第十八章:武器を調達
武器屋はオリビアの言う通り数キロ先にあった。
周りは民家などであるが、電機は点いていない。
オリビアは車から降りると、裏口へ回りドアノブをヘアピン2本で開けた。
「これもIRAで覚えたの」
「そいつは凄いな」
14歳で裏世界に入ったのだから、それ位は朝飯前か、と思うが・・・こんな事を覚える必要など無いと言いたくなる。
しかし、敢えて口には出さない。
俺が言った所で何の意味も成さないのは知っている。
彼女に言えるのは・・・同じ立場に居る人間くらいだ。
知った風に言うのは人間のエゴでしかない。
ドアが無機質な音を立てて、開いた。
そのまま滑り込むようにして中へ入り、ドアを閉じる。
これで・・・表では誰も居ない、という事になるだろう。
防犯カメラが無い事は確認できた。
中はどうだ?
監視カメラは・・・・・・・・・・
「これで終わり」
オリビアは得意気に笑った。
監視カメラはスプレーで全て黒く塗られている。
しかも、死角から・・・・完全な動きだ。
「何をしているの?武器を選びなさい」
まるで弟に言うかの如くオリビアは俺に言ってきた。
「あ、はい」
俺は急いで武器を探し出す。
と言っても市販の武器などはセミオート限定だ。
フルオートなど犯罪者の手に渡れば犯罪に使われるのは明白だからな。
しかし・・・・どれを選ぶかな?
色々とあり過ぎて迷うぜ。
「何が良いんだ?」
「そうね・・・これなんてどう?」
オリビアが俺に渡したのはSMGだった。
しかも、かなり古い。
「“ワルサーMPL”なんて古過ぎないか?」
ワルサーMPLは御存じドイツの老舗銃器メーカーであるワルサー社が開発したSMGだ。
1963年に開発されたSMGだが、同じドイツメーカーであるH&K MP5に比べて安価である。
ML5が高価で高性能に対して、こちらは低価格で資金に乏しい客に売ろうとしていた。
ドイツの州警察と南米などに輸出されて、まずまずの成功を収めたがMP5の方が売れて行くと徐々に姿を消して行く。
1972年のパレスチナゲリラ--―“黒い9月”による“ミュンヘンオリンピック事件”で西ドイツ警察がこれを持った所を写真に撮られて不名誉な象徴となった。
あんまりと言えば、あんまりだが・・・時代がMP5のようなSMGを求めていたから仕方ない結果と言える。
それにしても、と思う。
「何で、これ?」
「特に理由は無いわ。でも、それは撃った経験があるから勧めたの」
「そう・・・まぁ良いや」
これならフルオートに改造するのも容易だから問題ない。
後は弾などだな。
幸い9mmはヨーロッパが主流だから、腐るほどある。
その他には使えそうな物を取る。
時間は10分程度だった。
そして素早く出て車に戻り出発する。
「それじゃ次は兄貴たちと合流だな」
「えぇ。あの2人なら大丈夫とは思うけど・・・・急がないと、ね」
「そうだな」
俺はワルサーMPLではなくAR-18を手に持ち、煙草を銜えた。
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「・・・そうか。分かった」
相棒は車を運転しながら携帯で、007と電話をしていた。
「何だって?」
携帯を懐に仕舞った相棒に俺は訊ねた。
「あいつは間違いなく本物だった」
「あれで?嘘だろ?」
あんな奴が正真正銘のS.A.Sなど信じたくない。
仮にも世界の特殊部隊の元祖とも言えるS.A.Sだぞ。
それなのに・・・あんな下種が入れるなど・・・・・・・・・
「本当だ。と言っても直ぐに強制除隊させられたがな」
「あの性格で、か?」
「そうだ。しかし、S.A.Sも落ちたな。あんな奴を試験で合格させるんだからな」
「まぁな。それで居所は?」
「ここから数キロ先の港だ。そこで取引するらしい」
「相手は?」
「イギリス政府だ」
IRAとの血で血を洗う抗争は終わった。
だが、それを良く思わないのは両方に居る。
所謂“タカ派”と言われる奴らだ。
「その品物で大統領を脅して、IRAを共同で倒そうとする訳、か?」
「その通り。しかも、運が悪い事にIRAも既に情報を掴んでいる」
「・・・・三つ巴、か。ボスニアじゃねぇか」
「嫌か?俺はワクワクしているぜ」
「俺もだ。三つ巴なんて久し振りだ。だが、オリビアはIRAだ。裏切り者として処刑される可能性があるぞ」
「それならそいつ等を纏めて殺すだけだ。違うか?」
「違わないな。しかし、アイルランド人の怨みだけは、買うな・・・なんて言葉もあるぜ」
「今まで何人の怨みを買っているんだよ。俺たちは」
「違いない。今さら誰の怨みを買おうと変わらないな」
俺も相棒も今まで何人も相手を殺して来た。
だから、怨みなんて腐る程・・・飽きる程・・・忘れる程・・・買っている。
今さらアイルランド人の怨みを買おうと知った事か。
「その通りだ。それはそうとブレイズの奴、武器は手に入れられたか?」
「大丈夫だろ?オリビアも居るんだ。しかし、問題はあいつ等から品物を奪い返した後、だな」
大統領に直接、届けると言ったが・・・・どうやって返すんだよ。
真正面から「盗んだ物を返します」なんて言える訳ない。
言った所でどうなるか・・・・・・・
即効で拳銃を向けられるのは、言うまでも無い。
そして捕まったら俺たちの正体が知られる。
何より・・・素直に帰してくれるとは思えない。
「それは心配要らない。ちゃんと手は打ってある」
「何だ?」
「ゴダール大佐に頼む」
「元OASの指導者に?」
どう考えても無理だ。
今は犯罪者だ。
それなのにどうやって大統領と会うんだよ。
「あいつは犯罪者だが・・・政界とも繋がりがある」
「ああ、そうか。そうだな・・・元々OASは政治家も絡んでいるんだったな」
となれば右翼の政治家に渡りを付ければ何とかなる。
まぁ、大統領の顔に傷が付くのは当たり前だが、死ぬよりはマシだろう。
「そうだ」
そう言って相棒は携帯で電話をした。
「俺だ。ベルトランだ。大佐を頼む」
それから暫くして・・・・・・・・・・
『これは珍しい。君から電話されるとは驚きだよ』
「まぁな。ちょっと頼みたい事があるんだが」
『この私に?』
「あぁ。大統領に関して、な」
『ああ、あれか・・・例の襲撃事件は君らが絡んでいたのか』
「そうだ。それで今から品物を取り返しに行く。その品物をあんたから大統領に返してくれないか?」
『良いだろう。この前、君の屋敷では美味しいワインを御馳走になったからね。何より・・・・可愛い後輩の願いだ。先輩として叶えよう』
「優しい先輩で有り難いぜ」
『はははははは。やはり君は素晴らしい後輩だ。しかし、今度は私の願いも聞いてもらうよ』
ここら辺は流石に歳を食っているだけあって、抜け目が無い。
「俺に出来る事なら」
『難しい事じゃない。ただ、少しばかり・・・私の縄張りで小うるさい餓鬼共が居るのさ』
「・・・・“亡霊紛い”、か」
「・・・・・・」
『その通りだよ。この国に二度も土足で踏み込んで来た。おまけに私の縄張りにも土足で、ね。これを許容するほど私は寛大ではない』
「そりゃそうだろうな。まぁ、そうだな・・・今度、俺の屋敷で話そう」
『良いのかい?』
「あぁ・・・そろそろアンナの命日なんでね」
『そうか・・・少しばかり早いが、お悔やみの言葉を申し上げる』
「それはアンナ本人に言ってくれ。アンナ本人から言わせれば要らない、と言うだろうが、な」
精一杯生きて悔いの無い人生を送ったのだ。
お悔やみの言葉など要らない。
そう言うのも頷ける。
『そうだったね。では、品物を手に入れたら電話してくれ。私と軍曹が直接出向く』
「分かった」
そして携帯を切った相棒は、アクセルを踏んで更に速度を上げ・・・港へと向かった。