第二章:大佐の出撃
「何?野蛮人が暴れているだと?」
私は憩いの場所で1人、寛いでいたが軍曹の言葉で台無しにされた。
「はっ。何でも各地で暴れている様子です」
「ふんっ。忌々しい・・・半世紀前に痛めつけたと言うのにまだ懲りないか」
沸々と私の心はマグマのように煮え滾って来る。
半世紀前---第二次世界大戦で我国は、“クラウツ”(ドイツ兵の蔑称で直訳すればキャベツ野郎)に蹂躙された。
それを追い出したのに、またやって来るとは・・・・・・・・・
いや、違うな。
今のクラウツは、ただの犯罪者だ。
私と変わらない・・・・ただの犯罪者でしかない。
犯罪者だからこそ性質が悪いな。
「どうなさいますか?」
「知れた事。餓鬼共に“戦争”を教えてやれ」
私を怒らせたんだ。
そして戦争も知らないくせに軍人気どりをする代償を払わせてやる。
「畏まりました。それでしたら、ベルトラン達にも連絡しますか?」
「いや、良い」
私は軍曹の進言を退けた。
「宜しいのですか?」
「あぁ。恐らく彼の方も情報は入っているだろう」
「でしたら、尚更・・・・・・・」
「だからこそだよ。彼の性格上・・・・自分の大切な人物を護る為に傍に居るだろう」
彼の性格はプロフィールなどを見る限りこうだ。
勝つ為なら手段を選ばないタイプであるが、ロマンチストで極度な程に臆病である。
これが私の出した結論だ。
そんな彼だ。
ソフィア嬢達の傍に居る事だろう。
そうなれば必然と根拠のない人種差別を掲げる餓鬼共が来たら・・・・・問答無用で倒す事であろう。
それで十分だ。
「分かりました。ですが、念の為・・・・こちらからも兵を出しておきますか?」
「そうだな。そうしてくれ。彼等の力を過小評価する気はないが、“備えあれば憂いなし”と言う日本の諺もあるからな」
「確かに。それで大佐はどうなさいますか?」
「・・・久し振りに前線に出るか」
「・・・・・・」
それを見た軍曹は、かつてアルジェリアで見せた眼であった。
「嬉しいか?軍曹」
かつて私の上官が、当時まだ駆け出しの少尉に言った言葉を軍曹に言う。
「勿論です」
返事も私と同じだった。
「そうか。では、行こうか。戦争を知らん餓鬼共に“教育”をしてやろう」
戦争の先輩として、な。
「はっ!!」
「では、直ぐに用意しろ。ソフィア嬢の所へ行く部下の人数は・・・・“小隊”で頼む」
30人程度の小隊なら十分過ぎるだろう。
「了解」
そう言って軍曹は去って行く。
「・・・・・」
私は椅子から立ち上がり書斎へ向かった。
書斎の本棚の3番目にある本の一冊を斜めに動かす。
すると本棚が横に動いた。
横に動かされた本棚の背中には、かつて私が愛用していた武器がある。
と言ってもフランス製は無い。
生憎と我が国の銃火器は・・・・ドイツやアメリカに比べれば劣るからな。
まぁ、緒戦で降伏して新ドイツ派などに別れたのも理由であるが、な。
私の場合は戦場で渡り歩き気に入った物を使用していた。
幸い銃などの弾は9mmだから、補充に困った事は無い。
「さぁて・・・・行くか」
懐かしい私の恋人たちよ。
老いぼれた私だが、どうか付き合ってくれ。
これからダンスを始めるんだ。
死のワルツを、ね。
「・・・・・・・」
彼女達は何も言わないが、黙って自身の身体を輝かせる。
用意は出来ている、と告げていた。
「ありがとう。それでこそ私が愛した恋人たちだ」
私は拳銃を手に取った。
“ワルサーP38”だ。
ドイツが“ルガーP08”の代わりに採用した代物で、現在のダブルアクションの基礎を築き上げた名銃である。
些か繊細なきらいはあるが、ちゃんと整備さえすれば作動する。
マガジンを抜いて9mmパラベラム弾がある事を確認した。
次はライフルだ。
どれを取る?
「ふぅむ・・・“トミーガン”は趣味じゃないな。かと言ってM40も些か、な・・・・・・・・・」
よし、と私は言いライフルを手に取る。
AK-47に形が似ているライフルは、地獄の東部戦線でイワン共を相手に活躍したばかりか次世代のアサルトライフルに多大な影響を与えたとされている。
“ハーネルStg44”
ハーネル社が開発した自動式小銃だ。
AK-47は、これをモデルにしたとも言われており形を見れば納得もするだろう。
第二次世界大戦終了後は、AK-47と似たような物で私のような“テロリスト”達に使われている。
それが兵器の進む道と言えば・・・・そうであろうな。
「これを使うのも久し振りだな。イワンの血を吸ったが、今度はクラウツの血を吸わせよう」
いや、クラウツはドイツだが、今度の相手は違うな。
奴等は人種と言う物が無い。
少なくとも亡霊は“ゲルマン人”という人種に拘りを持っていた。
部隊編成などではゲルマン人ではない者も居るが、それは仕方ない事だ。
しかし、餓鬼共は違う。
ただ、単に自分達に仕事口が無い事に怒りを覚えているだけに過ぎない。
要は“八つ当たり”なのだ。
そんな餓鬼共だから赤とも手を結ぶし、何でもありだ。
節操無しとは餓鬼共を指すのだろうな。
私の時代は厳しかったが、自由な時代も問題だ。
「まぁ良いか・・・これから思う存分に教育してやるのだからな」
マガジンを取り、弾数を確認してから私は書斎を出た。
そして出口に行くと既に準備を終えた部下達が待っていた。
「大佐、全員用意は出来ました。しかし、もう既に小隊は出発しております」
「結構だ。それで軍曹、私たちの任務は?」
「諸君、我々第1外人落下傘連隊の任務は何だ?」
『敵を殲滅する事』
「宜しい。では、諸君・・・何も知らない餓鬼どもを教育してやろう。ただし、民間人には手を出さず姿も見せるな。我々は、あくまで消えたのだ。正規軍ではない」
『しかし、我々はフランスの為に存在する』
「その通りだ。アルジェリアが独立し、我が隊は解体された。しかし、我らの弟分と言える第2連隊は残された。ド・ゴール大統領に感謝する積りは無い。だが、我々の心は今もフランスの為にある」
『第1外人落下傘連隊万歳!!』
「出撃だ!各自、分隊で行動し奴等を皆殺しにしてしまえ!!」
私は部下達を出発させた。
「軍曹、我々も行くぞ」
「はっ。大佐」
軍曹が後部座席を開けて私は中に入る。
「私たちは、どの地点に参りますか?」
「奴等は何処に出現している?全ての地区か?」
「はっ。小規模もあれば中規模もあります。しかし、何れは大規模な数となるでしょう」
「武器は?」
「拳銃、小銃、手榴弾と火炎瓶、果ては対戦車火器まであります」
「・・・私たちからではない別ルートで手に入れたか」
「その点は調べてあります。どうやら・・・・・アイルランド人の手を借りたようです」
「アイルランド人の?ああ・・・・この前の件か」
「左様です。どうやら我々に報復する気だそうです」
「高が都市型ゲリラが生意気な。そいつは何者だ?」
「別名を“狂犬”と言います。和平派を仇敵と称し、1人の人物を殺すのに数十人まとめて爆破で殺す糞野郎です」
「これだから自爆テロは嫌いだ。スマートじゃない。そして糞以下だ」
「仰る通りです。では、先ずそいつを?」
「そうだな・・・・先ずは、その馬鹿者を殺す。ルートを潰し、奴等の補給を断つ。その後で料理してやる」
「了解です」
軍曹はエンジンを始動させて出発した。
「・・・・・むっ」
私は携帯が鳴ったので出た。
『大佐、いま何処だ?』
「ベルトラン少佐か。何か用かい?」
『あんたの方で、変な奴等は見なかったか?』
「居るさ。戦争を知らん餓鬼共だ。その口ぶりから察するに・・・出たのか?」
『あぁ。出た。追っ払ったが・・・・あれは、また来る。今はソフィアと共に兄弟を迎えに行っている最中だ』
「それは結構だ」
何せ私の命を救ってくれた・・・・女神の面影を残しているのだからな。
それでなくても、素晴らしい女性だ。
護らなくては男が廃る。
『それはそうと、養女にするのか?』
「いけないか?あんな素敵な女性だ。このままにしておくのは紳士ではない」
『確かに。まぁ、そういう事だ。一段落したら話そう。そうだな・・・屋敷で会おう。先に行っていても構わない』
「感謝する。では、後ほど」
私は携帯を切り軍曹に急ぐように命じた。




