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第一章:ロレーヌ十字

今回の話で、この物語は終わります。


ソフィアの出生を今回は物語にしますが、傭兵の国盗り物語に繋がる予定です。

12月4日、もう直ぐ冬の季節となる。


花の都と謳われているパリも、また肌寒く成り始めた。


まぁ、こればかりは仕方ないだろう。


そう思いながら俺はソファーに寝転んで煙草を蒸かしている。


相棒はブレイズと少し仕事で居ない。


俺の場合は?


見れば分かるだろう。


現在、一人で休日を堪能している。


ソファーに寝転んで煙草を蒸かして休日を堪能しているのか、と言われた事もある。


しかし、休日の過ごし方なんて人によって違う。


それを言われる筋合いは無い、という物だ。


とは言え、暇なのも事実ではある。


「・・・散歩でもするか」


何処に行く訳でも無い。


ただ、歩くだけだ。


それでも習慣として武器は手にする。


何時もなら愛銃のコルトM1911A1をホルスターに入れている所だ。


しかし、先日の依頼で相棒が意趣返しとばかりに・・・・病院送りにしたせいで代用品で賄っている。


まったく俺の恋人は打たれ強いから良かった物の・・・もう少し丁寧に扱えってんだ。


何て思いながらリボルバーをホルスターに仕舞った。


代わりの銃はコルト社が開発したリボルバーのロールスロイスと言われる“コルト357マグナム”だ。


本名はパイソンと蛇の名前だ。


弾は38スペシャル弾と357マグナムを6発撃てる。


今、装填している弾は38スペシャル弾だ。


こんな街中ではマグナム弾など使用しない。


いや、するとしても余り使わない。


何故か?


金が無いんだよ。


マグナム弾は強力だが、弾代も馬鹿にならないからな。


コートを羽織り更に帽子を被った。


ボギーみたいにソフト帽が良いんだが、女に持って行かれたからハンチング帽で代用だ。


『貴方の形見が欲しいの』


だからって、ソフト帽を持って行くな。


まぁ、無いから仕方ないが。


俺は帽子を被り家を出た。


そして当てもなく歩き出したが、足は自然と女神の家へ向かう。


ちっ・・・・何で行くんだよ。


彼女に会う理由が無い。


それなのに、どうして行く?


考えたが分からない。


そして、そのまま着いてしまった。


「・・・パンでも買う、か」


ここまで来て帰るのも嫌なので、パンでも買おうと足を進めた時だ。


「・・・・誰だ?」


店の周りをウロウロと歩き回る餓鬼が数名居る。


しかも、懐が膨らんでいる所を見ると、強盗か何かの類いだろう。


だが、その割には様子が変だ。


さっきから、ずっとソフィアの居る店しか見ていない。


・・・・気に入らない。


俺は店に進んだ。


奴等の視線が俺の背中に感じるが、窓越しに見る限り様子見だな。


ドアを開けて中に入る。


「いらっしゃいませ。ル・シャ・ノワール・・・ベルトランさん!!」


相変わらず可愛い声で客を迎えようと出て来た女神---ソフィアは俺を見て驚く。


「パンを買いに来た」


ぶっきら棒に言う。


「え?あ、あの・・・・・」


「何だ?俺みたいな男には売れないのか?」


我ながら酷い言葉を言うな、と思ってしまう。


俺みたいな男に売るパンが無いなら、毎朝届けたりしない。


「そ、そういう訳では・・・・・・・・・」


「じゃあ、何だ?」


「そ、その、昼間に来るのが珍しくて・・・・・・・・・」


「会社が休みだからな。それに偶にはパンを食いたくなった」


「そ、そうですか・・・・あの、何でしたら、ここで食事をしませんか?」


客は何時も通り来ないらしい。


「・・・良いだろう」


後ろの奴等も気になるし、ちょうど良い。


「それじゃ、来て下さい」


女神は俺の手を掴もうと手を伸ばしたが、結局は掴めずに案内するように手を部屋の奥へ指す。


俺はそのまま中へと入る。


「あの、飲み物はコーヒーで良いですか?」


「あぁ。ブラックで頼む」


帽子を脱いで俺は言う。


「はい、あのベルトランさん・・・・・・」


「何だ?」


女神はコーヒーを淹れながら俺に話し掛けて来る。


「あの、この前、老人を助けたんです」


「老人?」


「はい。杖を落として難儀していたんです。それで助けたんです」


そしたら、そのお礼とばかりに自分と妹に弟を食事に招待してくれたと言う。


ああ、大佐か。


いやはや俺と同じく芝居かかった事が好きだな。


「良かったじゃないか」


「そうなんですけど、その後で言われたんです」


自分の養女にならないか?


「・・・本当か?」


流石にそこまでするとは思っていなかった。


「はい。何でも私が、その老人がかつて愛した女性に似ているから、と言われたんです」


誰だよ、その女は?


「それで?」


「答えはまだ出していません。ただ、借金の事もありますし、クラリスやベルランテの意見も聞いてないので・・・・・・・」


「なるほど。で、お前としてはどうなんだ?」


「・・・正直、魅力的です」


大学に行く学費も出してくれる、と言われたらしい。


「良いじゃないか。勉強をしたいんだろ?」


「そうなんですけど、親から受け継いだ店を畳むのも・・・・・・・・」


「・・・俺に親は居ない。だから、形見と呼べる代物も無い」


前に話したから、女神は無言でコーヒーを差し出した。


「他人である俺に、お前の気持ちは解からない。だがな・・・・親なら子が幸せになる事を第一に考えると思うぞ」


こんな言葉は俺が言っても説得力が無い。


何故なら、子の幸せより自分の幸せを優先する親を何人も見て来たからだ。


だったら、子供など作るな、と言いたい。


そんな糞親共を見て来たから、この言葉に説得力など無い。


「・・・・・・・」


女神は黙って腰を下ろす。


「老人は何時まで返事を出せと?」


「決まったら電話しろ、と言われました」


「つまり何時でも良い、という訳か」


「はい。あの、それで、話は変わるんですけど、良いですか?」


「何だ?」


「実は、ここ最近の事なんですが・・・誰かに見られている気がするんです」


ほぉう・・・気付いていたか。


「最初の頃は違う、と思っていたんですけど・・・・最近はそうじゃない、と思うんです」


「何か心当たりは?」


「無いです。父も母も人から怨まれる事はしてないので」


だろうな・・・・・何せ善人だ。


「そうか。それで何か送られたりしなかったか?」


「それは・・・・あります。一度だけ」


今日、届いたらしい。


「中身は?」


「まだ、開けてないんです。何だか怖くて・・・・・・・」


「・・・・持って来てみろ」


爆弾、かもしれない。


「・・・ちょっと待っていて下さい」


女神は2階へと行き、箱を持って来た。


「・・・少し離れていろ」


女神を店の方へ行かせて俺はナイフでテープを切る。


音は聞こえない。


時限爆弾ではない、か?


それとも開けたら爆発する物か?


どちらかは分からないが慎重にナイフで開けていく。


そして、中身を見る。


白い布で包まれている物が出た。


「・・・・・・」


布を退かして見ると・・・1丁の銃があった。


「“モーゼルM712”じゃねぇか」


モーゼルM712とはドイツの老舗銃器メーカーであるモーゼル社が1986年に開発した拳銃だ。


バリエーションも結構あるが、生産国のドイツでは正式採用された事は無い。


あくまで補助用兵器としてSSなどに配置されただけだ。


まぁ、これだけ重くて大きい上に複雑な銃を、全兵士に行き渡らせるのは無理だから仕方ない。


とは言え“チャーチル”や“チトー”などの著名人も使っていたし、その威力は保障されている。


個人で持つなら問題ないだろう。


しかし、何でこれが?


「・・・こいつは」


モーゼルのグリップを見て俺は眼を細める。


モーゼルはパズルみたいな物だ。


それだけ複雑な仕組みだが、身体に染み込ませれば眼隠しされても出来る。


その上、ネジがグリップを留める場所にしかないのも特徴と言えるな。


そんなグリップを留めているネジだが・・・・十字架が描かれていた。


普通の十字架ではない。


上にもう一本の横線がある。


「・・・・レジスタンスのシンボル---“ロレーヌ十字”か」


ロレーヌ十字は第二次世界大戦で、ナチスに抵抗したフランスの地下組織とも言えるレジスタンスの証だ。


もっとも“自由フランス軍”の証と言った方が正しいか。


それはそうと、何故これが?


「・・・・・」


俺はモーゼルを箱に仕舞い、ソフィアの居る場所へ向かった。


それが彼女と兄弟の人生を大きく変える事を、まだ俺は知る由もなかった。


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