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第十六章:女の正体は・・・・・

ディアドラが案内した合流地点は町の中にある一軒家だった。


特別の所だが、何の変哲もない。


「ここよ」


ディアドラは軽く見まわしてからドアを開けて中に入る。


中も特に特徴は無い。


何処までも特徴が無い。


しかし、それが特徴だった。


「飲み物はコーヒーでも?」


「あぁ。構わない」


「そう。それじゃシャワーでも浴びてたら?」


「いや、遠慮しておく。TVでも見るよ」


俺はリモコンでTVを点けた。


その間、ディアドラは厨房へと消えて行く。


「・・・・・・・」


TVが点いた途端に俺は眼を見張る。


ディアドラの顔写真がデカデカと映し出されているからだ。


『この女性はアイルランド人の組織---“IRA”に所属しているディアドラと言います』


TVのキャスターが酷く機械的にディアドラの生い立ちを紹介し、IRAの事を説明した。


IRAとは“アイルランド共和国軍”の事だ。


IRAのルーツは18世紀末まで遡るのだが、現代の方は20世紀に出来たアイルランド義勇軍がルーツである。


かなり宗教や民族などが複雑に入り混じっており、イギリスとは犬猿の仲だ。


差し詰めイスラエルとアラブ国みたいな関係とも言えるか?


話を戻すとIRAはS.A.Sと血で血を洗う抗争を繰り返して来た。


それのお陰でS.A.Sは都市型ゲリラと市街戦のプロフェッショナルになった訳だが・・・・・・・・・・


しかし、今のIRAはイギリスと和平を結ぶ為に武器なども廃棄し“暫定派”となった筈だ。


いや、待てよ・・・・・・・


確かそこでも一悶着あったな。


暫定派に賛同できず、あくまで独立を掲げる分派---“リアルIRA”だ。


こちらは暫定派に賛同できずに、離反した組織だがやり方は、テロでしかない。


志が清らかであろうと、やる事はテロ。


こんな言葉もある通り・・・彼等のやり方はテロとしか言えない。


そんな組織にディアドラは所属していた、のか・・・・・・・・・


キャスターの話によれば、爆破テロなども起こしたと言われている。


確かにリアル派は爆破テロを行ったが、活動はそんなに頻繁ではない。


どちらかと言うと暫くは潜伏していた筈だ。


それがどういう訳か・・・関係なさそうな事件にまでリアル派のせいにしている。


どういう事だ?


まるで・・・・何か用意された感じに見える。


・・・上からの圧力か?


いや、その前に、だ。


ディアドラがIRAのメンバーだったとは・・・・・・・・


じゃあ、ケースの中身も何か重要な物か?


国のトップが首を吊る、と言っていたから余程の事だろうが。


「・・・どうなるんだ?」


こいつは余りにへヴィ過ぎて記事にできるか、どうか分からない。


下手に書いても握り潰されるだろう。


ジャーナリズムも落ちたものだ。


なんてまだ決まってもいないのに、俺は自嘲する。


TVを消してS&W M19を取り出して弾を確認した。


予備の弾薬が・・・・12発分。


計18発、か。


些か頼りない気がする。


IRAも絡んでいるとなれば、ここも襲われる可能性があるからな。


「・・・泣けてくるぜ」


こんな事になるなら、せめて小型のSMG---サブマシンガンでも良いから予備として持っておくべきだった。


幸い9mmがヨーロッパでは主体だから弾の補充には事欠かない。


それなのに無い。


これじゃ敵から奪うしか無いじゃねぇかよ。


嗚呼、微温湯に浸かり過ぎた気分だ。


俺は頭を抱えたい気持ちに襲われたが、ドアが不意に叩かれる音がして顔を上げる。


既にディアドラはドアに張り付いて拳銃を構えていた。


そこ等辺はIRA仕込みと言えるな。


何だかそれが酷く俺は悲しく思うが、敢えて無視して同じくドアに張り付く。


「どなた?」


ディアドラが訊ねるとドア越しに声が返って来る。


『ブルドッグと猟犬だ』


自覚してるんですか?


兄貴・・・・・・・


ディアドラは直ぐにドアを開けて兄貴とショウを中に入れた。


「エンジンとパソコンは?」


「殺した。奴らは何処かの組織に所属していた」


兄貴は何でも無いように言うとソファーに腰を降ろした。


「そう。それで尾行されなかった?」


「お前さんは?」


「無いわ。ただ、途中でペスとかいう犬に見つかりそうになったわ」


「あの駄犬か。鼻だけは利くんだよな」


「案外、それで危険を察知して逃げたりしたんじゃねぇか?」


ショウが窓ガラスを覗き込みながら言う。


「かもな。で、お嬢ちゃん。武器は?」


「あるけど弾が少ないの。だから、敵から奪うか、店を襲うかで調達して」


「了解した。それで奴は何処に行ったと思う?」


「そうね・・・イギリスのスパイなら真っ直ぐに本国へ行くでしょう。となれば、飛行機か船を使うかもね。もしくは・・・誰かに売るか」


「それは、お前さんの仲間に、か?」


「・・・何の事?」


「ディアドラとはコード・ネーム。本名はオリビア。IRAのメンバーで14歳の時から参加し、ビル爆破などに関与。しかし、民間人などを巻き込む爆破などには不参加」


「・・・・何時、知ったの?」


ディアドラことオリビアは眼を細めながら兄貴に訊ねる。


「ついさっきだ。ブレイズも知ったさ。TVで、な」


「・・・はい」


俺は罪を告白する罪人みたいに沈みながら言った。


「そう・・・それで、私をどうする?警察に突き出せば懸賞金は貰えるかもしれないわよ?」


「いいや。あんたが依頼人だ。裏切られても居ないのに警察には出さない。それに出したら俺たちの素性も分かるだろ?」


「そうね。普通なら金に眼が眩むんだけど、やっぱり貴方達はプロね」


自分の眼が正しい事にディアドラは笑みを浮かべる。


「そういう事だ。だが、中身は教えられていない」


「私も実は知らないの。ただ、組織に言われたのよ」


あれを持って来れば他国の援助を受けて、独立を勝ち取れる・・・・・・・・


「本当の話か?」


「私は信じていないわ。“フォークランド紛争”の時も・・・他国はイギリスを支援したからね」


「その時の相手が“鉄の処女”だったんだ。幾ら他国が肩入れしても無理だと思うが?」


フォークランド紛争とは1982年3月19日から1982年6月14日まで続いた西側諸国同士の紛争だ。


イギリス領フォークランド諸島(アルゼンチン名: マルビナス諸島)の領有権を主張するアルゼンチン

がぶつかり合った。


結果を言えばイギリスの勝ちで、アルゼンチンは負けた。


待てよ・・・確か・・・・・・・


「あんたの彼氏って確か・・・・・」


「その紛争に巻き込まれて死んだわ。私を始め・・・イギリスに酷い眼に遭わされた奴等は多いわ」


イギリスが憎くて堪らない。


「だから、フランス大統領を脅してアイルランド独立を勝ち取ろうとした訳か」


兄貴がジタンを銜えながら言うと彼女は頷いた。


「えぇ。だけど、もう駄目ね」


「何でだ?」


「だって、貴方達、テロリストが嫌いでしょ?」


「あぁ。嫌いだ。どんな理由だろうとテロリストは大嫌いだ」


兄貴は煙を吐きながら言い、ショウも頷いた。


俺も・・・嫌いだ。


志が高かろうと一般人を巻き込めば、もうテロリストだ。


しかし、奴等は自らを認めない。


何故なら志が高いからだ。


そんな奴等を兄貴達は悪人であるが、認めない。


それは俺も同じだが。


ディアドラは・・・そのテロリストだ。


「警察には出さないけど、私を殺すんでしょ?」


「何でだ?俺は裏切ったり敵対しない限り、殺したりはしない」


「そう。それで、どうするの?」


「俺に訊くな。俺たちは実行員で、計画立案は・・・・お前だ」


「・・・では、言うわ。ケースを奪還するわ。でも、どの国にも組織にも渡さない。大統領に渡すわ」


元々大統領の物なのだから当たり前である。


「それで、あんたは仲間から追われる、と?」


「それも良いわ。でも・・・こうなった以上は、これが一番の手だと思うの」


「なら、それで良いだろう。それじゃ・・・俺と相棒はトミーが行きそうな所を探すか?」


「そうだな。ブレイズ、彼女を頼むぞ」


「任せておけ」


ショウの言葉に俺は頷いた。


そこからが・・・・本当の意味で仕事の始まりと言えたかもしれない。


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