。


忘れていたぜ。


あいつの特技が爆破だと・・・・・・・・・・


裏口に出ると、クラリスとべランテが居た。


「伏せろ!!」


ソフィア共々押し倒して覆い被さった。


同時に爆発が背後からする。


くそったれが・・・・・・・


店ごと爆破する気だったのかよ。


べトンや木材の破片などが覆い被さって来る。


それでも俺は3人を護るように覆い被さり続けた。

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

「・・・嘘だろ」


ブレイズが目の前の光景に唖然としていた。


俺も目の前の光景---ル・シャ・ノワールの残骸に言葉を失う。


「何が遭ったんだよ」


「・・・爆破、だな」


俺は欠片となった物を拾い、ブレイズに投げた。


「・・・・・狂犬、か」


「だろうな。こんだけ派手に爆破する奴はヨーロッパが広くとも・・・・そいつ位だ」


「何の為にだ?ここは関係ないだろ」


「相棒が居たから。そんな理由かも知れないぜ」


「それだけの為に・・・・店を丸ごと吹き飛ばす、か。だから、テロリストは嫌いなんだ」


「俺もだ」


「で、兄貴たちは?」


『・・・ここだ』


相棒の声が瓦礫の中から聞こえて、瓦礫の山が崩れ落ちて行く。


「化物かよ。お前は・・・なるほど」


直ぐに俺は納得した。


車の下に潜り込んだ訳か。


爆発ってのは上と横に広がる。


だから、下に逃げれば安全だ。


となれば車の下に潜り込めば良い。


爆発で上の部分は捥ぎ取られるからな。


とは言え・・・3人も纏めて入れた上に瓦礫の山に耐えたんだから化物と言える。


「うるせぇ。たっく・・・狂犬が」


ぺっ、と相棒は唾を吐きながらソフィア嬢達を起こす。


「・・・・店が」


「・・・・・・」


3人は見るも無残な光景に言葉を失っている。


両親から貰った店、そして家財道具なども全て失った。


・・・・絶望するのも無理はない。


「・・・取り敢えず俺の家に来い」


相棒はソフィア嬢に話し掛ける。


「でも・・・・・・・」


「警察には俺から言っておく。先ずは離れる」


「・・・・はい」


涙を流しながらソフィア嬢は頷いた。


自分がシッカリしなければならない。


そう思っているのだろうが、涙は枯れない。


ベルランテに到っては鼻水まで垂らしている。


「坊主。男が人前で泣くのは良くないぞ」


「で、でも、おじちゃん・・・店が・・・・・・・・」


「確かに壊された。しかし、お前等は生きている。何れ・・・・元通りになるさ」


看板は無事だからな、と相棒は言った。


そう・・・・看板だけは無事だ。


看板だけは・・・・・・・・・


しかし、許せるもんじゃない。


これが独立の為か?


ふざけやがって・・・・・・・


俺は膝を擦り剥いて血を出しているクラリスに近付いて、ハンカチで拭ってから縛った。


「ムッシュ・ショウ・・・・・・・」


「すまないな・・・遅れて」


もう少し早く到着していれば、と思う。


妹みたいな彼女がこんな眼に遭ったんだ。


怒りも湧いて来る。


「兄貴たち、早く乗って下さい」


ブレイズはドアを開けて俺たちを誘った。


急いで乗り込んで家へ向かう。


相棒は後部座席に座り、ソフィア嬢は妹と弟を抱き締めている。


「・・・・ソフィア」


相棒が不意にソフィア嬢に話し掛けた。


「何でしょうか?」


ソフィア嬢が相棒を見る。


「こいつに覚えはあるか?」


相棒が見せたのはモーゼルM712だった。


古めかしい銃で、今じゃ貧乏人程度しか使わない。


「これは・・・・・・・・」


「送られてきた箱に入っていた。そして店を爆破した奴は、こいつを奪おうとしていた」


「これが一体・・・・・・」


「グリップを見てみろ」


「・・・ロレーヌ十字」


「レジスタンスのシンボルだ。いや、正確には自由フランス軍だな」


「でも、両親の話だと祖父母は普通の市民だったと・・・・・・・」


「まぁ、今は帰る事が先決だな。先ずは・・・・・・・・」


そう相棒は言ってソフィア嬢に自分の帽子を被せた。


・・・・自分の顔を見せたくなかったんだろうな。


憎悪に満ちた顔を・・・・・・・・・・・・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ