第十七章:追っ手と車
俺とディアドラは近くの駐車場から車を盗み出し、隠れ家を離れた。
兄貴とショウは一足先に出て行き、居ない。
俺たちが行くのは武器屋だ。
そこで武器を得て兄貴達と合流する。
運転は俺がしてディアドラは助手席に座っているが、彼女は何も話そうとしない。
「・・・・組織や国に忠誠を誓って楽しいか?」
俺は無言の空気に耐え切れず、ついつい口を開いた。
「・・・貴方と彼等も自分の事ばかり考えているのね」
「まぁ、否定はしない、かな」
兄貴達は知らないが、俺は自分の生まれた国を愛している。
そして脅威から護りたい。
その気持ちに嘘は無い。
ただ・・・政府の為とか、お偉いさんの為とかに戦う気は毛頭ない。
俺には関係ないし、彼女や家族、そして友人たちの為に戦うのが俺の信念と言える。
自分の為、と言えばそうだろうな。
「自分の事ばかり考えている者ほど・・・・軽蔑するわ」
彼女は沈めた顔を上げて窓を見ながら言う。
「俺は違うな」
「どう違うの?」
「少なくとも俺はこう思っている」
「・・・・・・」
彼女は無言で続きを促している。
「自分に優しいから・・・自分を大切にするからこそ、他人にも優しくなれるんだ。国や組織に忠誠誓って他人にクールになるよりはマシだと思うが?」
俺は国を愛しているし、大切な人を護りたい気持ちがある。
だが、自分だって大事にしたい。
だからこそ・・・他人にも優しくなれるんだ、と思う。
それを組織や国に忠誠誓って冷酷になるよりはマシだ。
売国奴とか愛国心が足りない、と言われてもな。
「・・・・・・・」
ディアドラは何も言わない。
しかし、何となく俺の気持ちは理解できた気がする。
俺は、ふとバック・ミラーを覗いた。
「・・・・・・・」
背後をライトを点けずに追って来る車が一台ある。
追っ手か?
俺は人の怨みを買うような真似はしていない。
ディアドラ、か?
どうする?
一緒に居ては危険だ。
どうするべきだ?
「・・・新しい車を手に入れて来てくれ」
「貴方は?」
「俺はこれを捨てて来る」
「・・・・・・・・」
俺は車を停めてディアドラを降ろした。
向こうには分からない筈だ。
「・・・その若さと美貌なら拳銃よりも似合う物が沢山ある筈だ」
「・・・・ブレイズ」
彼女が俺の名を呼ぶが、俺はそれを笑みで答えて車を発進させた。
「差し詰め・・・旅行鞄でも持って世界を旅する姿が似合いそうだな」
彼女にはそんな姿が似合いそうだ。
帽子を被って笑顔で旅をする。
そんな彼女の姿が脳裏に浮かぶ。
車は俺の後を付いて来る。
明らかにスピードを上げているな。
・・・やはり、ディアドラを降ろして正解だった。
「さぁ、来な」
S&W M19を取り出して俺は笑った。
相手が誰だろうと容赦しない。
道路を抜けると一気に広くなった。
それを見越したように車がライトを点け、スピードを上げる。
明らかにぶつけようとしている。
「そうはさせるかよ!!」
ハンドルを切り追突しようとした車を先に行かせる。
そしてM19の引き金を躊躇いも無く引いた。
轟音が鳴ると同時に窓ガラスに穴が開き、罅が入る。
一気に3発ほどお見舞いした。
車の後ろのガラスとタイヤに命中したが、車は尚も走り続ける。
何を考えているんだ?
あのまま行けば・・・・・・・・
「やばい!!」
慌ててブレーキを踏む。
車がそれを見て、ブレーキを踏んだ。
俺が更に追撃しようと考えてブレーキを踏もうとしていた。
生憎とそうはならなかったが。
残念だな。
ブレーキから一気にアクセルへ切り替えて、車を追突させて近くの電柱にぶつける。
当然、車は大破した。
俺の方も無事ではないが、俺自身は無事だ。
ドアを抉じ開けて車に近付き、S&W M19を向ける。
車には男が2人乗っており、後部座席に座る男は手にアサルトライフルを持っていた。
折り畳み式のストックで形はM16に似ている。
こいつは・・・・・・・・・
「未亡人製造機---“AR-18”じゃねぇか」
AR-18とは1963年にアーマライト社で開発されたアサルトライフルだ。
AKのアメリカ版と言える代物で、高度な技術を持たない工場でも作れるが、M16が大量生産されると即効で御払い箱となった。
日本でも製造されたが、IRAのシンパが送ってテロ活動に使われた事から製造中止となった経緯がある。
とは言え、武器なんて所詮は人殺しの道具でしかない。
他人を護るとか、どうとか言おうと・・・事実に変わりは無い。
そして皮肉な話だが、武器というのは「血を吸う」事で実力が上がるんだよ。
M16だって最初こそ酷い評価だったが、使われる事---血を吸う事で高評価を得て来た。
・・・・本当に皮肉だな。
俺は自嘲しながらAR-18を取り上げた。
シリアル・ナンバーなどは削られている。
その上、フルオートが可能に改造されている所を見ると民間用のAR-180だな。
もう2000年を10年も越えているのに、随分と古臭い物を使用しているな。
マガジンは30連発バナナマガジンになっており、弾数を見てみると全弾ある。
これは良いな。
車の奴等は気絶しているから、懐などを調べて使えそうな物を手に入れた。
もちろん金も、だ。
身分証明書も見てみたが、どちらもヨーロッパ人だった。
これを持っているからIRAと考えるのは軽率である。
だが、証拠も無い。
となれば・・・疑うべきだ。
しかし、今はオリビアと合流するのが先だな。
俺は車を捨てて来た道を戻る。
勿論、証拠となる物は全て処分して、だ。
来た道まで戻ったは良いが、何処に行ったのやら・・・・・・・・・
「うん?」
軽くクラクションが鳴り、音がする方角を見るとオリビアが車に乗っていた。
「車は?」
オリビアが窓を開けて訊ねてくる。
「処分・・・・とは言い辛いが、証拠は消した」
「そう。それからそのライフルは・・・・・・」
「友人から貰った。ついでに金とマガジンも、な」
「そう・・・嘘が下手ね」
「・・・・・」
俺は答えずに車に乗り込んだ。
「懐かしいわ。15歳で、それを持たされたから」
「中3で、これかよ」
入って1年で、これを使わされるとは・・・・・・
「これで独立を勝ち取るんだ、と若い頃は思っていたわ」
車を運転しながらオリビアは言い続ける。
「でも、無理と気付くのには・・・・かなり時間が掛ったけどね」
「そんな物だろ。で、武器屋は?」
「ここから数キロ先よ。選ぶのは・・・・拳銃と弾、サブマシンガンかしら」
長物よりは市街地でも取り回しが良いSMGを選ぶ。
これは、かなり実戦慣れした意見だ。
それに・・・SMGなら拳銃弾を使用するから、威力が弱い半面で第三者を傷付けるような事は無い。
断言はできないが、貫通力が高過ぎる物よりはマシである。
「さぁて・・・どんな物があるかな」
俺は少しばかり・・・彼女とショッピングにでも行く気分で煙草を燻らせた。