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第三章:新しいナチス

俺はソフィアの車---ルノー・カングー・エクスプレスを運転して、クラリスとベルランテの学校を目指していた。


「ベルトランさん、あの一体どうしたんですか?」


「・・・・・・・」


彼女の問いかけに俺は答えず黙って、ギアをチェンジして速度を上げた。


「・・・何か、遭ったんですか?」


「・・・・正確に言えば、これから遭遇するんだよ」


「どういう意味です?」


「店で言ったよな?誰かに見られている、と」


「え、えぇ。てっきり勘違いとばかり・・・・・・・」


「勘違いじゃない。明らかに見られていた」


「ど、どうして・・・・・・・」


「それは分からん」


ソフィアの店で寛いでいた最中も、奴等は店を監視していた。


それがどうも奇妙で、俺は自分から訊きに行った。


勿論、手荒な真似をして、な。


しかし、所詮は下っ端。


どう頑張っても聞き出せる情報など高が知れている。


となれば・・・・動くべきだ。


ソフィアの店に居たんだ。


ベルランテとクラリスの方も居る可能性が高い。


寧ろ・・・俺が動いたせいで、刺激を与えたのかもしれない。


そう思うと後悔・・・・などしないんだよ。


後悔した所で何も変わらない。


後悔する暇があれば、直ぐに動くべきだ。


今がその時だ。


「・・・・大丈夫、でしょうか?」


「少なくとも理性がある奴なら・・・・公の場で行動は起こさない」


「じ、じゃあ、理性が無い人だと・・・・・・・・・」


「誰に見られていようとやる」


その時、ラジオが耳に入った。


『現在、パリにおいて“ネオナチ”と名乗る集団が場所を問わず抗議運動を始めています。中には武装している者も居り、大変危険です。市民の皆さんはくれぐれも注意して外出を控えて下さい』


「・・・・亡霊紛い、か」


「ネオナチって、第二次世界大戦のナチス・ドイツの事、ですよね?」


ソフィアが俺に怯えた眼差しを向けて来る。


「正確に言えば違う。ネオナチは、元祖ナチスから言わせれば“歪んだ物”だ。しかし、奴等から言わせれば自分等はナチスの後継者だ」


ネオナチと言えば、誰もがソフィアの言う通り第二次世界大戦で猛威を振った・・・ナチスを思い浮かべるだろう。


実際、それもある。


ネオナチには2種類があるんだよ。


1つはナチスを復活させようと戦後になって出来たが、既に絶滅しているに等しい。


もう1つが民族主義者的な面を持つ奴らだ。


どちらかと言えば、後者は違う側面を持っているが・・・ネットなどが復旧した事で滅茶苦茶だ。


ラジオの放送だけでは判らないが、もし、奴等がそうだとすれば・・・・・・・不味いな。


「シッカリ捕まっていろ」


ギアを更にチェンジして速度を上げる。


「ベルランテ・・・クラリス・・・無事で居て」


ソフィアが両手を握り締めて祈りを捧げる。


「・・・祈りなんて無意味だ。今は、ただ2人の所へ行く事だけを頭に思い浮かべろ」


「ベルトランさん・・・・・・」


祈りなど捧げた所で無意味でしかない。


それを知っているが、言ってはいけない。


祈るのは本人の自由であり、強要などできないのだ。


それなのに言ってしまう辺り・・・・苛立っているな。


一般道路に出た。


頭を丸坊主にして黒一色の服を着た餓鬼共が銃などを持ち、警察とドンパチしている。


無法地帯か。


いや・・・何故か妙だ。


こんな事を真正面からしても勝てる訳が無い。


それなのにやっているのは何故だ?


・・・・・誰かが裏で糸を引いている証拠、だな。


誰かは知らないが・・・この娘と兄弟に手を出したら八つ裂きにしてやる。


奴等が俺の顔を見る。


銃口を向けて来た。


「・・・頭を低くしろ!!」


左手でソフィアの頭を掴み、強引に下げさせる。


同時に窓ガラスが割れる。


「きゃあ!?」


ソフィアが悲鳴を上げるが、俺は構わず抑えつける。


「そのまま低くしてろ・・・・・糞餓鬼が」


その後も銃弾が車を襲うが、何とか抜け出せた。


いきなりの発砲だが・・・有り得なくはない、と自分で思い直す。


何せ奴等は人種差別も混ざっているんだ。


白人至上主義の党なんかが最近ではアメリカに出来ていると聞いている。


そうなれば・・・有人色である俺を狙うのも頷けると言う物だが、腑に落ちない。


あれは明らかに俺を知っている眼だ。


怨みを買う事が多過ぎて分からんな。


「・・・もう良いぞ」


俺はソフィアを抑えていた手を退けた。


「・・・・・・・・」


ソフィアは無言で伏せていた顔を上げる。


恐怖が滲み出ていた。


「・・・・・・・・」


何も言わずに俺は運転を続ける。


慰めたい気持ちもあるが、今は2人の事が心配だ。


「・・・ベルトランさん、怪我は」


「無い」


「血、血が出ているじゃないですか!!」


言われて初めて気付いた。


手から血が出ている。


ガラスの破片が刺さったんだな。


小さくて痛みすら感じなかった。


「これ位は良い。それより今は2人の迎えだ」


「で、でも・・・・・・・・・」


「これ位の傷は良いんだよ。お前さんみたいに嫁入り前なら話は別だが」


「・・・・・・・」


些か意地悪な言葉を言ったな。


ソフィアは少し怒った顔をする。


こんな時にする表情じゃない。


しかし、それだけ平和な生活を送って来たんだと思い知らされる。


やはり・・・・俺とでは無理だ。


なんて思っている間に到着した。


幸い2人の学校は隣だから、助かったと言える。


『お姉ちゃん!!』


2人は下校する途中だったのか、ソフィアの姿を見て駆け寄る。


「2人も怪我は無い?」


出来るだけ落ち着いた声でソフィアは問い掛ける。


下校途中で玄関から出て来たばかりだ。


安全と言えるが・・・肉親の情で、心配なんだろうな。


「大丈夫だけど、何か遭ったの?」


クラリスがソフィアの様子を見て眉を顰める。


「先生から言われなかった?暴徒が暴れているって」


「・・・・言われた。まさか、お姉ちゃん」


「私は大丈夫。ベルトランさんが居たから」


ソフィアが俺を見るが、俺は煙草---ジタンを吹かして見ない。


それ所か奴等が居ないか警戒していた。


「・・・・糞餓鬼が。礼儀と言う物を知らないな」


俺も人様の事は言えない身だが、今回ばかりは言わせてもらう。


礼儀を知らない。


PiPiPi


「俺だ」


携帯を取り出して出る。


『相棒か?おい、パリで何が起こってるんだ?こっちとら仕事を終えて帰る途端に、名も知らない餓鬼共から銃弾の洗礼を受けたぜ』


「被害は?」


『車がパンクした。予備タイヤで何とかなるが・・・・面倒だな』


「というと?」


『IRAの手口だった』


「・・・・・・」


『俺の推測だが、あれじゃねぇか?前の件で出た・・・・・・・』


「狂犬、か」


IRAの武闘派に属する狂犬。


本名および年齢などは不明だが、爆発技術に関しては良いらしい。


しかし、過激すぎる。


1人を殺すのに10人殺す、なんて揶揄されるからな。


ターゲットが誰なのか・・・・分からないようにする為もあるだろうが、いけない事だ。


そいつがネオナチの餓鬼共を扇動しているのか?


いや、違う。


俺の勘が告げていた。


もっと上の奴等が動いている。


「後どれ位で帰れる?」


『少なくとも数時間は戻れない。また、こんな洗練があるかもしれないからな。そっちは?』


「ソフィアたちは無事だ。ただ、車を傷付けられた」


『車で良かったな。OK。分かった・・・じゃあ、帰ったら会議でもするか』


「そうだな。そうしろ。ブレイズも参加させるか?」


『本人も参加する気満々だ』


「そいつは結構だ。では、後ほど」


『あぁ。後ほど』


携帯を切り、ジタンを揉み消してバラバラにする。


そして3人を乗せて帰る。


勿論・・・・来た道とは違う道で、な。


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