第十四章:険悪な仲
俺とディアドラは何とか犬っころを撃退する事に成功した。
しかし、パンクして先へは進む事が出来ない。
運が悪い・・・・・
これまた運が悪い事に近くには町もなければガソリンスタンドも無い。
携帯はあるが下手に連絡して居場所を突き止められるのは困る。
仕方ないから歩くしかないんだよな。
「ここから後どれ位だ?」
「ざっと5キロから10キロよ」
いきなり5から10に上がったよ・・・・・・・
「はぁ・・・運が無いな」
「そう言わないの。でも、こんな事戦場では当たり前だったでしょ?」
「まぁな。乗っていた装甲車がRPGで吹っ飛ばされたなんて、コントみたいによくあった」
RPGってのは映画とかでも知られているが、旧ソ連が1960年に開発した個人携帯式の対戦車・軽装甲車火器だ。
肩付け式で弾の種類も目標物事に用意されている。
特にHEAT弾---“対戦車成形炸薬弾”なんかは300mの装甲車だって命中すれば貫通し撃破できる。
しかし、構造上の欠点だが発砲時に起こる後方噴射---“バックブラスト”が激しい。
これは否応なく目立つ。
その上、後方に味方がいればそれでやられる。
だから、撃ったら直ぐにその場を離れないといけない。
傭兵たちの間では“自殺兵器”なんて酷い名前を頂戴している。
まぁ、俺がそれを使えと言われても・・・断るけどな。
それでも安価で頑丈の上に威力も申し分ない、とくれば愛されない兵器なんて無い。
AKと同じく未だに現役で俺がリポートした時も必ずこれが眼に入ったからな。
「それは仕方ない事よ。あんな物に乗ってくるんだからやられて当然だもの」
ディアドラは俺の昔話をさも当たり前のように頷いた。
「だけどよ、兵達から言わせれば安全だぞ?比較的、だが」
「そうね。私は戦場に出た事はないけど、その気持ちは解かるわ」
「どうして?」
「元恋人が兵士だったの。もっとも死んだけどね」
「・・・・・」
「で、そこから恋は止めたの。災いを招く者である女に恋は不要。災いが恋人なのよ」
「・・・・・」
その時を語るディアドラは酷く達観していた。
両親と死に別れから始まった、この災い・・・達観するのも無理は無いか。
特にこういう切れ眼の美人が過去を言うと妙に・・・妖艶な雰囲気があるんだよな。
諸に似合うし。
「それはそうとブレイズ。貴方、ベルトラン達が何者か知っている?」
「日本人の傭兵で修羅場を潜り抜けて来た事、くらいかな」
「そう。私は2人の事を知っているわ」
「依頼人だから?」
「それもあるわね。仕事を依頼するんだもの。実行者がちゃんとした人物か調べる権利があるでしょ」
ご尤も。
「だけど、外れも居たな」
「これは仕方ない事よ。履歴書なんてあって無いようなものだもの。嘘が混ざっていて当然と考えているわ。でも、これは明らかに私の調査不足ね」
これまたご尤もです。
「でも・・・私って自分の仕事は完璧にこなしたいタイプなの」
「そういう顔をしているよ。必要とあれば殺しだってやる顔だ」
「女を見る眼があるわね。でも、勉強不足ね」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味よ。さぁ、無駄口叩かないで急ぎましょう」
野宿は嫌でしょ?
そうディアドラは言い歩く速度を上げた。
俺はそれを追い掛ける。
しかし、頭では彼女の言葉が離れないで考えていた。
そう言えば・・・兄貴達は大丈夫かな?
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俺と相棒は夜道を歩きながら先ほど殺したデジコンとエンジンの正体を話し合っていた。
「何処の組織だと思う?」
どちらもアクセントは気にする程ではなかった。
まぁ、諜報部員みたいな奴ならアクセントで何処出身か知られるから、そこ等辺の教育は徹底しているなと思う。
「少なくともフランスではないな」
「その根拠は?」
「フランスは血を見るのは好まない。やもえない事態を除いて、な」
「イギリスはどうだ?」
昔からイギリスとフランスは仲が悪い。
第二次世界大戦でもシャルル・ド・ゴールの傲慢過ぎる性格が、少なからずチャーチル首相と険悪になった事も両国の関係を極端に表していると言える。
冷戦終結後は仲良し的に見えるが・・・建て前と本音が違うのが国家ってもんだからな。
未だに仲は悪いだろうな。
最近は色々とE.U.問題とかもあるからな。
「イギリスなら有り得なくはない。紳士の国だが、中身はドラキュラみたいな国柄だ」
ドラキュラ、ね。
「なら、早く行こうぜ。太陽に当たったら灰になっちまう」
「それ位は知っているんだな」
「まぁな」
「まぁ、メジャーだから当たり前か」
「しかし、本国では祖国を護った英雄だから複雑だよな?」
実際ドラキュラの祖国---ルーマニアのトランシルバニアでは祖国をオスマン帝国から護り切った英雄とされている。
それが一小説家の手により悪魔の化身とされるのだから複雑だろうな。
それだけの事をしたのは間違いないが。
トルコ兵2万人を串刺し。
これが奴のやった事だ。
他にも色々とあるが、この串刺しがインパクトあり過ぎたのかドラキュラの通り名---串刺し公となった訳なんだよ。
「串刺しか・・・焼き鳥が食いたいぜ」
「お前って意外と庶民的な物を食いたがるのか?」
「自衛隊時代に先輩に連れられて、屋台に行ったんだよ」
そこで食べた焼き鳥が美味かったらしい。
しかし、人間の串刺しから鳥の串刺しを連想するとは・・・・・・・・・・・
「まぁ、俺も食いたいけどな」
こんな事を言うのだからイカレテいると言われるんだ。
とは言え食いたい物を口にして悪い事は無い。
「仕事が終わったら食べに行くか?」
「あるのか?」
フランスは日本の影響を受けてか・・・気に入っているのか和食などを営む店もある。
納豆を出す所もあるから凄い所だ。
外国人から言わせれば納豆なんて気持ち悪い食い物と映るだろうに。
「あぁ。知り合いがやっている」
「大した友人だな。ちょうど金もあるしブレイズも混ぜて飲み明かすか?」
「悪くないな・・・っと電話だ」
相棒は携帯に出た。
「何の用だ?」
『・・・・・・』
声の主は女の声だった。
「報酬を払え?馬鹿言うな。俺は爺さんに払うと言ったんだ。何でお前に払うんだよ」
『・・・・・・!!』
「知るか。お前のパーティーに顔を出すなんて御免だ。それに犬っころを逃がしたんだ。お前の報酬は無し。以上、通信を終わる」
ピッ
相棒は携帯を切り懐に仕舞った。
「その声は聞き覚えがある。エレーヌ・ヴィンフリードか?」
エレーヌ・ヴィンフリード。
俺と相棒をスカウトしようとした女社長だ。
ヨーロッパ版ブラック・ウォーター社---プリンセス・エリザベスPMC社の社長を務めている。
手の込んだスカウト方法を取ったが、生憎と俺も相棒も断った。
そして相棒に右手を撃たれた過去がある。
よくもまぁ、そんな女に依頼したもんだと思ったが・・・・爺さんに依頼したと聞いて違うと分かる。
WWⅡ時代に飛行機乗りとして活躍し、後に諜報員となったウォルター。
そっちに頼んだのだから報酬は当然の事だが、ウォルターが貰うべきだ。
何を考えたのか自分に寄こせなど・・・・世の中を甘く見ている証拠だな。
「週末にパーティーがあるから俺に出ろと言って来やがった」
「週末?確か、週末は・・・・・・・・」
「女神とデートだ」
相棒は何とも無いように答える。
週末にこのブルドッグ顔の相棒は女神と旅行に出かける。
1泊2日の旅行だが、女神の妹であるクラリスがバイトして稼いだ金で出すと言う。
姉思いの良い娘だ、と素直に感心していたもんだが・・・それをあの女が壊そうとしたのだから・・・・・・・・
「怒るのも無理ないな」
相棒の口調は少し怒っていた。
女神との旅行を台無しにされそうになったのだから、無理も無い。
「悪いか?」
「いいや。怒って当然だ」
そう俺は言いながらも笑みを浮かべている。
「何を笑ってるんだよ」
「いや、お前と女神が一緒に旅行なんて・・・何処の美女と野獣夫婦だ?と思うとな」
「うるせぇ」
相棒は鼻を鳴らしながら歩き続ける。
しかし・・・若干だが、速くなった。
『餓鬼だな』
そう俺は思いながらも足を速めている。