第十五章:舞台が滅茶苦茶に
かなり更新が遅れました。
貯め込んでいましたが、やっと出せます!!
歩き続けてからどれ位経過しただろうか?
1時間は当に過ぎている。
しかし、2時間は経過していない筈だ。
「何時になったら着くんだ?」
餓鬼じゃあるまいし、と思うだろうが延々と歩き続けるのって意外と疲れるんだぞ?
「後もう少しよ」
まるで弟みたいに言うディアドラに俺は嘆息する。
「俺は弟じゃないぞ」
「私は弟と見ているわ。貴方って世話を焼きたがるのよね」
それはある意味、男としては幸せな言葉だろう。
世話を焼きたがる=結婚。
俺の友人である吸血鬼なんかは安直にもそういう答えを導く。
それのせいで何度も酷い眼に遭っているのに、未だに諦めないから嘆息するぜ。
北欧でもそんな日を送っているだろうな。
と勝手に想像するが、意外と上手くやっているのかもしれない、と思い直す。
時々だが変になる吸血鬼だが、時々これまた哲学的とも言える事を言う。
そこに惹かれる女は居るだろう・・・多分。
「何を考えているの?」
ディアドラが俺に訊く。
「いや、北欧に居る友人を思い出してな」
「北欧に住んでいるの?」
「あぁ。日本は住み飽きた、と言って外国を旅して最後に北欧で落ち着いた」
「そうなの。だけど、日本ほど住み易い国は無いと思うけど?」
「そうなんだよな。とは言え、老後は外国で暮らす人って多いぞ」
吸血鬼の親戚なんかは老後タイで半年ほど暮らしているらしい。
残り半年は日本で暮らす、というスタイルだ。
中国人が“華僑”を造るように日本人も“日本街”という物を造る。
そこは鉄条網で囲み外部の者が入り込まないようにしていると聞く。
勿論、そこで女を連れて来れば安心だろ?
「そうなの。日本人って結構、老後も日本で暮らすと思っていたけど」
「人それぞれだ。とは言え俺も吸血鬼も外国の方が好きだ」
何で?
そう訊かれると答えに困るが・・・・外国には外国の魅力がある、としか言えないな。
「そう。ねぇ、日本ってどんな国?」
「丁髷に刀を差した侍の国なんて想像するなよ?今はもう居ない」
「それ位は知ってるわ。でも、具体的にどんな所かは分からないの」
「何を知りたい?」
「そうね・・・・・・・」
ディアドラの視線が鋭くなった。
俺も辺りを見回ろうとしたが・・・・いきなりキスされた。
「!?」
いきなりのキスに驚いたが、ディアドラは鋭い視線のまま俺を見る。
『黙って私に任せて』
眼で言いディアドラは俺にキスを続ける。
・・・気持ち良いな。
彼女は居る。
しかし・・・別の女性とのキスもまた嬉しいし、気持ち良いんだよな。
男の悲しい性だ。
そこへ一台の車が猛スピードで通る。
チラリと見れば・・・犬っころだった。
生きてたのかよ。
と言うよりも、何処で車を調達したんだ?
御得意の尻でも提供したのか?
なんて思っているとディアドラは離れる。
「いきなりで御免なさい。でも、あいつに見られたら不味いでしょ?」
「・・・・あぁ」
見られたら恐らくその場で銃撃。
生憎と遮蔽物も隠れる場所も無いからこちらが不利だ。
そう考えて咄嗟に行動したのだろうが・・・・・・・
「落ち着いているな」
他人---恋人でもない男とキスをしたのに。
「キス位で落ち着かない女は嫌い?」
「・・・・いいや」
寧ろ行き成りのキスってのは嬉しいもんだ。
なんて事は言わないが。
「それなら良いでしょ?もっとも・・・災いを貴方に与えたかもしれないけど、ね」
「あんたみたいな美女にキスされたんだ。代償として受け取っておくさ」
こんな美女にキスされたんだ。
それ相応の代償は付き物、と思う。
「そう。それじゃ後もう少し頑張れる?」
「勿論だ」
と答えるとディアドラは歩き出し俺も後を追う。
しかし・・・・この代償がとんでもない位に大き過ぎる代償という事を俺は仕事が終わって家に帰って、知る事になる。
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「・・・そうか。分かった」
相棒は携帯を切り、懐に仕舞った。
「どうだった?」
俺が訊くと相棒は無言で頷いた。
それは肯定となる。
「事実、だったか」
「あぁ。しかし、面倒だな」
あいつ等の怨みを買う事は絶対にしてはいけない。
なんて世界共通語が出来ている。
そいつらが住む国は、長靴みたいな国---ジョンブルの支配下にある。
独立戦争も起こしたが、それも失敗した。
それでも独立を志して戦う者たちは居る。
まぁ、これは何処の国も同じだ。
世界共通だな。
で、だ。
相棒が電話した相手は、その国で独立を志しながらも平和的な解決を望む穏便派のトップ。
そのトップからディアドラの正体を訊いた。
そして確認が出来た訳だ。
ついでにトミーの正体も、な。
「やれやれ。あの国は買わない方が良いと思っていた国の・・・怨みを買った訳だ」
しかも、強引な手段で。
これではもう駄目だ。
打ち上げ花火みたいに大きな事が起こる。
起こすしかない。
「あぁ。まぁ、どちらもそれは遠慮したい。無論、俺達もな」
「確かに。で、どうする?」
「先ずはブレイズと合流だな。それからトミーを追い掛ける」
「ディアドラは?」
「ブレイズに任せよう。あいつ、女受けが良いからな」
「生贄、とも言うがな」
「不満か?」
「まさか。あいつなら大丈夫だろう」
と俺たちは言いながら煙草を吸い合流地点まで急いだ。
まったく・・・呆れるぜ。
エレーヌの件もそうだが、今回の件もまた同じだ。
俺たちは道化師だ。
舞台を引っ掻き回し狂言をする道化師。
しかも、見えない糸で操られているというから、これまた道化師でしかない。
それは別に良い。
ただ、言われた仕事をそのままやれば良いんだ。
完璧に、完璧にな。
所が、ここで道化師の何名かが糸を引き千切り暴れ出す。
これはいけない。
俺たちは黙って舞台を引っ掻き回すのが仕事だ。
それなのにこれでは、もう滅茶苦茶で収集が付かない。
何をすれば良いか?
答えは簡単。
操る人間に糸を切ってもらう。
そうすれば、俺達も自由だ。
ただし、操る人間に切られたから限定的な自由ではある。
まぁ、それでも良いさ。
この舞台を滅茶苦茶にした野郎を叩きのめせるのならな。
そう俺は思いながら相棒と共に急いだ。




